裏稼業とカカシさん(旧題:裏稼業の何でも屋が出向く先には必ずカカシが待っている件)   作:chaosraven

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 長きにわたってお待たせしましてござりまする。
 今回は1週間は超えちゃったけど2週間には及ばずに済みました(滝汗)。

 ちなみに今回は普段の文量2話分の一万字超えですので、気ままに読めるタイミングでお読みください。


-56-救出作戦のその後

 

 

 

「・・・知らない天井」

 

 

 目が覚めると、私の体は多くのコードに繋がれた状態でベッド(メンテナンスシート)に寝かされていた。頭がどこかぼーっとしてる。

 ここが何処なのかと周囲を見渡すと、目に付くのは私の状態をモニタリングする多数の機器。体から伸びるコード全てがこのどれかに繋がれ、私の体をチェックしているらしい。でも。

 

 

「・・・こんなに必要かしら? それほど大きなダメージ負った覚えは無いんだけど」

 

 

 潜伏生活ではとにかく見つからない事に徹していたから、敵からの攻撃では擦り傷すらも受けた覚えはない。

 脱出時に最後の最後で不味いと思ったことはあったけれど、第三者からの介入のおかげで大怪我することなくエクスキューショナーを倒せた。

 長期にわたって人の手を離れていた(メンテが出来なかった)からってのがあるとしても、ここまで沢山機械を用意してというのは流石に行き過ぎなんじゃと思わなくもない。

 

 ・・・それにしても、あの時エクスキューショナーを撃ったのは一体誰なんだろ。

 鉄血が大半を支配していたあの地区に忍び込み、わざわざエクスキューショナーを狙撃できる位置に陣取っていた謎の存在。あれは誰かから指示を受けた人形? それとも何かの目的を持った人間?

 あのポジションで構えていたと言う事は、鉄血人形たちの行動目的を把握し、かつ”私があの廃屋に隠れてる”ことも分かっていた。でなきゃまずあの位置取りは不可能。

 

 私の狙撃がブレードに弾き飛ばされ、直後の落雷でこちらの居場所が完全に敵に割れてしまったあの時。第三者はヤツがこちらへ駆け出そうと踏み込んだ瞬間を狙ってブースターを狙撃。出力バランスが狂って転げ回ったヤツを、今度は武器そのものが使えないようにエネルギー回路の通る部分を正確に狙い撃ってみせた。

 ハイエンドモデルと言ったって手足が動かせないのではただの木偶人形に過ぎない。多分、ヤツを鹵獲する事も考慮して無力化する程度に抑えたのだろう。頭を狙わず、動けなくするだけに留める理由はそれくらいだから。

 第三者の所属する陣営になのか、或いはそれとも・・・可能性は低いだろうけどグリフィンに鹵獲させることが目的なのか。

 

 今回の件、もしかしてとてつもない大きな何かが裏で動いてる?

 

 更に考えようと腕を組もうとして、両手足の感覚が出発前と異なる事に気づいた。

 

 

「あれ、四肢のユニットが新しく付け替えられてる・・・?」

 

「あ! お目覚めですか!」

 

「っ! 誰!?」

 

 

 直後メンテナンスルームの扉が開き、明るい色合いの茶髪の女性が溌剌とした声で話しかけてきた。

 咄嗟に左腿のホルスターに手を伸ばすも拳銃は無く、新しく着けられた脚の人工皮膚を撫でただけに終わる。当たり前だ、メンテナンスだというのに銃器を付けたままにするワケが無い。

 

 丸腰という状況下で現れた女性に警戒感が強まる。しかし彼女が着るジャケット、左肩に着けられた部隊章を見てそれが杞憂であることに気付く。

 

 

「G&K・・・グリフィンの方なのですか?」

 

「はい! いきなり驚かせてしまってすみません。私、当基地で指揮官様の補佐を担当してる、後方幕僚の『カリーナ(Kalina)』と申します。M4A1さん、以後お見知り置きを!

 ちなみにここはグリフィンの中でも鉄血の支配エリアに近い前線基地の一つ、S09地区にある『794基地』です! 元気になったら軽く見回ってみてくださいね!」

 

「は、はぁ・・・」

 

 

 とても明るい人。内気な私とは大違い・・・。

 こんな世の中なのに、どうしてこの人はこんなに明るく振る舞えるんだろう? まるでSOP IIみたいな・・・っ!

 

 

「あ、あの! この基地の指揮官に話があるんです! 指揮官は今どこにいらっしゃいますか!?」

 

 

 そうよ、こんなところでゆったり微睡んでる場合じゃない。私を逃がすために囮を引き受けてくれた皆を助けないと。

 M16姉さん、AR-15、そしてSOP II。

 その誰か一人でも欠ける前に早く、皆を助け出さなきゃ!

 

 だけど、カリーナさんは打って変わって凄みの効いた顔でニタリと嗤う。まるでお前は何を言っている? そう言わんばかりに。

 

 

「いやぁM4さん、貴女ってI.O.P.が造った人形の中でも特別製じゃないですかぁ。なので、所々長期の潜伏活動でガタが来てたところを丸々部品交換したら思いの外高くついちゃいまして。

 まあつまり何が言いたいかというとですね?」

 

「大人しく寝てろってことです」

 

「え、で、でも・・・」

 

イイですね?????

 

「は、はい」

 

「よろしい。指揮官様には気が付いた事をお伝えしておきますので、もう少し安静になさっていて下さいね!

 間違っても抜け出したりとかはしない様に!! ・・・イイですね?????

 

「りょ、了解しました・・・」

 

「ではまた後ほど! 何かありましたら内線で!」

 

 

 太陽みたいな笑顔でさよーならーと言って、カリーナさんは部屋を後にする。

 ・・・カリーナさんはもう少し安静にって言ってたけど、今もAR小隊の皆が鉄血から必死に身を隠しているって思うとやっぱりジッとしてられない。

 何か、今の私でも出来る事はないか。

 

 改めて部屋を見渡すと、LAN接続ポートが壁に埋め込まれてるのを見つけた。基地内の無線LANが調子悪い時に有線で使うための予備ポートなのだろう。ということは、このポートから基地内のネットワークにアクセスできるはず。

 ・・・ごめんなさいカリーナさん。大人しくしとけって言いつけ、破らせてもらいます。

 

 ベッドのすぐそばに置かれた私の装備品から通信端末を取り出すと、私自身と端末、端末からポートに接続し、基地のLANへアクセスする。

 

 基地のファイアウォールは私がグリフィンに関わる人形だからか、特に抵抗も無く簡単にパス出来た。あとは基地の外部通信システムに・・・よし、入れた! 

 指揮官やカリーナさんには申し訳ないけど、基地の通信システムで信号を増強して皆にメッセージを送る。

 

 

『AR小隊。こちらはM4A1、誰か聞こえますか? 返答願います。AR小隊。こちらはM4A1、誰か聞こえますか? 応答願いますーー』

 

 

 ・・・繋がらない。分かっていたことだけど。

 いや、たまたま応答出来ない位置にいたとか、返事がない理由は幾らでも考えられる。諦めないで発信し続けよう。

 そうすれば必ず、誰かから応答が来るはず・・・。

 

 

 30分経過。まだ応答は無い。

 

 

 1時間経過。応答無し。

 

 

 1時間半経過。未だ、応答無し・・・。

 

 

 2時間、経過・・・。

 

 

 増強した信号を使っても誰とも繋がらないなんて・・・もしかして皆、もう?

 考えたくない結末が脳裏をよぎったその時、何かと繋がったであろうノイズが通信に入り始め、聞き覚えのある声が流れ出す。

 

 

『・・・M4か?』

 

「M16姉さん!」

 

 

 良かった、M16姉さんが生きてた!

 私は思わず両手をグッと握りしめた。

 

 

『ナイスタイミングだ。たまたま今いるここに限って通信が出来るようでな、あと1分でも遅れてたら繋がらなかった所だ。・・・それともお前のことだから、何か引っ掛かるまでずっと信号を発信しっ放しだったりして? だとしたらよくお前のいるところの指揮官がそれを許したな』

 

「うぐっ」

 

 

 流石、姉さんは鋭い・・・。

 

 

『うぐって・・・オイオイ、電波強度からどこかの基地にいるとは思ってたが、まさか勝手に基地の通信設備を使ってるのか? ハハッ、やるなぁお前も。・・・今度会ったら説教だが』

 

「ね、姉さん!」

 

 

 ケラケラ笑いつつ、説教のフレーズだけドスの効いた低い声を出すM16姉さん。

 ちょっとだけ姉さんに会うのが怖くなってきたけど、それよりまず姉さんの状況を確認しないと。

 

 

『まぁ、んなことは会った時にでも話せばいい。とりあえずコッチの状況だが今の所大きなダメージは無し。ちょうどすぐ近くを鉄血が周回してるもんで、これから不意打ちするためサイレントモードに切り替える所だ』

 

「分かりました。では手短にこちらの状況も。

 私は無事助け出され、今はある前線指揮官の基地にいます。こちらの部隊はすでに前線付近にいるので、指揮官も新たな救援作戦を立ててくれている筈です。他の皆の方はどうですか?」

 

『すまん、後ろの敵を抑えてる最中に二人とははぐれてしまった。この前連絡した時はまだ無事だったが・・・』

 

 

 そう言って無線機越しに聞こえる姉さんのため息。

 敵がすぐ近くに最接近したのか、先ほどよりボリュームを落とした、けれども根っこの明るさを滲ませた声で姉さんは言った。

 

 

『私は後で良い。先にAR15とSOP IIを探してくれ。大丈夫、心配しなくともまた会える。なんたって私はM16だからな!』

 

「何言ってるんですかもう・・・分かりました。どうか気を付けて」

 

『ああ。また後でな』

 

 

 まったく・・・M16姉さんったらいっつもこうなんだから。なんたってM16だからなって言われても、それって再会できる根拠に全くなってないし。・・・これって励ましてくれてるのかな。

 でも無事でいてくれて良かった。とりあえずは一安心ってとこかな。・・・ん? 別の通信を受信してる?

 

 

『M4聞こえる? こちらはAR15。信号の強度から察するにもうどこかの基地に着いたようね』

 

 

 AR15!! 良かった、彼女も生きてた!

 

 

「ええ。そっちも無事なのね?」

 

『わたしのことも聞いてよM4!! めちゃくちゃ心配したのに!』

 

「SOP II!? 貴方もそこにいるの?」

 

『うん!』

 

 

 同じ回線に割り込んできたのは、AR小隊の中で最もメンタルモデルの幼いSOP IIことM4 SOPMOD II。

 あぁ、二人も生き延びてくれてて本当に良かった・・・。

 

 今度こそ張り詰めてた気持ちが緩み、思わず大きく息を吐く。

 

 

「良かった・・・。姉さんはまだ鉄血の支配区域を移動中みたいだから、先にそっちを迎えに行くね」

 

『待ってるよ!』

 

 

 その時、AR15から暗号化された座標データが届いた。

 大まかな地形図の中にある何かを示す一点。多分二人が潜伏しているところだ。

 

 

「今送ってきた座標は貴方たちの現在地?」

 

『・・・』

 

「AR15?」

 

『ええ、そうよ・・・早く迎えに来て以上ブツッ』

 

「ちょ、ちょっと、AR15!?」

 

 

 突然切られた通信。いくら普段から素っ気ないとはいえ、なんていうかこう、相手に礼節を欠くような振る舞いをする程じゃない筈なんだけど・・・なんでだろ?

 でも、色々と分からないことは多いけどそれでも三人と連絡は取れたし、姉さん以外の二人がいる凡その位置も掴めた。後は救出計画の実行を待つだけ。

 

 

「・・・待ってて、みんな」

 

 

 

 -----

 

 

 

「・・・・・・以上が、M4の戦闘ログをスキャンした解析結果となります」

 

 

 真っ暗な会議室で光る一枚の巨大なモニターと、その正面にまっすぐ伸びた背筋で立つ赤いコートを纏う女性・・・もとい、”指揮官”。

 テレビ会議用のソフトが立ち上げられた画面には、モノクルを右眼に着けた妙齢の女性の顔が表示されている。

 

 女性は指揮官からの報告を受け、頭の痛い問題だと言わんばかりに顔を顰めた。モノクルの奥の瞳が持つ鋭さも閉じられたまぶたに遮られる。

 

 

『ふむ・・・つまり、エクスキューショナーを撃った第三者の存在は分かっていないのだな?』

 

「ええ。M4の救出が完了した後に部隊の方で潜伏先の民家を捜索させましたが、これといった証拠らしき物は見当たりませんでした。現場を精査すれば何かしらの細かな手がかりは発見できたかもしれませんが・・・」

 

『戦場で悠長に探し物をしている時間は無かった、か』

 

「申し訳ありません、ヘリアントス代行官」

 

 

 事実、あの時点ではそれ以上どうしようも無かったことであるが、一応の形式として指揮官はモニターに映る『ヘリアントス上級代行官』に頭を下げた。

 ヘリアントスも特にそれを責めるつもりは毛頭無く、手をかざしつつ頭を上げるよう声をかけた。

 

 

『いや、貴官はよくやってくれたと思っている、『ジャンシアーヌ(Gentiane)指揮官』。・・・しかしそうなると、あの存在が何者なのかを知る手がかりが殆ど失われてしまった』

 

「・・・失礼ですが、そこまで第三者の正体が気になる理由とは? 差し支えなければ伺っても?」

 

 

 訝しげにヘリアントスを見据えるジャンシアーヌ。グリフィンが重要と位置付けた作戦だったとはいえ、社内でもトップに近いヘリアントスが一戦場で起きた出来事にここまで意識を割く理由が彼女には分からなかったのである。

 そう感じるのも無理はない、そう呟いたヘリアントスは”コーヒー”を一口含むとため息を零した。

 

 

『実はな。M4を救出した直後エクスキューショナーを回収するため、輸送ヘリを護衛の戦闘ヘリ数機と共に現地に送り込んだ。ところが回収し終えて基地に戻る道中、突如地上に現れた正体不明の武装集団に輸送ヘリが撃墜され、エクスキューショナーは強奪、搭乗員は全員殺害されてしまった』

 

「なっ!?」

 

『狙撃を行った第三者とそれに与する団体か組織か・・・或いはたまたま通りがかった人形密売人か、残念ながらヘリを撃墜した犯人は分かっていない。機体は木っ端微塵に破壊、搭乗員たちの遺体も原型を留めぬ程に甚振られていた。おまけに唯一の手掛かりと言って良いフライトレコーダーも持ち出され、こちらに残る証拠は墜落寸前の交信記録だけ。

 ・・・良いように叩きのめされた社のプライドはもちろんだが、なによりも我が社の社員が無残な死を遂げた事件である以上、上層部は監査体制を組織し事の次第を調査する義務がある。だからこうして君にも聞いていると言うわけだ』

 

「なるほど・・・」

 

 

 顎に手を当て思案するジャンシアーヌ。

 ロクに身動き取れない状態で現場に残されたエクスキューショナー。その状態にした第三者の目的はともかく、グリフィンとしてはアレを回収し、グリフィンが鉄血に対抗するための新たな足がかりを見つけようと思ったに違いない。鉄血はI.O.P.とは別ベクトルで優れた技術を持っていた軍需産業資本。その一端の部分でもデータとして手に入れられれば、不毛に続くやもしれない鉄血との勢力争いを終わらせる事も出来るかもしれないのだ。

 そのはずは、ヘリの撃墜とエクスキューショナーの強奪事件によって潰えた。そもそもは棚ぼたの様な展開とはいえ、ハイエンドモデルの鹵獲という中々訪れないチャンスを逃したことはグリフィンにとって大きい。

 

 

「事の次第は把握しました。その件について何か分かりましたらまた報告させて頂きます」

 

『感謝する。

 さて、この度の任務遂行実にご苦労だったな。正直に言って着任早々任せる様な任務では無かったが、貴官は我々の期待する以上の結果を示してくれた。素晴らしい働きだよ』

 

「ありがとうございます」

 

『これからも困難な任務を任せる事もあるだろうが、どうか我々に力を貸して欲しい。頼りにしている、ジャンシアーヌ指揮官』

 

「はっ」

 

 

 画面が消え、代わりに作戦指揮画面に映り変わる。と同時に落とされていた照明も一斉に明かりが灯り、暗闇に慣れていたジャンシアーヌの目は多量の光に耐え切れず眩んでしまう。

 

 

「・・・あークッソ、このテレビ会議が終わると同時に全部の明かりが点くって仕組みなんとかならないかな。目が眩んで視界真っ白だよったく」

 

 

 思わず目頭を押さえながら備え付けの椅子に腰掛けるジャンシアーヌ。直後、扉がノックされる。

 

 

「指揮官様。入ってもよろしいですか〜?」

 

「はいどーぞ。ロックは開いてるわよ」

 

「失礼します」

 

 

 入ってきたのは明るいトーンの茶髪をサイドテールに纏め、額にサングラスを乗せたこの基地に欠かせない後方幕僚(カリーナ)。手に持ったタブレットをスイスイ動かしながら、新たに発生した報告事項をジャンシアーヌに伝える。

 

 

「指揮官様。先の作戦で救出した『M4A1(エリート人形)』の意識が戻りました。交換したユニットの動作が馴染むまで少し掛かると思って、一応メンテナンスルームで待機する様指示は出しましたけど」

 

「あら、もう目覚めたのね。まあダメージらしいダメージは負ってなかったし、こんなもんか・・・。ところでカリーナ、タブレットスイスイしてどったの?」

 

 

 ジャンシアーヌとカリーナは形式上”上司と部下”の間柄にある。

 もっとも格式張ったモノを好まないのは両者に共通する一面なのだが、”就業中”は立場に見合う相応しい行動を心がけるべきというのは社会人として常識である。

 つまるところ、自分から上司を訪ねておいて挨拶もそこそこにタブレットを弄るというのは決して褒められた行為ではなく、胸元開けっぴろげのラフな服装の割に締めるべきところはときっちりやるカリーナが失礼を承知でその手の行為を止めずに続けるのには、礼儀よりも優先すべきと判断した理由があるのだ。

 カリーナは大事なポイントは外さず仕事を熟す人材だという事を、着任から今日までの短い期間でも十分理解しているジャンシアーヌ。故に咎めるような口ぶりではなく、あくまで何かがあったのかを問う程度のものであった。

 

 

「あぁいえ、外部通信アンテナの方に見覚えの無い使用ログがありまして。無いとは思いますけど、もし人間の従業員が不正行為でアンテナを使ってたら問題なので」

 

「外部通信アンテナ? 誰かがウチの基地から別のエリアに向けて電波を飛ばしたってこと?」

 

「はい、そうなんです。なので・・・足が付きやすいアンテナを使うようなおバカなスパイはいないと思いますが、念には念をという事で」

 

 

 基地から遠隔地に情報を飛ばすという性質上、状況によっては盗聴されたりデータを覗き見られる可能性もある。ましてや前線に置かれた基地であれば敵との情報戦をより意識しなくてはならない。

 そのため、通信アンテナには如何なる場合でも機能を使った時点で使用者のログを残すというプログラムが備わっていた。

 

 

「はぁー・・・っつかカリーナ」

 

「はい?」

 

「例のエリート人形が接続ポートからアクセスして勝手に使ったとかってオチは?」

 

「・・・有り得ますね。私が待機を指示した時も、多分自覚は無かったと思いますけどとても不服そうなお顔してました」

 

「・・・メンテナンスルームのLANポートからのアクセス履歴を辿ってみて。多分この推測で間違ってないでしょ」

 

「やってみます・・・・・・ビンゴです指揮官様。ログのユーザーコードとかは巧妙に消してますけど、電子戦専門のモデルでないのが幸いでしたね。・・・なるほど、ここからこのルートでアンテナにアクセスしたと」

 

 

 手元のタブレットからあっという間にアクセス履歴を辿っていくカリーナ。時折専門的なIT用語もブツブツ呟きながら処理を進めていく彼女の姿に、最近の若い奴はすげえなぁなどと可笑しな事を考え出すジャンシアーヌ。

 アタシにゃ着いてけねえやと言わんばかりの彼女の視線に気付いたカリーナは、逆にジト目で上司(ジャンシアーヌ)を見据える。

 

 

「・・・指揮官さま??」

 

「いやぁすごいなって思って。カリーナみたいな優秀な後方幕僚がいてくれて私はとても助かってるよ」

 

「まったくもぅ。調子が良いんですから・・・」

 

 

 分かりやすく頬を膨らませる彼女だが、直ぐに苦笑いを浮かべる。

 

 

「それで指揮官様。アンテナの無断使用に関しての処遇は如何致しましょう?」

 

「さ〜てねぇ・・・多分居ても立ってもいらなくてやっちゃったってトコでしょ? まさかエリート人形が勝手にアンテナ使う事のリスクを知らないワケ無いでしょうし、多分それなりに有益な情報は掴めたんじゃない?

 ・・・例えば、お仲間の隠れてる位置座標とか、ね」

 

 

 ジャンシアーヌは自分がM4の立場だったら一番に何を重要情報として仲間に要求するかを考え、思い付いた一番可能性のあるモノを呟く。

 その言葉にピンときたらしいカリーナは直ぐにログから具体的な通信内容を割り出し、目当てのデータを見つけ出したらしい彼女は一度頷き口を開く。

 

 

「位置座標、ですか? どれどれ・・・あ、アンテナからダウンロードしたデータファイルの中にそれっぽいのがありますね。私の権限じゃ開錠出来ない上位セキュリティでロックが掛かってますけど・・・」

 

「オッケー。そいじゃあその中身は後ほど本人に直接説教がてら問い質すとして、今日はもう早いとこ寝ちゃいましょ。私はともかく、カリーナもあんま頑張り過ぎてるとお肌荒れちゃうよ?」

 

 

 人出が少ないこのご時世だが、人形に決済の権限を委譲すると不味い重要事項は当然どの組織にも存在している。そうした処理はもちろん全て人間が行うワケだが、グリフィンも他の企業団体の例に漏れず慢性的な人出不足に悩まされている。

 中でもジャンシアーヌが就く”指揮官”という役職は基地の全てを総括する立場のため、彼女の指示一つで基地にある全ての運命が変わる極めて重い責任を背負っていることになる。当然他者に任せられない書類の決済も多く、はっきり言って体の若さがあるから保たせられている位の激務であるのは言うに及ばず。

 そしてカリーナが就く”後方幕僚”という仕事も、実は基地の運営を円滑に淀みなく進めるために決して欠かすことの出来ない要職だ。基地への物資の補充はもちろん、経理面での決済、戦闘時には指揮官のそばで補佐をしたり、場合によってはドローンやヘリを手配し戦場に部隊が補給できるスポットを設けたりと、手がける業務の内容は実に多岐にわたる。

 その上、カリーナ自身が”旧文明”のコンピューター機器にも非常に明るい事もあり、今までジャンシアーヌ率いる部隊が遂行した作戦任務の報告書を執筆する等、後方幕僚の枠に収まらない十二分以上の働きを見せる人材でもあるのだ。

 ジャンシアーヌ自身も決してサボったりしているわけではなく、単純に多すぎる労働量のため作戦報告書の執筆にまで中々手が回せないという背景事情があるのだが、だからといってこのうら若い乙女の肌が自分のせいで荒れるのは申し訳ない、上司としてそんな気持ちも覚えているジャンシアーヌであった。

 

 

「あ、あははは・・・お気遣い感謝します。では今後の行動についてのブリーフィングは如何しましょう?」

 

「今から・・・そうね、8時間後に第一作戦室に皆を集めて。あぁ、例のエリート人形も呼んどいてね」

 

「分かりました。それでは失礼しますね指揮官様。お休みなさい」

 

「うんお休み。連絡が終わったらカリーナも直ぐに上がって」

 

「ええ。それでは」

 

 

 扉が完全に閉まったのを確認し、近くの椅子に深く腰掛け一息つくジャンシアーヌ。

 その顔には隠しきれない疲労の色が滲み出ている。

 

 

「・・・・・・今度会った時、ヘリアンさんに労働環境改善の要望書を直渡しするかなぁ。いくらなんでも人間が抱えるタスクがこんなに多いんじゃ、いつか絶対致命的なミスを犯しかねないよ。

 今はカリーナも私も整備班の人たちも気力が残ってる状態ではあるけど、ギャラはともかく労働環境としてはこれ絶対間違ってるよね・・・・・・んなこと考えてる時間がもったいないや、寝よ寝よ」

 

 

 ふぁーあと大きなあくびをし、ジャケットを手に取り会議室を後にす・・・る直前で、彼女は思案した。

 

 

「待てよ・・・ここに布団持ちこみゃ、ブリーフィングギリギリまで寝れる・・・・・・? 天才かあたしはッッ!!?」

 

 

 そうと決まれば即行動じゃあ! 先と打って変わって実に機敏な動きで自室に向かって駆け出したジャンシアーヌ指揮官。

 指揮官としてふさわしい行動かどうかと聞かれれば、間違ってるのは言うまでもない。

 

 

 

 -----

 

 

 

「あ? エクスキューショナーを運んでたヘリが撃墜された?」

 

 

 次の仕事先に向けてオンボロ走らせてる道中のこと。突然端末に掛かってきたギルドからの通信に出てみれば、アインスから言われたのはヘリが堕とされたという事件についてであった。

 

 

『そうらしいわ。ウチのギルドが何かやったんじゃないだろうね?って、無いとは思うがって前置きと一緒に社長さんが聞いてきたのよ』

 

「はぁ。確かに、完全に機能停止させるのは”例の人形”がやれば良いと思って動けない程度に抑えたけど、その後グリフィンがアレを持ち帰るかどうかは完全に俺の管轄外だぞ」

 

『分かってる。ただまぁ、そん時現場に出張った輸送ヘリの有り様が中々エグいものだったらしくてね。機体は木っ端微塵、搭乗員の遺体はぐっちゃぐっちゃに甚振られ、おまけにフライトレコーダーまで綺麗に持ち去られて、現場には何にも証拠が残ってないんですって』

 

 

 わざわざ乗ってたパイロットを執拗にボコボコにした上、墜落事故が起こった時の唯一の手掛かりとも言えるフライトレコーダーまで持ち出すとは。少なくともそこに思考が及ぶってことはソイツら”手馴れてる”な。

 それに・・・。

 

 

「そりゃまた・・・そこまでやったっつうことは、エクスキューショナーも勿論?」

 

『ええ。見事に奪われた』

 

 

 たまたまトラブって墜落したとかじゃなく撃墜されたとはっきり言ってきてるってことは、恐らくグリフィンに墜落寸然に撃墜されたと判断出来る交信記録が残ってたということ。

 そんでもってフライトレコーダーまで探して持ち出してるところから鑑みて、実行犯はグリフィンに敵対する同業者ではなく、ヘリが運んでたブツ(エクスキューショナー)を初めから狙って行動してた可能性が高い。

 ピンポイントに襲撃受けてるのを見ると、有名どころの人形卸売商に前から目を付けられてたかも分からねえな。

 

 

「・・・・・・なあ。この場合、俺たちがアフターフォローしなきゃいけないわけ?」

 

『いいえ? 先の一件は完全に裏ルートの依頼でアンタに任せてるわけだし、社長もその件について文句言ってきてる訳じゃないわ。

 もっとも、現場で例の人形の救出作戦を指揮した指揮官とその上司はアンタの存在を怪しく思ってるみたいだけど』

 

「そりゃ疑うわな。何も知らされてない現場の人間からしたら、俺はエクスキューショナーを狙撃した目的も正体も不明な第三者ってとこだ」

 

『そうね。だけどそれ以上に問題なのは、壊れかけといっても鉄血のハイエンドが強奪されたという事実、これは中々に重大よ。下手したらテロ組織にエクスキューショナーの機体が渡る可能性もある。

 レイには何の責任も無いけど、ウチに敵対する団体サマにそれが渡っても厄介になるのは分かるでしょ?』

 

 

 分かるでしょ?って・・・とんでもねえこと言い出すつもり満々じゃねえか。

 

 

「・・・だから、エクスキューショナーが売りに出される前にパクれって?」

 

『有り体に言えばそうなるわ。いくら壊れかけつったって、市場(マーケット)に携わる人間からしたらアレは超上物。逆に言えばそれゆえに、アレを”商品”としてきっちり引き立てて売りに出せる会場は一気に絞れる』

 

「ハイエンドを引き立てて売れる市場(マーケット)ねぇ・・・。ってなると、この近くで言やぁ旧文明のデカイ機械工場を利用したあそこか?」

 

 

 旧文明で精密機器を作る工場だった建物を、三次大戦終結後の人形開発黎明期に合わせてこっそり接収したデカイ裏組織がいる。

 奴らは”人形の売買”を主な事業としていて、早い話が人形の卸売業者である。ただし、仕入れルートが真っ黒なら売り出す先も真っ黒。完全非合法の商売人たちだ。

 

 前に仕留めたギャングらの様に”人形そのものを排除したい連中”とは敵対しているが、だからといってウチのギルドと仲良く出来るほどマトモでもない。戦場に見捨てられた戦術人形をパクって来ることもあれば、民生人形を攫い人を雇って無理やり奪い取って商品にすることもある。そんでもってそんな人形たちを買おうとする奴の大概の目的は・・・言わなくても察しがつくってものだ。

 要はこいつらの商売は、身も蓋もない言い方をすればどんなに乱暴に扱っても誰も困らない『ラブドール』をオークションで売り出そうというもの。純粋な戦力として戦術人形を売り出すことも無くはないが、それはメインではない。

 

 ただ、エクスキューショナーというモデルは鉄血がああなった現在、滅多にお目にかかれない人形であるのは言うまでもなく、あそこに足運ぶ連中にとっちゃそれだけでプレミアが付く。

 俺が回路をぶっ壊したせいでロクに抵抗出来ずに掻っ攫われただろうから、となるとやはり戦術人形としてではなく・・・()()()の方で売り出す可能性が高い。幾ら奴等でも鉄血ハイエンドの壊れた回路を100%正常な状態に戻せるとは思えない。

 

 どうやら俺が行き着いた答えはアインスとも同じだったらしい。

 

 

『可能性は高いと思わない? アンタがこれから遂行しようとしてる仕事もちょうどそこに関連してるんだし、殺るついでにエクスキューショナーをパクってきなさい。成功したら(ヌル)からの特別ボーナスもあるわ』

 

「朗らかな口調で随分と無茶言うぜまったく。大体、腐っても奴らは此処ら一帯で相応の影響力を持ってるんだぜ? 下手に手出してウチが睨まれれば・・・・・・待てよ?」

 

 

 唐突に頭ん中に思い浮かんだ、工場跡の市場(マーケット)をメチャクチャに引っ掻き回して俺の標的も殺れてエクスキューショナーも回収もしくは破壊出来るアイデア。

 これが上手いこと噛み合えば・・・奴らからのヘイトをウチに向けずに済むかも。

 

 

「なぁアインス。先の一件、クルーガーが『エージェント二号機』が救助対象の小隊の前に現れたっつってたよな?」

 

『そうね。そのせいで例の人形を助け出せって依頼が来たんじゃないって・・・アンタ、よくまあ悪知恵が働くわね』

 

「うるさいよ」

 

 

 俺の考えてることに行き着いたらしいアインス。ため息と共に実に失礼な言葉を仰せになられた。悪知恵とはなんだ悪知恵とは。せめて作戦と言って欲しいところだ。

 

 

『ハァ、分かったわ。装甲車で留守番の”ハイエンドたち”をそっちに送ってあげる。それとクルーガーへの交渉もね。

 ・・・分かってると思うけど、奴らは商売柄『ドールズジャマー』を幾つも持ってるわ。それを無力化してプラン遂行の手助けをするのは”人間”であるアンタじゃなきゃ出来ない。

 覚悟しときなさい。アンタが考えてるプランで一番危険な役割を担うのは他ならぬアンタ自身よ』

 

「ああ。そこは油断なく決めてくさ。気抜いて散々痛い目に遭ってきたからな」

 

『・・・ったく。次のオークションは三日後よ。それまでに全ての用意を整えなきゃいけないわ。必要なものはすぐに洗い出して頂戴』

 

「了解」

 

 

 アインスとの通信を終え、サイドカーでのんびり寛ぐスケアクロウとP90(ティナ)に向き直る。

 

 

「二人とも、次の仕事のプランが変わった。今度のはド派手に決まるぞ」

 

「「??」」

 

 

 揃って二人、仲良くコテンと首を傾げた。




 


 ・ジャンシアーヌ Gentiane
 公式コミカライズ作品『人形之歌』に登場する前線指揮官。ゲーム内でのプレイヤーの位置にある女性指揮官。年齢・人種等詳しい情報は現時点では不明。当方ではカリーナ < ジャンシアーヌ < ヘリアントスくらいの年齢だと推定。
 グリフィンという職場自体が人出不足のためかなりの激務であり、作戦報告書作成を始め中々手が回らない業務も多いらしい。ちなみに最後の会議室に布団云々はコミック1巻を見れば分かる(唐突なマーケティング)。
 一方でなんだかんだ頭の回る人材でもあるらしいので、その辺はおいおい出番が来たタイミングで書いていきたい(なお主人公はこの人ではない)。

 ・カリーナ Kalina
 ゲーム本編や人形之歌にも登場する、我らが基地の頼れる後方幕僚。年齢や出身地、苗字等詳しい情報は不明。ちなみにイニシャルがCじゃなくてKなのは、公式資料集vol.1にて『正式名(姓は不明)はカリーナ(Kalina、「ガマズミ」という植物の意)。』※資料集vol.1 P127参照 と書いてあるため。スペルミスでは断じてない。
 グリフィンの激務環境に身を置く貴重な人間社員の一人。物資調達以外にも色々やってるしやらされてもいる。目下の悩みは寝不足による肌荒れと体内時計の狂いである。
 ちなみに作者はデフォの衣装よりもグリフィン制服の方がずっと好き・・・しゅき。


 次回、レイが何かをやる(殴
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