裏稼業とカカシさん(旧題:裏稼業の何でも屋が出向く先には必ずカカシが待っている件) 作:chaosraven
ちなみに前話同様、本日も普段の2話分のスケール(文字数約14,500)なので、お時間のあるときにどうぞ。
キナくさい臭いがプンプンするぞ()
とある人形密売組織の持つ、大規模な卸売拠点となる建物。旧文明に作られた大手企業の工場をどさくさ紛れにパクり、奴らの使いやすいよう改装して今日まで使ってきたのがこの建物だ。
主な役割は他所からパクってきた人形の在庫保管庫と、組織が関わりを持つ
今回のターゲットはクライアントの意向を受け、『フォックス』のコードネームを持つウチの
ソイツの名は国内で第1党の勢力を持つ政党所属の男性議員『アルセニー・ポロシェンコ』。過去に打ち出してきた政策が周囲に受けたのもあって政経界にも相応の繋がりを持つ大物。なのだが、調べてみると実はとんでもないイカれポンチ野郎ということが分かった。
聞いて驚け? 女の指から腕へ、肩から胴体へと、人体のパーツで削ぎ落とせる物を端っこから順々に削ぎ落としながらレイプするのがお好みなんだそうだ。
あまりの痛みに苦しみ喘いでいる女を見ながらじゃないと興奮できないとも。世の中極まっちまったヤツが現実にいるのは仕事柄よーく分かってるが、ここまでイカれた性癖ってのは流石に聞いた事が無い。
当然、そんな事を娼婦にやらかそうもんなら殺人罪で即逮捕となるし、よしんば捕まらないとしても証拠の隠滅など色々と手間が掛かる。だから、壊れても全く問題ない人形を相手にヤりたい。
しかし大手の人形メーカーから直で買い付けるのはたとえ国会議員であってもそれなりに高く付くし、人形を買い漁ってることを政敵に突かれるのも何かと都合が悪い。故に非合法なマーケットで秘密裏に人形を仕入れ、自分のヤりたい様に性欲を発散するってわけだ。
今回の場合、ポロシェンコが欲求を満たすために”非合法”のマーケットに顔を出しているというのが大変マズかった。
周囲には気を使って証拠を残さない様に努力はしてるみたいだが、裏で生きる仕事人にあっさりバレてるって事は連中のネズミ撒きはその程度。クライアントはポロシェンコを貶めるスキャンダルが見つかれば御の字程度に考えていた様だが、まさかこんな非合法の商売に手を出しているとは流石に予想し得なかったらしい。
どうせならマーケットに参加している所を”確実な証拠”として何枚か写真に収めた上で、出来るなら厄介極まりない政敵であるポロシェンコを消してくれれば尚よし。奴の行動を報告した際に返ってきたオーダーはこの様なものだったとのこと。
要するに、マーケットに参加してる動かぬ証拠を収めたのち、出来ることなら対象を抹殺せよとのことだ。もちろん抹殺というリスクを背負う以上、比例して契約金が跳ね上がるのも承知の上で、クライアントにはサインをしてもらったそうだ。
最終的に殺すんなら写真をわざわざ撮る手間は不要じゃとは思うが、念には念を入れて確実な政敵堕としの為の証拠を集めたいとの事である。
ともかく、サインを受け取ったのであれば動かぬ理由は無い。とっとと仕事を終わらせるべく必要な根回しを済ませようとして・・・その直前に状況が変わった。
先の一件で救出対象の人形を援護するべく俺たちが狙撃した敵の戦術人形エクスキューショナー。俺たちは敵の注意が向く前にさっさと退散したので知りもしなかったが、どうやらG&Kが鹵獲を試みようと輸送隊を派遣した帰り、ヘリが堕とされ見事に強奪されたらしい。ピンポイントで奇襲されてるところを見るに、ヘリが飛んでいくのを見られていて網を張られてた可能性もある。
エクスキューショナーは鉄血が暴走状態にある現在、殺し合いをした事ない人間が近くでマジマジと見るなんてまず不可能な人形だ。狙撃されて所々壊れかけてるとはいえ、鉄血のハイエンドモデルという要素がアレの価値に大きな箔を付ける。アレがオークションに出回れば、多分結構な値が付くかもしれん。
問題はアレが損傷した箇所を”直せる”連中に渡る事だ。カタログスペック上の話ではあるが、アレ一体でI.O.P.製戦術人形の一個小隊程度は容易く壊滅させられる。もし万が一俺たちと敵対するテロ組織なんかに落札されれば、この先生き延びてく上で憂慮すべき事態になる。
この事態を踏まえ、俺に課された仕事は予定されていた男性議員の暗殺、さらに可能ならオークションが開かれる前にエクスキューショナーの奪取が加わってしまった。無理ならオークション開催中に内部を引っ掻き回し、その隙にアレを復元不能な状態まで破壊する。
最善手は売りに出される前に在庫から掻っ払う事だが、奴らもそれなりの”力”を持っているからには、まあ簡単には事は進まないだろう。一方で一番楽なのは
しっかし、ヘリを全機堕とされて積荷を盗まれるとは。ヘリのパイロット達に油断や慢心は無かったんだろうな?
制圧が完了したエリアに出向いて、ちょっとばかしデカイ積荷を拾ってとっとと帰る楽な仕事とか考えてたんじゃなかろうか。
とっくにお空に飛んでった連中に何を言っても状況は変わらないが、本来遂行するべき仕事が急に難易度も手間もプラスされたら流石に誰だってげんなりするだろ?
・・・ふぅ。
「文句を連ね連ね言ったって仕方ねえな。今日一日で出来る仕込みは終わらせておこう」
「それで、どういう風に仕込むの? なんか私たちにお手伝いできる事ある?」
「いや、今の所オンボロの留守番だけしてくれれば問題ない」
「ガーーーン!?」
積極的に仕事をこなそうとしてくれる姿勢は大変嬉しい。が、これからやる事は場所が場所だけに彼女たちは連れて行けない。
人形をオークションで売り捌く奴等の商売柄、脱走防止に幾つもドールズジャマーを設置してるのは分かりきっている。だがそれが
次のオークション開催までの時間はあまり無いし、必要な物を洗い出すにも中の状況を見て回らない事にはそれも出来ん。
ただの研究施設やギャングの事務所とかってんなら彼女たちにも任せられる事は幾つかあるが、彼女らを連れて行けば思わぬアクシデントが起こるやもしれない。
スケアクロウはある程度ジャマーに耐性はあるようだとしても、ティナの方はその辺り未知数。時間もあまり無いこの状況、回避できるリスクは踏まずにおくべきだろう。
「内部に忍び込むのは俺一人で行う。スケアクロウとティナはここで待機。もしかしたら
「おっけー♪」
「分かりましたわ」
「うし。・・・拳銃とナイフ、仕込み刃も問題無し。それと端末と工具類もっと、んじゃまた後でな。目立たないようにだけ気を付けて」
「いってら〜」
「ノシ」
「・・・のし??」
意味のわからぬ言葉がスケアクロウの口から出てきたが、とりあえずスルーさせて頂きます。
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かつて大手電子機器メーカーが所有していた生産拠点。それがこの工場の本来の姿だ。
周囲に小人口の集落がちらほらある様な、そんな田舎のだだっ広い土地を一気に買い占めて建てられた巨大工場は、部品の生産から組み立てまでを完結させた生産ラインを複数持ち、フル稼働した時の生産能力は同業他社が保有するどの巨大工場をも上回っていたらしい。それ故、先の大戦においても工場の生産能力は敵対国にとって魅力に映ったようで、あくまでも破壊では無く小被害での攻略を目指して作戦を組まれたとかなんとか。
そのおかげで、相当な敷地面積を誇るこの工場はそのほとんどの設備が大きなダメージを受けずに今も残されているという。もっとも、工場を稼働させるために最低限必要なコストが高くつくこのご時世。大戦終結後の疲弊した社の体力ではもはや工場を動かし続ける体力も意義も無かった。
結果、会社は完全に撤退。けれども建屋を壊して更地にする人力も金も無かったため、この土地にそのまま建屋だけほっ放って行ってしまった。そこを上手い事潜り込まれて人形売り場に改装されたという訳だ。
(にしても、流石グローバル企業が立ち上げただけはある。今じゃまともに使われてないエリアを抜きに勘定しても、かなりの広さがあるぞ)
このご時世電気を作るにも使うにも金が掛かるため、省エネ管理でまばらに蛍光灯が点けられた薄暗い通路を進む。目的地は工場のどこかに”連中”が設けた警備システムを管理する部屋。
たった一日の短い期間でドーム球場数個分の敷地を持つ工場全てを回るのは物理的に不可能なため、電子的に情報を探し出すための取っ掛かりを得る必要がある。
捜し出したいのはメイン電源と予備電源、非常電源の位置の情報。欲を言うなら供給された電力がどの
これらのデータはエクスキューショナーを奪い返すのに必要になる。これが手に入れられなくては最後の手段を取らざるを得なくなっちまう。なんとか手の届く範囲に設けておいて欲しい所だが・・・。
(今は確実に進める事だけを考えよう)
気配を殺し、音を消し、影を縫うように歩き続けると、休憩室のような部屋の前に通り掛かった。
中にはガラの悪い男どもがタバコで一服している。何かあった時の用心棒として雇われたよう。ゴツゴツした手や腕の筋肉の付き方、そして目線の”色”を見るに、こいつらも”手慣れた”奴だと分かる。
しかし一方で、俺のようなネズミを探す嗅覚にはあまり長けていない様だ。よーく意識を集中すれば気付ける位の近距離にいると思うんだが、気付けないなら好都合だ。
「・・・なぁ」
「あんだよ?」
「今回のオークション、例の目玉を売り出すんだろ? 誰がアレ落とすんだろうな」
「鉄血の上級機だったっけか? 俺はあのキッと睨みつけてくる顔がいけ好かねえぜ。いやでも・・・あの顔をぶっ壊せるって思うとそれはそれでアリか?」
「プログラム次第でどうにでもなるっつったって、咥えさせたら即噛みちぎられそうだぜ? それよか俺はアレを思いのままに暴れさせてやりてえ。ムカついた奴を片っ端からぶっ殺させる・・・それもそれでアリじゃね?」
「ま、雇われの俺たちには縁の無え事だ。どーせ手が出ねえ値段でスタートすんだろ」
「違いねえ」
ガハハハハ。
品の無いデカイ笑い声で随分な事を言う奴らだ。もげちまえ。
しかし、おかげでエクスキューショナーがここに捕まってるという事は分かった。そして次のオークションで売りに出されるという事も。
だがまだ情報が足りない。このままコイツら下っ端の会話を聞いてたところで必要な情報が手に入るとも思えない以上、やはりどこかから内部の情報を抜き取る必要がある。
せめてこの工場のシステムに繋がったPCでもあればやりようはあるんだが・・・。
(雇われじゃない、組織の”正規”の構成員を探すか)
警備くらいは雇われでもいいかもしれないが、オークションに出す”大事な品物”の管理は構成員がやるはず。
オークション会場に行けば、会場の準備のために一人二人はメンバーが控えてるだろう。
「うっし、上がる前に会場の『ジャスパー』さんに挨拶してこうぜ」
「ああ。そのあと一杯飲みに行くか」
「おうよ」
ジャスパー? 構成員のコードネームか?
丁度いい、会場まで案内してもらおう。
奴らの死角に隠れ、あらゆる気配を抑え込む。
部屋を出た二人は特に周囲を見渡したりする事もなく、呑気に会場に向かって歩きだす。
俺は男どもが通りすがった瞬間、襟の裏にタブレット錠くらいの”小型の盗聴器”を仕込んだ。
その後も男が首に違和感を感じてないのを確認し、静かに後をつける。
(・・・行くか)
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オークションを開く会場は、劇場と映画館を兼用した巨大なシアターをそのままステージとして利用したものだ。元々は工場に勤める大勢の従業員に対する福利厚生の一環として作られた施設で、スクリーンに映画を投影すれば映画館にもなるし、舞台上にセットを組めば演劇やアーティストがパフォーマンス出来るステージにもなる。デカイ分使える演出も幅広い。音響も相応のグレードで。
一万人なんて余裕で入りそうなデカさである。
なるほど、こんな広々とした会場で声高らかに人形の競りをやるとなれば、ただでさえお目当てを落としたくてウズウズしてる連中の興奮を更に煽れるってものだ。”上物”を捌くには”相応のハコ”で、か。
さーてしっかし、警備してる奴を気い引いてる間にまんまと出し抜いて会場に入ったはいいものの、肝心のアクセス出来そうなデバイスが近くには見当たらない。分かっちゃいたが、その手の機器はステージの裏か。
そう思って舞台に目をやると、さっきの男たちがステージに立つメガネを掛けた若い男とにこやかに話していた。ジャケットをビシッと着込んだ男の手には、仕事で使うであろう携帯端末が。多分、奴がジャスパーとかいう組織の正規メンバーか。
耳に付けたイヤホンの周波数を先ほど仕込んだ盗聴器に合わせる。同時に端末側にもリンクして録音、並行して男の持つ端末からどのようにネットワークが繋がってるのかをサーチする。
『ザザッーージャスパーさん、次のオークションで目玉の商品を出すんだって聞きましたけど』
『ええ。滅多に見ることの出来ない超上物です。グリフィンが”油断して落っことしてくれた”おかげで、今度のオークションはかなりの利益が見込めそうです』
『ソイツは・・・ヘヘッ。ちなみになんですけど、始まりはどんくらいなんです?』
『まだ正式に開始値を決定したわけではありませんが・・・万一遭遇すればまず死を免れないハイエンドモデルですから。少なく見積もっても1万スタートは確実ではないでしょうか?』
『かぁーーっ!! 分かっちゃいやしたが、やっぱり手が出ねえぜ!』
『そこはご了承下さい。相場というものがありますので』
『いやぁ分かってますって。それじゃあジャスパーさん、今日はこれで俺たち上がらせてもらいます。また明日』
『ええ、お疲れ様でした』
威勢の良い声で挨拶を交わすと、男どもはノッシノッシと会場を後にする。
完全に扉が閉まった所で残された男・・・ジャスパーはメガネの位置を直し、一言呟いた。
「(次のオークションは必ず成功させる。臨時で与えられた
唇の小さな動きから、恐らくそんなような事を呟いたのが分かった。
メガネの奥の眼光からは溢れる野心を感じる。
華奢で若い身なりをしたこの男。一見、表の富裕層に生きる世間知らずの若者ともとれる見た目をしていて、とてもじゃないが裏で生き残れるようなタマには見えない。が、これを見て納得した。色々な思惑感情が入り乱れる裏社会で、奴もまた今日まで生きてこられただけの強さを持ち合わせているらしい・・・っと。
ジャスパーの端末から工場内のネットワークへのリンクが確認できた。あとは俺の作ったスパイウェアを仕込んで・・・。
(もう会場内に用は無いな。アイバイザーのカメラで会場の大まかな造りは録画出来ている。ひとまず見つからない所に移動するか)
再び全ての気配を消し、影に紛れる。
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「(スケアクロウ、聞こえるか)」
『
「(あのね・・・)」
人通りの少ない箇所に忍び込み、気配を消したままスケアクロウへと無線をつなぐ。
気付かれないよう細心の注意を払い、会話は最低限に、時間も短く済ませる。逆探知を防ぐためだ。
「(Sだ。コードは『u.ez.p.Ge.』で頼む)」
『了解』
味方に重要な情報を手早く伝える、そしてそれが盗み聴きされていても直ぐには気付かせないための手段として、人類は昔から暗号というものを使ってきた。
頭の作りが他とは違う天才相手だとさすがに直ぐバレるだろうが、今回はオークション当日までに敵に何もさせなければ良いので、逆探知させない短時間で必要な情報を簡単な暗号で送る。
最初のSは『Spyware』のS。これはちょっと頭を回せば直ぐに分かるな。
次のコード『u.ez.p.Ge.』というのは、スケアクロウにやってほしいことを単語で書き出したもの。初めの『u』は『
行動を示す単語が全部ドイツ語なのは、英語よりは分かりにくいからというだけの話。このあたり旧東欧地域ではドイツ語はメジャーな言語ではないので、知ってる人間が少なけりゃそれだけバレる確率も減るというわけ。我ながら実にチープな
つまり、これらのコードから言いたい事を読み取ると。
『敵の
となる。
コードの由来自体は適当な単語を引っ張ってきただけのものだが、単語から引っ張り出してる文字の位置には敢えて法則性を持たせていない。『ez』とかはその例だな。
もし中身を聞かれてたとしても、この無法則性がほんの少しは時間を稼いでくれる・・・と思いたい。
しばらく内部を斥候しながら待っていると、アイバイザーの隅っこに端末がデータを受信した事を示す通知が表示された。
解凍ソフトを使い、圧縮されたダウンロードデータの展開作業を始める。
すると出てきたのは複数のリストとPDF形式で纏められたファイル。まず一つ目に組織がVIPと位置付ける数十名の
二つ目に工場を管理する組織のメンバーのコードネームと役割、有事の際の無線の周波数を書いた連絡網の様なリスト。ジャスパーの情報も見てみたが、スパイウェアを仕込んだ奴の端末とアドレスコードが一致していることから信憑性は高そうだ。
そして三つ目。俺が最も欲しかった情報・・・この工場の”現時点”での地図、電源の位置と電力の供給回路を示した図面と付随する機器のリストを見て俺はほくそ笑む。メイン電源と予備電源、万一の時の非常電源。そして一番の肝となるドールズジャマーに至っては、配置箇所から使ってるボディの型番まで細かく記載されている。おかげでジャマーの出力はもちろん、中身のOSも大凡の予想が立てられる。
ナイスだスケアクロウ。
見事な
(そうとなれば早速”仕込み”に行こうかね)
送られてきた図面と連絡網を参照した限り、普段は警備システムを管理する部署がジャマーも含めた工場の警備を管理しているらしい。有事となれば総責任者などの上位の構成員に権限が集中するのだろうが、何事もなければオークション開始から終わりまで一貫してジャマーのコントロールはこの部署が握ってる様だ。
だったら尚のこと都合が良い。警備を管理する『地下管理室』は俺が今いる場所からそんなに離れていない。人の集中しそうな場所からも離れているため、中で仕事してる連中さえどうにか出来れば中のシステムに仕込むのはそう難しくない筈だ。
地図もあらかた頭に入れ、さあ行こうと端末を仕舞おうとして、VIPリストの中にPDFファイルで『要注意リスト』と書かれたデータに気付く。
開いてみると、組織の活動を邪魔したりその危険性がある敵対組織の存在、及びその構成員の判明している限りの素性などが記載されており、しかも裏だけじゃなくて軍や警察機関の人間まで書かれている。
(・・・あれま、うちのギルドの情報に俺やアインスのことまで載ってやがる)
流石にデカイだけあって情報網も整っているようだ。最も、現場に個人を特定可能な情報は一切残しちゃいねえから、リストに書かれてるのも噂で出回ってる位のものだが。
・・・受付嬢じゃなくて”現役で出張ってた頃”のアインスの名をこんなところで見るとは、どういう巡り合わせがあるか分からんもんだぜ。
おや、G&Kの名前も書いてある。I.O.P.と業務提携してる以上、この組織のやってる事は完全な営業妨害だし、警戒して当然か・・・『CODE:DG Platoon』? なんだコレ?
えーっと? 『捕らわれた戦術人形の救出を主任務とする、グリフィン本部直轄の特殊部隊の存在を諜報部の調査により確認。メンバーは確認されている限りでは5名、うち一名はI.O.P.製
その後も同業の組織や提携先、人形を祭り上げるカルト教団の拠点等にて出没を確認。いずれも人形を救出した後構成員は抹殺、ないし尋問のために回収されている模様。具体的な武装や部隊員のパーソナルデータは情報が少なく不明』
ほーん、いつの間にそんな部隊をG&Kが持ってらっしゃったとはねぇ。
・・・・・・まさかコイツら、何か仕出かそうとか考えてるんじゃねえだろうな???
ヘリを落とされた挙句貴重な”人間の”社員も失ったG&Kにとって、今回の件は社の威信に関わる重大案件だと言っていい。
お間抜けにもまんまと奪われた
こんな失態を仕出かしたG&Kが周囲の人形密売組織の動向に目を光らせない筈は無く、当然この組織が開く次のオークションも既に認識していると見るべきだ。
そんでもって『捕らわれた人形の救出を主任務とする特殊部隊』を抱えてらっしゃる彼らが、果たして当日まで何もせずにオークション開催まで黙って待つのか? いーや、そうは思えない。
・・・なんだか嫌な予感がする。
キリキリ痛みを抱え始めた胃を抑えつつ、俺は地下管理室へと向かった。
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管理室に入った。
中にいるはずの管理人達はいない。先ほど侵入したスパイウェアを使って工場のモニタリングシステムに断続的にエラーを表示させ、一人が出て行った後で今度は別の箇所に、さらに出て行ったらまたさらに別の箇所へ、という感じに誘導したためだ。
この組織は最新のシステムを開発し運用するほどの技術的アドバンテージを持っていない。工場にある機械のほぼ全てが大戦前に作られた古いOSを使っているため、エラーの表示が起こること自体は割とよくある出来事のようだ。中に入る手段を探すためにシステム内のエラー発生履歴を覗いてみたが、どうも構成員が使っている”今の時代の”端末とはプログラム面で干渉するらしく、直近のエラー発生がつい昨日だったのを見てコレならいけると踏んだ次第だ。
意外だったのは、彼らにとって最早エラーの確認も日常の一コマとなってしまっているのか、普通一人二人は管理室に残りそうなものが全員がエラー箇所の確認に出払っていってしまったことだ。最後の一人になったところで催眠ガスを室内に吹き込ませて眠らせるつもりだったが、ガバガバな警備体制が明らかになった所で俺にとっては都合がよろしい流れなので、堂々と中へお邪魔させてもらう。
とはいえいつ誰がここに来てもおかしくないため、手っ取り早くコンピューターに端末を接続してジャマーとリンクしているサーバーにスパイウェアを流し込む。
このプログラムは一種のコンピューターウィルスのようなもので、サーバーがネットワークに繋がっている限り、俺の端末から何もかもを自由に操作できる便利ツールの一つだ。必要に応じてジャマーをON/OFFしたり、逃走ルート上の監視カメラだけを一時的にシャットダウンしたり、ということがこれで出来る様になった。
そんでもって警備システムの方にも注入して・・・と。
(よし、ひとまずは今日やることは終わったな)
周囲に証拠を残していないのを確認しつつ、流し込みが終わった端末を引っこ抜く。
管理室のすぐ近くに敵がいないのを見計い、スケアクロウに工場周辺の指定した地点までオンボロを動かすようメッセージを送る。
先ほど頭に入れた地図によると、見つからずに出られるのはダクトを使うのが手っ取り早いらしい。警備システムに打ち込んだスパイウェアがあれば、ダクト内のセキュリティも作動させずに素通り出来そうである。
俺は管理室のすぐ側にある真っ暗なトイレに入る。口にくわえた懐中電灯を点け天井を照らすと、二機並ぶ小便器の真上にギリギリ通れそうな小さなダクトを見つける。
(これはまた、侵入する側にとっては楽な仕様のカバーだこと)
片側が二つの引っ掛かりで支える支点となり、反対側に付いた可動式のレバーをひねるとレバー側の支えが失われて下に開くという片開き仕様である。
もっとも、ダクトの中に入ってしまうと腕を出してレバーを閉めることができないが、手持ちの工具を使えば
(では、また後日)
俺は工場を静かに後にした。
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「・・・よっと」
現在も使われている施設からは少し離れたところにあるダクトの排気口。周囲に見知らぬ人物がいないのを確認してダクトから飛び降りた俺は、すぐ近くに馴染み深い
「おかえりご主人」
「おかえりなさい。どちらまで行きますの?」
「近くのモーテルまで」
「かしこまりましたわ」
そう言うとスケアクロウはエンジンを入れ、重たく響くエンジン音とは裏腹に緩やかな発進で目的地へと動きだす。
俺は早速端末を取り出し、管理室に仕込んだスパイウェアの侵入具合をチェックする。
ダクト内のセキュリティーはそもそもそこから侵入を試みようという例が考えにくいためか、警備システム内では高い階層に位置する比較的侵入しやすいセキュリティーレベルにあったのだが、ジャマーは機能停止すれば”商品”に逃げられる危険に直結するため、システム内の階層は相当奥深くの低階層に位置していた。
・・・なんだ、完全に奥深くまで侵入できてるじゃないか。さすが俺の作ったプログラム、優秀だ。
なんてな、いくらなんでも連中のセキュリティはそこまでザルじゃない。
「俺が匍匐してる間にハッキングを進めてくれてありがとう。おかげで色々と順調に進められそうだ」
「どういたしましてですの」
あとは当日の行動に必要な道具さえ整えば準備は大体完了だ。アインスには俺が纏めたリストを送ってっと。
あら、すぐに電話が掛かってきた。
「送った矢先に着信かいな。はいもしもし?」
『アンタこんだけの爆薬一体どこにどう使うのよ』
開口一番しかめっ面になってるのがありありと分かる声色のアインス。
俺がリストアップした必要資材に対し、何か引っ掛かる点があったらしい。
「いやぁ、本当にどうしようもなくなった時の最後の手段としてな」
『ばーか。スケアクロウが寄越してくれた設計図ちゃんと見た? 大方失敗した時のやけくそで支柱を全部爆破して生き埋めになんて考えてたんでしょうけど、ウチにある爆薬だけじゃオークション会場の柱を全部壊すにはとても足りないわ』
「あん??」
改めて端末の方を見返してみるが・・・ちょっと待て。配電図とかのデータは俺の元に来てるが、工場自体の建屋の設計図なんてものは渡されてないぞ。
「それはそうですわ。潜入している貴方にとって必ずしも必要な情報じゃありませんもの。通信量をカットするために、貴方には設計図を外したフォルダーを圧縮して送りましたわ」
「・・・だそうなんで、俺は会場の柱がそんなに頑丈という事実は今初めて知った」
『そういうことね、ごめんごめん。要は柱の一本一本が爆破や火災、果てにはM7クラスの地震にも耐えられる強固な構造を採用しているわ。おそらくだけど、時代が時代なだけに第三次大戦も視野に入れての事ね。とにかく、ウチにある爆薬だけじゃ柱をぶっ壊して天井を落とすなんて真似は無理。他に方法は無い?』
なるほどねぇ・・・。まさかオークション会場がそんなに頑強な作りになっていたとは。となると、諸共まとめてっていうプランは取れそうに無いから、尚のこと失敗は出来ねえな。
結構デカイ組織に喧嘩吹っかけるような真似をする以上、奥の手のさらに奥の手くらいは用意して任務に臨みたい所だが、如何せんそれをするには時間が足りない。
仕方ない、やれる限りでやる。いつもの事だが特に気を引き締めてかねえと。
それには無視出来ない問題点が一つあるんだが・・・。
「まあ、それはあくまで最終手段として用意しときたかったってだけだ。ポロシェンコを殺る手はずとエクスキューショナーを取り出す方法は練ってはいるが・・・男の方はともかく、エクスキューショナーの奪還については不確定要素が出てきた」
『えぇっ?? ちょっと、不確定ってどういうことよ』
「実はな・・・」
俺はスケアクロウがハッキングで入手したブラックリストの中に、G&Kが抱える”人形専門の救出部隊”が記載されていた事を話す。
鹵獲途中の大捕物を横から掻っ攫われるなどという大失態を演じたG&Kが、オークション当日までに何もせずにいるとは思えないこともな。
『・・・つまり、アタシ達の予期せぬ展開になって引っ掻き回される可能性がある訳ね』
「ああ。元々予定されてたポロシェンコの暗殺は確実に決めるが、エクスキューショナーの奪還は状況次第じゃ出来ないかもしれん」
今の状況をありのまま伝えると、電話口からおもっくそ大きな溜め息が聞き取れた。直後にクシャクシャという髪を掻き毟る様な音も。
厄介ごとが舞い込んできそうな展開に頭を掻いてしまったんだろう。面倒事に巻き込まれると必ずやる彼女の癖である。
しかしすぐに気分を切り替えたのか、かわって張りのある声で使う道具の最終確認をしてきた。
『あーもう、面倒くさい事になったわね。とりあえずそろそろギルドを出ないといけないから確認するけど、ポロシェンコを殺るのに使う道具は? 車に仕込める位の爆薬で良いの?』
「ああ。それと車の回路にリンクさせるためのコネクター類も頼む」
イレギュラーが起こり得る状況を把握し、その上でどうすれば確実に殺れるかまでを即座に導き出したアインス。
流石、仕事のフォローが早くて助かる。
『オッケー。そんじゃ後で『フォックス』にポロシェンコが当日使う車のナンバーを送らせるわ。それとアンタと
「変装用のマスク生成機一式。加えて音声テープも」
『はいはい分かってるわ。んで、一応は当初のアンタが考えてた”悪知恵”通りに奪還を進めるって事で良いのね?』
「それが一番安全牌だろう。他に案があるのか?」
『いーえ? じゃ、これから装甲車で皆乗っけて行くわ。近くに来たらまた連絡する』
「りょーかい」
通話を終えて端末を仕舞う。
ちょうど目的地となるモーテルに着いていた様で、スケアクロウもティナも仕事前に見せる真剣な眼差しで俺を見据えていた。
「さってと・・・オークション会場への仕込みは終わった。次は当日潜入するのに必要な下準備を済ませる。
それではキミ達に問題です。なぜわざわざこのモーテルを目的地にしたのでしょうか? はいスケアクロウさん」
「貴方が当日”化ける”招待客を始末する為ですわ」
「スケアクロウさん正解」
当たり前だが、完全非合法のオークションである以上、誰でも競りに参加できるワケではない。
主な参加の仕方は参加経験のある人物から組織に紹介してもらうか、組織が運営するサイトにアクセスして招待券の抽選に応募するかのいずれかだ。ちなみにこのサイトは特殊なプロテクトが掛かっているので、例え旧文明の最大手の検索エンジンで調べたとしても絶対に出てこない。つまり結局誰かの紹介が無きゃ入れない。
俺たちのギルドにその様なコネは無く、仮にあったとしても招待券が当たるかどうかも分からない。当たらなかったからといってじゃあまた次回なんて事にもならない。次回は無いのだ。
手段を選んでられる状況じゃないため、サイトに
標的を絞ったあとは、入手した個人情報からどこで生活してる人物なのかを
「既にターゲットが泊まる部屋の隣を抑えてある。チェックインを済ませた後、折を見て仕掛ける。いいな?」
「「了解」」
ターゲットの男の顔や体格は既に割れている。化ける上で必要な残りの要素は本人の”声”だ。
こればかりは男に直接喋らせて声をサンプリングしないといけない。『あ』から『ん』まで、全ての”音”をだ。
相手に意識がある中で抵抗を抑えながら喋らせるため、成り代わる中で最も危険な行程なのだが、厄介な事に手に入れたやり取りの記録を見るに何回か電話で話をしてるらしい。
電話越しとはいえ男の声が組織に割れている以上、声を録らないという選択肢は無い。
「よし。それじゃあ手筈通りに進めるぞ。二人ともよろしく」
「いぇっさ」
「わかりましたの」
俺たちは一度頷くと右腕を伸ばし、三人揃って拳を突き出した。
『ーースミスからバレットへ、首尾はどうだ?』
『・・・』
『・・・バレット?』
『・・・あぁ、聞こえてるよスミス』
『なんだ、驚かせるなよ・・・』
『悪い・・・中のジャマーが思った以上に強烈でな。さっきから頭が凄えガンガンする』
『そんなにか?』
『ああ、こいつはかなり強い。小隊の中じゃ一番抵抗力がある俺でコレだからな、他のメンバーだともしかしたらヤバかったかもしれない』
『そうか・・・。で、作業は順調に進んでるのか?』
『もちろん。後はこの下のスペースにゆっくり押し込んで・・・っと』
『終わったか?』
『これで電気室にある全部の電源に仕掛け終わった。タイマーのセットも抜かりなくだ』
『了解。早いとこ戻ってこいよ』
『当たり前だ。こんなところ直ぐにでもオサラバしたい所だ』
『ハハ。気を付けてな』
『分かってる』
DG Platoon
ACTION START...
モーテルにてターゲットのチェックインを待つ三人。
「!!?」
「どしたのご主人?」
「今、なんでか知らないがおもっくそゾクッとした」
「・・・不吉ですわね」
-----
さて、何が起こるんでしょうね(ハナホジ)