裏稼業とカカシさん(旧題:裏稼業の何でも屋が出向く先には必ずカカシが待っている件)   作:chaosraven

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 遂にやってしまった・・・。
 3週間オーバーを遂にやらかしてしまいました。NTK様、そして拙作をお待ち頂いてる方、大変申し訳ありませんでした。

 今回は17,000字オーバーのボリュームとなっておりますので、お時間のあるタイミングで読むことをお勧めします。
 また、話の都合上視点が次々と入れ替わります。ご了承下さい。

 ちなみに前話のその4の描写を一部修正しておりますので、あらすじがてら其方から読み直すとスムーズに頭に入ってくるかと思います。
 そんな時間ねえよって方のために以下、アバウトなあらすじ↓

 エクスキューショナーを奪い返そう→DG小隊も行動開始→レイが小隊の抹殺対象者に化ける→バレットたちの狙撃準備完了→『バァンっ』←イマココ

 あっ(察し)


-61-ハイエンドモデル奪還作戦その5

 

 

 

 時は少々遡るーー

 

 

「・・・それで、ポロシェンコは無事に始末できたというワケね?」

 

『ああ。全く警戒もせずに自分の車に乗ったよ。そんで予定通り、シフトノブを動かした途端に大爆発(ボーン)だ。ガソリンに引火して体は火達磨、しかもシートベルトで体が固定されてるから余計にパニクって、まともに逃げることも出来ず、呆気ない終わりだったな』

 

「確認は? ちゃんと取れたの?」

 

『心配無いさ。ご近所さんが呼んだポリと消防が、車から遺体を引っ張り出してるのをこの目で見た。目に入れたくねえ程の真っ黒焦げ、ほとんど炭化した遺体からDNA採取で身元を割り出すのは多分無理だろうよ』

 

「分かったわ。長い間お疲れ様、フォックス。報酬は3割増で振り込んでおく」

 

『そいつはありがたいね。そんじゃお役御免ってことで、俺はズラからせてもらうぞ』

 

「ええ。ゆっくり休んで」

 

 

 

 工場からほど近い大型駐車場跡にて、光学迷彩を起動した状態で停められたギルドの装甲車。その運転席にてハンドルに脚を乗せるという行儀悪い姿勢で座るアインスは、無線機片手に”ギルドが元々請け負っていた仕事”の結果報告をフォックスから受けていた。

 結果は大成功。ポロシェンコの遺体は身元の判別が不可能なほどに焼け、またそのような状態になったと言うこともその目で確認できたとなれば言うこと無し。現場に大勢いるであろう警察や消防という存在も、探偵よろしく忍び探ってを専門とするフォックスなら見つからずに脱出することは容易いはず。これで、ギルドが受けた大きな仕事をまた一つ無事に遂行できた。本来ならばこれで良し、となるはずだったのだが・・・。

 

 

「・・・ったく、グリフィンもなんであんな重要な人形を横取りされちゃうかな」

 

 

 残る課題。エクスキューショナーの奪還が終わっていない。

 ところどころ損傷しているとはいえ、腐ってもハイエンドに位置付けられるだけの性能を持つ戦術人形である。

 

 主要な回路を撃ち抜かれた彼女を設計図どおりの元の姿に復元することは、鉄血という”企業”が無き今ではほとんど不可能に近い。もしかすればI.O.P.の上位研究機関(16Lab)とやらなら再現出来るかもしれないが、アレは予算も技術力も最高峰故の例外。そこらのエンジニアにはまず無理である。

 

 しかし、エクスキューショナーの持つ”力”さえ発揮出来れば良いというのであれば事情は変わる。完全元通りではなくとも、武器を使える状態に、俊敏に動ける状態に、そこまで直せる技術さえ持っていれば、エクスキューショナーはどの様にでも使える強力な”素材”となり得るのだ。

 たとえ修復し終えた時の見た目が武骨だろうと不恰好であろうと関係無い、戦闘行為を”人や低クラスの戦術人形より”も高い次元で行えれば良い・・・そう考え、かつ機械をある程度まともに治せる技術力を持つテロ組織はこの世の中多くは無いが少なくもない。そのような連中の元に流れるリスクを考えると、やはりここで介入するほかなかったのだ。

 仮にギルド側が奪取出来れば、鉄血の技術者であるリーサ達に暴走の原因となっている『コード』を解読してもらう事も出来るし、潜入してるであろうDG小隊とやらがエクスキューショナーを奪い返すのならば最悪それでも良い。一度は鹵獲して掻っ攫われたモノを再度掻っ攫い直すだけ。グリフィンだってあの存在は貴重なサンプルとして欲しているだろうから。

 

 とはいえ、せっかくレイがお膳立てしたところをヘリごと撃墜されて横取りされるという大間抜けには、アインスでなくとも大きなため息も零したくなるもの。

 そんな彼女の肩を、苦笑を浮かべたゲーガーがポンポンと叩く。

 

 

「そうは言っても、なってしまったものはどうしようもないですよ」

 

「まぁねぇ・・・うん? あの装甲車」

 

「え? ・・・あれはグリフィン?」

 

 

 会場に目を向けていると、ふと工場に向かう道を装甲車数台が列になって走るのが目に入った。

 白で描かれたG&Kの社章が黒いボディの側面に映える装甲車。すぐさま取り出した双眼鏡で追っていくと、車列はここを通り過ぎてしばらく直進したのち、2キロほど離れたところにある駐車場跡に次々と横並びに停まる。

 間も無くハッチから続々と武器を持った戦術人形たちが現れ、”元々停まっていた”ハンヴィーから降りてきた三名の乗員たちと向かい合う。そして、おそらく人形たちの代表なのだろう。アインスも以前カタログで見覚えのある人形が一歩前に出た。

 一見すると量産型の戦術人形の一個体に見える。が、その人形のある一点の特徴を捉えたアインスは、苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべ一言。

 

 

「・・・やーゔぁいかも。よりによってこのタイミングで復帰とは・・・レイもほとほと運が悪いわね」

 

「???」

 

 

 意味が分からずコテンと首を傾げるゲーガーを横目に、双眼鏡に見える光景にアインスは再度大きなため息を吐いた。執事服というこの場において珍妙な(なり)をした男・・・恐らく戦術人形の一人と思しき男と、向かい合う女性型の戦術人形。

 彼女が胸に抱えているのは、とあるテロ事件の悲惨な結末を機に開発されたものの結局制式採用には至らず、当時はごく少数の生産に留まった対人用ライフル。独特な形状は時に近未来さを感じさせ、有名な映画作品にも登場しては大きなインパクトを残した名銃とも呼べる武器。

 ドイツのワルサー社が開発した『WA2000』を持つ、見目麗しい少女。彼女の右側頭部に結われたワンサイドアップは、本来の個体とは違う”長く使い込まれたシルクのリボン”で結ばれている。そう。かつてレイが徹底的に叩き上げたエースライフル人形もまた、このオークション会場へとやってきていたのだ。自らの役割を果たすために。

 

 反人形的過激思想を持つギャングに捕らわれ、欲望のはけ口にされそうになった彼女。ギリギリで師匠(レイ)の救援が間に合ったものの、トラウマがフラッシュバックして暫く戦場から身を引いていたらしい。

 そんな彼女が、自身の経験したトラウマにも間接的に通ずるであろうオークションの制圧任務に自らの足でやってきたことは、本来であれば賞賛すべき事だ。自分の力でトラウマを克服しようとするには並の覚悟では出来ない事だし、実際レイもそれを聞けば思う所はあるはず。

 

 しかしなんの皮肉か、今のレイはグリフィンがターゲットにしても可笑しくない人物(ワーグナー)に化けている。会場内で鉢合わせれば、あのWA2000はレイをどうしてくれるか?

 P90(ティナ)を叩き上げた時のレイのやり方から鑑みるに、レイの初めての教え子たるあのWA2000(白リボン)も、恐らくライフル人形の常識から外れた相当ふざけた戦い方をしそうな予感がする。

 

 ・・・間違いなく波乱が起こる。アインスは察した。

 

 

「・・・フォローしてやるか。スケアクロウ」

 

「はい?」

 

「あの一団を俯瞰出来るポジションにビット一機飛ばしてもらえる? なるだけ見つからないように注意しつつで」

 

「分かりましたの」

 

 

 早速、スケアクロウのビットが音もなくグリフィン部隊の上空へと飛んでいく。

 もっとも、エースの名を冠する人形相手にはすぐにバレてしまいそうにも思える。が、こちらも相手がどう動くかはっきりと言えない以上、出来る限り情報は集めておきたい。

 

 

 はぁ・・・御愁傷様、バカレイ。

 アインスは小さくつぶやき、またも溜め息を零した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 装甲車からグリフィンの戦術人形たちが降り立つのと同時に、DG小隊の面々もハンヴィーから降りて彼女たちを出迎える。

 全員が4体のダミーを引き連れた高練度の人形たち。それが4小隊分の数で勢揃いすると彼女(強者)たちの気迫に呑まれてしまう、そんな錯覚さえ思わず感じてしまうほど。

 間も無くリーダー格の人形・・・白いリボンで髪を結ったWA2000が一歩前に出るのに合わせ、待機組の指揮を任されているウェイターも踏み出し握手を交わした。

 

「待たせたわね。F-05、F-06、I-03、K-06地区から派遣された4小隊、ただいま到着したわ。制圧部隊のリーダーを務めるF-05所属のWA2000よ。よろしく」

 

「お待ちしてました。DG小隊の臨時指揮を担当する『ウェイター』です。・・・まさか、白リボン(貴方)ほどの方に来て頂けるとは。心強い限りです」

 

 

 F-05地区に所属するエースライフルの一人、『白リボン』の異名で呼ばれるWA2000。その戦績は他の追随を許さず。数多くあるライフル適合型の人形の中でも、同型のWA2000タイプにおいても抜きん出た実力を持つ存在だ。

 そんな彼女が派遣されてきた、すなわちグリフィンの本気度が伺えたことに、内心ウェイターはホッとしていた。

 一方当の本人はというと、周りからそのように称えられる事に慣れていないのか苦笑いを浮かべる。もっともその笑みも、WA2000型に共通する”性格”を知っていたら少々驚くような柔らかさを感じるものであるが。

 

 

「”貴方ほどの”なんて言われるほど私は大それたもんじゃないわ。『師匠』の教えを活かして今日まで戦ってきてるだけよ。

 それでウェイターさん? そちらの用意は整ってるのかしら?」

 

「ええ。工場内に予め仕掛けておいた”仕込み”が作動し次第、すぐにでも突入出来ます」

 

「へぇ?」

 

 

 ほんの一瞬、()()()()()()()()()()WA2000は、続く仕込みという単語にニヤリともニンマリとも言える笑みを浮かべる。これから自分たちの進めていく作戦が楽しみと言わんばかりのモノだ。

 口元の弧とは逆に、その眼には凄まじい殺気が宿っていたが。

 

 真正面からそれを受けたウェイターたちは、相対する彼女が確かにエースと呼ばれる存在である事を肌で感じ取る。

 今でこそ冷静さを保ったままでいられるが、部隊に加わったばかりの頃やその前の”執事”として生きていた頃であれば動揺は隠せなかっただろう。

 

 先ほど謙遜していた彼女の見せる”戦術人形としての顔”に、三人は一層強く気を引き締められた。

 

 

「分かったわ。それじゃ各員直ちに準備を整えて。彼らの仲間が仕掛けた”仕込み(爆弾)”の作動まであまり時間が無いわ。

 F-06は東部、I-03は南東、K-06は西部方向からそれぞれ工場に向かって。DG小隊は私たちと一緒に正面から搬出口に向かうわ。

 爆発と同時に装甲車で敷地内に突入、ジャマーの影響が失われた工場内部の制圧を開始するわ。何か質問ある?」

 

「一応の確認だが、武器持った奴らは殺していいんだよな?」

 

「当たり前でしょ。殺らなきゃ殺られるのよ? あぁそうだ、敵組織の重要参考人のリストを共有しておかないといけないわね。

 『ジャスパー』ってコードネームを持った男。メガネ掛けて長身の細身な体格らしいんだけど、幹部格だから一応残しておいて欲しいの」

 

「・・・了解」

 

 

 人形を不当に扱う組織のメンバーを生け捕れという指示に、レストは内に滾る憎しみを堪えて了承の意を返す。

 バレットから感情的な行動は厳に謹めと言われている以上、それを無視して憎しみのままに引き金を引くのはバレットの名に泥を塗る事になる。

 だからこそ、どんなに憎くてもその場で殺してはならない。自分を”あの地獄”から助け出してくれたバレットに、自分の行動で迷惑を掛ける事だけは避けなければいけなかった。

 

 だが、WA2000も歴戦のスナイパー。

 レストの反応から凡その事情を汲み取ったらしい。

 

 そして彼の左目の下に刻まれた涙のタトゥーを一瞥し、得心した表情でおもむろに口を開いた。

 

 

「・・・貴方も『傷付けられた』人形なのね」

 

「っ! そういう、アンタも?」

 

「・・・私は未遂で済んだわ。けど、傷付けられる事への恐怖は経験したつもりよ。

 貴方の憎しみと苦しみ全てを理解できるとは言わないし、言えない。でも感情のままに引き金を引けば、時と場合次第で貴方の仲間を危険に晒す可能性があるのを忘れないで。

 乗り越えなさい。憎しみだけに囚われてはダメよ。・・・左目のタトゥー、早く消せるといいわね」

 

「・・・あぁ、ありがとう」

 

 

 俯くレストを横目に再びウェイターに向き直るWA2000。その顔は既にこれから敵を葬る兵士のものへと移り変わっていた。

 

 

「さあ、仕事前のお話は終わりよ。三人とも装甲車に乗って。全車移動開始、ゼロアワーと同時に敵施設に突っ込みなさい」

 

『了解!』

 

 

 


 

 

 

 なんだこの揺れ?

 と思う間も無くステージの明かりが全て消えた。周囲を見渡せば、通路に接する座席に灯るはずの案内灯も、出入口の上部で光っている筈の非常口灯も全てが消えている。

 

 停電。しかも10秒経っても一向に明かりが点く気配は無い。この手の施設なら10秒も経てば非常電源に切り替わる筈なのに。

 

 ・・・数度に渡る大きな揺れ、会場内のあらゆる光源の消失。

 まさか奴等、予備も非常用も引っくるめて全部の電源を爆破しやがったのか?

 

 ということは、参加客たちがパニックになって大騒ぎとなる前に・・・(ワーグナー)を仕留める??

 

 

 直後猛烈な悪寒が走った俺は、革靴の踵を座席を支える脚部にわざと強く打ち当て、会場に二度コンコンという音を響かせた。

 目を瞑り、音の反響から敵の位置を探る・・・一階席? 違う。 二階席は? いない。 残りはバルコニー・・・ん? 手すりの下の穴から、なんか棒みたいなのが僅かにせり出てる・・・!?

 棒の向きは? どこへ向いている? ・・・まっすぐ一直線上に”俺の頭に向かって”やがる。

 

 気付いた瞬間、俺は座席から飛ぶ勢いで立ち上がり、売り物の人形たちがいる区画へのルートに向かって無我夢中で駆け出す。

 バルコニーから”対物ライフル級”の発砲音が響き渡ったのはほぼ同時。対人用銃の比ではない音と共に放たれた弾丸は俺を貫くことはなく、代わりに俺の席の列に座っていた参加客数名を撃ち抜いた。そのうち隣にいた客は弾道上にあった頭がまるごと弾け飛び、飛び散った生暖かい肉片が駆け出そうとしている俺の顔にも付く。

 

 

(ざっけんなっ! アンチマテリアルで人の頭ブチ抜くなんてバカじゃねえのかっ!?)

 

 

 いくらワーグナーが人形を酷使する様な所業をしていたとはいえ、処刑の方法があまりに惨過ぎるだろう。

 あんなのに撃ち抜かれたら冗談抜きで体を真っ二つにされる。手段を選んでる場合じゃない。

 

 俺が着けているサングラスを模したスマートグラス。脳波を読み取ることで一々ボタンで操作せずに機能を切り替えられるコイツは、ウロボロスのヘッドセットとリンクすることで、走りながら必要なツールを取り出すことができる。

 

 あの位置では狙撃手は手すりの部分にスコープの視野を遮られて、単独では狙い撃ちできないはず。となると射線を修正する観測手(スポッター)がそばにいる。

 ホールを出るまでに観測手(スポッター)に射線修正の時間を与えるのはマズイ。スマートグラスを暗視モードに切り替えながら手元にFive seveNを召喚し、何かやられる前にバルコニーに牽制弾を撃ち込む。

 

 サプレッサー越しの籠った発砲音と弾が手すりに当たる音が会場内に響く。

 その音でいよいよ銃撃戦が起きている現状を認識したのか、参加客たちが一斉にパニックを起こし始める。

 

 逃げようとする客が殺到する前に全速力で上手側の出口に向かう。

 人形が捕まっているエリアに向かうにはこの出口からの通路を通るしかない。

 

 扉を開く直前、振り向きざまにもう数発バルコニーに牽制を放つ。敵が影に隠れた隙に思いっきり扉を押し込みホールを脱出。

 こうなったら先に現場を押さえた方が勝ちだ。フルスロットルで行かせてもらうぞ。

 

 

 

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「っ!? クッソ躱された! 逃げられたらマズうわっ!?」

 

 

 発砲直前に飛ぶ様に立ち上がり、バレットの射線上から離れたワーグナー。逃げられる前に射殺しようとスミスが撃とうとするものの、その前にバルコニーに向けて牽制弾が撃ち込まれ、たまらず影に隠れる。

 手すりを背に攻撃のタイミングを窺うスミスに、おもむろに銃の解体をし始めたバレットが言った。

 

 

「スミス、奴を追ってくれ」

 

「おいおい、大丈夫なのか?」

 

「問題ない、すぐに追いつく。それにさっきの”爆発”が合図になって、後から来る味方も突入し始めてるはずだしな」

 

「・・・分かった。気を付けろよ!」

 

「お互いにな」

 

「・・・よし、また後でうおっ!?」

 

 

 互いに頷き、バルコニーを出ようとスミスが立ち上がった直後、再び牽制弾が撃ち込まれて咄嗟に屈む。

 油断なくこちらの動きを妨害してくるワーグナーに苦い顔を浮かべつつ、スミスは相手の動きを聴覚センサーの感度を高める事でなんとかキャッチしようと試みる。

 

 ・・・敵はこちらに牽制を撃ち込んだ後すぐにホールを出たらしい。自分たちが後手に回ったことに内心舌打つスミスは、少しでも距離を詰めるためになんと三階相当のバルコニー席から一階席まで飛び降りて見せた。会場から逃げようと出口に殺到する参加客を”無いよりはマシ程度”のクッション代わりにして。

 

 ボキリっ

 ズサァっ

 

 そんな音と共に客を下敷きに、それでも殺しきれない勢いを受け身を取り可能な限り抑えて着地したスミス。

 着地ダメージは行動に支障なしと判断するや直ぐに両手に二丁のM500を構え、出せる全速力でワーグナーの逃げ込んだ上手側のルートへと急ぐ。

 

 

「・・・二度も()()()が続くと思うなよ、ワーグナー!」

 

 

 その顔は、目標を確実に殺し抜く執行人のごとく。

 会敵まであと少しーー。

 

 

 


 

 

 

 電源を全て失ったオークション会場の通路を走りながら、俺はスマートグラスの無線機能をオンにする。さっきの爆発でどうせジャミングも何もかも死んでる。俺からの発信も届くはずだ。

 

 

「アインス! 緊急事態だ! 奴ら予備と非常引っ括めて全部の電源を爆破しやがった!」

 

『こっちでも煙が上がってるのは見えてる。ていうか、それよりさらに面倒な緊急事態が起こったわよ』

 

「あ?」

 

白リボン(アンタの弟子)率いる部隊が会場の制圧に突入したわ。恐らくさっきの爆発を突入の合図にしてたんでしょうね、落札者に人形を引き渡す例の区画にも突入したのをスケアクロウが確認してる。下手すると鉢合わせるかも』

 

「・・・ウソだろ?」

 

『大マジよ。こうなった以上下手に暴れると却ってリスクが高まる。とにかく皆にはグリフィン隊に()()()被害が出ない程度にこっちで機を伺って動かすわ。目標の回収よりもまずは上手い事生き延びなさい。最悪エクスキューショナーはグリフィンになら取らせて構わないから』

 

「分かった。・・・ちっくしょう、踏んだり蹴ったりじゃねえか!」

 

 

 よりによってこのタイミングでわーちゃんが復帰するとは、ほとほと運が無えぜ・・・ったく。

 今のこの化けた顔化けた声で出くわそうもんなら、確実に面倒な事態に巻き込まれる。ただでさえDG小隊とやらから逃げながらってのに加えて、グリフィンから制圧部隊が派遣されてきてるとかもはや悪夢だ。

 一対多とかいうレベルじゃない。圧倒的劣勢。しかも状況から察するに、目標としてたハイエンドの回収は諦めなきゃいけない可能性が高い。それを欲張って為そうとすると多分とっ捕まって殺される。

 

 

「っ! 止まれ! 何者だ貴様!」

 

 

 人形のいるエリアへのルートに浸入した。

 真っ暗闇の中でも走ってくる俺の気配を察したのか、即座に音のする方へと銃口を向ける警備員二人。その後ろ、すぐ視界に捉えられる位置にもう1ペア、それがカーブとなっている通路に合計6ペア配置されている。

 明かりが生きているなら即座に後ろのペアと連携して即蜂の巣だったんだろうが、そもイレギュラーな真っ暗闇での戦いに彼らは慣れていなかったらしい。いや、動揺したメンタルをまだ整えきれてなかったというべきか。

 

 止まれという指示を無視してまっすぐ突っ込む。当然奴らは発砲する。

 

 彼らもこうした事態に備えて一応暗視装置を着けていたのか、撃ってくる銃撃は悉くが俺の頭部に集中している。体の何処かに当たれば動きは止められるが、手っ取り早く始末をつけるならやはりヘッドショットするのが一番手っ取り早い。

 結構。狙いが一点に集まるのならばやり易い。頭に飛んでくる弾の全てを左手の防弾バッグで防ぎつつ、右手のFive seveNで一人一人潰していく。

 

 

「邪魔!」

 

「侵入者だ! 絶対に通すなよゴフッ」

 

 

 二列目の兵士らは、左に立つ兵にバッグそのものを頭にぶん投げ、俺の手元から離れたその瞬間に中身(ヘッドセット)に信号を送って左手にナイフを召喚。並行して銃をもう片方の敵に向け、発射。射殺完了。

 咄嗟にバッグをキャッチした左の兵士がこちらへ武器を向け直すのを待たず、間合いに敵を捉えた俺は今度はナイフを首元にブスリ。そのまま切り裂く。

 

 勢いのままに血の付いたナイフを振り切ると同時にストレージに戻し、つま先で蹴り上げた小さな盾(バッグ)をキャッチ。再び走り出す。

 

 ・・・ヘッドセットのストレージ機能、本当に便利でたまらん。手放したくなくなってきた。

 この仕事が終わったらリーサに相談してみるか。

 

 

「通れると思ったか!」

 

「黙って寝てろ!」

 

 

 俺の姿を視認した途端、容赦なく発砲してくる三列目の兵士たち。しかしまあこちらも、射撃の精度は高くとも狙ってるところが頭一辺倒じゃあ簡単に防げる。

 頭を守るのにバッグで視界を塞いでても音で敵の大まかな位置や体型は分かるし、頭をガードするなら別の部位、と敵が考える間なんて与えない。そのまえに撃ち抜いて思考を止めさせる。永遠にな。

 

 しかし、そろそろ拳銃と防弾バッグだけで突っ込むのはいい加減バリエーション不足だろう。カーブ状の通路の敵からの死角に身を潜めつつFive seveNをストレージに、代わりにスタングレネードとナイフを取り出す。

 ピンを引っこ抜き、弾ける寸前まで待って敵のいる方へとぶん投げ耳と目を塞ぐ。

 

 

「ぐわっ!?」

 

 

 さらにピンを抜いてもういっちょ。

 

 

「がっ! 目がぁ!?」

 

 

 二度もスタングレネードを投げ込まれ、徹底的に目と耳を潰された兵士たち。棒立ちも同然の奴らを始末するのは容易い。

 四列目の兵士の首筋目掛けナイフを投げる。間髪入れずもう一本の血塗れのナイフを召喚し、一気に距離を詰めもう一人の首を斬る。

 

 物言わぬ死体からナイフを回収しストレージへ、交換で呼び出したFive seveNで五列目の兵士らも頭を一発ずつ撃ち抜いて始末する。

 リロード、セット完了。

 ストレージに戻し、今度は爆発する通常のグレネード、但し炸薬量は少しだけ増やしたものを右手に。ピンを抜き、爆発する寸前で最後の列の兵たちへ投げ込む。

 敵は投げ込まれたものをスタングレネードと判断し、目と耳を守ろうと腕を動かしたのが反響で分かった。真っ暗な通路、暗視装置を介した奴らの視界に映るのは赤外線の反射によるモノクロの輪郭。故に種類までを一目で判断することは難しい。

 

 だからこそ、爆発することも考えた回避行動を取るべきだった。

 

 ボンッ

 

 爆発と同時に死角から駆け出す。銃口は前を向いたまま。

 だが兵士は二人とも倒れていた。爆発により、腕に大きなダメージを負ったらしい。

 

 相手は既に手負いだが、この状況で見逃せば命の危険がより高まる。悪いが確実に殺らせてもらう。二人の頭部に一発ずつ撃ち込み、終わらせる。

 その時ふと、後方から小さくはあるが足音らしき音が聞こえるのに気付く。一人、その後ろにもう一人、そのさらに後ろに・・・複数いるな。

 

 

「・・・厄介だな。しかも足が早い」

 

 

 俺を仕留め損ねた奴さんがもう追いつこうとしているらしい。リストを見たときに薄々そうなんじゃないかと思ってたが、やはり9A-91に似てるという女の隊員以外も戦術人形だったようだ。

 足が接地する音の間隔が人間にしちゃ妙に短く、そしてこちらに接近する早さもまた人並み外れている。・・・野郎、ボディのスペックをフル活用して本気で走ってるな。その後ろには数人分の足音・・・突入した制圧部隊の一味か。

 分かりきっていたことだが、こうなればもう来た道は戻れない。前に進むしか生き残れる道はない。

 

 Five seveNを収め、ちょっとばかし細工をしておいたクレイモア機雷を兵士の遺体に隠すように仕込む。

 仮にも取引先(クルーガー)の抱える戦力ゆえ、下手にデカいダメージを与える訳にもいかない。が、だからといって今この会場で鉢合わせるメリットもない。悪いがみみっちい手法でもう少し時間を稼がせてもらうぞ。出来る限りここに留まってくれたまえ。

 

 

 さて・・・と。

 人形たちのいる”はずの”エリアへやっと辿り着いた。俺は銃を右手に、静かに扉を押し込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ、・・・うん? 死んでる?」

 

 

 ワーグナーを追跡していたスミスは、気付けば囚われた人形たちの待つエリアへ続く唯一の通路へとやってきていた。

 予め手に入れていた内部図面のデータと常に照らし合わせながら追跡していたため、彼はここで警備兵と交戦する事態も考えていたのだが・・・

 

 

「・・・先に来たワーグナーが全員潰して強行突破したってところか。しかも、首を切り裂いたり頭を一発で撃ち抜いてと、随分手慣れた技術(テク)を持ってる奴だ・・・いや待てよ? ワーグナーってこんな事が出来るほど戦闘経験があるのか?」

 

 

 結果は既に全員事切れているという有様だった。それも彼の言う通り、慣れてなければ出来ないであろう綺麗な殺し様でだ。

 スミスは疑問を抱いた。表向きは雑貨チェーンの社長、裏では拷問紛いのサービスを提供する娼館のオーナーであるワーグナー。このようなドンパチは普通に考えれば依頼する立場で、どう巡り巡ってもドンパチ”する側”ではないだろう。

 なら何処でこのような術を得た? グリフィンでも把握できてない空白の何かがある? 周囲を完璧に騙し通せるほどの隠蔽を図っている?

 ・・・何故?

 上流階級に生まれ、不自由無い暮らしを送っているはずの人物がわざわざこの場に来て”命と身分を懸ける”ことの理由はなんだ?

 

 その時、自分の走ってきた方から足音が聞こえ、咄嗟に武器を構えるスミス。

 

 

「俺だ、スミス。バレットだ」

 

「あぁバレットか・・・」

 

「? 何か気になる事があるのか?」

 

「いや、ズブの素人が”こんな綺麗に”人を殺せるもんかと疑問に思ってな・・・」

 

「・・・確かに。この通路を守っていたであろう警備兵は全滅、そのいずれもナイフや拳銃による無駄の無い一撃によるもの、か」

 

 

 スミスの疑問にバレットも同意を示し、少しだけ考え込む素振りを見せる。

 が、まだ自分たちの仕事は終わっていない。その事を思い出した二人はひとまず疑問は置いて先へ進む事にする。

 

 

「スミス、今は先に進もう。助けを待ってる人形たちがいる」

 

「そうだな・・・急がないと」

 

 

 スミスは己の得物を、バレットはサブアームの拳銃を持って正面を見据える。

 警戒しつつ早足で進み、いよいよ目指す本丸へと通ずる扉までやってきたその瞬間、

 

 

《ピーーーー》

 

「「っ!!?」」

 

 

 扉の前(六列目)に倒れていた警備兵の体に巧妙に隠されていた”トラップ”が作動する。

 二人が離れる間も無く、仕込まれた”細工済みのクレイモア”は勢い良く煙を吹き出した。

 

 

「ゲホっ、ゲヘっ、ちっくしょう、やられた!」

 

「ゴホっ、ゴホっ、なんでこんな、ゴホっ、ゴホっ」

 

 

 しかも吹き出されたガスは”人形にも効く”催涙性の物を使っていたようで、二人は噎せるだけでなく涙が止まらなくなってしまった。

 おまけに自分たちが”仕込み”で電源を丸ごと爆破してしまったため、煙を分散するのに一役買ってくれるであろう工場内の空調も完全に死んでいる。

 

 煙から早く逃げるためには『ワーグナー?』が逃げ込んだ扉の奥に向かうしかないが、こんな状態で敵の待つ場所へ進むのは自殺行為に等しい。噎せる度に体は大きくブレるし、ただでさえ暗い中だというのに涙も止まらなければまともに照準を合わせられる訳もない。敵が待ち伏せていれば良い的だ。

 

 もしこれが此方の行動を読んだ上でこのような嫌がらせ(トラップ)を仕掛けたとするならば・・・作戦を進める上で絶妙に鬱陶しい仕業に二人は苛立ちを募らせ、そしてまた噎せる。

 

 

「クソ・・・ゲホっ、ゲホっ」

 

 

 思わず壁に手をついてしまうバレット。

 次の瞬間、先ほどの比ではない衝撃が工場を襲った。

 

 

「うわっ」

 

「なんだっ!?」

 

 

 続けてもう一度、さらにもう一度と大きく揺れる。

 明らかに()()()に攻撃されてるとしか思えない爆発音に二人は目を見合わせ、頷く。

 

 とても万全と言えない状態だが、この攻撃が囚われている人形たちに被害を及ぼす可能性がある以上、躊躇している間など無かった。

 

 

「ゲホっ、ゲホっ、行こうスミス!」

 

「りょ、了解、隊長(バレット)!」

 

 

 両開きの扉の取っ手をそれぞれ握り、もう片方に銃を携える

 二人はアイコンタクトと同時に扉を押し込んだ。

 

 

 


 

 

 

 もともと資材の搬入出に使われていたエリア、それが競りの前に人形を控えさせておく場所だ。10mはある高い天井、クレーンを動かすためのレール、高所に2階層分に分けて張り巡らされたキャットウォーク、ここから大型トラックに積み込んだのであろう閉められた8つの大きなシャッター、そして光を取り込むため上部に幾つも付けられた四角い窓。

 真っ暗な環境とは打って変わって光が注ぐここで、俺は今日一番の警戒で以って音を立てずにゆっくりと進む。

 周りを見やれば後付けで設置されていた檻は、その悉くが錠ごとぶち抜かれていてもぬけの殻。電気仕掛けが動かせなくなったからこその最も簡単なオープンセサミだ。これではエクスキューショナーもとっくに回収されてしまっているだろう。

 

 なにせデカイシャッターの一枚に大きな穴がぶち抜かれている。穴の大きさ的にストライカー級の装甲車で思いっきり突っ込んだってところか。恐らくはオークションの参加客をまとめて大捕り物にするのと同時に、ここにも装甲車を突っ込ませて警備の連中を始末、囚われていた人形を救出したのだろう。

 会場にグリフィンが攻めてきたとなれば当然そちらにも戦力を割かなきゃならない。ある程度ここに留まる戦力を分散させたタイミングで、少数でも問題なく結果を出せるエース達が一気にカチコんだと見た。

 その証拠に、警備兵達の多くが急所一点を貫かれて絶命している。何人かはバラバラと撃ち込まれて事切れたのもいるみたいだが、キルスコアの大部分は多くの敵兵相手に一撃で仕留められるエース人形の仕業だろう。

 

 ・・・備えておくか。

 アインスに回線を繋ぎ、向こうがギリギリ聞き取れる程の小声で指示を出す。

 同時にグラスに内蔵したカメラの映像も繋ぎ、俺の視界をアインスの端末へリンクする。

 

 

「ーーアインス」

 

『どしたの?』

 

「合図をしたらポイントαの天井に穴を開けてほしい」

 

『りょーかい。崩落しない程度ね?』

 

「当たり前だ。俺が生き埋めになるぞ」

 

『OK。用意が整ったら知らせるわ。ついでに何かあったら茶々入れもしたげる』

 

 

 交信終了。

 これで何かあっても一瞬気を引く位は出来るし、アインスも俺の状況を即座に把握できる。バッテリーの消耗が多いため長々とは使えないが、この場を切り抜ける位までは持ってくれる。

 

 欲を言うなら開けた穴からスケアクロウに抱えてもらって脱出したいところだが、そんな時間は多分稼げない。

 それに彼女自身も、人に敵対してないとはいっても鉄血ハイエンドである事実は変わらない。それを知らない者にとっては最優先で撃破しなきゃいけない目標となり得る。余計な損害を負うのは御免だ。

 

 でだ、意識を周囲へ戻す。

 敵組織の死体はそのままほっ放って置かれてる一方、そもそもこのような現場を演出した仕立て人達の姿がどこにも見えないのは何故か?

 

 答えは・・・

 

 

「後ろから刈ろうとしてるからだな!」

 

「っ!」

 

 

 背後から忍び寄ってきていた男に向かい、振り向きざまに手を狙ってバッグを振りかぶる。

 大概の弾を弾ける硬さのバッグを大きなスイングでぶつけられれば、いくら戦術人形だったとしてもダメージはあるはずだ。

 

 俺に襲いかかっていた男・・・グレーの髪をした青年は、衝撃と痛みに持っていたMP5Kを取り落としてしまう。その間に一旦右手の銃をストレージに戻してフリーに。

 拾われる前に足で蹴り、手の届かないところへ退かすと同時に相手の体を右手で引き寄せ、追撃で腹に膝を食らわせる。二発、三発、そして軽く突き放して頭部を蹴り飛ばす。しかしそれでもノックダウンさせるには至らず、即座に上身を起こした男の口へ()()()()()Five seveNのサプレッサーを突っ込む。

 

 戦術人形と人間の俺では生身の身体能力に差がありすぎる。CQCなどのような近接格闘術で身を拘束したとしても、そもそもの地力が違うため無理やり脱出される恐れがあった。

 ゆえに敵に王手を掛ける際には、このように銃口を直接口の中に突っ込む等の手法が一番確実であると言える。バックアップが容易に取れる人形相手なのを考えると、必ずしも絶対的な有効打にはなり得ないが・・・。

 

 さてと、銃を突っ込まれた青年は途轍もない憎しみの篭った眼で俺を睨んでいる。まるで(ワーグナー)という男の本質を知っていて、殺してやりたいと心から思っているかのようで。

 

 

「・・・随分な眼を向ける人形だな」

 

 

 ワーグナーからサンプリングした奴の声で話しかけてみる。口に異物を突っ込まれてはまともに喋れやしないが、その代わり青年の顔にはますます強い炎が浮かび上がる。

 それと、俺の後ろから影に隠れて機をチャンスを伺ってる残る二人。早いところ彼らにも出てきてもらって武装解除をしてもらおう。

 

 

「銃を捨て両手を上に上げてこちらへと来たまえ、残る二人。お前たちが隠れて機を伺っているのは分かっている。無駄なことはするな、この男を撃ち抜かれたくなくばな」

 

「・・・気付いていましたか。敵ながら大したものですね。実に腹立たしい」

 

「ごめんなさい、レストさん・・・」

 

 

 チラリ視線だけを動かすと、執事服を着た男と、9A-91型に似た姿の女が”銃を構えたまま”静かに此方に向かってきていた。

 なるほど、あくまで武器を放るつもりはないらしい。あくまで自分も仲間も人形、ここでボディを破壊されてもバックアップから復活は可能。人質にしても無駄だと暗に示したいのか。

 

 ・・・の割には、女の表情が優れないな。何かこう、申し訳なさと恐怖が()い交ぜになっている様な。

 

 

「私は銃を捨てろと言ったのだが?」

 

「・・・脅しが通用するとでも?」

 

「通用してるではないか。その女には」

 

「っ」

 

 

 瞬間、一瞬息の詰まった様な反応をしてしまう女に、このやり口は少なくとも彼らにとっては脅しとして有効である事が分かった。脅しの内容を現実にするつもりは全く無いが。

 グリフィンに人形たちが回収された事がほぼ確定した今、俺がここに居座り続ける意義は薄い。なのでどこかのタイミングで不意を突いてドロンさせて頂きたい。さっきの狙撃から鑑みるに、その仲間であろう彼らに捕まったら多分問答無用で殺されちまう。

 ・・・おっと、広い空間で声がよく響くもんだから気付いたが、上からライフル構えて隠れてる奴がいるな。

 

 もし上で狙ってるスナイパーが周囲のこの惨状を生み出したエースだとするなら、その正体は恐らく部隊を率いているという『白リボン(わーちゃん)』だろう。

 であれば今この瞬間も俺の隙を突ける一点を狙い澄ましているはず。俺を囲うように二人の兵士がいるこの状況、即ち彼女自身が仕留めずとも十分に対処できるシーンだ。これほどのキルスコアを稼いだ彼女の性格上、仕掛けるとするなら・・・・・・的の小さいFive seveNのバレルでも貫いてくれるかな?

 

 

「それにこの男・・・レストというのか? コレは先から私に随分な眼で睨み続けている。私の正体を知っているかの様だ。私がどんな人間なのか、どんな商売をしてるのか、分かっているなら脅しが現実になる可能性も十分あると判断は下せると思うがね?」

 

「くっ、卑怯な・・・」

 

 

 苦い顔を浮かべる二人の人形。対して俺は余裕綽々な笑みを浮かべながら体の向きを変え、スナイパーにバレルが見える様に位置取りを()()()()()

 

 

ーー貰ったわーー

 

 

 そんな声が聞こえたような気がした次の瞬間、広大な空間に一発の銃声が轟く。撃ち出された弾丸はFive seveNのバレルを真横からぶち抜いて見せた。弾着の衝撃で青年の顔も俺の手も無理やり押し込まれ、俺は銃を手放しながら勢いのままに手を動かし力を逃す。

 

 青年から銃が離れた。それを認識するや否や、狼狽していた様に見えた二人も一度は下ろしていた銃を再び構え直している。俺の体を貫く位置に彼らの銃口がきた瞬間、寸分の狂いなく引き金が引かれるだろう。

 アサルトライフルの火力をまともに受けるのはたとえ防弾チョッキを着ていても不味い。けれども、彼らは俺に向けて引き金を引けない。俺にはその確信があった。なぜならーー

 

 

 

 ドォンっ!

 

 

 

 突如、爆発音と共に工場に大きな衝撃が走った。

 

 

 

 ゴゥンっ!

 

 ドガァンッ!

 

 

 更に二度、建物だけでなく地面が大きく揺さぶられるほどの衝撃が轟音と共に響く。この場にいる誰もが立っていられない程の揺れ。銃を構えてどうこうなんて出来はしない。

 ・・・アインスめ、実に良いタイミングでオーダーをこなしてくれる。流石の手腕だと言っておこう。

 

 

『感謝しなさい? それと御察しの通り、穴あけも何時でもイケるわよ』

 

「OK」

 

 

 ぶち抜かれたFive seveNに代わってストレージのP90(メインウェポン)を呼び出し、バッグを持った左手を除く右手とストックの二点で構える。

 そして衝撃から立ち直りかけている二人の手に向かって、数発ずつ撃ち込む。

 

 

「なっ!?」

 

「くっ・・・」

 

 

 武器は予備があっても、それを扱う手が壊れたらどうしようも出来ないだろ? サブアームなどで抵抗されるのが一番困るので、確実に敵の手札を潰していく。

 

 さらに体を振り向かせ、銃が離れた隙に”もう一丁のMP5K”を構えた青年(レスト)の手の平にも発射。これでこの青年もまともに銃を使うことは出来ない。

 さて、あとは残るスナイパーにどう出張ってきてもらおうかというところだが・・・。

 

 その時、俺がきた扉から煙と共に新たに二人の人物が銃を構えながら勢いよく入ってきた。即座に俺もそちらへ銃を向ける。意識の一部は上から見下ろしてきているスナイパーに向けつつ。

 戸を開けた瞬間に煙が入ってきたのを見るに、まあ間違いなく俺の仕込んだ”細工済みのクレイモア”に引っかかったんだろうが、ゲホゲホ噎せながらも鋭い目で俺を見つめてくるあたり、この二人も相当強い使命感を持ってここに来ているらしい。

 

 

「っ! テメェ!!」

 

 

 両手にリボルバーを持った茶髪の男。背中に何かを背負った拳銃を持つ黒髪の男。彼らは三人の状況を認識するや物凄い形相になって銃口を向けてくる。

 ・・・おい茶髪の男、なんだその大口径の拳銃は。そんなものを片手で持って扱いきれると? 人間辞めたバケモンでもなきゃまず無理だろ。

 

 なーんて舐めてかかって良い事になった試しが無いので、とりあえず引き金を引かれる前にこちらも片方の手に向かってさっさと撃ち込む。一発、そしてもう片方の手にも一発。

 

 

「っ! チッ・・・」

 

「ぐぅっ!?」

 

 

 よし次。

 ・・・撃ち続けているP90の銃声の反響で、残りの”正確な”位置も分かった。

 さっきの衝撃の中でどさくさ紛れに射撃ポジションを変えた様だが、こう音がよく響く場所だと探し出すのは簡単なんだぜ? 狙撃手さん(わーちゃん)

 

 手を撃たれて呻き声を上げる二人組を尻目に、今度はキャットウォークに取り付けられた『SAFETY-FIRST』と書かれた看板に向けて数発撃ち込む。

 俺が場所を変えたことに気付いてると思ってなかったのか、大慌てで隠れていた看板から死角になる位置へと走るわーちゃん。彼女の走る姿に追随する様にバラバラと撃っていく。

 

 っと、後ろで茶髪のリボルバー使いが俺に飛びかかろうと機を伺ってらっしゃるな。

 

 

「・・・懐がお留守だz「ばーか。気付いてるよ」ぐぁごふっ!?」

 

 

 俺を物理的にはっ倒そうと捨て身のタックルを狙っていた茶髪の男。来ると分かってるものをわざわざ受け止めてやる理由も義理も無い。

 突っ込むルートから少しだけ体をズラし、当たるギリギリのラインで回避。躱し際に足払いをして逆に転けさせ、顔面から床にキスさせてやる。

 

 その間に上からこちらの様子を伺うわーちゃんへの牽制も続け、弾が切れた瞬間直ちに取り外したマガジンをストレージ内のマガジンと交換、リロードを終わらせる。

 

 

「奇襲を掛けるならそのおしゃべりな口をなんとかする事だ。お前たちが()()()()()Doll's Guardian(人形を守るモノ)』であり続けたいのならな」

 

「っ、どういう意味です?」

 

「終わりにしようか・・・アインス」

 

 

 直後、ここ一番の爆発と衝撃により指定した通りの穴が天井に開けられ・・・そして度重なる衝撃によりなんと限界を迎えたらしいキャットウォークの支柱が、ミシミシと音を立てて崩落し始めた。

 ・・・連中はこの工場をパクってからろくにキャットウォークの整備をしてなかったようだな。

 

 

「ちょっ、嘘でしょ!!? ・・・ちぃっ!!」

 

 

 考えるよりも早く、まだ支えが無事な方の通路へと猛ダッシュするわーちゃん。一方、突然の天井の爆発とわーちゃんのピンチに、五人は完全に意識が割かれてしまっている。

 今がチャンスだ、それではドロンさせて頂こう。俺は武器をストレージに収める代わりにクレイモアを取り出し、センサーを起動させて静かに床に置く。

 

 

《ピーーーー》

 

『!?』

 

「それでは皆さま御機嫌よう。今度はお気を付けて」

 

「ま、待て〔シューーー〕ゴホっ、ゲホっ、クソ、またかよっ!?」

 

「逃がすかゴフっ、ゴホっ、ゴホっ」

 

 

 煙が出たところにさらにクレイモアを設置し、追い打ちで煙を吐き出させていく。

 シューシューとまるで殺虫剤のように強い勢いでまっすぐ上に吐き出されていく煙。彼らの視界から隠れている間に俺はガスマスクと普段付けているアイバイザー、そして通常のグレネードを取り出し、手早くマスクを付けながらスマートグラスをジャケットの胸ポケットに収める。

 アイバイザーには脳波を読み取る機能が付いてないので、ストレージ内の道具を取り出すにはもう一度グラスを付け直す必要がある。しかしこのガスが目に入ると俺自身も涙目になって自爆する羽目になるため、完全に目の周囲を覆えるアイバイザーにわざわざ付け替えたというわけ。

 

 今の持ち物はバッグとポケットに入れたグレネードだけ。

 ほぼ丸腰? 問題ない。撃たれる前に逃げきれば良いだけだ。

 

 俺はこの場から脱出するべく、グリフィンが開けた大きな穴の開いたシャッターを出てすぐ側にある、地下の通気ダクトに通ずる換気扇へと駆ける。多分わーちゃんたちにこのエリアの守備を任せて会場制圧の応援に向かっていたのか、グリフィンの部隊が周囲に見当たらなかったのが幸いだった。

 持っていたグレネードを爆破させ、ファンごと吹っ飛ばしたダクトの中へと滑り込む。地下に空気を送り込むため、滑り台の様な構造となっているダクトをスルスルと下っていく。途中、複数方向にダクトが分岐している箇所に辿り着く。ここでクレイモアを置き土産にすることも忘れない。・・・起動者の俺が離れて10秒経ってから対人センサーが反応するようセットしてと。俺の行く方と反対側の死角に仕掛けりゃ確実に引っ掛かるな。

 

 最後の仕込みも終わったことだし、ネズミっぽくこそこそ逃げるとしますかね・・・それじゃあグッバイ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーー5分後

 ワーグナー(レイ)を追ってダクトに飛び込んだスミス。そんな彼を待ち受けるのは・・・

 

 

「チッ、分岐か? どっちに行ったとしても逃がさねえぞワーグn〔シューーー〕ゲヘっ、ゲホっ、ゴホっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・Fuuuuuuuuuuuuuuuck!!!!!!

 

 

 腹の底からの叫びがダクト中に響き渡った。






 すんません、あともう一話だけあとがき書いて終わらせます(瀑布汗)。

 ところで原作の方では異性体が始まりましたが、この話ではようやっとM4A1が加入して第三戦役に行く途中という進みの遅さ・・・。
 マジで特異点に行くまでに2〜3年掛かるんじゃなかろうかとすら思えてきて焦りもある今日この頃。

 
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