裏稼業とカカシさん(旧題:裏稼業の何でも屋が出向く先には必ずカカシが待っている件)   作:chaosraven

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 喫茶鉄血コラボ第3話。
 長々とならない様気を付けつつ書いてますが・・・やっぱり長くなりそう(滝汗)

 20/06/03 タイトルの表記の仕方がごく一部間違ってたのでこっそり修正。


-SP65:03-灯を燈す時-

 

 

 

「代理人!!! いるっ!!?」

 

 

 S-09地区にある知る人ぞ知る名店、喫茶鉄血。夕暮れ時で仕事帰りや部活終わりの客で賑わう店内。そんなお店のトレードマークの一つ、貫禄に溢れた重たい木の扉を思いっきり開け放ったのは、鉄血が抱えるハイエンドの中でも屈指の問題児たるアーキテクト。

 営業中にも関わらず店内の客を驚かせるような礼を欠いた振る舞いに、店主である代理人は額に大きな青筋を浮かべて入ってきたアーキテクトを見据え・・・荒く息を吐く彼女の尋常でない様子に目を細めた。

 

 

「・・・どうしたのです?」

 

「代理人! スケアクロウは? スケアクロウは今どこにいるか分かる!?」

 

 

 オフィスがある鉄血本社からここまで一切脇目も振らずに走ってきたのだろう。人間なら脱水症状を起こしかねない程の汗を流し、全身で大きく息を吐く彼女は、そんな自身の状態を気にも留めずに鬼気迫る表情で代理人へと迫る。

 

 

「お、落ち着いてください! 何があったのですか?」

 

「スケアクロウが危ないかもしれない!! 何か知ってるなら教えて! 一刻を争うんだ!!」

 

「な、なんですって・・・?」

 

 

 アーキテクトから齎された報せに、代理人は目を見開き唇を震わせた。

 いくらイタズラ好きなアーキテクトでも、流石に身内の命をネタにしたタチの悪いイタズラをするほど性根の曲がった人形ではない。

 そして一目散にここまで走ってやってきたと一目でわかる彼女の体調が、これが冗談でもなんでもないのだと分からせた。

 

 自分まで動揺しては周りにも伝わってしまう、そう考えた代理人は努めて冷静にアーキテクトの問いに答えた。

 

 

「・・・スケアクロウなら、予定通りに進んでいるのなら次はU-02地区で公演をしに行くはずですよ」

 

「それは本当なの!?」

 

「ああ。難病と戦う子供達を励ますチャリティーステージだってな。ほら、そこにポスターがあるだろう?」

 

 

 ゲッコーが指差した先には、スケアクロウがU-02地区で行うステージの広告ポスターが貼られている。

 開催日時は明日、であれば現地入りするなら今日には着いているはず。ということは、U-02地区に範囲を絞って検索を掛ければ・・・。

 

 アーキテクトは一人結論付け、直ぐさま店を飛び出そう・・・というところで、ゲッコーの尻尾に無理やり床へ抑え付けられた。

 

 

「ぎゃっ!? 何するんだゲッコー!」

 

「落ち着けアーキテクト。まずは頭をクリアにしろ」

 

 

 一秒でも惜しい中で自分を拘束したゲッコーを、アーキテクトは見たこともない形相で睨み付ける。それは普段笑ってばかりの彼女からは想像できない、鋭い眼光が漏れ出る怒りの顔。

 しかしゲッコーもまたそれには動じず、真剣な眼差しで己を睨むアーキテクトを見据え続けた。

 両者が対峙し始めて数秒・・・。

 

 

「ママぁ、コワいよぅ・・・」

 

「・・・大丈夫よ。怖くない、怖くない」

 

 

 店内にいた幼い少女の流す涙にハッとしたアーキテクトは、一転してバツが悪そうに顔を背ける。

 少しは冷静さを取り戻したと判断したゲッコーは、尻尾の拘束を少しだけ緩める。

 

 

「本当にまずい状況なのは十分よく分かった。だからこそ、頭をクリアにしておかないと間違いが起こりかねないだろう?」

 

 

 ゲッコーがカウンターへ目配せしたタイミングで、待ち構えていたフォートレスが一杯のコップに入った水をアーキテクトに差し出す。

 彼女も初めてみるアーキテクトの形相に動揺を隠せない様だが、喫茶鉄血の店員として、同じ鉄血のハイエンドとしてアーキテクトを労おうと歩み寄った。

 

 

「まずは水でも飲んで落ち着け。何かを仕損じるよりは遥かにマシな筈だ」

 

 

 そうだろ、代理人とゲッコーが呼べば代理人は頷き、アーキテクトの眼前へとしゃがみこんだ。

 汗に塗れたアーキテクトの額をハンカチで優しく拭きながら、柔らかい微笑みを浮かべる代理人。

 

 

「・・・ひとまずカウンターに座りなさい。ゲッコーも拘束はもう結構ですよ。

 それとお客様には大変申し訳有りませんが、本日は急遽閉店とさせて頂きます。またのご来店をお待ち申し上げております」

 

「すまないな。またいつでも来てくれ」

 

 

 告知なしの緊急閉店のため、お詫びの品にショートケーキを提供しながら客を返す。

 こうした事態に理解のある常連客ばかりだったのが幸いし、特にトラブルなども無くスムーズに閉店することが出来た。

 

 それからは店員の人形たちが団結して急ぎ片付けに入る。後に回せるものは今は手をつけず、すぐにやらなきゃいけない行程だけをパパッと済ませていく店員たち。

 彼女たちが作業を終える頃にはアーキテクトも呼吸が整い、全員が落ち着いた段階で神妙な面持ちを浮かべる。

 

 

「・・・それで、スケアクロウが危ないというのはどういう事なんだ?」

 

 

 腕を組んだゲッコーが切り出す。

 

 

「私のデスクにESシグナルが発信されたって通知が来たんだよ。それでヤバい状況にあるのかもって」

 

「・・・ESシグナル? マヌスクリプトは聞いた事あるか?」

 

「ううん、私は初耳だね。Dは?」

 

「私も聞いた事ないな・・・」

 

 

 喫茶鉄血に途中からメンバーとして加入した人形たちにはいずれも馴染みのない様で、一様に首を傾げハテナを浮かべる。

 一方、この店の初期メンバーである代理人、初号機(ファーストナンバー)のリッパーとイェーガーは揃って驚いた顔をしており、対照的な反応を返す彼女たちを見てアーキテクトは少しだけ笑いながら説明を続けていく。

 

 

「みんなが知らないのも無理ないよ。っていうのも、この技術はとっくに鉄血の中でお蔵入りした信号規格だからさ。

 大雑把に言うと、人形が出したSOSを上空の通信衛星を介して鉄血ネットワークに発信するって規格。まあ実験段階で色々ボロが出てきて、結局実用化に至らず計画は完全中止になったんだけどね。

 こんな規格の機能を搭載してるのは実験に使われたボディのみ。人型量産タイプだとこの店に勤めるリッパーとイェーガー、ハイエンドだと代理人とスケアクロウ、そして・・・スケアクロウについて回ってるお供のダイナーゲートとスカウト2機ずつの合計8機。

 でも仮にお店に緊急事態が起こったとして、わざわざESシグナルを出す以外に助けを呼ぶ方法は沢山とは言わなくともそれなりにはあるでしょ? 代理人たちがESシグナルを出す理由は無いし、そうなると消去法的にスケアクロウたちの身に何かあったかもってなるわけ」

 

「なるほどな。しかし、そんな規格があったのか・・・」

 

「・・・以前実験に参加していた時のことを思い出しますね。懐かしい名前ですが、まさか今になって再び聞く事になるとは・・・」

 

 

 信号が出される状況がそもそも不味い事態であるゆえに、代理人は顔が強張るのを隠せない。

 他の人形たちも同様、アーキテクトがあれほどまで冷静さを欠いた理由を理解し、重い空気が漂い始める。

 

 

「信号が発せられたのは今からおよそ30分程前。ただし、発信者のボディが損傷しているのか向こうの天気が悪いのか分からないけど、信号そのものが極めて微弱で高い精度で場所を割り出す事が出来なかったんだ。

 その時仕事場に戻ってきたゲーガーからこの間スケアクロウがここに来たって聞いたから、それでここまで飛んできたんだよ。今更だけど、いきなり扉開け放ってゴメンね代理人」

 

「良いんですよ。そうした理由があるなら仕方ありません」

 

「・・・ありがと」

 

 

 ホゥっと一息ついたアーキテクトは、打って変わって真剣な眼差しで集まった皆を見据える。

 すぐにやるべき大切なことがある、彼女の瞳はその想いを宿していた。

 

 

「スケアクロウの身に危険が迫ってる可能性が否定できない以上、私は万一に備えて動かなきゃと思ってる。でもそのためには私一人じゃ限界がある。

 ボディガードの彼の実力でも手が足りないか、あるいはそもそも手が出せない状況に既になってるかもしれない。

 お願い、力を貸して! 人形の私がこんなこと言うのもなんだけど、何か嫌な予感がするんだ!」

 

 

 彼女はガバリと頭を下げた。

 そんなアーキテクトの肩に手を置く存在。

 

 代理人は優しく微笑み、首を横に振った。

 

 

「身内に危険が迫っているというのに手を貸さないなんて、私たちはそんな薄情な間柄ではない筈ですよ? アーキテクト。

 言われずともあの子が危ない目に遭うというのならば、私たちがそれを阻止するために動くのは当然です」

 

「そうだよ! それにスケアクロウにはレイさんと一緒に来てほしい服もまだまだある事だしね!」

 

「私もあの二人の行く末は気になっている所だ。そこを横から邪魔なんて野暮なマネはさせないさ」

 

「代理人・・・それに、マヌちゃんにゲッコーも・・・」

 

 

 進んで力になろうという三人の言葉に、アーキテクトは感激のあまり涙が溢れてきた。

 それを無理やり腕で拭ったアーキテクトは、やる気に満ち溢れた瞳を空に向け、声高らかに言い放つ。

 

 

「みんな! スケアクロウのために力を尽くそう!」

 

『おー!』

 

 

 

 -----

 

 

 

「ふぅ・・・なんとかデータを引っ張り出せたか」

 

 

 太陽は完全に地の向こうへと沈み、静かな静寂と暗闇が辺りを支配する高台の公園。

 ポツポツと立つ少ない街灯の明かりを頼りに、1号の基盤に端末に内蔵したケーブルを無理やり繋いで通電チェックをしたのが2時間前。

 出来る限り1号の基盤に負荷が掛からない様に最低限の電圧電流で通電させ、端末へデータの移動作業を始めてからそれだけの時間が経ってしまっていた。

 

 時刻は21時。連中が指定した時間までは残り3時間。気付かぬ内に流していた額の冷や汗を拭いつつ、端末に移したデータにめぼしい手がかりがないかを調べる。

 

 

「クッソ・・・データ全部を洗ってる時間は無い。ボディの行動を記録するフォルダーのどっかに何か無いか?」

 

 

 動画ファイルは容量が大きく、情報を参照するのには時間が掛かってしまう。

 全てを見ている時間があるわけも無く、俺は10秒間隔で飛ばしながら手早くプレビューしていく。

 

 

「っ! あった! コイツらがスケアクロウに手を出した連中か・・・」

 

 

 映像にはスーツを着てサングラスを着けた、いかにもな容姿の男達が映っている。パッと見た印象ではSPか、もしくはギャングやマフィアの構成員に見えなくもないが・・・直立した体のピンと張った姿勢が明らかにチンピラやギャングのそれじゃねえ。胸の張り方や足の開き方まで、恐らくは誰かに徹底的に仕込まれたであろう整然たる直立姿勢。規律や風紀に厳しい軍隊ならともかく、そういうものとは真逆に立つギャング達がこんな整った姿勢で何分も待ってられるのか? いや、無理だろう。

 明確な証拠とはなり得なくとも、少なくともこの”待ち”の姿勢を見てコイツらがギャングの仲間と思う者はどれだけいるだろう。何人かは疑問符を浮かべるんじゃなかろうか。

 

 有益な部分のタイムカウントにマーカーを付けつつ飛ばし飛ばしで見ていくと、両脇を男達に抱えられた気怠げな顔のスケアクロウと、彼女と対峙する黒スーツの老齢の男が画角に入った。

 部下達と同じくサングラスを着けており、この男が誰なのかまではこれだけでは特定しきれない。だが、サングラスで隠れていない深いシワの刻まれた口元。コレもまた、大凡誰なのかを推測する要素にはなるだろう。

 

 ・・・男が何かを話し始めた? 少しだけ早送りで音声も再生してみる。

 

 

『君が想う大切な男が、果たして君を助けに来るか試してみようではないか』

 

『・・・』

 

『おや、無言かね? まあいい、そこまで怠さを覚えているとなれば、ジャマーが君にもきちんと効いていると言う事だ。鉄血の技術力も案外大した事ないのかもしれないね?』

 

『・・・私にそれが効いただけでそう思うなど、早計にも程がありますね? あぐっ!?』

 

 

 クツクツ笑う男の笑みに対し、冷めた顔で嘲る様に反論し始めるスケアクロウ。

 しかし直後、突然体に激痛が襲ったかのように呻きだす彼女。顔を伝う冷や汗の量が明らかに多い。

 

 

『口を慎みたまえミセス鉄血。君の生殺与奪は我々が握っている。このジャマーの出力なら、やろうと思えば今すぐ君の電脳を焼き切る事だって出来るのだよ?』

 

 

 ジャマー・・・ドールズジャマーの事か?

 こいつら、そんな物まで用意してやがるのか。

 

 しかも電脳を焼き切れるほどの高出力タイプとなれば、電子戦モデルとしてその手の対策も施されたスケアクロウで耐えられないなら、軍用民間問わず通常仕様のほぼ全ての人形ではまず耐えきれない。

 それはつまり、コイツらが現代の社会に対して本気で蹶起を目論んでいる証拠だ。人形のいない世界を再び取り戻す、人間だけが社会を動かす者として存在していれば良い。そんな考えを本気で世に力ずくで広めようとしているのだ。

 

 スケアクロウの苦痛に歪んだ顔。恐らくこの段階で通常の人形なら電脳に大きな異常をきたすレベルだろう。しかしいくら対策されていても、何度もその出力で食らい続けていては彼女が持ち堪えられるかも分からない。

 映像の中でスケアクロウの呻きが止まる事はない。男はその様子をさも面白げに見ながら話し続ける。

 

 

『たかだか”人形”風情が人を雇うなど、実に狂った話だ。人が作り出した存在が人の上に立つ? 馬鹿げた事をしているものだよ、君も、君の護衛も。

 人形に依存し始めているこの世の流れは今の内に変わらなければならない。我々が作り出した我々の社会に、君たち人形を”人と同等”の歯車として取り入れる必要がどこにある? 人形に何故感情は必要なのだ?

 我々はこの世のあり方を元に戻してみせよう。君たちの”死”を以ってね? フンっ!!」

 

『かふっ・・・』

 

「なっ、スケアクロウ!?」

 

 

 男は大きく拳を振り抜き、スケアクロウの腹部へ吸い込ませた。

 その威力にスケアクロウは強制的に叩き出された息を吐くと同時に、気を失ったようでその身から力が抜けた。

 

 

『・・・連れて行け。今宵のショータイムの最終準備を始めようじゃないか。

 さて、この愚かな人形の下についた愚かな男は、我々の元まで辿り着けるかな・・・?』

 

 

 ぐんにゃりと曲がった狂気を感じさせる笑みを浮かべた男は、公園へ降り注ぐ夕陽に顔を向け、そこにいない俺を嘲笑うような不快な高笑いをしながら去っていった。

 

 

 それから先は、俺が公園に来てから1号が機能停止するまでの間を記録し続けていたようで、特に手がかりとなりそうなシーンは残念ながら見当たらなかった。

 けどまあ・・・。指揮をしている男の大凡の顔が分かっただけでも儲け物だ。深いシワが顔に刻まれていて、なおかつ軍用の基地局を私用に使っても揉み消せる人物。となれば、あの基地局を使う軍の幹部全員を片っ端から洗えば特定は可能だろう。・・・顔自体が変装用のマスクじゃなければの話だが。

 

 残る問題は、あのメンツをどうやって制圧した上でスケアクロウを助け出すかだ。俺の行動を監視している奴らがいる以上、下手に動けばスケアクロウの命が危ない。

 軍や警察に頼んだ時点で即アウト、誰かに頼るってのも出来ないとなれば、俺は単身戦闘のプロが集まる場所へ特攻することになる。

 俺自身の命がどうなってもいい覚悟は決めてるが、命をベットしてスケアクロウを助けられなくちゃ何の意味も無い。

 

 せめて連中に分からないように秘密裏にSOSを送れる手段でもあれば、もう少しだけ負担を軽くできるんだが・・・うん?

 

 

「・・・なんだ? このコード」

 

 

 1号の稼働記録を参照してる中で『E.S.Signal Code』という文字を見つけた。文字の隣には時刻と思われる数字が並ぶ。

 この時刻に1号が何かの信号を発していた? 何かのコードを誰かに向けて・・・誰に? どこに?

 E.S.の文字が何の略なのかも気になるが・・・いや、コイツを調べるのは後回しだ。今は軍幹部のリストを洗い出して、カチコミ掛ける準備も整えないと・・・。

 

 

「・・・スケアクロウは必ず取り戻す。必ずだ。首洗って待ってろよ!!」

 

 

 スケアクロウを攫った大バカ野郎ども、お前らの企みは必ずぶっ潰してやる。

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