裏稼業とカカシさん(旧題:裏稼業の何でも屋が出向く先には必ずカカシが待っている件)   作:chaosraven

80 / 116
 お待たせしました。
 ホントこのモチベの低下なんとかしたい…
 ただでさえ死んでた所にコロナでフラストレーションが溜まりっぱなしじゃあぁぁぁぁっっっ!!!


-64-M16A1捜索 〜導入編〜

 

 

 

『先日に続き、同じ案件でまた仕事を頼みたい』

 

 

 スカウト狩りから数日明けた今日、俺は会議室に繋がれたテレビ電話でクルーガーから仕事の依頼をされていた。

 SOUND ONLYと表示された画面の向こうから届く声は、以前と比べて状況に余裕ができたのか、僅かばかり険が取れた様に感じる。

 

 

「それは?」

 

『今度の救出対象はこの『M16A1』だ。前にも画像は見せたと思うが、改めて彼女の写真をそちらに送ろう』

 

「・・・ダウンロード完了。映像に出すわ」

 

「ああ、ありがとう」

 

 

 程なくスクリーンに映し出されたのは、名前の通りM16A1アサルトライフルを装備した女性の姿。

 黄色のメッシュが入った長い黒髪を後ろで編み、それを右肩に流した格好。黒のジャケットを着崩し、黄色いシャツに黒のスカートをラフに着こなすその姿はなんというか、結果さえ出せりゃ形式なんか知ったこっちゃないと言いそうな印象を受ける。

 右目を塞ぐ眼帯と、ファンデーションである程度カバーされているがそれでも目に付く大きな傷痕から見るに、少なくとも新兵という訳では無さそうだが。

 

 ・・・ってかこの顔。この前は”ある少女(M4A1)”の衝撃が強すぎてそこまで目がいかなかったが、この人形もどっかで見たことあるような気がする。

 

 

『・・・ストレートのボブヘアになった姿を想像すれば、自ずと答えは出るんじゃないか?』

 

「・・・あぁ、道理で見覚えあるなと」

 

 

 クルーガーの言う髪型をこの写真の人形に当て嵌めることで、俺はその既視感の正体に気付くことができた。

 初めて会ったのは7年程前のこと。ある”公的機関”が実施する裏仕事のサポートを依頼された際、向こうの担当エージェントの一人がM16A1を持つ彼女だった。

 

 あの時はコードネームの『Cara(カーラ)』で呼んで欲しいと言われてそれに従ってたが、元々大雑把で姉御肌な性格に加えてとんでもない大酒飲み(ウワバミ)だったのもあり、てっきり人間なんだとばかり思っていた。まさか彼女も戦術人形だったとは・・・いやいや、I.O.P.の技術力の高さには驚かされるね。

 

 

『この人形の救出を任せたい。先に説明したAR小隊の中では最も戦闘経験が豊富な個体ではあるが、それでもまともな補給なしに潜伏し続けるには限界があるのでな』

 

「それはそうでしょうが・・・潜伏場所の目星は付いているので?」

 

『S-09地区北部に広がる山上都市の辺りだろうと言う事はな。詳しい座標等は不明だが、目標エリアはいまだ鉄血の支配下にある。交戦を前提に装備を整えるべきだろう』

 

「了解。至急向かいますか?」

 

『頼む。救出とは別の作戦ではあるが、こちらも明朝現場に部隊を派遣する手筈になっている。詳細はそちらの彼女を通して適宜情報の共有を行わせてもらう』

 

「分かりました」

 

 

 そう言って通信が途切れる。

 通話待機中の画面が表示されるスクリーンを尻目に、備え付けのプリンターから次々と紙を出力していくアインス。

 全てのプリントが終わるとそれを一束にまとめて手渡してくれた。予めPDFで送られていたのであろう、作戦区域周辺の様々なデータを纏めた即席の資料である。

 

 現在も稼働している静止衛星からもたらされた今までの気象情報、大凡のエリア内の建造物の配置といった衛星写真の拡大図、そして・・・

 

 

「山上都市というだけあって元々気候が安定しにくいのに加えて、エリアほぼ全域がコーラップス汚染のイエローエリア・・・あんまり長居したくない場所だな」

 

 

 コーラップスにより地表面のほとんどが汚染された今、ほとんどの国や統治権を持つ企業体は共通の基準で汚染度を測定し、地域ごとに色で危険度を分けている。

 人間が生活するのに支障無い程度の汚染に留まっている『グリーンエリア』、長時間の滞在はE.L.I.D発症の危険が伴う『イエローエリア』、そして生身では死ぬかE.L.I.Dになるかのいずれかを辿る高濃度汚染帯『レッドエリア』。

 今回向かうのはイエローエリアに区分される地域で、ただでさえ標高が高くて安定し難い天候が汚染の影響でさらに不安定になっている場所である。

 仮に現地で雨雲が出来ようものなら、それは汚染された地表から気化した汚染雨が俺たちの真上から降り注ぐことを意味するわけで。人形ならパーツ総取っ替えで事実上の除染をすることが出来るが、人間の俺だとそうはいかない。そんなものを浴びたら例え完全防備をしていても相応の被曝は避けられないだろう。

 

 今からてるてる坊主でも作っておくか?

 

 

「ここに留まれば留まるだけアンタの体にダメージが蓄積していくわね。パパっと終わらせて迅速に撤収する必要があるわ」

 

 

 PCに向かってタカタカしながら口を開くアインス。

 チラリ画面を見たところ、クルーガーへ送る請求書の見積もりを打ち込んでいるらしい。

 

 

「・・・周辺の汚染量から換算すると、汚染地域用の装備をした状態で20時間以上留まってると危なくなってくるってとこか」

 

「そうね。だから現場との往復は可能な限りスピーディにするわよ」

 

「ってことは?」

 

「ウチの飛ばせる乗り物の中で一番早い”アレ”を出してあげる」

 

 

 ニヤリと悪い笑みを浮かべたアインス。同時に彼女の利き手である右手が、まるで握った何かを前へ後ろへ右に左に傾ける様に動き始める。

 ・・・久しぶりに”アレ”を出すのか。一度アレを出すだけで結構馬鹿にならない燃料費が吹っ飛ぶ筈だが、予算の方は大丈夫なのか?

 

 そう問うと、ギラリ目を光らせた気迫の籠もった顔で彼女は言う。

 

 

「問題ないわ。人間にとっては立ってるだけでハイリスクな場所にウチの組合員(メンバー)を送り込むんですもの。その分の必要経費はきっちり請求するわ。文句も言わせない」

 

「お、おう・・・んじゃ、準備してくる」

 

「オッケー。・・・ンフフ、腕が鳴るわね。〜♪」

 

「・・・」

 

 

 仕舞いには鼻歌まで歌い始めたアインスを横目に、俺は今度の仕事に連れていくメンバーに声を掛けることにした。

 

 

 


 

 

 

 翌朝05時30分

 S-09地区北部・旧山上都市付近 森林地帯にてーー

 

 

『それじゃあご武運を。ヘマして死なない様にね』

 

「分かってる。そっちも堕とされんなよ」

 

『もちろんよ』

 

 

 コックピットに向けてサムズアップを返してやると、ホバリング状態だった”アレ”はローター音を響かせながら上空に飛び上がり、真っ黒な機体は瞬く間に闇夜へと消えてゆく。

 工場潜入時やオークションの時に出動した特別製の装甲車と同様、”アレ”もまた特殊な光学迷彩を搭載した特製モデルである。日が出てくればそれを使って上手いこと隠れてくれるだろう。

 

 

 さて、と。

 今回は汚染を出来る限り避けるため、俺は軍が対E.L.I.Dの防衛時に使う軍用の戦闘服を纏っている。フルフェイスカバーももちろん装着済だ。

 

 この装備はこう言う仕事のためにギルドが管理している備品の一つで、元々は軍需企業の誰かさんがこっそり裏マーケットに流出させたモノを秘密裏にギルドが買い取った代物である。ついでに言うと裏にブツを流したバカな社員の情報、公正クリーンを謳うべきオモテ企業の社員が裏に軍需品を流したと言うスキャンダルをネタにアレコレ突っ突いた結果、その企業様とはウチに都合の良いコネ作りに成功したもんで、つまるところどっかが壊れたとしても修理出来る。

 従って俺たち組合員としては、闇ギルドにしてはとても充実した安心安全フル装備でこんな現場に出向くことが出来ると言うわけ。無論、軍用の装備であっても汚染を完全に防げる訳じゃないが、2〜3時間なら高濃度の汚染帯であるレッドエリアでも行動可能な性能であるのは、それ以下の性能のモノを着けてる時とは気の持ちように天と地ほどの差がある。

 

 そこに加えて普段のP90とサブアームのFive seveNのセットを携行し、あとは手榴弾類と工具類(ツール)で比較的身軽な内容に整えておいた。何日も滞在する仕事じゃないため、前回のM4A1の時とは違いレーション類は必要最小限の携行だ。

 そして今回連れてきたメンバーは・・・だ。

 

 

「・・・改めてよろしくお願いします、レイさん」

 

 

 ドデカいボウガンの様なメーザー式機関銃を得物に戦うハイエンド『SP21 Gager』ことゲーガー。デフォルトではハイレッグな黒いレオタードに身を包んでおり、その姿は戦術人形の仕事場を分かってるのかと言いたい位に製作陣(オタク達)の趣味全開といったモノだが、彼女自身の戦闘能力はかなり高いと言って良いだろう。

 なにせあのタコ女に修復が追いつかない程のダメージを一瞬で食らわせられるんだ。しかもその攻撃がまるで居合斬りの様に妙に武人染みた立ち居振る舞いで、おまけに目にも留まらぬ速さで何度も斬りつけるあの早業には俺も目を奪われたと言うもの。

 と言ってもあん時は気絶してたもんで、スケアクロウが一機だけその場に残してたビットの映像をあとで見せてもらって分かった事だが。

 

 そんな高いスペックを秘めた彼女には、俺の火力では対応しきれない敵が出てきた時に大火力で相手をしてもらう予定で付いて来てもらった。

 使わない時には両側頭部に着けたヘッドセットに武器を格納できるので、基本的に身軽なまま移動できるというのも大きい。ちなみに俺の予備弾倉や万一の際のサバイバルツールもいくつか彼女の保存領域に詰め込ませてもらっている。

 そして計量官(ゲーガー)の名前の通り、両目のセンサー性能が人間の比じゃないのも決め手だ。目が良いと言う事は音を拾うよりもより早く周囲の変化に気付けるのだから。

 

 余談だが、今の彼女にはデフォの衣装ではなくちゃんとした女性用の戦闘服、それとサブアームでグロック18Cを着用してもらっている。

 あの格好でも問題なく動けるのは知ってるが、状況次第で匍匐したりする可能性もある中であんな露出してたら絶対手足に要らん擦り傷を作る。

 今の時代は技術の進歩により、人体のそれと遜色無い性質の肌組織を人形は持っているとのことだが、かといって自然治癒に任せてたら擦り傷と言えども1週間はかかるだろう。

 負わなくていい傷をわざわざ負う理由は全く無いので、その事を説明した上でこの格好で来てもらった。場に適した衣装という事だ。

 

 

「あぁ、よろしくゲーガー。お手並み拝見だな」

 

「足を引っ張らない様に頑張ります」

 

「そんなに気負うこたぁない。普段の様に冷静に構えてりゃ良いのさ」

 

「はい」

 

 

 真剣な瞳にクールな顔。

 緊張・・・は特にしてないようだが、戦闘モードに入ると特段表情に変化が出ないらしい。それとこの一歩引いた感じの対応といい、スケアクロウとはまた違った反応で新鮮である。

 

 

「ほんじゃ、目標のところまで行きますかね。頼りにしてるぜ」

 

「了解」

 

 

 俺たちはM16A1がいるであろう市街地跡に向け、森林の中をひっそりと歩き始める。

 

 ちなみにだが、先ほど俺たちを下ろして飛び立った”アレ”には他の随行メンバーとしてウロボロスとデストロイヤー、そんで相棒(スケアクロウ)とティナも乗っている。

 とはいえティナはある程度近づかなきゃそもそも有効打を与えられないし、二人のハイエンドも武装の性質上物を吹っ飛ばす以外の攻撃が出来ないので、今は機内にて現状待機としてある。アーキテクトを連れて来なかったのも二人と武装の性質が被るためだ。

 ・・・こうして考えると、ウチにいるハイエンドたちの武器性能の偏りが若干バランス悪い様に思えてきた。

 

 ふぅ。

 

 

 森は、一見すると文明が壊れる前と変わらないであろう姿を残している様に見える。

 しかしフルフェイスのHUDに表示される汚染度合いのカウンター値は、今歩いているこのエリアが紛れもなくイエローエリアである事を示す高い数値を表している。

 静かに生命が生きているこの森でさえ、一分一秒と長く留まっていてはそれだけ俺の寿命が確実に縮んでいく。早く市街地跡へ辿り着かなきゃな。人間(オレ)と比べれば影響が小さいだけで、ゲーガー自身もこの環境にいて悪影響が無いわけじゃないから。

 

 

 そうして暫く真っ暗闇の森を歩く事数刻。

 鉄血が支配する市街地跡に無事に潜入した俺たち。

 

 ・・・分かっちゃいた事だが、やはりヴェスピドやリッパーの数が多いな。この数の差で正面から突破するのは無理。いつもの様に見つからないように動くとしよう。

 

 

「ゲーガー、ここから先は何か言いたいことがあれば近距離無線で音声を信号にして伝えてくれ。OK?」

 

『分かりました』

 

 

 サムズアップで返し、乗り捨てられた車や建物の影に隠れながら慎重に街の中心部へと進んでゆく。

 人形の部隊が相手だと厄介な点が一つある。人間と違って一人でもやっちまった瞬間、瞬く間に機能停止したのがリンクした仲間に伝わって途端に警戒網が厳しくなるということ。従って今この場で敵に攻撃を加えるのは、自分の首を締める結果につながってしまう。

 俺たちはこのあとやってくるG&Kの部隊とは違って、ドンパチするのが主目的じゃない。

 今は静かに息を潜め、戦闘が始まったらどさくさ紛れに邪魔な個体だけ排除していけば良い。幸い、部隊がどう動くかはクルーガーからリークされた周波数を通してこれから聞き取れるしな。回線傍受のためのセキュリティコードも把握済だ。どうせ作戦が終わったらコードは書き換えられるだろうが。

 っと、噂をすれば無線にノイズが走り始めた。今日の真打ち登場かな?

 

 

『ザザッーー 第一部隊、市街地に到達』

 

『第二部隊、同じく目標エリアへの到達完了』

 

『だ、第三部隊。到着しました。これより現場指揮に入ります』

 

『了解。794司令部より各隊へ、武運を祈る。M4A1、細かい指揮は貴女に任せるわ』

 

『りょ、了解しました! 794各隊へ、作戦を開始して下さい!』

 

『第一部隊了解』

 

『第二部隊了解!』

 

 

 ほーん・・・第三部隊を指揮する人形が例のM4A1か。

 指揮モジュールを搭載した人形というからてっきり堂々とした性格なのかと思ったら、なんだか命を預けるのが不安になる様な気弱な感じだな。自分に自信が無いのか言葉が吃り気味で、パッと聞いただけでも彼女が現場指揮官で本当に大丈夫なのかと心配になる。

 ・・・あの人形によく似た『あの娘』とは似て非なる人格だ。この前感じた疑問は気のせいか?

 

 

『第三部隊のスコーピオンから各隊へ。鉄血のパトロール隊を10時方向300mに発見したよ〜』

 

『M4A1より各隊へ。敵と30m以上の距離を保ちつつ、包囲陣形で殲滅せよ。散開』

 

『『『了解』』』

 

 

 おっ、いよいよ始まるっぽいな。

 俺はゲーガーに振り返り、ハンドサインで交戦許可を出してやる。

 大きく頷いたゲーガー。その顔は緩みのない真剣そのものだ。

 

 

『第一部隊準備完了』

 

『第二部隊配置に着いた』

 

『了解。・・・撃てっ!!』

 

 

 直後、無線と周囲から銃撃音が響き始める。メーザーブラスターではない、火薬に点火して撃ち出す実弾の発砲音がそこかしこで街の建物に反響していく。

 作戦が次の段階に進んだのを把握した俺は、サプレッサー付きのP90を進路を阻む敵兵(リッパー)の後頭部に向けて照準する。

 

 

「では、こっちもそろそろ動くとしようか・・・おやすみ」

 

「っ!?」

 

 

 くぐもった発砲音が一発。5.7mm弾が頭部を貫いた。

 何が起こったのかを理解出来ぬまま前のめりに倒れ込むリッパーを脇から抱き止め、音を立てぬ様ゆっくり地面に寝かせてやる。

 

 

「行こうか。ドンパチが起こったのなら、そう遠くないうちにM16A1も動き出すはずだ」

 

『ええ。私も微力ながらお手伝いします』

 

「・・・戦力の桁で言えば、むしろ俺の方が微力だけどな』

 

 

 なんて事を苦笑まじりにこぼしつつ、市街地の中心部へ向かう。建物の影に身を潜め、時に屈み、時に伏せ、時に寝たまま転がって。念のため言っておくが、段ボールは手元にないしあっても被らないからな。

 道中こちらの間合いに入ったリッパーやヴェスピドは手早く機能停止に追い込み、時にM4A1率いる部隊に奇襲を掛けようとする鉄血小隊に先回りしてちょっかい出しつつ。

 

 

『こちらスケアクロウ。二人とも聞こえてますか?』

 

「ん?」

 

『聞こえているよ』

 

 

 捜索と並行して暫くステルス&デストロイとちょっかいを続けていたところで、”アレ”に待機しているスケアクロウから無線が入った。

 クルーガーから何か”情報共有”でも入ったか。

 

 

『貴方の考えている通りですの。現在グリフィンではそちらの作戦と並行して、特殊小隊による調査任務が行われておりますわ』

 

「特殊小隊?」

 

404小隊(Not Found)です』

 

「あぁ・・・」

 

『彼女達の調査結果次第では、もしかしたら敵相手に大立ち回りをせねばならないかもしれません』

 

「・・・マジで?」

 

『無論、貴方のタイムリミットはこちらで常にモニターしてます。いざという時は私達も加勢して一気にゴリ押しでぶっ潰しますの。そしてとっとと帰りますわよ』

 

 

 うぉーい、単語のチョイスがいつになく汚え。大方クルーガーとのやり取りでまたキレちゃったかな・・・?

 だが、今日この仕事に関しては現場滞在時間の延長は請けかねる。いよいよ時間が足りず手段を選んでられなくなった場合は彼女らにも全力で参戦してもらう。

 

 

「了解。また何かあったらよろしく」

 

『分かりましたの。気を付けて』

 

『ありがとう、姉さん』

 

 

 エリア到達から1時間半。

 残り時間は18時間と少し。

 

 日を跨ぐ様な長丁場にならねえ事を祈るばかりだが・・・。

 

 

 

 -----

 

 

 

 6時間後ーー

 

 

『こちら第一部隊。敵部隊を発見。交戦します』

 

『第二部隊は第一部隊の援護を! 第一部隊は敵との距離を取りつつ第二部隊の射程内まで誘導をお願いします!』 

 

「・・・朝から敵の数が一向に減らねえな」

 

 

 部隊が交戦を始めて7時間弱。山の陰に隠れていた太陽は今や俺たちの真上に上り、地表を燦々と照らしている。

 にもかかわらず、未だ発砲音がそこかしこで鳴り続ける市街地跡。傍受している無線からも接敵したとか援護に回るといった内容が何度も発信されており、まるで敵の勢いが収まる様子はない。無尽蔵に次から次へと沸き続けている様だ。

 

 

『・・・確かに。グリフィンが交戦を始めて7時間以上経っているのに、敵の勢いが収まらないってあり得るんでしょうか?』

 

 

 少しだけ眉尻の下がった顔で一度頷き、疑問を発するゲーガー。

 鉄血とのファーストコンタクトから現在までの敵の動きを、今までの無線の内容と照らし合わせて振り返ってみる。

 

 初めての接敵は街の入り口近辺を哨戒していたパトロール隊。部隊は三手に分散し、包囲して殲滅を図っていたな。

 それを契機に突入した部隊と防衛側との交戦が本格的に始まったが、現在まで勢い弱まらずに防衛できてる鉄血の戦力を鑑みるに、最初に接敵した時点で圧倒的戦力差を以て逆に殲滅する事も可能だったはず。

 しかし実際には鉄血は戦力を小出しにし、G&K部隊が対応可能な程度の兵力での交戦に留めている。無線で拾えた範囲に限って言えば、特に策を弄しての伏線じみた不審な行動も聞かれない。ここでジリジリと時間を掛けて彼女達を釘付けにするのが狙いの様に・・・釘付け?

 

 

「スケアクロウ、至急鉄血の通信探知と信号解析を頼む。ビットだけで行けるか?」

 

『貴方の端末をアンテナ代わりに使えるなら可能です。端末を中継アンテナにして上空からビットでスキャンしますか?』

 

「OK。出来る限り早めに済ませてくれると助かる」

 

『分かりましたの。少々時間を下さいな』

 

「頼んだ」

 

 

 直後、早速スケアクロウがビットを放ったようで、暫く演算領域の大半をこの作業に割くぞというメッセージがHUDに届いた。

 手早く済ませてくれる分には全く問題無いので、OKと返事を返しておく。

 

 さて、どういう結果が出てくることやら。

 この敵の出方を見るに、気分が下がる解析結果が出てきそうな気もする、が・・・。

 

 

「・・・ふぅ。タダでさえこんな所長居したくねえってのに、もし鉄血の目的が時間稼ぎだとしたら悠長に付き合ってられねえ」

 

『そうですね。しかし交戦が始まった今、敵の警戒が強まってる中でここを気付かれずに脱出するのは難しいのでは?』

 

「あぁ。ましてや救出対象をエスコートしながらだと尚更な。まぁそん時はキミのマシンガンの出番が来るってだけの話さ。バレた時は位置をうまく考えながら抵抗しつつ逃げりゃ良い。

 それに、いざって時のためにアインスにはバカ高い燃料費を承知の上で”アレ”を飛ばしてもらってる。こっちの油断とイレギュラーさえ無きゃ、失敗する可能性はほぼ無しだ」

 

『なるほど・・・レイさんのやり方がちょっと分かってきた気がします』

 

「ん? それは一体どういうニュアンスかな?」

 

 

 言葉に少々の呆れが篭っている様に聞こえたため、ゲーガーの真意を伺おうとしたその時、味方の無線に動きがあった。

 

 

『794各隊へ。進攻を止めて屋内の隠れられる場所に隠れて。そのまましばらく待機よ』

 

 

 この声は・・・交戦が始まった直後に聞こえた司令部からの無線だ。若い女、それもどこか取っ付きにくさを感じさせる低めの声。聞いた感じ、仕事は出来ても人付き合いをあまり積極的にするタイプじゃなさそうだな。

 そんな、おそらくM4達の直属の指揮官が言った命令。屋内の隠れられる場所に隠れて、指示があるまで待機しろ? 何のために? 空から爆撃でもする気か? それなら攻撃箇所を伝えて安全圏に退避させる方が確実。だからこの線は無い。

 じゃあ何故人形達の姿を隠す必要がある? 姿を隠す・・・人形の姿が見えなくなる・・・屋内に・・・見えなく・・・”空”から見えなくする??

 

 俺は端末を取り出し、上空を今も飛行し続けている偵察衛星の軌道を表示させる。・・・スケアクロウの仕事のお陰で無茶苦茶立ち上がりが重い。

 あぁ、やっと軌道一覧が出てきた。東欧地域上空を飛行する衛星の軌道は・・・あった。この付近を通り過ぎるまでおよそ20分・・・なるほど、指揮官も敵の出方におかしいと気付いた訳だ。

 確かに衛星を使えば一目で空から敵の位置が丸わかりだ。だが高高度からの撮影故、人が写ったとしてせいぜいが小さな点くらいなもの。そこに味方の部隊が写り込んでたら画像の解析に余計な手間がかかる。だから写り込まない場所に部隊を移動させたと。

 

 よし、そうと分かりゃ俺たちも写り込まない場所に潜り込もう。

 指揮官の彼女に俺たちの存在は知らされていないはず。点程度にしか写らないとはいえわざわざ姿を晒す必要は無いし、もし目敏く俺たちを見つけて訝しむ様な事になると事態がややこしくなる。そんな事起こらないとは思うが。

 

 

「聞いた通りだゲーガー。俺たちも適当な所に隠れよう」

 

『分かりました』

 

 

 とりあえず、今壁に背を付けてるこの建物の中に隠れるとする。

 裏口らしき扉を静かに開け、建物の中へ入る。

 

 中に入って最初に目に入ったのは、放置された調理器具や皿の入った食器棚。電気のない薄暗い内部だが、窓から差し込むわずかな光でここがキッチンなのだと分かった。

 シンクもコンロもかなりの埃を被っていて、この家に人が済まなくなってから長い年月が経っている事を示している。

 今はフルフェイスを着けているから分からないが、この様子だと中の空気もだいぶ淀んでそうだな。

 

 クリアリングをしつつ、隣の部屋へと続くドアを開けて廊下に出る。

 玄関、リビング、キッチン、それと二階への階段を繋ぐ廊下。そこで俺はふと足元に積もった埃の違和感に気付く。

 視力が優れているゲーガーも同じく気付いた様で、チラと視線を合わせて彼女はこう問うてきた。

 

 

『レイさん。足元のこの埃・・・』

 

「ああ。軽く手で払って均等に積もってる様にパパッと慣らしたって所だろうが、分かる奴にはすぐ分かる程度のモンだな。多分鉄血のノーマルモデル位なら誤魔化せるのかもしれねえが・・・」

 

『元々性能を強化されている私のアイセンサーや、実戦経験のあるレイさんには見破られましたね。つまりーー』

 

「隠れる能のある人形がどっかにいた、あるいは今も隠れてるって事だ。なぁ?」

 

 

 その時だった。

 まるで答えを示すかの様に、階段から小さな金属がカランカランと音を立てて落ちてきた。

 

 咄嗟に階段の先に銃を向ける中、ゲーガーに落ちてきた何かを拾ってもらう。

 

 

『これは・・・この形状、.45ACP弾?』

 

「・・・・・・はぁ、45口径ねぇ」

 

 

 実に分かりやすいメッセージ。

 俺たちの会話が聞こえていて、かつ俺と顔見知りの私たちが隠れてるよという意思表示のつもりか。

 だったら自分から降りてくりゃのに、それをしないってことは何か動きたくない理由でもあるのかね?

 

 

「・・・・・・一先ず二階に上がるか。念のため警戒は怠るなよ」

 

『? 心当たりがある相手ではないのですか?』

 

「さーてな。もしかしたら急に後ろから襲い掛かってくるかもよ?」

 

『・・・了解』

 

 

 実際、気まぐれ猫みたいなあの”人形”率いる部隊なら本当に突然襲い掛かってきても可笑しくない。理由を問えば笑顔で「ん〜、なんとなくヤリたくなったから?」とか言いそうだ。

 それに腐っても暗部の特殊部隊、サシの取っ組み合いはこっちも痛手を貰いそうで避けたい展開だ。

 

 とりあえず、誘いに乗って二階に上がってみる。二階にある窓からは外の光が入り、一階よりは若干気温が暖かくなっている。とはいえ室内の淀んだ空気、積もった埃は変わらず。

 しかし、ここに踏み入った何者かの足跡はうっすらと残っている。それは二階のベランダへと続いてい━━!!

 

 次の瞬間、反射的に俺は銃口を天井に・・・正確には、天井にぶら下がりながら俺の首を両足で絡め取ろうとしている”.45ACP弾の持ち主”に向けていた。

 ゲーガーは全く彼女の気配に気付けなかった様で、その辺りはさすが闇に紛れるNot Foundというべきか。チッ、フルフェイスみたいに顔を完全に外界から隔離してると反響定位(エコーロケーション)が使えないから、こういう時に敵に気付くのが遅れてしまう。

 俺を締め落とそうとした瞬間の殺気でなんとか気付けたが・・・。

 

 一方の当人・・・UMP45はぶら下がったまま獲物を捕らえ損ねた足をプラプラさせ、膨れっ面で文句をブーたれてきた。

 

 

「・・・もぉ、つまんな〜いレーイ」

 

「そう簡単に捕まってたまるかい」

 

『ま、全く気付けなかった・・・私もまだまだという事か』

 

 

 UMP45にまんまと出し抜かれたことに愕然とし、ガックリ肩を落としたゲーガー。だがそもそもの話、その道のプロを相手に本格的な実戦は実質初めてである彼女が気付けるワケが無い。

 こればかりは経験の差というもの、そんなに気を落とす事は無い。

 

 

「お望みなら帰ったら訓練付けてやるよ、ゲーガー。・・・それより、404の皆はどうした? 今は一人か?」

 

「今日このエリアに来てるのは私と416だけよ」

 

「じゃあその416は何処に?」

 

()()()()()を追っかけに行ったわよ。ここの前に立ち寄ったあるポイントで、彼女の居場所に目をつけたみたいだから」

 

「・・・・・・おい、それってまさか」

 

「そ。M16A1」

 

「・・・・・・はぁーーーー」

 

 

 その瞬間、思わず大きなため息が溢れてしまった。

 こんの気まぐれ猫。仮にも同じG&Kに所属する部隊同士だってのに、個人的な恨み憎しみで味方の兵を攻撃するのも止めねえのかよ。

 ・・・止めるワケねえな。暗部部隊だし、止めるどころかむしろニヤけながら送り出すだろう。

 

 なんて考えてたところへ間髪入れず、彼女の口からとんでもない爆弾が吐き出された。

 

 

「なーに? もしかしてM16A1を助けろとでも指示が出てるワケ? レイの仕事はこのエリアに出た()()()()()()()()()()でしょ?」

 

「・・・・・・あ?」

 

 

 




 SOP IIとAR-15は、レイたちがオークション会場でてんやわんやしてる間にこの世界線の主人公(指揮官)によって救出されてました(汗)。

 というわけで、また長くなりそうですがなんとか頑張って参ります…。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。