裏稼業とカカシさん(旧題:裏稼業の何でも屋が出向く先には必ずカカシが待っている件) 作:chaosraven
缶コーヒーを二缶連続で消費したらカフェインのせいか頭が冴え渡りまして、思いの外勢いに乗って書けました。
注:今話ではM16A1のキャラ崩壊があります。予めご了承ください。
また、『[SPEC]』氏作の『S10地区司令基地作戦記録』から主人公の副官『LWMMG』を会話中の話題という形でちょこっとだけお借りしております。
事後報告ですみません(汗)。
雨が降り始めて10分が経った。
天候が変わりやすい場所とはいえ、流石に短時間で晴れ間が見えるなんて甘い展開は起こらず、ザーザー音を立てて雲は余計な荷物を地表に落とし続けている。
この状況では空気中や建物等からくる汚染に加えて、汚染の影響を受けた雨水もダイレクトに俺の体に降り注ぐため、雨の中で立っているだけでも戦闘服込みでの限界被曝量にどんどん近付いていってしまう。
おまけに周囲を汚染物質が常に降ってる状況のため、汚染カウンターも正常に周囲の汚染度具合を測定出来なくなる。それは非常によろしくない。気付かず局所的な高濃度汚染箇所に足突っ込んだりといった、考えただけでも恐ろしい危険があるのだ。
結果、俺はここで缶詰になるほかなかった。
「・・・全然止む気配が無えな」
「もぐもぐ・・・ズズズズっ・・・そーねー」
「ああん?」
同意する言葉はいい。その前に、今のシチュエーションにとても似つかわしくない音が聞こえ、俺は思わず振り返る。
そこにはつい数秒前までの立ち姿勢からなんと、いつの間にピクニックシートを敷いて胡座かいて寛ぐUMP45の姿が。それだけに留まらず、どこから取り出したのか湯気の上る中身の入った水筒片手に、お茶請けの洒落たクッキーをモグモグ食べながらティータイムと洒落込んでやがった。
ちなみにゲーガーは(多分)10秒にも満たない彼女のトランスフォームに、信じられない物を見る様な顔で唖然としている。
うん、その反応が正しい。瞬間的な変わり身マジックもそうだし、敵の支配下にある戦場でティータイムなんて、余程圧倒的な強者かバカでない限り普通誰も考えない。
「・・・・・・お前ってヤツは」
「イイじゃない。どうせ雨が止むまで”人間”のレイはまともに動けないんだし。それにその子もまだ一人でプラプラさせられる程経験無いんでしょ? だったら待ち時間は有意義に使いましょうよ。クッキーもあるし、私の口つけたので良かったらあったかい紅茶もあるわよ?」
いや、あのな・・・。
「・・・・・・キミの言う有意義という言葉は、この場合『時も場合も』間違えて用いてる様に思うんだが」
「細かい事気にしてると女にモテないってよ?」
「細かくねえ。大体、どっからいきなりお茶セットを取り出したんだ」
「そりゃあレイが手に入れてきたハイエンドの設計図がミソよ。分かるでしょ?」
フフン、したり顔で笑うUMP45。
ハイエンドの設計図・・・なるほどね。
「I.O.P.のペルシカリア博士っつったっけか? その人が設計図のデータを解析して、ストレージ機能を備えた新しいツールを作ったと」
「そーゆーこと。お陰でいつでも気楽にお茶が楽しめるわ」
「よりによって突っ込むモノがそれなのかよ・・・」
せっかく詰め込めるんなら弾なり着替えや予備のアタッチメント、レーションとかのまともに栄養が取れる食料を詰め込むところだろうに。
まさかティーセットをぶっ込むとは、技術のオリジナルを作った鉄血のエンジニアもさぞや驚くんじゃなかろうか。
まあ確かに、殺伐とした環境の中での雰囲気から少しだけでいいから離れる時間が欲しい気持ちは分かる。人間いついかなる時も気を張り続けるってのは不可能。実際休息を入れるか入れないかで作戦効率に大きな差が出る事だってあり得るのだ。
人形にしても彼女達の”メンタル”ってのは最早”心”と遜色ないほどの複雑で繊細なモノであり、何かしら落ち着けるための道具を可能なら持ち歩きたいと思うのも当然の事と言えよう。
もっとも、戦場ど真ん中でここまで開けっ広げにお茶会を催すのはバホというものだが。
余談だが、ストレージ機能は左脚の外骨格に搭載したらしい。無難だな。
「で、飲む?」
ほら、と紅茶入りの水筒を差し出してくるUMP45。
ここが汚染度の低いまともなエリアだったら喜んで頂くところだったが。
「気持ちだけ貰っておくよ。このカバーを外したら俺の寿命が縮まる」
「あっそ。こんな環境じゃ満足に飲み食いも出来ないなんて、人間も大変ねぇ。それじゃゲーガーも早く座って、いただきまーす」
・・・このやろう。わざわざクッキーをこっちに見せてから口に放りやがった。
しかもさらっとゲーガーまで巻き込み、困惑しっぱなしの彼女の口にもクッキーを咥えさせてティータイムを一緒に楽しんでる。あ、おいしぃってポロっと漏れたの聞こえたぞゲーガー。そうか、そのクッキーは美味いのか・・・そうか、そうかい。
はぁーあ。こんな場所でも自由に飲み食いできるキミ達がうらやましいよ。だからって別に
必然的にボッチになってしまったことにため息を溢しつつ、未だ雨が止む気配の無い空を憎々しく見つめる。
これがどうにかならなきゃ、中継ステーションの破壊工作も何も出来やしない。ましてや鉄血ボスの捜索なんてなおの事。
・・・あぁ、タバコ吸いたくなってきた。
ニコチン補給用の禁煙タブレットもフルフェイス被るから持ってきてねえし、段々イライラが溜まってきたぞ。
そんな時だった。味方の無線に動きがあったのは。
『M16! M16姉さんね!』
『M16! 無事だったの!』
流れてきたのは探し物を見つけたと言わんばかりのM4A1の声。それと無邪気な子供らしさを感じる少女の声。
なんと、M16A1自ら友軍に向けてコンタクトを取ってくれたらしい。にしては俺のインカムに彼女の声が入ってこないな。
『何があった?』
続いて、部隊指揮官らしき低めの女声。
どうやらM16のやつ、俺たちが聞き取れるG&Kの一般回線とは別の回線を使ってM4達にコンタクトを取っているらしい。
恐らくAR小隊に割り当てられた専用回線でも使ってるとみた。
『行方不明だったAR小隊の方から連絡が入った様です』
『そう・・・』
指揮官の質問に対し答える人形。戦闘中の交信で聞く頻度の多かった声だ。
彼女が指揮する部隊のメンバーの一人・・・どの人形かは知らんが、恐らくAR小隊を迎え入れる前から所属していた人形だろう。
『みんなここにいます。あとは姉さんだけです!』
みんなここにいる、ね。
って事はAR小隊の面々は後はM16以外全員揃ったんだな。
早く彼女の顔を見たいのか、どこか焦りを湛えた様な声で呼びかけるM4。
よーし、そのまんま無事に再会してくれれば俺の仕事が一個減る。
『まだあるの? いつになったら戻ってくるのですか!』
・・・あ、雲行きが怪しくなってきたぞ。
まだあるの? って何が? 何かやり残した事があるとでも?
こんな場所に? 何を??
『もしもし? もしもし!? 姉さん! M16姉さん!』
・・・・・・あら。
『・・・いつもこうよ』
静かに煮え滾る怒りを吐き出すM4A1。
武器の関係性から実質妹みたいな立場であるはずのM4の呼びかけもスルー、しかもこの汚染雨が降るイエローエリアで一体何をやらなきゃならないと・・・ん、そういえば??
「・・・それより、404の皆はどうした? 今は一人か?」
「今日このエリアに来てるのは私と416だけよ」
「じゃあその416は何処に?」
「
「・・・・・・おい、それってまさか」
「そ。M16A1」
「・・・・・・はぁーーーー」
もしかしてカーラの近くに416が潜んでる?
彼女はそれに気が付いていて、自分を狙う416と一戦張り合うつもりなのか?
『まぁまぁ、少なくとも無事だと分かったし、近くにいるのかもしれないわ。今の仕事が済めばすぐ捜索に移ろう』
『・・・ありがとうございますっ、ジャンシアーヌ指揮官! 第三部隊、作戦続行!』
部隊の方は気を持ち直したのか、本来の任務に戻るようだ。
が、俺としてはちょっと避けたかった事態が起ころうとしていて、こめかみが痛くなってきた。
「・・・UMP45」
「もごもご・・・なーに?」
「416に今すぐ連絡を。M16を見つけてるんなら早まったマネするなってな」
「え、なんで?」
「俺がクルーガーから依頼されてる内容の一つが、M16を発見して救出する事だからだ。余計な怪我されると俺の信用に関わる」
「あーほういうほほ、モゴモゴ・・・それは無理ね」
「はぁ?」
スムーズに仲介してくれるかと思ったら、特に考えるでもなく無理という返事が来た事に思わず聞き返した。
彼女の表情を見るに、面倒だとか自分本意な理由では無い様だが、こっちも金もらってる以上余計なドンパチでダメージを負うリスクは抱えさせたくない。
クッキーで乾いた口内を紅茶で潤し、ゴクリ音を立て飲み込む。
口元を手で拭ったUMP45は、俺の事情は分かってるといった薄ら笑いを浮かべ徐に口を開いた。
「だってあの子が私と一緒にいないのは、今まで貢献してくれた事に対しての”休暇”をあげたからだし」
休暇ねぇ・・・。
「・・・つまり、キミとしては部下の
「そういう事。でもまぁ、社長から彼女を助け出せって依頼を受けてるみたいだし、しょうがないから二人の様子見にいってあげるわ」
やれやれ、仕方ないわねー。
なんて呟きながら立ち上がった彼女は、ケツに付いた埃を払い、ゲーガーを立たせてから広げたお茶会セットをストレージに収める。
次の瞬間には、剣呑な光を瞳に宿し得物を構える暗部部隊の長としての顔に戻っていた。
とりあえずは俺の意向も汲んでくれるようだ。
「それは助かる。雨が止まない事には俺はどうしようも出来ん」
「分かった。
「ぜひとも。416が拗ねてでも連れてきてほしい」
「フフン、りょーかい」
そう言った彼女の顔は、これから揶揄うネタが増えると言わんばかりの微笑みを浮かべていた。
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「・・・やれやれ。M4達にはああ言ったものの、やっぱ助っ人の一人位は寄越してもらうべきだったかなぁ」
未だ雨の止まぬ廃墟とかした街。
所々屋根が剥がれ雨漏りしている教会跡の二階に佇む一人の女性。
長方形の大きな黒いコンテナを背負い、橙色のメッシュが入った長い黒髪の編み込みが特徴的な彼女は、自分と同じ名前の
そんな彼女・・・M16A1は、壁が壊れ吹き抜けとなった教会から、建物の一群を目をスッと細めて睨む。
雨が降っていて視界もクリアではないため、正確にどの建物なのかは分からない。しかしM16は決して少なくない戦闘経験から確かに感じ取っていた。
自身に向けられた強い憎しみを。そして自分を憎む”
「・・・お前は、私を助けに来たワケじゃない」
だろ?
彼女の口がそう呟くとほぼ同時、M16は反射的に思いっきりテーブルを蹴り上げた。
直後、テーブルに
だがそんな事はお互いに分かりきっている。初手に放つジャブに過ぎない。
教会から約250mほど離れた廃屋の一つ。朽ちかけた壁に開いた穴からサプレッサー付きの銃口だけを覗かせる416は、撃ち切ったマガジンを交換しながら呟くようにインカムへ声を飛ばした。
『鉄血の方がまだ良かったかしら?』
ここで私たちは戦う運命にある。そう言わんばかりの敵意の篭った問い。
一方のM16はというと呆れの篭った顔を浮かべ、感情を隠すでもないまま静かに答える。
「いいや、こうなることも薄々予想はしてたよ。でもな、グリフィン所属でありながら味方であるはずの私を殺すなら、せめて理由の説明くらいは求めるぞ・・・416」
そう。この場における両者はどちらもG&Kに所属する戦力、即ち味方であり、仲間である
にもかかわらず、現実には416が身を隠し、半ば一方的にM16を仕留めようとしている。ジャンシアーヌがこの事を知れば、同じ会社に属する人形が同士撃ちをするという訳の分からない事態に頭を抱える事は想像に難くない。
対する416はマガジン交換を終えた得物を構えながら、淡々とした口調でこう言ってみせた。
『404小隊の特権よ。任務を邪魔する者はたとえ味方であっても先制攻撃を仕掛けて構わないってね』
暗部部隊ゆえの、本来なら認められるハズの無い権限。裏に生き、裏で働く彼女達だからこそ認められたもの。
使い所さえ間違えなければ、
”前職”含め、何かとキナ臭い事柄に縁のあるM16は率直にそう感じ、言葉にもした。
「それは随分と便利な特権だな。羨ましいくらいだね」
『黙れッッ!! その代償が何か、貴女は分かっているはずよ!!』
怒りに荒らげた声と共にHK416の引き金が引き絞られた次の瞬間、本能的に危険を察知したM16は咄嗟に二階の窓から一息に飛び降りた。
それは、さっきまでとは違いテーブルを貫通する威力で弾が飛んできたから。テーブルに隠れたままなら無視できないダメージを負っていただろう。
そんな事を飛び降りながら、そして上手く衝撃を殺して着地しながら考え、M16は一度目と二度目の違いの理由に見当を付けた。
しかし、着地した後も416はピンポイントにM16を狙い撃ってくる。
彼女はそれを躱しながら、軽口を叩くように口を開いた。
「強装弾・・・こんな危険な物まで使って。それほどまでに
『正直、この特権を与えられて嬉しかったことなんて一度も無かった。
憎々しげに顔を歪める416。だがその顔に、僅かばかりの喜びの感情が浮かぶ。
ようやく憎き存在を仕留められると。この手で決着を付けられると。
だがそんな彼女の小さな喜びは、直後再び怒りに塗り潰される。
「私も正直に言おう。
ぷつり、
416の中で何かが弾けるような音がした。
ギリリっ、歯軋りが溢れる。
何故今それを言うの? 今更そんなこと言って何になるの? どうしてもっと早く言ってくれなかったの・・・!?
今更・・・今更!
『・・・ふざけないでッッ!! M16!!』
怒りのボルテージが頂点に達したのを悟ったM16は、逃げるのを止めて近くにあった建物の影に身を潜める。
自身のいる辺りに向けて5.56mmの強装弾が撃ち込まれ、その威力に壁はどんどん抉られていく。
早いうちに決着を付けたいと思うM16だが、そうするには如何せん現場のコンディションが悪かった。
厚い雲が空を覆って薄暗く、その上ザーザー降りで視界不明瞭。雨の降る音も大きい。
「・・・416のヤツ、サプレッサーを付けてるのか。この大雨じゃ直ぐに位置を割り出すのはちょっと難しいな」
しかし、逆に言えば416の視野も決して明瞭ではないと言うこと。
だが視界の中に少しでも動く物体があれば、瞬時に彼女の目はそれを捉え引き金を引くだろう。
物体の正体まで見極められずとも動く物に即座に照準して撃つ、そんな程度は416にとっては朝飯前。そして一対一で戦っている今、わざわざ正体を見極める必要は無い。
即ちM16がちょっとでも姿を現した瞬間、今度こそ416の攻撃を貰う可能性がある。場合によっては蜂の巣になるかもしれない。
そこまで考えたM16は、ふと自身の羽織るジャケットに目をやった。
そして思いついた。416の居場所を探る方法を。
彼女は徐にジャケットを脱ぎ、
「よっ、と」
416のキルゾーンへと放り投げた。
直後。
タッ! タッ!
放たれた二発の弾がジャケットを撃ち抜く。
その瞬間をM16は見逃さなかった。
即座に現在の風向きやジャケットの重さから、放り投げたジャケットが本来どう落下していくのかを演算。次に一度目の着弾により変化が生じた落下軌道を再演算、更に二度目の着弾で変えられた軌道を演算し直し、ジャケットの実際の落下位置と撃たれなかった場合の予測落下位置とを照らし合わせる。
そして一度目と二度目の着弾位置を特定、着弾した際のジャケットへの力の掛かり方等から射線を割り出し、一直線上にやがて集結する一点を見つけた。
「そこか!!」
間髪入れずその一点に向かって撃ち込むM16。
その後少しばかし様子を伺うが、彼女は遠目ながらも違和感を覚えたその時ーー
ジャキンっ
M16の背後で嫌な金属音が響いた。
「貴女の負けよ、M16」
背後を取られたM16は得物の引き金から指を離し、静かにポケットに忍ばせていた”モノ”を取り出す。
大雨が降る今、小さな音ならば煩い雨音にかき消される。彼女はそれを踏まえ、かつ目標を目の前に
・・・全く、どこが『私は完璧よ』だよ。全然まだまだじゃないか、416。
苦笑いを浮かべたM16は、両手を上げて416に聞こえるようにこう言った。
「あーはいはい、参ったよ」
左手に持っていた、ピンの抜けたスタングレネードを離して。
「っ!?」
M16が瞬間的に聴覚モジュールのみを切って目を瞑った直後、スタングレネードが炸裂した。
息を飲む間はあっても、視覚と聴覚を奪う炸裂から身を守る暇はなかった416。
咄嗟にM16の立つ位置に向け撃ち込むもM16は背負っていたコンテナを瞬時に持ち替え、盾にしながら猛スピードで416へと急接近する。
そしてコンテナを真正面から叩きつけた次の瞬間、肩掛け用のベルトに持ち替えた彼女は勢いよくコンテナをぶん回し、416の体ごと
転ばされた後も即座に体勢を立て直し、右足のホルスターから取り出した拳銃で反撃に移る416。
だがM16はあろうことかその斜線上に盾代わりに右腕を繰り出し、強烈な殺気を浴びせながら拳銃を握る416の両腕を掴み、持ち上げ、勢いのまま押し倒す。
M16は嗤う。彼女は悔しさに顔を歪ませる416を煽るように見つめながら、416の腰のベルトに留められたコンバットナイフを取り出し、逆手に持って突き付けた。
「・・・言ったはずだ416。あの頃に、何回も。
お前は昔から身を隠すのが得意だった。それは良い事だ。兵士としても、エージェントとしても、お前の
だがな、その長所に頼りすぎるのがお前の悪いクセだ。だから私は言い続けた。頼り過ぎればいつか身を滅ぼすと。
━━━━━━お前は変わらないな。だから、こうなる」
M16はナイフを振り下ろした。
「ッ!」
416は思わずギュッと目を閉じた。
しかし、いくら待っていても顔に当たるのは降り続ける雨粒のみ。
恐る恐るまぶたを開けてみれば、刃は自分の鼻先数センチと言うところで寸止めされていた。
「・・・なぜ」
「なんだ」
「私の方が、
それを聞いたM16は、そんなことかといった顔で淡々と事実だけを述べていく。
「経験、反応、訓練、どれを取ってもまだまだだ。兵士として使えないわけじゃないが、エースと呼ぶには全然足りていない。
人形の性能だけでみりゃ、確かにお前の方がグレードの高い存在だ。だが、
「なん、ですって・・・?」
「数多のグリフィン基地に籍を置く戦術人形の中には、I.O.P.製品としてのグレードが低いながらもエースと呼ばれてる人形が何体かいる。例えばS-10地区にいるLWMMGの様に。何故だか分かるか?」
唐突に他地区の人形が話題に出てきた事に、416は怪訝な顔を浮かべる。
しかしそれを見下ろすM16は真顔そのもので、416がどう答えるのかを見定めようとしている様にも見える。
「・・・」
「文字通り血の滲むような鍛錬を毎日、何回も何回も積み重ねているからだ。
確かに私たちは戦術人形として、コアを埋め込まれた時から戦い方のノウハウも体に刻み込まれる。だが、知識として知っているのと経験として知っているのは全く別物だ。
武器の扱い方は知識としてインストールされている。じゃあ実際に使った事は何回ある? 戦場での戦い方は知識として知っている。じゃあ実際に戦った事は何回ある?
人形というのは便利な存在だ。全くやった事の無い行動でも、プログラムに従えばあたかも簡単にこなせてしまえる。いや、こなせる様に周りに見せられるというべきか・・・」
「・・・え?」
「例えば、人間は私たちとは違ってやった事の無い動作はそう簡単には出来ない。知識として知っていてもな。だから何度も練習するし、何度も訓練する。そうして体に叩き込んでいく。私たちのように人間にプログラムという便利なモノは無い。だからこそ、考えずとも体が無意識に出来る様になるまで何度でも徹底してやるんだ。
エースと呼ばれるLWMMGとお前の差はそこにある。タダでさえ電脳のスペックはお前とは雲泥の差であろうに、それでもグリフィン内で名を馳せるだけの実力を持つにはどうしているのか。出来ない事を出来る様になるために、幾日もずっと驕らず諦めず鍛錬を続けてきたんだ。戦場で何かが出来ずに後悔する、そんな可能性を少しでも減らすと信じて」
「っ!?」
「お前は自分の秘めた最大のスペックを発揮しきれていない。最大限性能を発揮するためにお前の中で必要な要素がどれも欠けている。
今のお前は・・・自分の
そう言って締めたM16の眼は、自身にとって心底どうでも良いものを見下す様な冷徹な感情を宿していた。
そんな目で見下ろされた挙句、かつての”仲間”にプライドをズタボロにされた416。
内から煮えたぎる様な悔しさに歯を食いしばり、凄まじい形相でM16を睨む彼女の目尻には、降り注ぐ雨粒とは違う雫が溜まり始めていた。
それを目敏く見つけたM16は、下らなさそうに鼻で笑って切り捨てる。
「・・・フン。泣いて結果が変われば誰も苦労はしない」
「そんなことっ! そんなことっ、言われなくても分かってんのよッッ!!」
「だったらどうするんだ?」
「それはっ「はいはーい、お取り込み中しっつれーい」・・・は?」
「・・・うん?」
突然割り込む様に聞こえてきた第三者の声。二人が声の聞こえた方へ振り向くと、廃屋の下に立つUMP45が手を振っていた。
その顔に浮かぶのはどこか生暖かい優しさを滲ませたような、二人にとってはとても癪に障るような笑みで・・・つまるところ今までのやりとりを大体見ていたという事を
完全に場の空気が白けてしまった事に内心煮え切らないモヤモヤを抱えつつ、いつまでも416を押し倒したままもなんだと考え、M16は静かに立ち上がる。
同時に持っていたナイフの刃先を摘み、受け取りやすい様416にグリップを向ける。視線はUMP45を向いたまま。
彼女にはナイフを返す以外の意図は無いのだろうが、416にはそれがまるで”お前なんて眼中に無い”と言われてる様に見えてしまい、俯いては拳を強く握り締めた。
そんな”部隊員”の事などお構いなしに、変わらずの笑顔でUMP45は口を開く。
「・・・聞く用意は整った?」
「はっ、用があるなら早く話せ。私もこの後やらなきゃいけない用があるんだ」
「それってAR小隊と合流する事?」
「そうだ。私の妹達と会わなきゃいけないんだ」
「ふーん・・・まぁ私としてはAR小隊と合流させてあげても良いんだけど、その前にアンタに会いたいって人がいるのよねー」
私に会いたい人だと?
UMP45の口から出た言葉に、M16は顔を顰める。
妹達と合流する前に会わせたいという事は、その人物は既にこのエリアのどこかにいるのだろう。何のために?
そんな疑問を表情から読み取ったのだろう。UMP45は目を細めカラカラと笑いながら答えを示した。
「アンタの事を
「なっ!!?///」
「そ、そう・・・レイがここに来てるの」
その瞬間、両者はそれぞれ異なった反応を見せた。
具体的にいうと416は少しだけ機嫌が戻り、ソワソワと落ち着きがなくなってきて。M16は何故か頬に紅みがかったかと思うと、急に編み込んでいた髪を解いて手櫛を通し始める。
雨に濡れた状態では髪型を整えようとしても整わないだろうに、それでも指通りを確かめるM16。かと思えば今度は鼻をスンスン言わせて自分の匂いを確かめ始める。
それを見ていた404の二人。UMP45は面白いモノが見れたと笑みが深まり、416は頬が膨らみ仏頂面に。
「・・・アンタもレイに惚れてるの? 何、昔の仕事で一緒に飲んだ帰りにヤっちゃった?」
「ッッッ〜〜!!!?? な、なななな、そんな一晩の過ちみたいにヤるワケ無いだろう!! ヤるにしてもせめてちゃんと素面でお互いに同意してからするものだろ普通は!! そ、それにこんな男勝りな女にアイツが振り向いてくれ・・・おい45、いま『も』っつったか?」
聞き捨てならない台詞が聞こえたんだが。そう言いながらギギギと壊れたロボットの様に問いかけるM16。
「えぇ。なんだったらアイツ、暴走してないスケアクロウを購入して一緒に連んでるわよ」
「・・・・・・は?」
「それ以外にも、暴走せずに済んだハイエンド達を複数連れ回して仕事してる。今日だって最後に発行されたカタログにも載ってない
言い終わるか否かのタイミングで、俯き表情の見えないM16がUMP45の両肩を勢いよく掴んだ。
よく見ると彼女の両肩はワナワナと震えている。
「・・・45」
「な、なに?」
「私をアイツの元に連れてけ」
「え、ええ、言われなくてもそうするつもりだったけど・・・」
「よし決まりださぁ行こうすぐ行こうそうしよう」
言うや否やものすごい力でUMP45の肩に腕を回したM16は、そのまま適当な方向へと勝手に歩き出してしまう。
無論、強引に連れていかれるとなれば流石にUMP45も黙ってはいない。というか組まれた肩にすごい力が掛かっててとても痛い。このままだとフレーム歪むかも。
「ちょちょちょ、待ちなさいよ!!? アンタレイが何処にいるかも知らないでしょうが! 案内してあげるから組んだ肩離しなさいって! っつうか力強くて痛いのよ!?」
「なら早く私を案内しろ。合流する前に色々と聞きたいことが増えたからな」
「あぁもう面倒くさいヤツね!? それと416も一緒に付いてきなさい!! じゃないと置いてくわよ!」
「なっ! コイツと一緒に!? ・・・くっ、やむを得ないわね」
先ほどまで大喧嘩していた”元上司”と引き続き行動を共にするなんて、416に限らず誰でもごめん被りたい状況である。
しかし、自分は仕事柄いつでもレイに会いに行けるわけでは無い。一目顔を見る機会があるのなら是非活かしたいのも本音。
どっちの意思を優先するべきか考えること1秒、どの道
そこに
次回:シュ・ラ・バ
M16とレイの間に昔何があったのかは追々語っていきましょう・・・。
ちなみに参考にしているのは公式コミック『人形之歌』2巻なのですが、台詞等一部変更しております。
具体的にM16と416がどうバトったのか絵で見たいって方は是非2巻も買ってみてください。
・・・早く3巻の発売日にならないかな(わくわく)