裏稼業とカカシさん(旧題:裏稼業の何でも屋が出向く先には必ずカカシが待っている件)   作:chaosraven

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 一週間で書けたので投稿。
 今回は本作オリジナル展開で進んでいきますのでご承知おき下さい。

 なお1万字オーバーなのでお時間のある時にどうぞ。
 (MGSネタを少し放り込んでみた)


-69-M16A1捜索 〜終結編その1〜

 

 

 

 イントゥルーダーが本気を出す少し前。

 17時47分ーー

 

 夕闇に沈み、陰が辺りのほとんどを支配しつつある頃。その陰に潜み行動する三つの人型があった。

 

 404 Not Found

 隊長のUMP45、火力要員のHK416、そして・・・M16A1。

 彼女達は新たに任されたミッションの遂行のため、グリフィンの正規部隊とは別アプローチで行動していた。

 

 時折遠くの方で銃を撃ち合う音が響いているが、流れてくる通信を聞く限りでは鉄血とグリフィンの戦況は膠着状態。

 鉄血側も巡回こそしているだろうが、これを見るにグリフィンを本気で叩き潰すつもりは今のところ無い。

 即ち、鉄血ボスを見つけ出すと言う任務の遂行には今が一番危険度の低い場面と言える。

 

 

「・・・」

 

 

 ポイントマンを務める45が停止し、後ろを振り向いて自身の右耳を指差す。

 後続の二人もそれに倣い足を止め、周囲の音を注意深く拾おうとする。

 

 よくよく聞いてみると、微かにだが上の方から走る様な足音が聞こえる。二人分。

 音の正体に気付いたらしい45はクスッと笑うと正面に向き直り、また静かに音を立てずに前へ駆け出す。

 今のはなんだったのかと怪訝な顔になる416。しかしポイントマンを先行させ過ぎても良くないため、とりあえず一旦側に置いて45の後を追う。

 

 

(屋根の上をパルクールで跳ね回るなんて、本当サルみたいな身のこなしなんだから)

 

 

 敵地のど真ん中で堂々とそんな真似をしてのける辺り、何でもアリなレイ(あの男)はやっぱり違う。

 そんなことを思いながら走っていた45は、何かに気付くと廃屋と廃屋の隙間の路地にサッと入り込む。

 416達も直ぐに続いて路地へ入り、周囲に視線を巡らせクリアリングをする。

 

 

「どうした45」

 

 

 自分たちの直ぐそばに敵がいないのを確認したM16は、小声で45に問いかける。

 すると彼女は左脚の外骨格に両手で触れたかと思うと、天秤のように広げた両手から手品よろしくM16A1とHK416それぞれのマガジンを4つずつ出現させた。

 この珍奇な現象に思わず目を丸くする二人。暫く固まっていると45から「んっ」と催促されたため、とりあえず自分の銃に合うそれを受け取る二人。

 受け取った時に重さから4つとも全弾補充されているのを確認した416は、ケースに収めると胡散臭げに45を見つめた。

 

 

「・・・ソレ、どんなトリックよ?」

 

「レイのとこのハイエンドってさ、頭に着けたヘッドセットに自分の武装をデータ化して収納できるらしいんだよね〜。

 で、この間レイから貰った設計図を元にペルシカが何個か試作品を作って完成したのがコレ。強化外骨格も兼ねた大容量ストレージってわけ。

 後は今日の任務も話聞いた感じ多分こうなるだろうなって思って、416のとついでにペルシカのコネで16LabからM16A1のマガジンいくつかクスねて来ちゃった」

 

 

 テヘペロ♪

 おどけて言う45に対し、416は呆れ気味である。

 一方でM16は心から感心した表情を浮かべ、ふむふむと45の外骨格を興味深そうに見ている。

 

 

「なるほど・・・マガジンをデータ化して持ち歩けるのは非常に便利だな。

 正直ここまでの潜伏生活で大分弾を消耗してたから、このサプライズは本当にありがたい。隊長の先見の明ってやつだな。助かったよ」

 

「マガジン以外にも色々入れられるわ。お茶会セットだって入ってるし」

 

「お、お茶会だってぇ? ぷく、ぷっくくくく・・・///」

 

 

 予想もしていない同梱物にツボに入ってしまったらしいM16は、なんとか笑い声が外に漏れない様必死に力み始めた。

 リスみたいにほっぺを膨らませ、どうにか吹き出さない様(本人にとっては)死ぬ気で堪える彼女。

 

 

「お、お茶、お茶か、ぷくく、くくふふふ・・・」

 

 

 堪える彼女。

 ここまで笑う事かと冷えた目で見る416。

 

 

「45が、お、お茶、くく、ふくく・・・」

 

 

 そんなに笑わなくても良いじゃない、と見るからに表情が拗ね始める45と、吹き出さないよう堪えr

 

 

「ブフッ!」

 

 

 堪えきれなかった。

 

 

「ん? 今の音はなんだ? 敵か!?」

 

「こっちだ! こっちの建物から聞こえたぞ!」

 

 

 瞬間、空気が凍ると同時に能面になる45と416。

 とにかく居場所を悟られてしまった以上、すぐに路地を出ないとあっという間に挟まれて終わる。

 

 さっき入って来た側とは逆から飛び出す三人。

 45、416と出てM16が出てくる時。

 たまたま吹いて来たちょっと強めの風が、路地入り口に落ちてた風化したスチール空き缶をM16の足元へと転がす。

 そしてーー

 

 

「!!?」

 

 

 神懸かったタイミングでM16の足の下へダイナミックエントリーした空き缶は直後踏みつけられ、踏み込まれた足を道連れに()()()()()()()()()()()()()()()前へ転がる。

 結果ーー

 

 

「ふぎゃあっっ!!」

 

 

 踏み込んだ足を思いっきり前へ振り上げ、白い中身を晒しながら背中から地面に叩き付けられる。

 缶の転がる音、そしてM16の声で今度こそこちらの居場所がバレたらしい。

 路地裏から鉄血兵の足音が聞こえて来たかと思った次の瞬間、背中と一緒に尻も打って悶絶しているM16の頭目掛けて鉄血のメーザーブラスターが飛んできた。

 

 咄嗟に銃を抱き込みローリングしてなんとか躱すM16。その背後から45と416が迎撃。

 その間になんとか体勢を立て直したM16は、迎撃中の45達の後方に銃を向けて警戒。路地を通って来た鉄血兵の始末が済んだのを確認し、45達がすぐさま遮蔽物のあるところへ移動を開始。M16は路地に向け銃口を向け敵がいないのを確認後、即座に二人を追う。

 

 結構な足の速さで戦場を駆け抜ける二人に痛みを堪えつつなんとか追いついたM16は、敵に見つかって激おこモードに入った416に罵声を浴びせ掛けられながら走る事となる。

 

 

「最ッッ低!!! 本っ当信じらんない!!!」

 

「悪かったよ!! ってかっ、そもそもの発端は45が変なモノ押し込んでるって言うから!」

 

「あそこまで沸点低いのはアンタだけよ!!? このクソゲラカーラ!!!」

(※ゲラ:ちょっとした事で直ぐに笑ってしまう人のこと。決して悪いニュアンスの言葉ではないので注意)

 

「なぁッッ!!?」

 

「喋ってる暇があるなら敵をぶっ殺しなさいよこのポンコツコンビ!!!」

 

「「私はポンコツじゃない!! ポンコツなのはコイツだ!!」」

 

「うっさい!! いいから手を動かせ!!」

 

 

 普段滅多に感情を出して怒らない45の雷が落ちる。

 とそこへ、正面からリッパー三体が此方に向かって走ってくるのが見えた。

 

 

「416!」

 

「分かってる!」

 

 

 45の指示に素早く照準を合わせた416は、リッパー達の頭部に吸い込ませる様に一発ずつの弾丸を撃ち込んだ。

 正面を塞ぐリッパーは撃破。だが息吐く間もなく今度は3時方向からヴェスピド四体が接近して来ていた。

 

 しかし45が指示する前にM16は既に照準を合わせ、壁に身を隠しながらヴェスピド達に弾丸を浴びせる。こちらも416の様に、全てを頭に吸い込ませた高精度の射撃で以て。

 

 

「クリア」

 

「行くわよ!」

 

「「了解!」」

 

 

 先頭に45、右後方にM16、左後方に416の三角形フォーメーションで進む三人。

 既に暗くなった上に再び出てきた雲が月明かりを遮っているため、周りの景色はどんどん見通しが効かなくなってきている。だが占拠した時間が長い分、鉄血側に地の利がある。

 敵に見つかって追いかけられてる今、どうにかしてまずは敵の殲滅のため増援が送り込まれる状況をなんとかしなければならなかった。

 

 具体的には、ある程度の時間ずっと身を潜め、一通りの巡回が終わり敵が元の配置に戻るまで待ち続ける等の方法があるだろう。

 しかしそれも隠れられる場所があれば良いが、ざっと周囲を見渡した限り忍び込むのに良さそうな廃屋が見当たらない。

 窓は吹き抜け、壁は所々壊れていて、玄関や勝手口の扉は吹き飛んでいる。これではちょっと中を覗き込んだり入ってこられると見つかる可能性が大きくなる。

 どうするか・・・45が思案していた次の瞬間、ツェナープロトコルで情報が送り込まれた。

 

 

「「「!」」」

 

 

 斜め右上、後方、正面。

 それぞれの位置に布陣していた鉄血を見つけたM16からの人形間通信。敵の位置を割り出し、誰が誰を撃つのがベストか、瞬時に割り出した彼女が二人に連携し、一斉に引き金を引く。

 

 

「ウァッ・・・」

 

「ガフッ・・・」

 

「イギッ・・・」

 

 

 急所を撃ち抜かれ、断末魔を上げながら倒れ伏す鉄血兵たち。

 そう、ここは戦場。深く考え込んでる余裕はない。

 一旦思考を切り替えた45は、横目に付いた裏路地にゴミを溜めておくための大きな箱があるのに気付く。高地という地形上、ゴミ回収車が頻繁に来れないが故のモノだろう。

 何日も溜めておける様作られたソレは・・・三人の体格なら物凄くキツそうではあるがギリギリ収まり切れる、はず。

 

 考えてる時間は無い。敵の目が途切れた今がチャンス。

 多分大丈夫だろうと見当を付けた45は、二人の手を掴んで裏路地へ引っ張り込む。

 

 

「こっち来て!」

 

「お、おい」

 

「何よ45・・・ゲっ!?」

 

 

 45の向かう先にある箱に気付いた416は、これから己の身に降りかかるかもしれない出来事を想像してとてつもない悪寒が体を駆け巡った。

 しかし現状、彼女達が一番敵に見つかりにくいのはこのボックスの中だろう。それは単純に中に隠れられる以外にも理由がある。

 

 ・・・何故なら、人形である彼女達ですら涙が出るほどの強烈な匂いを離れていながら既に感じているからだ。

 鉄血も捜索に特化したようなモデルでもない限り、基本他の人形と似た様な嗅覚センサーを使っているため、鉄血人形にとってもネズミ(招かれざる客)が紛れ込んだでもない限りは触りたくもないし開けたくもないし近付きたくない。

 I.O.P.の人形が乙女なのと同じ様に、鉄血の人形だって乙女なのである。

 

 つまり、生理的に受け付けない場所に隠れてしまえば、敵の目からは逃れやすい。

 その後の服に付いた匂いをどうするかといった、乙女のプライドに直接影響する大問題が起こるのは確定事項なのだが。

 

 死ぬよりはマシだ。

 そう割り切った45は自身の嗅覚センサーを切った上で、おぞましいモノを見る目つきの416をお姫様抱っこで持ち上げると、問答無用でボックスの中に放り込む。

 

 

「!!?!?!?!!?!!?!?」

 

 

 声にならない壮絶な叫びを、赤くなったり青くなったりと忙しない顔で表現する416。

 続いて、45の(乙女にとって)悪魔の如き所業に唖然としたM16を抱き上げると、こちらも問答無用でダストシュート。

 

 

「うぶっ!」

 

「!!?!?!?!!?!!?!?」

 

 

 その上から自分も飛び込んで蓋を閉める。

 M16と45、二人分の重さを仰向けで一手に支える事となった416が、人形間通信で喧しく文句を付ける。

 

 

『こんのっ、ふざっけんじゃないわよ!! クソ重い体を二人前も載っけやがって!!』

 

『私に言われても困るぞ416・・・』

 

『現状ベストな隠れ場所ったらここしか無かったしー? 暫く我慢してね? 416』

 

『・・・ここから出たら必ずぶっ殺してやる』

 

 

 当然だが、ゴミ箱の中にはゴミが入っている。

 ただし、長い時間をかけてゴミ袋の中身は腐敗や腐食、分解が進み、箱に入れられた時よりも遥かにその面積を小さくしていたのが三人にとって幸いだった。

 その代わり腐ってゆくor腐り終えた後の匂いが中に充満する事となり、また生ゴミなどの有機物が入ってたりすると、下手すると微生物の増殖により硫化水素が発生する事もある。

 現に45が測定した箱の中の空気は、硫化水素濃度が人体にとっての危険域に達している。自分たちが生身の人間だったら、気管支や肺に炎症を起こしていたかもしれない。

 

 戦術人形であるからこそ、場所を選ばず敵の目を逃れて潜伏することが可能とも言えた。

 

 

『・・・うぅ、さっきまで降ってた雨水が袋の上に残ってて、背中がビシャビシャだわ』

 

『あら? それはごめんあそばせ。そこまで考えてる余裕無かったわ』

 

『その・・・すまん、416』

 

『ゴミのニオイに加えて汚染された雨水まで吸い取るなんて、最悪・・・』

 

 

 いきなりゴミ箱に放り込まれた挙句、仇敵と放り込んだ張本人まで上にのし掛かってくる始末。おまけに箱の中に溜まった雨水で濡れる背中と、416にとって踏んだり蹴ったりも良い所だ。

 自身の散々な有様に彼女の内でどこかが吹っ切れたらしく、先の剣幕が嘘の様に落ち着き払っていた。いや、やけくそ気味にどうにでもなれと思ったから、と言う方が正しいかもしれない。

 

 箱の外に聞こえない程度に小さくため息を溢すと、ふと別れ際にレイの言った言葉が頭に過った。

 

 

 

 ーー形はどうであれ10年の時間を経て再会したんだ。

 改めて向き合って話してみりゃ、前とは違った捉え方も出来るかもしれないぜ?ーー

 

 

 

 前とは違った捉え方・・・。

 10年前のあの日、M16に裏切られた416は己の全てが憤怒に染まっていた。彼女の取った行動は自分を罠に嵌め、厄介払いをした様に思えたから。表情もそれを肯定するばかりの無表情で、故にどこまででも追いかけて殺すという誓いすら立てた程に。

 その想いそのものは今でも変わっていないはずだった。現に先ほど、より殺傷性の高い強装弾を使ってまで彼女を追い詰めたのだ。立場上実際に殺すまではいかずとも、泣いて詫びても許さない程痛めつける位してやりたかったのは、自分が当時思っていた嘘偽りの無い感情だ。

 

 けれど、今の416はレイの言葉を受けて己の積み重ねて来た憎悪に疑問を抱きつつある。

 

 確かに10年前、カーラは私を裏切って嵌めた。

 あの時は私が優秀な成績を出しても、事あるごとに油断するなだとかまだ甘いとか言われ続けてて、使えない部下だから嵌めて飛ばそうとしやがったんだなんて考えてたけど・・・。

 レイは私が受けた仕打ちを、私からも()()()()()()聞いたって言ってた。

 

 つまりレイは、私があの時知りようのなかった別の事実を知っている・・・。

 

 

 

「私も正直に言おう。 ()()()()()にいた頃はお前のこと、結構気に入っていたよ」

 

 

 

 交戦中に言われた一言。

 私の冷静さを欠かせる為に口にしたと言えばそれまでだけど、もしそれがカーラの紛れもない本音だったら?

 

 いいえ、そもそもカーラは何故私をあんな手を使って保安局をクビに追い込んだの?

 そうよ。こうなる切っ掛けになった任務は、元々予定されていた任務の直前に急遽割り込まれる形で与えられてた。

 私を嵌めるのなら、無理やり押し込まれた任務で無くても予定されてた任務の中で嵌めれば良い。予定の任務の中で組んでいたプランがあったはずなのに、失敗のリスクを高めてまでプランを前倒して実行する意味は何? 腐っても私の先輩として仕事をしてきたカーラが、まさかそれを理解してない訳がない。

 

 割り込まれたあの任務でなきゃ、私を嵌められなかった?

 だとしても、そうまでして急いで私を嵌める理由はなんだったの?

 

 ・・・・・・。

 

 

 答えは、当事者に聞かなければ分からない。

 416は意を決してM16に問いかけた。

 

 

『・・・ねぇカーラ。私の質問に、一切の嘘偽りや誤魔化し無く答えて』

 

『・・・分かったよ。私も、良い加減向き合わないとなって思ってた所だ。”前とは違った捉え方”、か・・・レイには世話になりっぱなしだよ』

 

 

 どうやら、上に乗っかるM16も同じことを考えていたようだ。

 だったら話は早い。

 

 

『単刀直入に言うわ。あの日、私を嵌めた本当の理由を話して』

 

『・・・』

 

 

 自身の目先にある黒髪から、M16の深い深呼吸が聞こえる。

 本来ゴミ箱の中の空気など吸い込みたくない筈だが、10年越しに向き合おうとしている問題に対し彼女は深く緊張している。

 深呼吸して頭を落ち着かせたい、そんな無意識の行動がM16の真摯な態度を示す様だった。

 

 

『・・・親父が政治家だっていうボンクラ息子、覚えてるか?』

 

『・・・えぇ』

 

 

 久しぶりに脳裏に浮かぶ男の姿。

 明日のことも考えられない程飢える者が多い現代で、好きな物を好きなだけ食って醜く肥えた男。

 仕事なんかまるでする気の無い、保安局勤めのステータスと給料だけを働きもしない癖に一丁前に求める愚かな人物だった。

 それでもなんとか仕事をしてもらおうと、我ながらかなり執念深くコミュニケーションを図った覚えがある。

 

 当時の様子を思い浮かべた416は、その男がなんの関係があるのかと眉を顰める。

 だが、次いでM16の口から出てきた事実に、彼女の頭は真っ白になった。

 

 

『あの男は、お前を自分の権力で手篭めにしようとしてたんだ』

 

『・・・・・・え?』

 

『何度も仕事に取り組ませようと一生懸命交流を図ろうとしてたお前を、アイツはただただ鬱陶しいとしか思っていなかった。それどころかアイツは、お前の優れた容姿だけを見て自分だけのモノにしようと根回しまでしてやがったんだ。

 ・・・私がアイツの動きに気付けたのは、アイツがお前を罠に掛ける一歩手前の段階。このまま放っておいたら、お前は好きでもない男に一生飼い殺しにされる・・・そんな未来を許して良いのか?

 私には出来なかった。どうにかしてお前をアイツから遠ざけなきゃと本気で思った。だから無我夢中で何か出来ないか探した。考えた。どうすればアイツの権力の網からお前を逃せるかを』

 

 

 416は振動を感じた。

 それは自分の体の上面から来る震え。そう、M16の体は震えていたのだ。

 僅かに効く視界を動かせば、彼女の両手はとても強く握りしめられているのも見える。

 

 そして・・・頬に生暖かい滴が落ちた。

 

 

「・・・出来なかったんだっ! どんな手を使っても、どんな人を頼ってもっ、アイツの家の強大な権力が阻む! 合法的な手段のどれもこれもが使えないっ、どうにも出来なかったんだよ!!」

 

 

 我慢出来なかった。

 M16は通信ごしではない己の口から、10年間ずっと抱え続けていた後悔を吐き出す。

 

 

「それを悟ったとき、もう手段は選んでられなかった・・・お前があの豚に一生抱かれ続ける様なクソな未来を生きさせるのなら、非合法な立場であっても、泥水を啜る様な地獄であっても、どうにか”HK416”として生きていて欲しかったんだ・・・」

 

「カー、ラ・・・」

 

「だから私は、アイツの権力が及ばない派閥のコネを使って無理やり任務を押し込み、その後極秘に依頼した45の協力でデータベースの情報を改竄、存在しないお前の罪をでっち上げた」

 

 

 416は思い出した。

 M16に止めを刺されそうになったタイミングで割って入った45。

 そういえば二人のやり取りには妙な"慣れ"があったことを。

 

 

「もうこんな方法しか、アイツからお前を遠ざける方法は無かった。どんだけ憎み恨まれても構わない、死んだら地獄に落ちることも受け入れよう。けど、大切な後輩(お前)を死んだ方がマシと思う様な地獄には、絶対送りたくなかったんだ・・・」

 

 

 それっきり、涙を堪えようと歯を食いしばるM16。けれども本人の意思に対して、人工涙液の分泌は止まる気配を見せない。

 416がこんなにも感情露わにする彼女を見たのは初めてのこと。厳しい先輩の一面、裏切って平気な顔をしていたあの時の姿しか知らない416にとって、彼女の吐き出したありのままの想いは青天の霹靂と言っても良かった。

 

 

「・・・カーラ」

 

「っ!」

 

「貴方は、カーラは今、私のことをどう思ってるの・・・? 貴方にとって、私は何なの?」

 

 

 知らないうちに自分の体も震えている。

 言葉に出して初めて416は実感した。裏切られた怒りと憎しみももちろんあったが、それ以上に自分がM16に一番聞きたかった(たしかめたかった)こと。

 

 貴方にとって私は何?

 

 声に出して聞いてしまった以上、もう後戻りは出来ない。

 知りたい、知りたくない。

 聞きたい、聞きたくない。

 

 相反する感情が己の心の中で渦を巻くのを416は確かに感じた。

 

 すぅ、頭上で息を吸う音がした。

 答えが発される。聞くのが怖くて、たまらずぎゅっと両目を閉じてしまう416。

 

 その時だった。自分の触覚が体の上で、寝返りを打つ様な衣擦れの感触を捉えた。

 違和感にゆっくり目蓋を開けば、今まで後頭部を見せてたはずのM16の顔が真正面にある。その顔は鼻や耳が赤く染まり、瞳も涙で潤みきっていたが。

 彼女はグシャグシャな顔で勝気な笑みを浮かべる。保安局に入ったばかりの頃に見せてくれていた、頼れる姉の様な笑顔を。

 

 

「・・・ハハ、決まってるだろ? お前は私にとって、大事な大事な後輩だよ。10年前にお前にした仕打ち、許せなんて言わないし言えない。でも謝らせてほしい。

 ・・・後輩一人もロクに守ってやれないダメな先輩でごめんな、416」

 

「!!」

 

 

 その瞬間、今まで抱えていたM16への憎悪の全てが融解した。

 同時に堰を切ったように溢れ出る涙。416も、限界だった。

 

 

「カーラ・・・カーラぁっ!!」

 

「ごめんな・・・お前を守ってやれなくて・・・」

 

「・・・」

 

 

 10年という長い年月を経て、因縁の二人の仲はやっと氷解した。

 途切れていた絆が再び結び直されていくのを、傍観者として静かに見守っていた45は感じる。

 その口元には仮面ではない本心からの微笑みが。全く世話が焼けるわね、なんて言いたげな顔である。

 

 ただ、本音を言うのであれば・・・

 

 

(ただでさえくっさいゴミ箱に潜伏中、それも肉布団状態で10年越しに仲直りっていうのも、中々起こり得ない珍エピソードよねぇ・・・)

 

 

 ぶっちゃけムードもクソも無い事を考えていた。

 その時ーー

 

 

「・・・いたか?」

 

「いや、まだ発見出来てない」

 

『! 二人とも静かに!』

 

「「むぅっ!?」」

 

 

 むぅっ??

 ただ黙るには不審な音が聞こえ、反射的に訝しめた顔を浮かべた45だが、とりあえずは外の動きに注意を向ける。

 足音が段々近付いてくる、鉄血兵達もこの箱の存在に気付いた様だ。

 

 

「・・・おい、まさかこの中に隠れてる、のか?」

 

「・・・・・・その可能性は、ある、よな?」

 

「・・・お前、開けろよ」

 

「ハァ!? なんで私が! お前が開けろよ! 最初に気付いたのはお前だろう!」

 

(仲間割れ??)

 

 

 と思ったところ、そういえば自分は今嗅覚を切っているのを思い出す。

 自分の下敷き二人の感動的エピソードのシュールさについ忘れていたのだが、よくよく考えるとこの箱は壮絶に臭かった。

 

 ふーむ、このまま去ってくれないかしら。

 

 だがその望みは虚しく散り、二人分の足音がついに箱の前で止まった。

 ・・・ストレージと接続し、開いた瞬間即手元に銃を召喚できる様に用意する。

 

 

『良い? M16。空いた瞬間貴方は脚側にいる奴を、私は頭側に立つ奴をやるわ。覚悟はいい?』

 

『任せろ。今度こそは失敗しない』

 

 

 既に銃を持ち、即照準できる状態を整えたM16から返答が来る。

 そしていよいよ、真っ暗な箱に開いた小さな隙間から、外のほんの僅かな光が差し込みはじめ・・・

 

 

「おえっ」

 

「ぐぅ!? なんだ、この匂いはぁっ!!」

 

 

 バタンと閉まった。

 そして足早に立ち去っていく二人。

 

 

「「「・・・・・・」」」

 

 

 予期せぬ展開に無言になる三人。

 この時、三人は揃って同じ危機感を共有していた。

 

 なにせ箱をほんのちょっと開けた瞬間に逃げ出すレベルの匂いである。今は嗅覚を切っているからこそ平気でいられるが、箱から出て移動するとなれば流石に切ったままでは危険察知が遅れる可能性がある。

 回避できる危険を敢えて背負い込む真似は本末転倒。なのでオフにしているモノをもう一度オンにしなきゃならないのだが、今彼女達はそれをする事に対し非常に大きな葛藤を抱える羽目になっていた。

 

 つまるところ、壮絶に臭い自分の体に”乙女の自分”が耐えられるのかどうか。

 

 戦場という環境柄、匂いやら何やらを一々気にしてられないのは確かなのだが、いくらなんでも強烈なゴミの匂いを衣服や髪に纏ったままでいたいと思う乙女は多分いない。

 

 

「・・・とりあえず、敵も去ったみたいだし。出ましょうか?」

 

「・・・この匂いじゃどのみち、もうどこかに隠れてやり過ごすってのは無理だろうけどな」

 

「出るんなら早く出てちょうだい。いい加減二人分を支えるのもキツくなってきたわ」

 

「おっけー」

 

 

 箱から出る三人。服に着いた汚れを軽く払い、銃を構えて周囲を見渡す。

 ・・・敵影なし、クリア。

 

 

「それじゃあ改めてイントゥルーダーの捜索にって行きたいところだけど、その前にまず砂浴びしましょっか」

 

「「??」」

 

 

 言うや否や地面に寝そべり、髪や服が汚れるのも厭わずひたすらゴロゴロと転がり続ける45。

 無論頭がおかしくなった訳では決してなく、匂いの原因となっている物質を砂の地面でゴロゴロすることによって擦り落とそうという訳だ。

 めちゃくちゃ土埃が付くことになるものの、強烈な悪臭を纏ったままなのとどちらがマシか、乙女にとってはいちいち口にするまでもない。

 

 45に倣い、二人も手早く寝っ転がると同じ様に匂い落としに励む。

 

 そんな中、嗅覚を立ち上げつつ一足先に砂浴びを終えた45は、土を払いながら先ほど気になった疑問を二人に投げかけた。

 

 

「そう言えば、さっき無理やり口を塞いだみたいな声が聞こえたけど、何やったの? 「むぅっ!?」なんて、まるで上から押さえつけたみたいだ、った・・・・・・は??」

 

 

 問いかけておきながら自分で話してる内に何が起こったのかを察したらしい。

 そしてそれが自分のコンプレックスをモロに刺激する禁句(タブー)だったのもあり、一気に機嫌が急降下する。

 

 

「ま、まぁ、うん、あれだ。咄嗟に静かにさせようと思って、体勢的にちょうど良かったのもあったし、抱きしめるのも兼ねて頭に胸を押しつけたっていうか・・・」

 

「私はいきなり胸に挟まれて、つい反射的にカーラの口を手で押さえつけただけよ。シャツが通気性良い素材だったから、谷間に空気の通り道もあって思ったほど息苦しくはなかったけど・・・」

 

「た、谷間に出来てる空気の通り、道・・・くっ!!!!」

 

 

 愕然とした顔を浮かべたかと思うと、筆舌にし難い絶望を抱えた表情で両手を握りしめ、歯を噛み締める45。

 

 鉄血からのオープンチャンネル(イントゥルーダーの嫌がらせメッセージ)が三人に入ってきたのは、その直後の事だった。

 18時30分過ぎ、既に山上都市は暗闇に包まれている・・・。

 

 

 


 

 

 

『ーーここからは手心を加えず本気で望ませて頂きます』

 

 

 そんな言葉と同時に、端末に表示させていた図面・・・スケアクロウにモニタリングさせている通信ヒートマップの様相が一気に変わった。

 それなりに急ぎ足で爆弾仕掛けたってのに、どうやら敵にとっては痛くも痒くもない程度の損害にしかならないらしい。

 

 

「・・・・・・」

 

「あ、あのぉ・・・」

 

 

 なるほど。流石指揮型を自称する事はあるようで、まんまと俺たちは無駄な事を必死こいてやらされた訳だ。

 こんなに高密度に通信が取られてるって事は、今までは巡回程度の単純作業をさせていた分隊も含めて全部コントロールしてると見える。

 電脳のスペックがどれだけなのかは知らんが、ハイエンドモデルを名乗れる確かな性能を持っているのはこれでハッキリした。

 

 

「・・・・・・バカ、じゃあないらしい」

 

「え?」

 

「イントゥルーダーとやらさ。例の暴走事件の後に鉄血が新たに作ったと聞いてたからな。どんなレベルなのかと思ってたが・・・俺は相手を舐めすぎてたようだ」

 

「・・・それは。ですがデータがほとんど無い相手でしたし」

 

「だからこそ甘く見るなって、常々周りにも言ってることを俺自身が出来てないんじゃお笑い種だ」

 

「レイさん・・・」

 

 

 なんとか慰めようとしてくれてるゲーガーには悪いが、俺の見立てが甘かったのは事実。

 これじゃあどこが破壊すべき中継点なのかも分かりゃしないし、かといって動かなかったら依頼の遂行は不可能。

 それに拾ってる通信によると、鉄血がG&Kに向けて一斉攻撃を始めたらしい。ほっ放ってたらM4A1を含め、G&K側の部隊が壊滅する可能性も出てきた。

 

 ・・・この流れを鑑みるに、一応予備戦力をスタンバイさせておいて正解だったようだ。

 俺とゲーガーの二人だけでは、いくらなんでもこの規模の相手に強行突破するのは無理。

 

 手段を選んでる場合ではないと判断すべきだろう。

 

 

「奥の手を繰り出す。アインス、聞こえるか?」

 

『出番ってわけね?』

 

 

 嬉々とした声が帰ってくる。

 朝っぱらに俺たちを送り届けた”アレ”の力をいよいよ使う時が来た事に、喜びを隠せないといった風だ。

 

 

「そうだ。現場空域まで接近、片っ端から掃除してやろう。

 IDWSを出せ。スケアクロウ、ティナ、デストロイヤー、ウロボロス・・・出番だ」

 

 

 イントゥルーダー。

 圧倒的な大火力の蹂躙に、頭脳だけでどこまで逃げられるかな?




 因縁のある二人、和解。
 タイトルに和解編と書いちゃうと色々とマズいかと思いましたので、こんな感じに・・・。

 ちなみに次回終わるはずとか、”アレ”の正体も明らかになるとか言いましたね?
 ・・・アレ書いたら2万字超えそうだったのでここに収めるのは諦めました()。

 次回こそ(確定)終わります。

 次話の推奨BGM↓
 『B'z / 世界はあなたの色になる』
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