裏稼業とカカシさん(旧題:裏稼業の何でも屋が出向く先には必ずカカシが待っている件)   作:chaosraven

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 21/06/24 事前の宣告通り、今月10日投稿のお話と統合しました。


 お待たせしました。

 何書いてもしっくりこなくて描き直したり消したり繰り返してました()

 どーでも良い話ですが、チマキと交換したコイン90枚と元々持ってたデイリー報酬コイン10枚で十一連ガチャ回したらP90が出ました。無課金で引き当ててやったぞ。
 なお今回のスキンテーマ、デイリー報酬コインを多分200枚位回してるんだけどスキンが擦りもしなくて正直焦った()。


-74-閑話:WA2000(白リボン)の1日 〜朝ランそして新事実発覚編〜

 

 

 

 G&K F-05地区

 第206基地ーー

 

 AM05:00

 

 暗い部屋の中でムクリ、体を起こした人影。

 まだ日の出もしていない早朝にも拘らず、その人物は音を立てずに二段ベッドの下から出ると、前日のうちに必要なモノを纏めておいた袋を持って部屋を後にする。

 残されたのは彼女の寝床の上の主、そしてその隣にもう一つ置かれた二段ベッド両段の主たち。三人とも目覚める気配は無かった。

 

 

 AM05:16

 基地内の戦術人形用更衣室に、先ほどの人物の姿はあった。

 彼女は人形個人に与えられたロッカーを開け、黙々と寝間着どころか着ていた下着まで脱ぐと、袋の中からそれ用の下着(アンダーウェア)を含むスポーツウェア一式を取り出し身に纏う。スポーツブラを兼ねた濃紺のピッチリとしたタンクトップ、その上に重ねる同じトーンの通気性に優れた薄手のジャケット。下は真っ黒なショートパンツとスポーツレギンスに、正装の一部であるベルト付きの愛用のシューズ。最後に大切な()()()()()でワンサイドテールを結んで着替えは完了。

 

 続いて弾の入ってないマガジンを装填した得物を取り出す。もちろん、セーフティや薬室内に弾が残ってないこともしっかり確認して。

 ASSTを結んだ半身とも言える己の相棒を手に取った彼女は、早朝には暑苦しく感じてしまう程の情熱を凛々しい目から滾らせる。

 シューズが脱げない様ベルトをしっかりと固定し、20kgに及ぶ重りを入れたバックパックを背負うと、彼女は更衣室の外へ。

 緊急用の無線機と実弾装填済みの拳銃(サブアーム)は腰と足に巻いたホルスターに収め、弾の入ってないメインウェポン以外は実戦に出向く装備そのものを整えた彼女・・・WA2000は、キリリとした鋭さのある顔で基地の外周へと向かう。その間も()()一切の音は立たない。

 

 WA2000(白リボン)、彼女の1日は早朝のトレーニングから始まる。

 

 

 

 F-05地区第206基地は、点在するグリフィンの拠点の中では大きくも小さくもない規模である。

 基地が最前線から少し離れた森林地帯にあるため、想定される任務に大規模な敵部隊との交戦が含まれていないことが理由だ。なので指揮管制用の設備は最前線と比べてミドルクラス級に留まり、基地自体が保有する戦力も”数だけで言えば”大したことはない。

 この基地が行う主な任務としては、前線に補給を行う兵站部隊の護衛、基地周辺地域の半径数十キロ範囲の威力パトロールなど。その過程で忍び込んできた鉄血や敵対PMC等の不審人物を発見した場合、逮捕もしくは警告に従わない際は射殺の上、管轄エリア内に侵入したルートを捜索することも任務となる。

 

 文章で見れば地味。正直言って最前線の基地からすれば羨ましさを覚える様に思えるだろう。

 だが、基地を中心に半径数十キロもの範囲をパトロールするというのは、真正面から迫りくる敵から守り抜く防衛戦とはまた別の辛さや苦労がある。

 物資輸送用に整備された街道以外、つまりそこから外れた場所は周囲全てが木々に囲まれた環境である。当然街道だけでなく森の中に入ってのパトロールも行わなければならないので、いつ敵と鉢合わせるか分からないという非常に強いストレスが任務中常にメンタルにのし掛かってくる。人形によってはむしろ此方の方が大変だと思う者もいるだろう。

 ちなみにそうした事情ゆえ、製造から訓練を経て初めて基地に配属されるという人形(ルーキー)はこの基地には配属されない。

 

 

 なら、誰がこの基地に与えられた任務をこなすのか?

 

 ルーキーに務まらないならベテランがやるだけである。

 

 

 白リボンの異名を持つWA2000(わーちゃん)も、第206基地所属のベテランに数えられる一人。

 そんな彼女は現在20kg越えのバックパックを背負い、重さ約7kgの得物を控え持ちながら、なお駆け足と呼べるペースで基地の外周を走っていた。

 大規模でないとはいえ、基地の外周は一周約5km。大荷物を持ち、しかも腕も動かせない中で走るにはかなりの体力を必要とする距離にも関わらず、彼女はなんと既にこれを3周近くも走っている。

 

 やがてスタート・ゴール地点である基地の正面ゲートに辿り着いたWA2000。全身から大量の汗が流れ、呼吸も相当に荒い。しかし彼女は休むことなく身に付けていた重装備を一旦地に下ろし、その場で体を痛めないためのストレッチを始める。

 そんな彼女に声を掛ける新たな人物が、彼女の背後から駆け寄ってきた。

 

 

「はぁ、はぁ・・・おはよう、ございます、わーちゃん」

 

「ハァ、ゼェ、こら、その名で、呼ぶなって、いっつも言ってん、でしょうが・・・」

 

 

 ゼェハァ息を吐きながら目線を後ろに向けると、自分と似た様なスポーツウェア姿で、同じ様に荒い呼吸をしている同僚が。

 式典で騎士が着る様ないつもの服とは打って変わり、体の線がはっきり出る格好をした彼女。今日はWA2000より少し遅れてスタートしたらしく、3周完走はたった今終えたところの様子。

 相対する彼女は少しずつ呼吸を落ち着けつつ、それまで抱え持っていた『M1903 Springfield』を含む装備一式を地に下ろした後でやんわり微笑む。それを見たWA2000、視線が自身と相手を行ったり来たりした後、歯噛みした。

 

 

 ・・・くっ、ほんとスタイル良すぎでしょ。タダでさえ()()()包容力まで兼ね備えてて強敵なのに、いつもと全然違う体型がモロに出る格好で更にギャップを攻めてくるなんて・・・。

 もしレイがスプリングのこの格好見たら、なんか間違いが起こっちゃうかもじゃない! ※起こりません。

 

 余談だが、WA2000がスプリングと呼んだ女性はあくまで、重荷を背負いながら長距離走をするのに適した格好をチョイスしただけであり、彼女自身に男を誘惑しようという意図は全く無い事を予め記しておく。

 

 

「えぇ? でもこの前あの方にそう呼ばれた時、嬉しそうにしてたと思って」

 

「う、嬉しくなんかなってないわよ!」

 

「顔、にやけてますよ?」

 

「!?」

 

「冗談です♪」

 

 

 クスリ。悪戯が成功した子供みたいに笑う彼女・・・スプリングフィールド。

 揶揄われたのに気付き、運動後のそれとは違った理由で顔を赤くするWA2000。

 

 

「揶揄ったわね!?」

 

「はい♪」

 

「むーー!!」

 

 

 プンスコ怒り出すWA2000。だがストレッチを疎かにすると、この後体のコンディションを整えるのが難しくなってしまうため、ひとまず後でどう仕返しするか頭の片隅で考えながらストレッチを続行する。

 一方のスプリングフィールドは、長年共に戦場を生き抜いてきた彼女の考えてる事が大体分かっているらしく、苦笑いを浮かべながらこちらもストレッチを続ける。

 

 そうしてしばらく腱を伸ばしたり、バックパックの重りに混ぜて入れておいたプロテインを飲んだりして・・・

 

 

「あの、わーちゃん??」

 

「だからその名で呼ぶなって・・・・・・あによ」

 

「なんで、その、プロテインなんか・・・?」

 

 

 WA2000の手に握られているのは、プロテインを配合したドリンクの大容量ボトル。

 本来は人間が体を鍛える為に摂取する物だが、それを見た目は美少女な彼女がゴキュゴキュ音を立てながら煽る様に飲む姿を見せられ、内心スプリングフィールドは引いていた。

 ぶっちゃけ下手な男よりも男らしさを感じてしまったから。

 

 聞かれたWA2000はというと、持ってるボトルとスプリングフィールドを交互に見やり、次いでなんだそんなことかといった風に答えを返す。

 

 

「体力作りに決まってるじゃない。そんなムキムキになる気は無いけど、私らの仕事は何よりも体が資本だもの。

 それにウソみたいな話だけど、人形が飲んでもちゃんと効果あるのよ? ちなみに効果を実証したのはウチのSPAS-12(ペコちゃん)S.A.T.8(もじゃ子)ね」

 

 

 スプリングの脳裏に浮かぶのは、基地に二人だけ所属しているSG人形の顔。イタリア生まれの銃を扱う後輩達。

 

 はて、いつの間にプロテインの摂取などという実験をしたのやら。・・・いえ、転属初日にあそこまでボコボコにされたら、体力を付ける為に色々考えて実行するのもあり得ますかね。

 スプリングフィールドは首を傾げつつ、二人の事に思考を及ばせる。

 

 

 SPAS-12とS.A.T.8。彼女達は元々他基地からこの206基地に転属してきた人形である。

 元来主に受け持つ任務の性質上、この基地は自前で装甲板を持つSG人形はあまり必要性が大きくないのだが、基地を管轄する指揮官が兵站線の護衛役に欲しいと掛け合った結果、この二人がそれぞれ別の基地から異動する事となった。

 この基地に来たということは当然実戦経験があるということで、そこで彼女達に教導役として指揮官が就かせたのがWA2000であった。

 そして彼女は着任した初っ端から自分対二人でペイント弾を使った模擬戦をやると、実戦さながらの覇気(オーラ)を纏いながらそう言ったのである。

 

 当初は『手荒い歓迎ですね・・・』などと思いながらとりあえず受け入れた二人だったが、試合が始まった瞬間白リボン(エース)蹂躙劇(新人いじめ)が幕を開ける。

 音を立てず、気配も殺し、自らが存在するというあらゆる手がかりを残さず動き回るWA2000。これがレイの様に音の反響を拾うなどの手段を取れれば違った結果になったのかもしれないが、そうした訓練を受けていない二人は終始翻弄されっ放しになってしまう。

 フィールドの四方八方から撃ち込まれるペイント弾。装甲板を射線に向けて開く余裕もなく眉間で弾けるピンクのペンキ。それが顔、肩、腕、銃を持ち支える手、脚、爪先、首、背中、装甲と体を接続するユニットまで、30分ほどの試合で二人ともここまでの被弾判定を貰ってしまったのである。

 

 試合が終わった後の二人の落ち込みようは半端ではなく、初日にボコられた後にスプリング経営のカフェに来た二人は悔し涙をボロボロ溢す有様。

 その翌日からカフェで飲み物を頼んだ際にふたりが何か粉を入れているのを時々目にする事があったが・・・とそこでスプリングは得心がいく。

 

 つまり、自らを叩きのめしてくれた先輩を追い抜きたい一心で出来る事を積み重ねよう、という事らしい。そこで毎日のプロテイン摂取とは、どこぞのアスリートかと言いたくなるが。

 余談だが、彼女達がそこまで必死になるにはもう一つ理由がある。それはボコったその日にWA2000が与えた”あだ名”である。

 

 SPAS-12は普段からよく食べることからペコちゃん、S.A.T.8は直そうとすればするだけ更にもじゃもじゃになる癖っ毛なので、もじゃ子と呼んでいる。

 この呼び名は当人達の姿や性質から来ているわけだが、SPAS-12からすると腹ペコから来るあだ名は()()()()()()()()()()乙女心的に抵抗があるらしい。

 S.A.T.8のもじゃ子の方はボコボコにされたとはいえ、なんだかんだ言っても憧れの先輩であるWA2000には名前で呼んでほしいという後輩心から、同じくそう呼ばれることは本意でない様子。

 

 本気で嫌がってるというほどでは無いにせよ、後輩達がいつまでも本意でない呼び方をされるのも可哀想と思うスプリングは、WA2000にまともに口を出せる数少ない先輩としてさりげなくフォローに入る。

 

 

「・・・・・・二人とも確か、その呼び方は嫌がってた様な気がするんですが」

 

 

 が、当人は鼻息荒く突っぱねた。

 

 

「フンっ。アタシに名前で呼んでほしいんなら、スプリングみたいに私を撃破判定させられる位の実力は持ってもらわないと。

 今のあの子達じゃあ、ライフルどころかハンドガン一本でハンデマッチしても私に勝てないじゃない」

 

 

 確かに、メインウェポンを封印した相手にも勝てないとなれば、普通は問題である。

 ただし、彼女達の場合は相手がグリフィン中に異名を轟かせているエースであるのが、この件の難易度を根本的に引き上げてしまっているのだが。

 

 流石にこれではあだ名撤回の道が遠いと思い、眉を曲げて困り顔を作って見せる。

 

 

「・・・・・・本気出した貴方に勝てって、かなり無茶な要求ですよ?」

 

「でもスプリングは勝ったじゃない? スプリングに出来て他の人形に出来ない道理は無いわよ。

 ましてやあの子達は自前の装甲板まで持ってるんだし、ペイント弾ならいくらでも防御のしようはあるでしょ」

 

「うーん・・・・・・??」

 

 

 そう言われてしまうとスプリングにもフォローのしようが無くなってしまう。

 件の後輩達は今のところ全戦全敗。おまけにハンデありの模擬戦でこの結果を変えられていないのだから、WA2000の言い分も確かに間違ってはいない、と言える。

 後輩達は弾をペイント弾に換装の上全武装使用OK。対するWA2000は得物(ライフル)を封印し、サブアームのワルサーP99とコンバットナイフのみというハンデマッチ。

 もっともWA2000は、グリフィンで扱われてるライフル人形の基本戦闘マニュアルとは全く異なる動きを見せる為、それに翻弄されまくっている間に撃破されてしまうというのが実情なのだ。

 

 市街地フィールドであれば、隠れてた天井裏から下ろした両足で片方の首を落としつつもう一人の頭をペンキ塗れにしたり。

 基地周囲の森を使った試合であれば、音も気配もなく知らぬ間にすぐ後ろをヒョコヒョコ付いていって、振り返った瞬間頭をペンキ塗れにしたり。そうして撃破した一人を盾にし、かと思えばいきなりもう一人に向けて投げ飛ばして巻き込んだ隙に頭をペンキ塗れにしたり。

 平地での試合であれば、迷彩マントを被りながらひたすら匍匐を続け、射程に入ったところでそれぞれを狩ったり。

 

 まあつまり、師匠(レイ)譲りの無茶苦茶な動きをするエーススナイパーという訳である。

 実のところ、過去にスプリングがサシで彼女とやり合った時は今の様な破茶滅茶っぷりにかなりギリギリの戦いを強いられ、よく彼女に黒星を付けられた物だと内心ちょっぴり誇りに思ってたりもする。

 なので、彼女と比べれば戦闘経験の少ない後輩達が、ハンデマッチとはいえ彼女に勝てる日はまだまだ遠そうだと分かる。

 

 はてさて、先輩としてお節介を焼くべきか否か、どうしたものでしょう。そう考えていると、バツが悪そうに口を尖らせるWA2000が。

 

 

「・・・まぁ、私があの子達にあんま良い印象持たれてないってのは分かってるわよ。でもだからといって、訓練の度に手加減してたらあの子達のためにならない」

 

 

 神妙な顔つきで、物憂げに呟く様に言ったWA2000。

 醸し出す空気がベテラン兵のそれに移り変わったのを察し、スプリングも表情を引き締めて、静かに先を促す。

 

 

「・・・昔実戦にも出た事ない新兵だった頃、私は天狗になってた時があったわ。他のWA2000がすごい活躍してるのを社内報とかで見てさ、同じ型の人形なんだから私も出来るはずだって、何の根拠もない空虚(からっぽ)な自信で満ち溢れてた」

 

「それは・・・」

 

「バッカよね。調子に乗りまくってる兵士なんて、戦場じゃいの一番に死ぬってのに。下手したら仲間も巻き込んで全滅のキッカケにすらなるかもしれない。でも私たちの型は元から戦術人形化(tacticalization)するにはコストが掛かるし、そう簡単にはバラせない。

 見兼ねた社長が私を叩き直そうと戦場で戦ってる”私”を派遣してくれたけど、結局全然折り合いが付かなくて。そんな時よ、困った社長が寄越した男が私の前に現れたの。死なない程度の手段なら何をしても構わん、俺をペンキ塗れにしてみろって、クッソムカつく笑顔を浮かべてね」

 

 

 あの時のアイツの顔は今でもハッキリ思い出せるわ、なんてケラケラ笑い出すWA2000に、つられてスプリングも微笑みを返す。

 

 

「ねぇ、どうなったと思う?」

 

 

 ()()()()()()()笑顔とやらを思い出してるのか、チラリと光る犬歯を見せつつ、スプリングに問う。

 鼻の伸びた新兵と、社長自らが教導役として寄越した男性との模擬戦。先ほど本人の言った通り、普通に考えれば結果は見なくても分かると言う物だが、わざわざ質問してくると言うことは何かあったのだろうか。

 スプリングは首を傾げた。

 

 

「笑いなさい? ボッコボコにされたわ。たった数十分の模擬戦一回で私は全身ペンキ塗れ。ペンキ被ってないのは顔と髪の一部くらい。対してこっちはアイツに弾を掠らせることすら出来なかった。・・・完敗どころの話じゃないわ」

 

「まぁ」

 

 

 思わず口を吐いた驚きの声。その姿は、今のWA2000からは想像も出来ない負け姿と言える。

 今の彼女をそんな目に合わせられる者は果たしてどれだけいるだろうか? なんて考えてしまうくらいには、今の彼女とは掛け離れたやられっぷりであろう。

 

 だがしかし、かつて自身やWA2000を凌辱の地獄から救い出してくれた時のあの男の身のこなしを思えば、新兵だったとはいえそれ程圧倒的な結果に終わるのも十分納得出来た。

 

 

「あの時の敗北、そして私が実戦に出るまでの訓練期間で、私はアイツに口酸っぱく言われ続けた事がある」

 

「繰り返し伝え続けた事、ですか?」

 

「ええ。『お前達の仕事場は戦場だ。なんでもありで、生きるか死ぬかの二つに一つの場所。生き残る為にどんな手段を使ってでも良い、最終的に生きてそこに立ってれば自分の勝ち』ってね。

 どうしろって言うのよ。最初はそう思ってた。でもアイツはそんなの関係ないと言わんばかりにスパルタで毎日私をボコボコにしてくる。武器のハンデがあったって何てことないの。体術やスニーキングスキルをフル活用されて、毎度違った動きで容赦無く撃破判定を取られるのよ。実戦だったら呆気なく殺されて、バックアップからやり直し」

 

「・・・」

 

「じゃあ生き残る為にどうすれば良い? 敵はどうやって私を狩ろうとする? 私は敵からどう身を守れば良い? ボコられる度にその日の夜何度も何度も懸命に考えたわ。特にRF人形(私たち)は懐に入り込まれたらほぼ終わりだもの。だから必死に考えて、翌日試して、ボコられての繰り返し」

 

 

 その時の事を思い返しているであろうWA2000の顔は、あの時は本当に辛かったと言わんばかりに重く沈んでいた。

 なにせ最初にプライドを叩き折られてからというもの、何をやっても相手に対処されて勝ち星を上げられない。やられる度に心は擦り減っていくだろうし、終わりの見えない訓練とはモチベーションを保つのも大変だろう。

 

 けれども・・・彼女は諦めなかった。だから今、ここに立っているのだ。

 WA2000は打って変わって可愛らしい見た目相応の笑顔で笑った。だがその目には確かな彼女の意志が光っていた。

 

 

「無茶苦茶な動きなのは分かってるけど、殺し合いにマニュアルなんて無い。そんなもの仮にあったとして実戦じゃなんの役にも立たないわ。

 本能で敵意を察知して反撃できるくらいにはなってもらわなきゃ困るのよ。何よりもあの子達がこの先もずっと生き残る為に・・・ね」

 

 

 たとえ心から後輩達に嫌われたとしても、一戦でも一日でも長く生き残れる兵士になってもらう。

 それが教導役の仕事だから。

 

 

「・・・なら、私も出来る事でお手伝いしますよ。わーちゃん」

 

 

 ありがとうと言いかけた次の瞬間、WA2000はスプリングをキッと睨みつけた。

 

 

「だからその名で呼ぶなっつってんでしょうが!」

 

「では、今日の業務が終わったら私のカフェにいらしてください。そこで色々とお話ししましょう? そう・・・あの方の事とか、私ももっと知りたいです」

 

 

 微笑、そして仄かに醸し出す妖しげな空気。

 

 

「スルー!? ・・・・・・待った、あの方の事もっと知りたいって、それってもしかしなくてもレイ(アイツ)のこと?」

 

「はい♪ 私もお近付きになりたいと思って。だって・・・・・・私たちを絶望の闇から救い出してくれたお方ですもの///」ポッ

 

「なぁっ・・・!!?」

 

 

 WA2000(わーちゃん)、あまりの衝撃に口をあんぐりと開け持っていたボトルを取り落とす。

 悲報 WA2000、最強の恋のライバル現る。

 

 

 

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 AM06:24

 

 早朝の大荷物を持ってのランニング・・・兵士と同様の重装備のまま走るという訓練を済ませたWA2000(わーちゃん)は、基地のシャワールームで汗を洗い流していた。

 

 一度に10人まで利用できるシャワールーム。隣り合うブースを区切る仕切りとブースの開き戸は、乳白色の半透明な強化樹脂製で、大きさは約1mほど。

 身長170cmを基準にした場合、鎖骨のすぐ下辺りから脹脛の上三分の一ほどまでを隠す位置に設置されており、周囲からの視線を気にする事なく身を清める事が出来る。

 

 そんな中、スポンジで体を洗いながらWA2000は右隣の仕切りに目を向けた。向こうには新たな恋敵(ライバル)となったスプリングフィールドがおり、彼女の姿をぼんやりした輪郭で映し出している。

 

 

(・・・くぅぅっ)

 

 

 WA2000よりも高い身長。出るとこはボンと出て締まるとこはキュッと締まる。たわわに実った胸はきれいなお椀型でツンと上を向き、腰からのヒップラインは大きな山なりの線を描く。

 誰が見ても男受けの凄そうな”けしからん体型”であるのは言うまでもなく、仕切りに映るスプリングの輪郭にWA2000は悔しさでおもわず歯噛みしてしまう。

 

 

(・・・わーちゃん、かなりスタイル良いですよね。・・・あの方はどっちの方が好みなんでしょう?)

 

 

 一方のスプリングフィールドも、左隣の仕切りに映るWA2000の輪郭を見て似た様な事を考えていた。

 スプリングフィールドはボンキュッボンな体型をしていると言ったが、それは隣で体を洗うWA2000にも当てはまる。

 彼女だって深い谷が出来る位の大きさはあるし、腰もヒップも同性が見ても一瞬目を奪われる事があるのは他ならぬ自分がそうなのだから。

 

 

(・・・私たちにはよく分からない感覚ですけど、男の人は大きなモノを見ると揉みたくなるらしいですね・・・ふむ)

 

 

 顎に手を当て、しばし考え込んでいたスプリング。

 やがて頭の中で纏まったのか、風呂道具一式を纏めてブースから出るとそのまま出口・・・には向かわず、左隣のブースの前に来たかと思うと道具を床に置き、思い切りよく仕切り戸を開け放つ。

 

 

「!? な、なにっ?」

 

 

 いきなり背後で仕切り戸が開いたため、咄嗟に振り返ってファイティングポーズを構えるWA2000。対するは、いつもなら湯上がりには体に巻いてるはずのバスタオルすら纏わず、お湯の滴る髪を前に垂らしたまま俯くスプリングの姿。

 開けたのがスプリングと分かると構えを解き、ジト目で見据えた。

 

 

「いきなりなんなのよもう・・・て、え、なに? ちょっと、なんでこっち入ってきて・・・待っ、なにするのよっ、ど、どこに手伸ばそうとして!? ふひゃっ!!?///」

 

 

 むにむに、ぽよぽよ、もちもち。

 

 

(これは・・・・・・柔らかいです。なんと申しましょうか、わーちゃんのコレ・・・イイものをお持ちですね)

 

 

 同性の自分から見ても魅力的に見えるWA2000のたわわなモノ。スプリングは何を血迷ったのか、まさかの突撃かましてそのまま上から揉みしだくという行為に至ってしまった。

 一応言っておくと、(レイ)が好きそうな胸ってどんなだろうという疑問と興味が生まれたため、この際だし試してみましょうという突発的発想から生まれた突発的行動である。

 仮にバトルになってもすぐに汗を洗い流せるというのもある。やられる側は大胆なセクハラに巻き込まれて堪ったモノではないが。

 

 そうして感触を確かめる事1分少々。

 この事態に顔を真っ赤にしながら硬直していたWA2000は理性を取り戻し、その釣り目をさらに鋭くさせ反撃に移る。

 

 

「・・・・・・いつまで揉んでんのよーーーー!!!」

 

「ひぁんっ!?///」

 

 

 お返しに、目の前でゆらゆら揺れるスプリングの双丘を思いっきり鷲掴みにする。

 けれども指は掴むというよりどんどん埋まっていく。しっとりとした瑞々しい肌に包まれ、力を込めた指先が柔らかな()()に飲み込まれていくのだ。

 

 

「なっ・・・なにこれ、スプリングってこんな反則級のモノ持ってるの!?」

 

「んぅっ/// わ、わーちゃん、あんまり強く掴まれると痛いです・・・」

 

「あ、ごめんなさい・・・・・・って、なんで私が謝ってんのよ!?」

 

「はうっ!?」

 

 

 結局、夜間哨戒明けの同僚が入ってくるまで二人で乳繰り合った。

 

 

 

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 AM07:37

 

 ところ変わって、基地に併設されたスプリングフィールド経営のカフェにて。普段の正装に着替えたWA2000はカウンター席に陣取り、行儀悪く脚を組みながら注文したメニューを待っていた。

 いつもなら早朝のトレーニングを終え、手早くシャワーを済ませたスプリングが店を開けるのだが、本日は諸事情により平常0700オープンのところ0730に開店する事となった。

 色々と乳繰り合って体力精神共に余計に消耗したこと、その瞬間を見てしまった哨戒明けの同僚の誤解を解くのに時間が掛かったこと等が主な理由である。

 

 カフェが開かないと、夜通し仕事をしていた人形達が朝食に困るため、急ピッチで開店用意を整えて30分遅刻でカフェが開かれたのであった。

 余談だが、WA2000は毎朝トレーニングしてる関係でカフェの朝一営業の常連である。

 

 

「・・・はい、ご注文のマフィンが焼けましたよ。それといつものホットミルクです」

 

「フンっ、どーもっ」

 

「あらあら・・・嫌われちゃいましたね」

 

 

 エプロン姿でいつもの柔らかい微笑みを湛えて注文の品を運んできたスプリングに対し、WA2000は誰が見ても分かるくらいツンツン拗ねていた。

 それでも運んできてくれた事への礼は言う辺り、本気で頭に来ている訳ではない様だが。

 

 あれから冷静になって考えると、興味が出てきたからと言ってやって良いこととやって不味いことはあるわけで。

 いきなり仕切り戸を開け放ったかと思えばズンズン入り込んで胸を揉む・・・たとえ共に戦い抜いてきた親しき中だとしても普通はしない。

 つまるところ相手が拗ねても文句を言えない事をした自覚があるスプリングは、苦笑いを浮かべて静かにWA2000の前から他の客の元へと向かう。

 

 そんな店主の姿を、むっすりとした顔で目を細めながら追うWA2000。そして彼女は思う。

 

 

(ホンッと、一見隙だらけに見えて全く隙が無いのよね・・・)

 

 

 ほんわか、朗らか、優しいお姉さん、彼女の総評はこんなところか。

 本人も柔和な性格で、誰に向けても笑顔で応対する様な人物である。なのでその評価は間違っていないのだが、分かる者には分かるのが彼女の隙の無さだ。

 

 例えるなら状況を常に俯瞰して見ているというべきか、カフェのどこでどんな客がどうしているのかを把握して接客しているのである。

 例えばだ。メニューを見て悩んでいる客の中にも、注文はほぼ決まっていてそろそろオーダーをしようかと考えてる人がいれば、まだ考えてる最中でオーダーを呼ぶつもりのない人もいて、或いは決まってても内向的な性格故に中々オーダーを呼べない人もいる。

 スプリングは客の仕草や表情、手の動きから客の考えてる事を読み解き、その客にとってのベストな接客をこなす事が出来る。これは周りの動きを常に認識してないと出来ない事で、これを処理するにはかなりのタスクが常に電脳の処理領域を占めるため、どの人形でもそう簡単に出来る事ではない。

 

 さらにWA2000が思い出すのは、以前基地にグリフィンの上役が視察と称して訪ねてきた時のことだ。

 その日はカフェを貸切にし、お茶を交えつつ現場と経営陣との意見交換をすることになっており、WA2000は護衛役としてカフェ内部で警護をしていたのだが・・・。

 

 

(あのハゲオヤジ、結局スプリングのお尻一回も触れずに帰ったっけ)

 

 

 上役の男性は、ことあるごとにさり気なく手を伸ばしてタッチしようとするのだが、スプリングもまたさり気なくギリギリのラインで回避するのだ。

 無論、この基地の指揮官も上役が手を伸ばそうとする度に「何かありましたか?」と声掛け(牽制)したりしていたのだが、その必要が無い位とても華麗に邪な手を躱していくスプリングの姿は痛快で、会談の後半は指揮官含めその場にいた同僚全員が笑いを堪えていた程。

 

 結局最後までタッチ出来なかった上役は、心なしか不機嫌になりながらヘリで本部に帰っていった。

 その後、スプリングに見事な避けっぷりねとWA2000が声を掛ければ。

 

 

「はて? なんの事でしょう?」

 

 

 と、目の笑ってない冷たい笑顔で返ってきた時にはちょっと戦慄したWA2000である。

 ハラスメントはダメ、絶対。優しい人もキレる時はキレる。それを改めて実感した日でもあった。

 

 

 つまるところ、スプリングは周囲を観察するスキルが非常に高い。そしてそれは戦闘においても彼女を支える強力な武器となる。

 常に自身の周囲に気を配っているからこそ、誰かが突然武器を持って襲い掛かってきても冷静に対処出来る。おそらく今、WA2000が奇襲を掛けても対応してくるだろう。持ってるトレイやその上に載ってる食器類、或いはテーブルの上の調味料の入ったビンや、椅子やテーブル自体をひっくり返して投げてくるか。

 ここには武器になるものがパッと見ただけでこんなにある。仮に今襲い掛かったとして、それらを使ってスプリングは即座に此方の制圧に動いてくるだろう。

 状況が変わったと認識するや否や、直ちに彼女の中でスイッチが切り替わるのだ。戦闘モードに入った時のスプリングは・・・容赦が無い。

 

 にこやかに笑顔と愛想を振り巻きながらも、その立ち居振る舞いに一切の隙無し。

 

 WA2000には『白リボン』の異名が付いており、その名がグリフィン中に広がるほどの高い実力を持っている。

 だが、このF-05地区第206基地でカフェを経営している『スプリングフィールド』もまた、白リボンに黒星を付けたエースの一人なのである。

 

 

「お代わりのホットミルクは如何ですか? わーちゃん」

 

「次その名で呼んだらもっかい胸揉むわよ」

 

「んもぅ。えっちなのはダメ、ですよ?」

 

「アンタが最初におっ始めたんでしょうが」

 

 

 ・・・普段の振る舞いは全くそうは見えないが、エースなのである。

 

 

 

 -----

 

 

 

 AM08:30

 

 さらにところ変わって、基地内にある訓練場にて。

 WA2000は得物のライフルを持ってスタート位置に立っていた。

 

 この訓練場は一辺670mの正方形状の空間で、ボロボロの車を模したハリボテに加え、わざわざ低階層のビルや家屋まで作った本格仕様の市街地戦訓練場である。

 遮蔽物などに隠れた仮想敵(ターゲット板)をナイフや武器で破壊しながらゴール地点を目指すタイムアタックや、チームを組んで行うデスマッチ形式の戦闘、救助対象の救出訓練など、様々な訓練が行える。

 

 こうした構造物を拵えている為に設備に予算はかかっているが、指揮官曰くどこかのグリフィン基地では地形丸ごと変えられる『フィールド可変式訓練場』も採用しているため、それと比べれば遥かに安い方とのこと。

 という基地の訓練場にて、準備万端なWA2000は闘志溢れる眼で真っ直ぐ見据えていた。

 

 フィールドは夜霧が発生した視界不明瞭な状況を想定。

 照明は、モニタリング用ドローンのカメラがセンサー感度が高くなり過ぎて映像が粗くならない様、カメラが最低限見通せる程度の光量に。とはいえ、人の目には殆ど視界が効かない暗さだが。

 加えて霧の再現で人工的にスモークを焚いているので、暗がりに物理的な煙で視界は非常に悪い。

 

 

 ビーーー

 

 

 訓練開始のブザーが鳴ると同時に、一目散に一番近いビルの影に隠れる。

 視界がまともに効かない分、頼れるのはそれ以外の五感と経験である。WA2000の耳は研ぎ澄まされ、僅かな音の反響も逃さず拾い上げる。

 物理的なクリアリング、音の反響を利用してのクリアリングを手早く済ませ、彼女は足音を立てずにゴール地点へと駆け出す。

 

 

 今回彼女が行っているのはタイムアタックの訓練だ。ただし先も言った通り、コンディションは悪い。

 明かりも碌になく霧で視界がさらに遮られている中では、ランダムで配置されたターゲット板を破壊するのはおろか、見つけるのも難しい。

 

 

「・・・っ! そこね!」

 

 

 自動車のハリボテに隠れたターゲット板を発見、ウィークポイントとなる頭部を一発で撃ち抜いたWA2000は、周囲をクリアリングして再び走り出す。

 探知、発見、発砲、遮蔽物に身を隠して警戒、安全を確認して走り出す、この流れを繰り返す。

 暗く、霧の立ち込める中でも、そのスピードを落とす事無く。

 

 そうして最後のターゲット板を破壊してゴールまで辿り着いた瞬間、ブザーと共に目を眩ませない程度に照明が仄かに明るさを増した。

 WA2000は少しばかし目を細めながら周りを見廻し、ゴール地点で待ち構えていた人物を見つけると手招きで呼び寄せる。

 ツカツカと歩み寄った人物は、訓練終了と同時にプリントアウトされたスコアレポートを片手に労いの言葉を掛けた。

 

 

「お疲れ様、ヴァルター」

 

 

 彼女の正式名である『ワルサーWA2000』のワルサーを、母国(ドイツ)語で読むとWalther(ヴァルター)という発音になるのに倣い、その人物は彼女をヴァルターと呼んだ。

 余談だが彼女をわーちゃんと呼ぶと色々リアクションした果てに拗ねるので、基地の面々はWA2000とフルネームで呼ぶかヴァルターと呼ぶのが通例となっている。閑話休題。

 

 

「ふぅ・・・グローザじゃない。スコアどーよ?」

 

 

 彼女にレポートを渡した人物ことOTs-14(グローザ)は、訓練を見ていた所感を淡々と述べていく。

 

 

「まぁまぁってとこじゃないかしら? 相変わらずRFではスプリング以外を寄せ付けないスピードよ。

 今回はいつもより一回一回のクリアリングにコンマ何秒か掛ける時間が増えてたから、トータルの時間はベストから7秒ほど伸びてるけど。何か心を乱す事でもあった?」

 

 

 うっ、と言葉を詰まらせるWA2000。心を乱す出来事は今朝あったばかりである。

 自身ではスイッチを切り替えてたつもりだったが、どうやら思っているよりも意外と内心を占めるウェイトは大きかった様だ。

 

 

「・・・んまぁ、いろいろあったのよ」

 

 

 苦々しげにそう言うと、首を傾げ、そして得心した様で二マリと笑みを浮かべて揶揄う様に口を開くグローザ。

 

 

「へぇ? ここまで大きくタイムが長引いてるから、てっきり愛しの彼を巡って新たなライバルでも出来たのかと思ったのだけれど」

 

 

 直後、WA2000がしかめっ面になった。

 

 

「あ、アンタねぇ・・・時々ものすごく感が冴える時があるわよね」

 

「図星なのは認めるのね。それならヴァルター、押すならとことん押しなさい。先達からのアドバイス、よ」

 

 

 そう言ってグローザは左手の薬指をかざして見せた。

 その根本には銀色に輝くリングが嵌められており、彼女がグリフィンではなくこの基地の指揮官の所有物である事を示していた。即ち、WA2000(わーちゃん)恋敵(スプリング)が目指す位置にいると言う事である。

 

 全く本筋と関係ない余談だが、グローザは夜戦の女王と呼ばれるだけあり、夜戦任務はもちろんだが、指揮官との夜戦も凄い。

 ある日WA2000が夜間の基地内を巡回中、司令室で二人が盛り上がってる最中の大きな声(意味深)を壁越しに聞いた彼女が『指揮官が侵入者に襲われている』と勘違いしてしまい、緊急突入したところ情事真っ只中のところに鉢合わせたため、その凄さはその目ではっきりと見てたりもする。

 

 さり気ない惚気アピールで、同僚と上官が進行形で絡み合うという忘れ去りたい記憶を思い出してしまったWA2000は、少々鬱屈そうにグローザを見据える。

 が、そんなある種ジト目に近い視線を浴びるグローザはどこ吹く風だ。

 

 

「そういえば、昨日バーでウォッカを楽しんでる時にスプリングにも同じ様な事を言ったわね」

 

「アンタがスプリングを焚きつけたんかい!」

 

「いいじゃない。彼はまだ誰のものでもないのでしょう? なら、チャンスは平等に与えられるべきよ。正々堂々と戦いなさい」

 

「・・・・・・それが出来たら苦労しないっての。はぁ、メンテに行ってくるわ」

 

「そう? いってらっしゃい。・・・・・・二人ともどんな男を狙ってるのかしら。寄生虫の様なクズじゃなきゃ良いけど」

 

 

 とぼとぼと訓練場を後にするWA2000を見送りながら、脳裏に浮かんだ一抹の懸念事項を考えるグローザ。

 しかし同じ状況(シチュエーション)で別の人形が訓練を始めると、スタート地点にいる人形から連絡が入った為、一旦頭からその事を追い出し、今の業務に集中するグローザであった。

 

 

 

 -----

 

 

 

 PM08:36

 時間は大きく進んで、1日の夜。人形宿舎の一室にて。

 夕食、1日終わりのシャワーも浴びたWA2000は寝間着に着替え、左右に二つ並ぶ二段ベッドの左の下の段に腰掛けながら、明日のランニングに使うスポーツウェア一式を袋に纏めていた。

 朝の日も登っていない時間にガサゴソ物音を立てるのはよくない為、出来る用意を迷惑にならない時間にやっておこうと言うだけの事である。

 

 1日の初っ端から衝撃を受け、その後朝シャンで乳繰り合ってはカフェでも揶揄われ、続く午前の訓練でも副官(グローザ)に揶揄われと、WA2000にとってはなんだかんだ色々あった1日であった。

 よりにもよってスプリングフィールドがライバルになろうとは・・・彼女にとってすればまさに青天の霹靂。ぶっちゃけ内心かなり動揺が大きかったようで。

 

 

「・・・はぁ。前途多難だわ」

 

「何が前途多難なんだ?」

 

「うわっ!?」

 

 

 ため息交じりに呟いた独り言に返事が返ってくるとは思わず、驚いたWA2000が上を見上げると、ルームメイトでRF人形の『SVD』がベッドから身を乗り出し、興味深そうにWA2000を見下ろしていた。

 WA2000は上にSVDがいるとは思っておらず、話しかけられた事に大層びっくりしたらしい。何度か深呼吸を繰り返した後、元々吊り目がちな目をさらに吊り上がらせた。

 

 

「あ、アンタ、いつからそこに? それよかいつもの酒盛りはどーしたのよ」

 

 

 SVD。ドラグノフ式狙撃銃を得物に戦う彼女は、その名の通り旧ソ連をルーツとする戦術人形である。

 I.O.P.が製造するロシア系の戦術人形は一部の例外を除き、どういうわけか概ねが大のアルコール好きという個性を持っており、SVD自身もかなりイケる口である。

 なので彼女は普段この時間、いつもロシア系の他の人形達と基地併設のバーや参加者の部屋に集まって浴びる様に酒を飲み、夜11頃にベッドへ上がって爆睡するというのが日課(ルーティーン)だ。なお基本毎日開催するため、アルコール(擬き)の消費量はグリフィン全基地においてトップクラスに多い。

 ちなみにその例で言うとグローザも酒盛りの常連で、こちらもかなりイケる口とのこと。

 

 WA2000の指摘に対し、ニカリと歯を見せ笑いながらSVDは言う。

 

 

「今日は『きゅーかんび』という奴だ」

 

「バグったの? I.O.P.行く?」

 

「失礼な」

 

 

 ムッとした顔をするSVDだが、WA2000は彼女から『休肝日』という言葉を聞いたことは一度も無いので、バグを疑うのも無理は無かった・・・かもしれない。

 

 

「アンタ達ロシア勢のウワバミっぷりはどんな男でも逃げ出すレベルよ? そんな奴の口から休肝日なんて言葉が出てきたら、誰だってバグを疑うわ」

 

 

 ルームメイトからの辛辣な言葉に、口を尖らせ拗ねた表情を浮かべるSVD。

 

 

「そんなに言わなくても良いじゃないかWA2000。私だってキズ付く時はあるというのに。

 それよりWA2000、我々同志達の飲みっぷりはどんな男でも逃げ出すと言ったな? はて・・・それは果たして、前の制圧任務で我々を助け出してくれた彼にも当てはまるのだろうか?」

 

「・・・・・・今なんて?」

 

 

 刹那、聞き逃してはいけない単語を耳が拾ったWA2000は硬直した。

 続いて古びた機械の様にギギギと首をSVDへ向けると、真剣に考え込んでいるSVDが目に入る。

 

 

「一説によると、酒がイケる女はモテると記事に書いてあったぞ」

 

 

 WA2000の脳裏に嫌な予感が駆け巡る。

 酒がイケる女はモテる? それはフラフラにさせればお持ち帰りし易いってだけの話じゃなくて?

 記事というワードにも引っ掛かる点を感じたWA2000は、まるで胡散臭いモノを見る目でSVDに問いかけた。

 

 

「・・・一応聞くけど、出典(ソース)はどこ?」

 

「G&Kの社内報に不定期で掲載されているコラム記事だ。ヒマワリ代行官氏執筆の『必勝恋愛テクニック』というコーナーだな」

 

「うげっ」

 

 

 SVDの口からコラムの名が出た途端、苦虫を噛み潰した様な凄い顔になるWA2000。彼女がその様な反応をしたのには理由がある。

 

 昔、かつてグリフィンの研修施設でレイに教導を受けていたWA2000。訓練中は加減無しに徹底的にボコられていたが、訓練が終わった後の休息時間は割と仲良くコミュニケーションを交わしていた。

 そんなある日・・・具体的には、親身になって鍛えてくれているレイへの淡い想いを自覚した頃のこと。レイに振り向いてもらう為にどうしようかと考えていた所、雑誌棚にたまたま置かれてた社内報が目に付き、気分転換に読んでいたその時。

 

 彼女の目に留まった。

 ヒマワリ代行官著の不定期連載コラム『必勝恋愛テクニック』という記事が。

 しかもその回のテーマは『意中の彼が振り向いてくれる100%的中テクニック』とあり、今まさに彼女が欲していた情報だったのも合わさって、目を見開いて読み進めていった。

 

 そして体得し、実行・・・ギルドの仕事のため、丸一日程施設を離れていたレイを入口で出迎えたシーンでの出来事だ。

 

 

『あっ、レイ!』

 

『ん?』

 

『お、お帰りなさいっ、ダーリン!』

 

『ふざけてんのか?』

 

『かふっ・・・』バタン チーン

 

 

 予想もし得なかった対応。一瞬で能面にトランスフォームしたレイの、明らかに苛立っているトーンの低い声。ショックのあまりWA2000は気絶した。

 

 おまけにハッと気が付くと、なんと訓練場のフィールドど真ん中に得物と『起きてから5分待ってやる』という書き置きを持たされた状態で放り込まれていて、くたばってる場合じゃないと必死に隠れた覚えがある。結局あっという間に見つかってボコられたが。

 

 よくよく考え直してみると、当時のレイとWA2000の関係性は師弟という色がとても強く、間違っても男女の関係と呼ぶには遠い事だけは言えた。

 彼からすればまだまだひよっこのWA2000、つまるところ全く気の無い異性からダーリンなどと呼ばれれば・・・あの様な返答をするのは当然の論理である。

 

 しかもWA2000にとって恥ずかしかったのは、この後レイもどこかで社内報に目を通したらしく、お前が真似したのはコレの事かと直接問いただされてしまったのだ。

 レイはこの時、あくまで日頃のスパルタ指導に対する嫌がらせの一種でやったと判断したようで、その時既に抱え持ってた淡い気持ちには気付かなかった様なのだが、その際レイの機嫌が少し戻ったのを見計らってWA2000は聞いてみた。この記事に書いてある内容はどう思う?と。

 

 

『いい歳こいて処女拗らせてる女の妄想だな』

 

『』

 

 

 必勝じゃなくて必敗の間違いだろとか、これでドキドキさせられる男は元から自分と距離が近い友人の男か、女慣れしてないチェリーか、女に慣れる機会を自分で遠ざけてきた人間性に難有りの男だよ、等と冷ややかな笑みを浮かべながら、鋭利な言葉のナイフでコラムの内容を容赦無く切り捨てていくレイ。

 この瞬間、彼女はこのコラムに書いてある事が一切信じられなくなった。

 

 それ以来、WA2000は社内報にこのコラムが掲載される度に『事実と異なる記載がある』という内容で連載差し止めを編集部に向かって送っているのだが、残念ながらグリフィンで圧倒的な人数を誇る人形達の間で人気らしく、彼女の要求が届く日は恐らく来ないと思われる。

 

 なんて事の経緯をSVDに言ったところで信じてくれるかは分からないし、そもそもグリフィンにとってWA2000がレイに鍛えられたという事実が秘匿性の高い機密情報なので、彼女の口からSVDに話す事は出来ないのだが。

 

 とりあえず、ライバルがこんなところにも潜んでいた事実に痛むこめかみを抑えつつ、自分の口から話せるだけの情報を提供する事にした。

 

 

「・・・断言するけど、今のアンタの飲みっぷりをあの男が見たら絶対ドン引きして余計に心の距離開くわよ」

 

「・・・・・・えっ」




 私ごとですが、この度非正規社員から勤めてる会社に正社員登用してもらえたので、人生のプレッシャーの種が一つ減りました。
 これで安心して車のローンが組めるぞ(殴

 ・・・富士で展示された新型BRZのSTIパーツ装着車、めっちゃカッコいい(憧

 てか、このまま排ガスや騒音規制が厳しくなってくと、マジでオンボロみたいな車やバイクって将来生まれなくなるかもなぁ・・・。
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