裏稼業とカカシさん(旧題:裏稼業の何でも屋が出向く先には必ずカカシが待っている件)   作:chaosraven

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 お待たせしまーした。
 今回、無理を言ってコラボ導入部を書きましたぜ。

 今回のコラボ先は『S10地区司令基地作戦記録(https://syosetu.org/novel/186365/)』より、第13話『インターミッション.02(https://syosetu.org/novel/186365/13.html)』に登場した『カフェ&バー ピット』でござんす。

 注意!
 今話にはグロテスクな描写があります。ご承知の上お進み下さい。

(先方様が暫くエクストラエピソードを執筆されてるので、このあとコラボ外の通常のお話を何話か挟みます)


-75-Pit in

 

 

 

 グリフィン&クルーガー社管理区域

 S-10地区居住区・商業区画

 

 アパレルやアクセサリーといったファッションを扱う店、お洒落な雰囲気を作り出すカフェテラスを始めとした飲食店など、人々の生活を豊かにする店々が軒を連ねるメインストリートが目を引く区画。

 その通りから外れ、昼間でも太陽の光が届きにくい仄暗い路地を通った先に、ある店が居を構えている。

 

『カフェ&バー ピット』

 カフェとバーの二形態で営業するこの店は、穴蔵の意であるその名が示す通り、狭い空間の合間を縫って伸びる細長い複合商業ビルの地下に居を構えている。

 

 今はちょうど、朝からのカフェの営業時間を過ぎた18時半。お店は夜のバータイムの営業に向けた準備期間中だ。

 

 マスターのフィーこと『スプリングフィールド』が丁寧にグラスを拭き上げていると、STAFF ONLYの札が掛かった扉がガチャリと開き、ソムリエの衣装を纏ったミドルエイジの紳士が姿を現した。

 彼はフィーの姿を捉えると、柔らかな笑みで話しかけた。

 

 

「フィーさん。食材の在庫はどうかな?」

 

「問題ありません。マスターの方は?」

 

「此方は少し部品が心許なくなってきていますね。そろそろオーダーを出した方が良さそうです」

 

「あら? でしたらそろそろあの方々にお声掛け致しましょうか?」

 

「そうしましょう。いつもの様にお願いします」

 

「ふふっ、承りました」

 

 

 お互いに醸し出す柔らかな雰囲気。見る人によってはまるで”夫婦(めおと)”に見えてしまう様なやり取り。

 客のいない時間故に曝け出せる飾らぬ姿は、もしフィー目当てに来ている常連客が見ればハンカチを噛みたくなるだろう。

 

 もっとも、この空気のなかで二人がやり取りしている内容というのは・・・。

 自分たちの手がける裏稼業(ビジネス)について、である。

 

 

 

 -----

 

 

 

 ーー数日後

 

 

 俺は黒のスーツ、藍色のシャツに黒ネクタイ、シャツよりさらに暗い濃紺色のベストに黒の革グローブと革靴、それと目線隠しも兼ねたスマートグラスを着けて車を運転していた。

 

 左ハンドル車のため、同乗者はオンボロとは逆の位置に座る。チラリ、俺は隣に座る男を見た。

 187cmの長身痩躯な体格をした、赤みがかった少し長めの茶髪が特徴的な30代半ばのダンディな男。

 割り振られる仕事は主に居住区への潜入や対象人物の調査など。一昔前で言う探偵の仕事をメインに行うこの男は『フォックス』のコードネームを持つフィクサーの一人。

 

 フォックスは黒のスーツ、俺と色違いでワインレッドのシャツに黒ネクタイ、黒い革グローブに黒い革靴と、完全に殺し屋の装束ど定番でコーディネート。もちろん、懐には小型拳銃を持っている。

 

 普段こうした服装は気分的な息苦しさを感じて好まない性質なんだが、そんな俺がわざわざスーツを着て、オンボロではない車を運転しているのには理由がある。

 

 

「今日の取引だが、この先またお前に運び屋を任せることがあるかもしれない。そん時は頼むぞ」

 

「余裕があったらな」

 

 

 俺たちが向かっている取引というのは、取引相手のガンスミスとギルドの間でまあまあ長い期間行われ続けている商売らしい。

 具体的にはギルドが仕入れた天然物の商材、例えばコーヒー豆やケーキに使う卵や牛乳などの材料となる生鮮食品類。それと、銃に装着するアフターパーツや精度を高めたバレル等のハンドメイドカスタマイズパーツ系だ。

 

 なんでも、昔ギルドが腕の良いガンスミスの噂を聞きつけて銃を作らせようとしたが、肝心の部品が相手の手元に無かったそうで。

 なら求めるモノをウラカンや技工者のメンバーが1から図面通りに作り、それらを組み立てさせたところかなり出来が良く、製作者自身も十分納得いくハイクオリティな銃が出来上がったのだという。

 

 以来正式に取引関係を締結し、現在もギルドでは部品やアフターパーツを製造または外部から調達し、相手からは部品を組み込んで作られた銃を収めてもらうといった具合である。実は俺のP90も定期的にギルドが推奨する精密メンテに出しているのだが、それも請け負ってくれているのが今回会うことになってるガンスミスとのこと。

 ・・・・・・なるほど、かなり腕の良いガンスミスを見出したもんである。

 会った時には一言礼くらいは言っておかないとな。

 

 自分でもある程度は手入れ出来るが、やはり本職の腕には及ばない。

 高い知識と技術で最高の状態に整備して納めてくれるガンスミスのおかげで、俺たちは今日まで武器のトラブルで死ぬ事なく生きてこられたのだから。

 

 

「ところでフォックス」

 

「ん?」

 

「取引の詳細は分かったが、なんでわざわざコレをチョイスしたんだ」

 

「こんな車よりももっと荷運びに適した車もあるだろって?」

 

「あぁ」

 

 

 そう言って、俺はサッと車のインテリアを見渡す。

 黒に近いトーンのブラウンに染められた本革レザーインテリアに、それを縫いとめるアクセントカラーの赤いステッチ。

 加えて座席も黒革のセミバケットシートで、しかもリクライニングと座面高さのリフティングは電動式。

 

 メーターパネルは真ん中のタコメーターだけがアナログで、その左右は液晶表示式のマルチインフォメーションディスプレイに。しかしデフォルトの設定では左右二つずつに速度計や油温計といったメーターを表示させ、伝統の5連メーターになるようディスプレイすることで、昔ながらのブランドの個性を近代のシステムに上手く融合させたデザインに仕上がっている。

 

 さらにセンターコンソールもシックな質感に仕上げられていて、グロスブラックのベースにシルバーリムで縁取られたボタン類がこれまた高級感を醸し出す。

 

 後部の窓は外からは完全に見えないスモークウィンドウになっていて、後席に座る者を外部の不躾な視線から守ってくれる。

 

 つまるところ、この車は間違っても取引に使う荷物をゴチャゴチャ詰め込むためのモノではない。

 この車が乗せるのは、いわゆる政経界のVIPや各国のやんごとなきご身分の方々など。要はお付きの運転手が運転し、道中自分は後ろ席でゆったり寛ぐ事が日常の人種の為の車なのである。

 その車の名は・・・

 

 

『パナメルカーラ』

 

 かつてドイツに本拠を置いていた自動車メーカー『カレラ・フェルディナント社』が、2009年に発売した車。

 ラグジュアリーカーでありながら大出力の駆動系を備えた、パワフルかつ上品な走りを両立させた車である。

 ギルドにあるのはその2代目。フルモデルチェンジをした2016年以降に発売された中でも総排気量約4L、最高出力571ps、V型8気筒ツインターボエンジンに、さらにバッテリーと電力駆動モーターを搭載。

 

 つまり、エンジンとバッテリー駆動式モーターの二系統を駆動システムに持つハイブリッドモデルだ。

 加えて乗り心地向上のためのエアサスペンションはもちろん、全席にマッサージ機能まで付いてるという贅沢っぷり。おまけに車の全方位で小型爆弾が爆発してもなお自走可能という、見た目の優雅な印象はそのままに、襲う側にとっては無茶苦茶な硬さを誇る防弾仕様でもある。

 これをブチ抜くには、それこそダネルのNTW-20クラス以上の桁違いの威力が無いと多分無理だろう。少なくとも、一人で走りながら撃てる銃ではまず貫通できない。

 

 その装甲厚によって重量もプラス150kgほど増えてるんだが、重くなった分の加速性能は"現代の"技術で作られた大容量高出力バッテリーを組み込む事でカバー。さらにギルドにはオンボロを生み出したウラカンというスーパーカーのプロがいるから、ウラカンのチューンによって、防弾仕様じゃない純正よりもむしろこっちの方が速いという逆転現象も起きてたり。ただしスピードに乗ってる時にハンドル切ると、掛かる慣性Gもまたデカイ。

 

 余談だが、この車はギルドマスターのヌルが所有していたコレクションを社用車に仕立てたらしい。約30万ユーロに届く車を社用車扱いでギルドに置いとくとか、そのほかにも図面から魔改造してデカくしちゃったオスプレイをヘリの一機として置いとくとか、前から分かっちゃいるがヌルの総資産はヤバい。さすが()()()()()()なだけはある。

 

 ちなみに色は暗がりに紛れやすいマットな質感の黒。普通は光沢感のあるテラッテラの黒を塗るところだろうが、街頭の灯りを受けてもあまり反射しない塗装は確かに俺たちの使い方にはマッチしてはいる。個人的に見た目の印象はなんかちょっとうーん、と言いたくなるが。

 

 

 

 -----

 

 

 

 フォックスの案内指示のもと辿り着いたのは、G&K管轄のS-10地区にある商業区画。その一画に立つ廃ビルの地下に広がる駐車場。

 道中、地区に入るための裏道(ド真ん中に置いた時の両ミラーとの隙間が20cmほどのゲキ狭ルート)を通らされたりと、地味に気を遣うドライブではあったが、それもようやく片道分が終わった。

 廃ビルの地下にあるため、同じく駐車場も使われていない・・・筈なのだが、奥まで行った先のある数台分のマスだけ車が停められており、フォックスは一番端の車の隣に一つマスを開けて停める様言った。

 

 言う通りにマスに収め(車体がデカすぎてどうしてもフロントがマスからはみ出る)て、車から降りた直後、ソムリエの衣装を纏った男が丁寧な物腰で停められていた車の陰からやって来た。

 念のため俺は拳銃をいつでも抜ける様態勢を整えるが、フォックスはその必要は無いと首を振ると男の方に向かって歩いて行く。

 

 

「フラッシュ」

 

「サンダー」

 

「何本奢ってくれる?」

 

「三本ほどで如何でしょう?」

 

「今宵の月は?」

 

「血塗られております」

 

「・・・ふっ。マスター、ご希望の品だ」

 

「いつもいつも恐れ入ります。貴重な品物も揃えて頂いて、おかげ様で店の売り上げも上々です」

 

「ウチは手広くやってるからな。今後とも贔屓に頼むよ」

 

「もちろんです」

 

「・・・その前に、合言葉に突っ込みどころがあるんだが」

 

 

 なんだよ、今宵の月は? 血塗られております。って。

 中二病感溢れる訳分からんフレーズを合言葉に選んだもんである。

 

 

「気にすんな」

 

「・・・」

 

「んんっ、それより取引を始めよう。マスター、確認を頼む」

 

「承知致しました。お手数ですが、そちらの荷下ろしが終わりましたら此方の品物の確認もお願いします」

 

「分かった」

 

 

 という短いやり取りで早くも積み荷を下ろす流れとなったため、俺も下ろすのを手伝う。

 マッサージ機能も付いたレザーシートの上に、そんなの関係ねえとばかりに(うずたか)く載せられた段ボールや発泡スチロール製保冷コンテナの山。

 おかげでバックミラーの視界がほとんど効かなくて少し運転し辛かったが、それに加えて一個一個に意外と物が詰まってるようで結構重い。

 

 中の物にダメージが行かない様丁寧に荷下ろしをすること15分、後部座席とラゲッジに積んでいた全ての品物を下ろし終えると早速ガンスミスは懐から取り出した手帳を開き、品物の検品を始めた。

 俺はガンスミスの動きに合わせ、一つずつ置かれたコンテナの蓋を開けてスムーズにチェックが進められる様にサポートをする。

 その一方で、フォックスはガンスミス側から此方への品物の検品があるらしく、荷下ろしが終わるとスタスタと元々停まっていた車の方へ歩いていってしまう。”荷下ろしが終わったら”という言葉通りのタイミングで実行する辺り、互いにチョロまかす心配が無いと信頼しての行動か、あるいは監視役で俺がいるから手早く検品に移ったのか。

 

 ガンスミスもギルドとの取引の流れには慣れている様で、フォックスの行動には特に目もくれずてきぱきとチェックしては手帳の中にチェックマークを書き込んでいく。

 程なくして生鮮食品類と収める部品類全ての検品が終わり、土埃の付いたスラックスを手で叩きつつ、にこやかな笑顔で作業が終わったことを伝えてくれた。

 

 

「お待たせ致しました。こちらが希望した品物全て、過不足なく此方に届けて頂けたことを確認致しました」

 

「それはなによりです」

 

 

 とそこへ、此方が持ち帰る品物のチェックを終えたらしいフォックスが、見覚えのある顔立ちの女性と共に戻ってくる。

 コーヒーカップが胸上にプリントされたエプロンを掛け、こちらもにこやかな笑みを浮かべる女性・・・ああそうだ、この顔で思い出した。

 

 

「もしかして、スプリングフィールド型の・・・?」

 

「あら・・・私と同型の人形と会ったことが?」

 

 

 首を傾げつつ、彼女はそう言った。

 工場で生み出される戦術人形は、多少の内面の個体差はあれど、外見的な特徴に差異を持って生まれることは基本的に無い。

 なので同じ顔、同じ体格の人形が複数いることは全然おかしな事では無いのだが・・・G&Kの基地や戦場以外でI.O.P.の人形の顔を見るとは思ってなかった。

 

 

「紹介しようレイ。マスターの元で働く、『カフェ&バー ピット』の看板娘にして名マスターでもある『フィー』さんだ。

 まあとはいえ、レイが言った通りフィーさんは元々戦術人形だったそうだが、今は縁あって店で美人なマスターとして、そしてーー」

 

「フォックスさんと同じく”情報屋”でもあります。レイさん、どうぞよろしくお願いしますね」

 

「ええ、よろしくお願いします」

 

 

 なるほどね・・・。

 元々戦術人形だった、と言うことは今は何らかの理由で戦術人形じゃなくなったのかもしれない。

 しかしまぁ、そうだとしても実に立ち居振る舞いに隙の無い女性だこと。素人には気付かせず、玄人には気付かせて尚手出しさせない、そんな絶妙な姿勢を保ってらっしゃる。手の持ち方、足の置き方、視線の向きとね。

 

 やはり裏稼業の人間とビジネスしてる以上、常に何か起こり得ると想定してこの場に臨んでいるんだろう。特に初対面の俺がいるわけだし、いざと言う時はガンスミスを守るつもりでいるんだな。

 コッチはんなトチ狂った事をする気は全くないが、彼女からしてみりゃ何の信頼も出来ない。俺たちが第三者の敵に尾けられた可能性も否定しないで動いてるってところか。

 

 ふむふむ・・・ビビりすぎず、かといって気も抜かず。戦場を知る者の振る舞いというわけだ。

 

 

「フィーさん、其方は終わりましたか?」

 

「えぇマスター。フォックスさんにもご納得頂けました」

 

「そうですか」

 

「つうわけでレイ、向こうの荷物を車に積むの手伝ってくれ。そしたらマスターの店で一杯コーヒーでも飲もう」

 

「あ、ああ。それは構わないが・・・」

 

 

 今卸したのと同じモノを使って炒れるんだろ?

 幾らするんだ・・・? 俺今日あんま金持って来てねえぞ・・・。

 

 

 


 

 

 

 グリフィン&クルーガー社管理区域

 R-20地区居住区・居住禁止区画にて・・・

 

 

 ボロボロに朽ち果てた教会。昔火災でも起こったのか、レンガで作られた基礎と外壁を残し吹き抜けになった廃墟。周囲の建物も木造だったものは軒並み同じ様な様相で、鉄筋やコンクリ製でも燃える箇所は全て燃え尽き、建物としての役目を果たせないまでに朽ちている。いつ何が倒壊するか分からないため、人の立ち入りや居住はグリフィンによって禁じられているエリアだ。

 

 そこに夜も更けた頃、教会の中で篝火を焚いて祈りを捧げる謎の集団がいるという。

 頭頂部の尖った白の目出し帽を被った彼らは、足元まで覆い隠す白布を羽織った姿で土剥き出しの床に膝を折り、教卓上に祀られた十字架に向けて何度も礼を繰り返す。

 怪しげなフレーズを唱えながら、何度も何度も、その姿はメッカに向けてムスリムが祈祷を捧げる姿に似通った物がある。

 

 違うのは、イスラム教は1000年以上の歴史がある世界三大宗教の一つであるのに対し、彼らの崇拝はあくまでこの世界の状況ゆえに救いを求める人々が新たに興した宗教ということ。

 吹き抜けになって丸見えの彼らの祈祷を、すぐ近くに立つコンクリート造りの廃ビル屋上から見下ろす男女が二人。

 

 ダークグレーのパンツスーツを纏った女性は、双眼鏡から目を離すと徐にこう言った。

 

 

「これだけ白布被った大人が綺麗に並んでる祈りを捧げてると、本当宗教っていうモノの力を感じるわね」

 

 

 すると、隣に立つサングラスの男が口を開く。

 黒いレンズの奥から彼らに向けて、隠しきれない憐みの感情を視線に乗せて。

 

 

「もっとも、奴らの崇めてる教義とやらは矛盾だらけの中身の無いカルトだがな。そんな適当な眉唾物にすら頼りたくなるほど、この腐った世界は世に生きる人々にとって絶望で満ち溢れてる」

 

「・・・・・・”終わらせる”んでしょ?」

 

 

 女が男へと向き直る。

 

 

「ああ。そのために彼らには、来るべき未来を掴む為の(犠牲)になってもらう。救いを求めてる所悪いがな」

 

「犠牲ね・・・の割に、貴方かなり悪い笑顔浮かべてる様に見えるけど?」

 

「それは俺たちが生まれてきた意義のためだと言っておこう。さぁロッソ、時間だ」

 

「お仕事の時間ね・・・楽しみましょう? グリージョ」

 

 

 言うや否や見る見るうちに、ロッソの下半身は人の脚が引っ込むのと同時に腰から赤い八本脚が生えてくる。

 上半身よりも遥かに巨大なタコの触手。それらが全て伸びきると、ロッソは滑りを帯びた触手でビルの外壁を伝い降りていく。

 そして地上に大きな物音立てず着地すると、屋上のグリージョに向けて微笑みかける。

 彼はサングラスをジャケットの胸ポケットに仕舞うと、口元に弧を浮かばせ彼女に()()した。

 

 

「カルト教徒達を魅せてやれ。”神の使徒”としてな」

 

「うん、見ててグリージョ」

 

 

 ヌルリヌルリ、粘体が滑る様な音を立てて教会へと向かうロッソ。その後を双眼鏡で追うグリージョ。

 その直後。

 

 

『な、なんだっ!? このタコは! っ! 御神体に絡み付いてるぞ!』

 

『ままままさかっ、この方こそ神から遣わされた異形の存在なのか・・・?』

 

『す、スキュラが・・・』

 

 

 ロッソのインカムから届く現場の声が耳に届く。

 

 

 

「ロッソ。十字架に磔になってる”木偶人形(戦術人形)”をぶっ壊せ。誰を崇めるべきなのか、奴らの認識を塗り替えろ」

 

『ハ〜イ。ねぇ貴方達ぃ? せっかくこの私が降臨してあげたんだからぁ、こんなお人形さんなんて崇拝しなくたっていいでしょぉ?』

 

 

 あくまで一人で降臨したという体のため、グリージョからの指示には直接答えず、これから自分が何をするかを口に出して回答するロッソ。

 と共に、何かを締め付ける音と苦しげに呻く声をマイクが拾った。

 

 

『ままま待って下さい! 貴方様が神のご意思でご降臨されたのは分かりますが、その存在も我々にとっては必要な『お人形さんは人間が作った紛い物。私は”使徒”よ? 私が要らないと言っているの。神に救って頂きたいのなら、使徒たる私を崇めなさい。私を信じなさい』し、使徒様・・・』

 

 

 教徒達が十字架に磔にして祀っている戦術人形。ロッソがそれを触手で押し潰そうと絡み付かせると、教徒の一人から止めてほしいと心の底からの懇願が聞こえてきた。

 神などという不確定な存在に救いを求める様な者達故、自らが見出した救いの象徴を壊されるのは認められないのだろう。

 

 ただの人間がそれを為そうとすれば、教徒達は死にものぐるいで御神体を守ろうとしたのかもしれない。

 だが、彼らの前にいる存在は、遠く人から離れた異形の存在であり、使徒を名乗っても信じてしまえる様な姿をしていた。

 

 

『・・・本当に、我々のことを神は救って頂けるのでしょうか?』

 

『そのために私が降臨したのよ? ね? 何を信じれば良いかなんて明らかじゃぁない?』

 

『た、確かに・・・』

 

『そうだ・・・使徒様が降臨なされたのだから、我々はもう御神体を通して祈る必要は無いんだ』

 

『そうだ! 使徒様を崇め、使徒様を通して神へ祈りを捧げるんだ!』

 

『じゃあ・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もうこの子、要らないよね?

 

はっ! 使徒様のお望みのままに!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 え・・・

 絶望に染まりきった様な微かな声をインカムが拾った。

 

 しかしそれから間も無く触手が全身を潰す力で締め上げ始め、磔にされていた御神体(戦術人形)は出せる力いっぱいの声で叫んだ。

 

 

『ぎぃあぁぁぁぁ!!! イヤだっ! 死にたくないっ! 誰かぁっ! 誰でも良いから助けてぇっっ!! ごふっ、あぁあぁアァァァァァァァッッッッ!!!??

 

 

 ぶしゅりっ

 シャアーーー・・・・・・

 

 

『さぁ、貴方達が崇めてた紛い物の処分は終わったわ。改めて、私を通して神への祈りを捧げ直しなさい。そして胸の内で神に誓え。神の意思に従い、どんな役割でも為してみせると』

 

『神の意思に従う・・・』

 

『神の目指す世界・・・神を崇める全ての者へ救いを齎す世を作る為に、貴方達の意思と力が必要なの。誓いなさい。神と共に、神の目指す世界を作りたもうと! そうすれば・・・貴方達が為すべき役割を果たした時、神は貴方達に救いを齎すでしょう』

 

『は、はっ!!!』

 

 

 ロッソが土壇場ででっち上げた”神と使徒”からのありがたい教えを説くと、カルト宗教に身を置いていた彼らは全員首を垂れて恭順の意を示した。

 

 

『ならば、分かるわよね? 貴方達が神からの救いを得るために、真に倒さねばならない者は誰なのか?

 ・・・利益を独占し、富める者をどんどん富ませ、貧しき者を貧しいままにさせる、この辺りを支配する偽善者ども』

 

『グリ、フィン・・・・・・!!』

 

『そう。貴方達に与える役目は、グリフィンの力を削ぐ事。でも闇雲に動くのはダメ。神から遣わされたこの私が、偽善者どもにどうすればいいのかを導いてあげる。

 貴方達は神へ欠かす事なく祈りを捧げ、私を通して神を崇め、神の求める世のために私の導きに従って偽善者どもの力を削ぐ・・・そうすれば、必ず貴方達の魂を神が救って下さるわ』

 

『おぉっ・・・!!』

 

 

 ロッソの口から飛び出る誘導の適当さに、グリージョは思わずクツクツと笑いを堪えるハメになった。

 神、使徒、そして導くと言うスピリチュアルな要素を織り込んだ言葉のチョイスに、彼らは例外なく心を引っ張られているらしい。

 

 まともな精神、思考で聞けば、はっきり言ってロッソの言葉はおかしなところが多くてとても胡散臭い。まず引っかかる訳が無い。

 それでもインカムの向こうから感嘆する声が聞こえてくるのは、彼らがこの世界の有様に絶望し、現実から目を逸らしたいがあまりにいつしか心の向く方がおかしな所へ行ってしまったからだ。

 

 

『さぁ皆、今宵も更けてきたわ。もう帰りなさい。また時が来た時、祈りを捧げる貴方達の前に現れてあげるわ』

 

『はっ!!』

 

 

 じゃあね〜、という間延びした声と共に、触手で滑る音が鳴り始めた。

 グリージョはロッソが今回の目標を果たしたと判断し、インカムを切る。

 程なくして見覚えのある赤い触手が伸びてきたかと思うと、屋上の床に吸盤を吸いつかせたロッソは一気に自らの体を持ち上げた。

 

 出迎えたグリージョを横目に、また人間の姿に戻ってゆくロッソ。

 変身が終わるや否や、露骨に顔をしかめてこう言った。

 

 

「逃げ癖が付いた人間って、思ったより思考マトモじゃないのね」

 

 

 ふぅ、と一息吐き、アップに纏めていた髪留めを外し二度三度頭を振った。

 サラサラの長い金髪が夜風にふわりと靡く。

 彼女自身、ああ言っておきながらも内心こんなモノで操れてしまうのかと呆れを感じたらしい。

 

 確かに。グリージョは首肯で同意を示した上で、カルト教徒達が何故生まれるのかを自分なりに読み解いた。

 

 

「何の力も持ってない弱い人間にとっては、この時代この世界は最早絶望でしかない。それでも、嘆いたって仕方無いと前を向いて生きていける奴がいれば、その逆もいる。

 不貞腐れてネガに生きるだけならまだ良いが、逃げ癖も極まってくるとオカルトに手を出し始めるヤツが出てくる。そのうちの一つのケースさ。ご苦労さん」

 

 

 グリージョはタバコを取り出し、火を点けながらロッソを労う。

 咥えたタバコを離し煙を吐き出したところで、ジト目で自身を見つめるロッソに気が付く。

 

 

「・・・タバコ止めたら? 百害あって一理なしよ」

 

「フン、短い人生の憩いぐらい許してほしいものだな」

 

 

 横目を細め、言外に止めるつもりは無いとアピールするグリージョ。

 

 

「はぁ・・・まぁ良いわ。それより、ねぇ?」

 

「ん?」

 

「ご褒美欲しいなぁ? 今夜、私と()()()()()()()()?」

 

 

 心なしか顔を赤らめたロッソ。あからさまに意味深な響きを含ませてると伝えている。

 チラリ、また横目で彼女を見るグリージョ。そして鼻で笑ってこう言ってのけた。

 

 

「ハっ、灰色と赤を混ぜたところで碌な色にならねえよ」

 

「・・・いけず」

 

「だがまぁ・・・」

 

 

 振り返ったグリージョはまだ先の長いタバコを携帯灰皿に放り込むと、ロッソのネクタイを引っ張って自身の胸元に抱きとめる。

 一瞬呆けた彼女の顔を顎に手を添え持ち上げると、唇へ自分のそれを押し付けた。

 

 

「んっ!? んぅ・・・ふぅ、っはぁ・・・」

 

 

 そのまま彼女の後頭部に手を添えつつ、開いた隙間から舌を潜り込ませ絡ませてゆく。

 しばらくそのままディープキスを続けていた二人は、ロッソが耐えきれず彼の胸を軽く押し込むことで終わった。

 グリージョは口元を手で拭い、余裕げな笑みを。対するロッソは両手で高鳴る胸を抑え、荒い息遣いで真っ赤に蕩けた表情を彼に向ける。

 

 

「はぁ、はぁ、・・・ぐ、グリージョぉ」

 

「続きは拠点に戻ってからな」

 

「あっ・・・」

 

 

 グリージョはロッソの腰に手を添え、共に階段に向けて歩いていく。

 彼らの計画は本格的に始動してゆくーー




 我ながら語彙力無さ過ぎて泣ける()
 ちなみにロッソのイメージ画像なんですが、本国版にて出てきたAN-94のスーツ姿で、色だけ違うという形で想定しております。
 なお声は女子無駄の小悪魔リリィのイメージ(自分で言ってて合わなそう)

 ドロッドロの関係(意味深)
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