裏稼業とカカシさん(旧題:裏稼業の何でも屋が出向く先には必ずカカシが待っている件) 作:chaosraven
暑い日々に心と体が溶けてました()。
冬は着込めばどうとでもなるんで良いんですが、夏はダメです。暑いの本当無理なんです。
今回14000文字オーバーですので、お時間あるときにどうぞ。
「ようレイ。この前の稼働データを元にちょいと調整加えたんで、もっかい仕事がてら使ってみてくれ」
「アインスさんに頼んで、テストにぴったりなお仕事をアサインしてもらったから! レッツゴーだよ!」
「・・・・・・あ?」
というわけで、俺の同意なく勝手にアサインされた仕事を遂行するべく、俺は高層ビルの立ち並ぶ大都市に来ていた。
時刻は2055。街で最も高い56階建のビルの屋上から、俺はネオンや街灯の明かりに彩られた夜の街を見下ろしている。
1日を生き残る事にすら必死にならなきゃいけない者がいる。そんな事実など、この街に住まう住人たちは欠片も気に留めていないのだろう。
電力も、水も、インフラがまともに整った豊かな居住空間。かつては先進国では当たり前だった光景を今なお残しているのは、もはや僅かしか残っていない。
希少となった
「・・・富める者からお高く頂いてく、ねぇ」
俺はこの仕事の依頼人が言ったセリフを呟いた。
そもそも依頼人はこれから何をしようとしてるのか。端的に言うと、街にある博物館から数多の展示品を掻っ攫い、ついでに銀行の金庫からも富める者の資産を全部掻っ攫おうという事らしい。
即ち銀行強盗と文化財泥棒をしようと目論んでいるのだ。手に入れた金やお宝は必要経費分を差し引いて、恵まれない立場の者に分配していくとのこと。義賊染みた振る舞いは結構だが、そのうち救いきれなくなってパンクしそうな気がしなくもない。俺の知ったこっちゃないが。
その強盗はアホなのか、わざわざ予告状を叩き付けてから盗みに行くと言う鉄板ぶり。余計に仕事やり辛くしてどうすんだと心の底から思うが、曰く『ベリーイージーでやってもつまらない。ベリーハードか”
『Mr.レイ。もうすぐ時間だよ』
「・・・・・・えぇ、分かってますよ」
インカムからアルト域の若い女の声が流れてくる。コイツこそ依頼人、そして裏社会では名を知らぬ者は新入りかモグリと言わしめるほどの有名人。本名不詳、その名も『Ms.アルセーヌ』を名乗る怪盗様だ。
モーリス・ルブランの書いた超有名小説の主人公『アルセーヌ・ルパン』に準えたネーミング。なんだミス・アルセーヌって。お前はルパンの子孫でも名乗ってるつもりか。
考えるだけ馬鹿馬鹿しく、どう思ってその名を名乗ってるのかなんて確認はしてない。だが確かな事は、その名に恥じぬ怪盗っぷりで獲物をパクっていくと言う事。Ms.アルセーヌは狙った獲物は逃さない。必ず奪われるってね。
そんな奴からウチのギルドに依頼が入ってきたと聞いた時には目的がわからず警戒したが、蓋を開けてみると盗みの手伝いを頼みたいというそれだけだった。
大雑把にいうと、俺が場を賑やかしてる間にこっそりお宝を貰い受ける。つまり、俺は囮である。
「・・・・・・分かってると思いますが、高くツキますよ」
『モーマンタイ♪ 最高に目立ってね!』
「はいはい・・・」
やれやれこの女は・・・。
ホッとため息を溢すとバイザーの電源を入れ、その上からアルセーヌの特徴たる仮面を着けて気を引き締める。
・・・ストレージとのリンクは感度良好。出し入れも問題なくイケるな。
喉に貼り付けた変声テープに触れ、あらかじめ録音しておいた声に切り替える。
「それじゃあ・・・街を騒がせに行きましょうか」
『OK。作戦開始!』
直後、周囲のビルの屋上から俺に向けて強烈な照明が当てられる。ヤツが予め予告状に、私はここにこの時間に現れるとご丁寧に書いていたせいだ。本当かどうかはともかく、ここに行くと言ってるのを警察達はスルー出来ない。
照らしてみていりゃ良し、いなくとも別に構わない。ここに派遣したポリス達以外にも、ターゲットの周囲の警備はもちろん万全に整えているから。
目が眩む強い光を一心に受けながら、ビルを流れる風にアルセーヌコーディネートの真っ白な
「Ledies and Gentlemens!! 予告通り、これより宝物を頂きに参りましょう!」
そして、グラップリングビームを柵に括り付けたまま勢いよく飛び降りた。
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『な、何と言うことでしょうか!? 怪盗ミス・アルセーヌがなんとっ、突然56階建のビルから飛び降りました!』
『いや、屋上の柵から何か伸びてますよ? ・・・これは、命綱でしょうかね?』
『ヘリからでは詳細は分かりませんが、その可能性は高うわっ!? うわぁああぁっ!!?』
『どうしましたか!?』
テレビに映る光景は視聴者にとっては衝撃的なのかもしれない。
アルセーヌの現れたビルの周りを飛行していたテレビ局のヘリコプターだが、ビルに向けられていたカメラが突然、下方向に思いっきり画角が引っ張られる構図になった。同時に聞こえたのは、レポーターの恐怖に染まった声。
画角は直ぐに元の安定を取り戻したが、マイクが拾うレポーターの息遣いはとても荒いものに変わっていた。
『ジョンレポーター、大丈夫ですか!?』
『ハァ、ハァ、すみません、アルセーヌのロープが、突然、ヘリの脚部に伸びてきて、引っ張られたモノですから、ヘリが大きく、傾いてしまって・・・』
『そんなことが・・・大丈夫ですか?』
『え、えぇ、なんとか・・・』
カメラは引き続きアルセーヌの姿を捉え続ける。
光る命綱を伸ばしたり引っ張ったりして、摩天楼の間をブランコのようにスイングしながら飛び回っていく。
『これではまるで、現代版のターザンの様な・・・』
『先ほど我々のヘリにやった行動を警戒してるのか、警察隊のヘリがアルセーヌから距離を取り始めましたね』
『警察のヘリが離れると言う事は我々が追跡するチャンスですね。パイロットさん、追い続けてください!』
『ジョンさんどうかお気をつけて! 一旦CMに入ります! チャンネルはそのままで!』
テレビの画面がコマーシャルに切り替わるのと同時に、ゲーガーは右腕に括り付けた端末の画面を消した。
この辺りで発信されている電波をキャッチしてテレビを見ていたが、わざわざ予告状を叩き付けただけあって、市民やメディアの関心は相当に大きいらしい。
特に上空から中継してるあるテレビ局のヘリなんか、体勢が崩れて墜落する恐怖すら味合わさせられたというのにまだ追い続けるという。アルセーヌからすればちょうどいい足場が自分から寄ってくる構図になるわけで、多分あと2〜3回は体の良い足場にされるんだろうなとゲーガーは思った。
さて、テレビ中継を通じて
「サーリャ姉さん。よろしく頼む」
「しっかり捕まって、気を強く持ちなさい」
返事をする間も無く体に慣性が掛かり、夜の街の空を飛行する二人。
今回の依頼は仕事ついでに『グラップリングビーム』の実地テストを行う事となっており、第三者視点からの観測に最も適した人材はやはりゲーガーという事で、彼女もこの街に来ていた。
が、依頼の内容上、アルセーヌに化けたレイはアルセーヌとして一人で行動せねばならず、そして歩く以外の移動に道具がいるゲーガーだけだとどうしても見失う可能性が出てしまう。
そこで浮遊して動けるスケアクロウが、観測に専念するゲーガーの移動手段として同行しているのである。
ちなみにどうやって一緒に動くかという方法だが・・・
「・・・・・・この体勢はやはり恥ずかしいな」
「そうかしら? 私は可愛い妹の温もりが感じられて悪くないと思ってましてよ」
見た目にはおんぶ紐のようなハーネスを使って二人の体を括り付け、スケアクロウにゲーガーが後ろから胸を押し当てる形で密着している。スカイダイビングで観光客とインストラクターがくっ付いてるのと同じ構図だ。
「姉さんはそうかもしれないが・・・いや、今は集中しよう。姉さんがどう動くかはリンクで常に送ってくれると心構えが出来て助かる」
「分かりましたの。・・・舌を噛まないように気を付けなさい!」
スケアクロウがスピードを上げ、縦横無尽に飛び回るアルセーヌの追跡に入った。
ビームの足がかりとなる高い建物には困らない。以前レイが言ってたが、彼自身はロープ一本で宙吊りになる事自体に抵抗は無く、アルセーヌの声で高笑いしながらブラブラと動き回っている。
追いかけるスケアクロウ達も、闇に紛れるフード付きの黒のローブを纏った姿でレイを追う。この間ゲーガーは眼球レンズを遠方観測モードに切り替え、遠くに見えるグラップリングビームのコンディションを確認する。
メーザー技術系の動作に異常が無いかを絶えずチェックし、テストの成り行きを見守る。もしビームが切れた場合は、猛スピードでスケアクロウが突っ込む予定だ。
「あーはっはっはっはっはっはっは!!」
「・・・レイさん、あれ絶対楽しんでるよな」
「・・・新しく手に入れたオモチャが気に入ったみたいですわね」
街の至る所に建つ高層ビル。そのフックになりそうなところを器用に見つけ、ビームを伸ばすレイ。まるでアクションゲームの様なスイングを何度も決め、白いマントをはためかせながら華麗に空を舞う。
かと思えば自らを追跡するテレビ局のヘリに向けてビームを伸ばしたかと思うと、次のビルが射程に入るまでぶら下がっていたり。それもただぶら下がるのではなく、地上ギリギリまで体を下ろすと、道路から追尾しているパトカーの屋根でぴょんぴょん飛び跳ねたりして挑発したりする。
ちなみにこの手の警察相手にバカにする様な所業はアルセーヌ自身もよくやっているので、今のところレイの正体がバレる心配は無いだろう。・・・アルセーヌはアルセーヌでも、初代ではなくその孫が活躍する某漫画由来なんじゃとゲーガーは思い始めてきた。
「・・・しかし、さすがウラカンさんだ。初めて手を出した分野と聞いてたが、今のところ全く問題らしい問題は見えてこない。逐次私に送られてくるモニタリングデータにも異常は無いし、素晴らしいな」
「あら・・・・・・アーキテクトは褒めてあげないんですの?」
「む? ・・・んまぁ、ちょっと褒めるだけにしておこう。正面から褒めたら調子に乗って何するか分からないぞ」
「そうかしら? ゲーガーから褒めるのも大切なコミュニケーションだと思いましてよ」
「むぅ。そう言われても・・・・・・正面からはっきり言うなんて照れ臭いじゃないか」
「照れ臭くても言うべきものは言うべきですの。姉から妹への命令ですわ」
「横暴だな」
そんなやり取りをしつつ、パトカーの上で飛び跳ねてたレイを見守る二人。そこへ、
「あ」
モニタリングしていたゲーガーが突如呆けた声を上げた。
「「あ?」」
ヘリの脚部に伸びていたビームが突然消滅し、微妙に宙に浮いていたレイの体は容赦無く
「ぐはっ!?」
顔面から落ちるという、最高のマヌケっぷりをお茶の間に流しながら。
『・・・・・・』
「・・・・・・」
「「・・・・・・」」
テレビ、レイ、スケアクロウ達、レイを囲う警察官達、その全てに気まずい沈黙が漂った。
なお一部には必死に笑いを堪えているポリスメンもいる。
痛む顔に手をやりつつゆっくりと立ち上がる
どこぞの『絶対笑ってはいけないポリスメン』といった空気感が漂う中、
「・・・あーっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!!」
突然笑い出した。
「いやー今日はせっかくの日だし、試作品を今回使ってみたんだけどね?
「・・・なんだそりゃ」
誰かが言った。
そりゃ顔面から真っ直ぐ落ちれば固くて痛いだろう。何を当たり前のことを初めて知ったかの様に言っているのだ。赤っ恥を取り繕うにしても、もう少し別の言い方があるんじゃ。
この場にいる者達は大体そんな様な事を思っていた。
一方。
(・・・こうなればプランBというやつか? 姉さん)
(止むを得ません。捕まればどの道面倒なことになります)
(分かった。では姉さんは回収と、私にも重力操作を頼む)
(心得ましてよ)
自らを結びつけていたハーネスのロックを解き、ゆっくりとスケアクロウから離れるゲーガーの体。
だがその身は重力に従って落ちることなく、そのまま空中に浮いたまま。スケアクロウの重力操作は、離れすぎなければ直接触れてなくとも行使する事が出来る。
そして二人は真っ黒なローブを纏い、目元まで隠れるフードを被っている。顔を隠す用にオバケみたいなデザインの仮面もある。
これで突如アルセーヌの元へと飛び込み、宙に身を浮かせたままグルグル回るなどすれば、得体の知れない存在と思わせて隙を作れるかもしれない・・・という事を今思いついたスケアクロウ。
(ゲーガー、この様に動きましょう。多分、少し戸惑わせるくらいの隙は作れる筈です)
(大した反応が無くても、ピックして早く逃げれば良い)
(ええ。それでは早速飛び込みますわよ)
仮面を付け、3カウントの後、ローブの彼女達はアルセーヌの側へ高速で飛び入った。
さらに無言でアルセーヌの周囲をグルグルと飛び回り、取り囲む警察官達を注意を引く。
と、アルセーヌが右手を高く上げたかと思うと、
パチンっ
親指を鳴らした。
二人は周回飛行を止め、アルセーヌの後ろに浮いたまま控えた。
「・・・どうだい? ボクの可愛い可愛いオバケちゃん達は。おぉっと下手に手は出さない方が良いよ? ボクだって怒ったこの子達を鎮める方法分からないんだから」
刹那、スケアクロウが一人の警察官の目の前までズズイっと飛んでいくと、そのまま彼の周りをグルグル回って見せた。
かと思えば頭を思いっきり近付け、ガンを飛ばしてからアルセーヌの元に戻る。
「なっ!? なんだこいつは!」
動揺を隠せない様子でピストルを向ける警察官だが、スケアクロウはそんな彼の手から軽々、そして無理やり奪い取って銃身をねじ曲げてしまう。
電子戦専門といえども、義肢の出力は並の人間の比では無い。バレルを力づくで握って形を歪める事など簡単なのだ。
しかし、オバケみたいな仮面、夜、真っ黒なローブ、浮いてる、そしてアルセーヌ自らオバケちゃんと宣言した等の事実が合わさり、その上自身が相手に対抗できる強力な武器が呆気なく使い物にならなくされたのを見た彼は、もしかしたらスケアクロウが本当に
その顔はもはや恐怖に染まり、目には涙が溜まりつつある。多分、もうすぐ鼻水と一緒に溢れてくるだろう。
「なんだこいつはと言われても・・・ボクに付いてくるオバケちゃん達?」
「そんなこと聞いてるんじゃない!」
「だろうね! それじゃあそろそろ本命の元にお邪魔しようかな?」
「なにっ!?」
本命へ向かう、その言葉に警察官達はいよいよ銃を抜いてアルセーヌへと向ける。
決してここから逃さない、盗らせてなるものかと。
アルセーヌは数多の銃口が自身に向けられているにもかかわらず、優雅に余裕げな態度を崩すことはなかった。
側に控えるオバケ?達の存在がいることで、この状況を打破できると言わんばかりに。
事実、それを裏付けるかのようにアルセーヌは再び右手を空にかざし、指を弾いた次の瞬間—————
「”余興”はオワリだよ」
どこかで響いた爆発音と共に、街のすべての明かりが消えた。
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『今ですわ!』
『よし脱出だ!』
俺の側に来てくれた二人の声がインカム越しに流れた直後、かざした手をスケアクロウに引っ張られ、真っ暗になった摩天楼の夜空に飛び立った。
間髪入れずストレージにクソ目立つアルセーヌのマントを仕舞い、代わりにスケアクロウ達と同じローブを頭から被って闇に紛れる。
これで停電が直っても俺の姿は捉えにくくなる。というか、もはやこの街に用は無くなるところまで段階は進んでるんだがな。
「悪い、フォロー助かった。即興でオバケを演じた割には上手いこと隙を作れて良かったよ。
ところで依頼人から連絡があってな、思ったよりも早くブツを奪えたらしい。予定より早いが、集合場所に向かおう」
「分かりましたわ」
「んで、データの方は十分に取れたか?」
「ええまぁ。ただ、先の様に人の体重を支えながらブランコの様にスイングして飛び移るという使い方には、出力はもちろん、回路自体の耐久性も足りない様です」
「なるほどな。OK、ありがとさん」
「いえいえ」
さて、なぜ指パッチンした直後に停電したのかというと、お察しの通り発電所を爆破したからである。
ただし、爆破したのは俺ではなく
もちろん、それでも狙うと宣言していた施設の警備も手厚く整ってはいたそうだが、天下の大泥棒相手に並の警備員が束になったって結局勝てやしないとは本人曰く。
殺さず痛めつけず、そして華麗な手捌きでまんまと目当ての品をすべて盗み取った奴は、ホクホク顔で用意しておいた脱出ルートから無事に脱出。が、俺が囲まれて危ないかもという状況を知った奴は、奥の手で用意しておいた発電所の爆弾を発動する事を提案。
応答する代わりに再度手を上げることで奴はちゃんと意図を汲み取ってくれ、ヘリからの映像で見える
「では、例の地点に向かいましょう」
「頼んだ」
そうして飛んでゆくこと暫し。
街の外周部に建つ、とあるボロいアパート。この辺り一帯は住民の中でも低所得層が暮らしており、家賃は安いが設備も貧しいところが多い。
かろうじてインフラは繋がっているものの、シャワーすらも部屋に無いという作りのアパートが殆どだ。従って近くにある銭湯に行って身を清めるってのが住人達のルーティーンらしい。割高な水代を払って体を洗わなきゃいけないため、銭湯通いは生活費を大きく圧迫してるとも聞く。
ま、水が通ってて風呂にも入れるんだから、少なくとも俺の寝ぐらよりはマシな条件だが。閑話休題。
集合場所として指定されたのはそこの一室。今回の強盗劇にあたり、奴が警備体制を調べる時に使っていた仮拵えのアジトである。
誰もいないところで降り立った俺たちは、気配を消しながら迅速に目的の部屋の前へ。懐からFive seveNを出し、顔を見合わせて合図をする。一つ頷いたスケアクロウは予め渡されていた合鍵を入れて解錠、静かに扉を開いた。キィという音が鳴りはしたが、このくらいなら気に留める者はいないだろう。
拳銃を構え、足音を立てない様に中へ入る。暗視モードにしたバイザーで周囲を、耳で音の反響を拾いながら。
無人のため、当然部屋は真っ暗である。間取りも狭く、隠れられそうなポイントのいずれも人型の反応を察知出来なかったので、暗視モードを解いてゲーガーに電気を点けるよう言った。
「・・・これは、
「なに? このパッと見体重計みたいなのがか? 確かにそれっぽいデザインだが・・・」
すると、部屋のど真ん中に幾何学的デザインをした一辺40cm程度の薄い金属の板が置かれていた。
見た目は円、その四隅から直線が伸びる様な意匠。白く塗られた板を縁取る様に円形のシルバーメッキが加飾されていて、また円の部分は10cm程の厚みを持っている。外周に向かうにつれて薄くなっていく、横から見た時に台形になる形状をしているようだ。
この厚みの部分に機器を配置してるんだろうが、しかし今どき転移装置ってこんな小さく済むんだな。
身近な例でいうと、例えばエージェントはあの身体の中に自分や周りの人間も合わせて転移させられるが、それに関してはコスト度外視でミニマム化を達成したもんだと思ってたから、当てにならない気がしてたんだが。その認識は少々改めなきゃいけないらしい。
「・・・ところで、見た所ついさっきまで人が居た形跡がありますね」
「ああ。ココは
明かりを点ける前にバイザーが拾った情報には、布団の部分が微かに白い光を纏っていた。
つい先ほどまで、この布団に熱を伝える存在がいたことの証明である。実際に触れてみたが、やはりここを離れてからまだ時間は経過していない。
「少し休んでから本拠地に帰ったと言う事でしょうか?」
「さあてな。それに、潜伏中はともかく今もコレが奴の拠点に通じてるかは分からん」
「そうですわね・・・」
部屋の真ん中に置かれた装置は隅のコンセントから電源を引っ張っていて、起動させることは出来る様だ。
が、モノの性質上気易く触れるには些か抵抗がある・・・うん?
「このロゴがあるってことは、コイツも鉄血製なのか」
電源ボタンの隅っこにちっちゃく、見覚えのあるロゴとS.F.の文字があった。
通りで見た途端、すぐにスケアクロウが
「ええ。来客は入れない
「生み出した人形の出荷前動作テストをする時に、これがあると大幅にチェックの時間が短縮されて楽だったみたいです」
「おかげで、工場によってはこれのせいで迷路と化してるかもしれませんわね」
「それどころか、これに乗った侵入者を中途半端にデータ化して絶命させるのだって容易いんじゃないのか?」
瞬間、後ろ二方向から浴びせられるジットリとした視線。
「「・・・・・・悪魔みたいな事言うんですのね(言いますね)」」
「人類抹殺を掲げてるならそんくらいやるもんじゃねーの? っ! 構えろ」
玄関の先に人の気配を感じた俺はすぐさま銃を構える。
スケアクロウはビットを窓側へ、俺とゲーガーは手持ちの拳銃を玄関へと向けた。とその時、
『ボクだよボク。飲み物買ってたんだ。とりあえず入りたいから、もし物騒なもの出してるんならしまっといてくれないかな?」
とか言いながら全く気にする事なく戸を開け、缶コーヒー数本を抱えて普通に入ってきたアルセーヌ。
インカムと扉越しから同じ声が聞き取れたので、間違ってぶっ放すことはしなかったが。
「お疲れ様です、Ms.アルセーヌ。先ほどはコチラのミスをフォロー頂きありがとうございました」
Ms.アルセーヌ。
セミロングの金髪に長身痩躯の体型、胸は小さいが身長が高いため凛々しさを感じさせるが、目は比較的大きい方でパッチリ気味。従って童顔寄りとも言えるかもしれない。絶妙に歳が分かりにくい顔付きである。
そんな彼女は如何にもなホクホク顔で、彼女のやりたい仕事は満足いく出来で終えられたのだろう。
持ってきた缶コーヒーを俺たちに手渡し終えると、ベラベラと結果を自慢し始めた。
「良いって良いって。それよりもさっ、おかげで色んなお宝が手に入ったよー。ビーナスの涙とか、炎の瞳とか、ほんっと素晴らしい名作の数々が手に入って最高だね!」
「それはなによりです。さて、目的も達成した事ですし、残りの報酬を頂きましょうか」
「ほうほう。じゃあ、報酬として一晩ボクのこと抱く?」
ギロっ、背後から視線が突き刺さった気がした。
「事前に指定した通りの物でお願いします」
「えー、じゃあ・・・さっきのフォローのお礼と言う事で抱いてって言ったら?」
「契約外です。それとこれとは話が違いますので」
「ケチ。ボク、君のこと気に入ったのに」
そう言って、覗き込む様に見上げてくるアルセーヌ。顔が近い。
「ほーん??? 緊張して声も出ないって様子だね?」
「緊張よりも後ろからの殺気を感じてますがね。さぁ、おふざけは程々にして早く残りの報酬金を」
「ふーん・・・じゃあさ、ボクの本当の姿を見てもそう思えるのかな?」
「「「はい??」」」
アルセーヌは身を翻してニヤリと笑うと、ウィンクした次の瞬間自らの頭頂部を鷲掴みにして金髪を取り去ってしまった。
その下に隠れていた、幾重にも編み込まれていた髪の結び目を解くと、サラサラと揺らめく青みがかった長い黒髪が現れる。
なるほどね・・・パツキンウィッグを付けようが付けまいが、ルックスには自信があるというわけだ。好みの方向性が大きく異なってない限りは、この本来の姿を見た誰でも美女というだろう。
しかし、彼女はわざわざ隠していた本性を俺に晒して何をしたいのやら?
・・・面倒臭くなってきたな。実力行使でさっさと払わせるか。
そう思ってる俺の内心など露知らず、アルセーヌは再び覗き込むように見上げてきた。ムカつくにやけ顔とセットで。
「・・・惚れた?」
ブチリ、後ろで何か切れた音が聞こえた気がした。
あぁ、もう知らん。
「早く残りの報酬を指定した通りにお渡しください。これ以上時間を引き伸ばそうとするならば—————」
俺は左手を上げ、さっきから強烈な殺気を放つスケアクロウに合図する。
刹那、俺の頭上と真横に発射態勢を整えたビットが浮かぶ。それを見て、流石にアルセーヌも表情に焦りが見え始めた。
「え、ちょちょちょちょ、・・・・・・撃つの?」
「早く指定した通りの報酬をお支払い頂ければそれで済む事です。払わないのなら相応の対価・・・まぁ貴方を
・・・我々がどういう組織か、知っていて依頼を掛けたのでしょう? でしたら、契約はきちんと最後まで履行すべきです。違いますか?」
「わ、分かったよ! 分かったからその物騒な物をしまってよ!?」
「今、お支払いくだされば済む話です」
「うぇぇぇぇ・・・」
俺からは見えないスケアクロウの顔が見えているせいもあってか、渋々といった顔をしながらもアルセーヌはきちんと残りの報酬の支払いに応じた。
アルセーヌのクレジットからギルドの口座に金が移されるのを確かに確認したが、念には念を入れてスキャニングをしてみる。が、異常は無し。
「・・・・・・」
「な、なにかな?」
「いえ、確かにお支払い頂けた事を確認しました。それでは、今後とも『
「う、うん。また何かあったらお願いしようかな!」
「では・・・」
俺はスケアクロウ達に目配せし、そっとこの部屋を後にしようとする。
去り際、アルセーヌはこう言った。
「今度もしどこかで会った時には、私の本当の名前で呼んで欲しいな」
「?」
「私の名前は『ポランシーノ』って言うんだ。どこかで見かけた時には、是非呼んでね」
「・・・機会があれば」
営業スマイルを返し、今度こそアパートを後にしようと扉を開けた次の瞬間。
「むっ? 貴様、その格好・・・報告にあったアルセーヌの仲間か? 逮捕だ!」
「「「あ?」」」
アルセーヌと鬼ごっこを続ける国際警察的なとこの警部さんらしき人が待ち構えていた。
「あれ、とっつぁん! よくここが分かったね! でも残念! ボクはもう行くから! それじゃアデュー♪」
「「「あ゛!?」」」
ムカつくウィンクを決めたアルセーヌ改めポランシーノは、敷いていた
おまけに、転移完了と同時にプスプスと煙を立てた機械。基盤に細工をして、用を成した直後に使い物にならなくしておいたようである。
なんだかんだで抜け目の無い奴のこと。恐らく転移先の情報など、バレたくないデータの入った記憶領域や仕込んだ細工だけを綺麗に燃やす壊し方をしてたのだろう。
そして、とんだ裏切りで置いていかれた俺たち三人と、アパートを包囲している警官隊と警部殿・・・。
暫し沈黙が支配し・・・
「あぁんのバホヤローーーーーーー!!!!!」
腹一杯叫びながら、ストレージからスタングレネードを引っ張り出してピンを抜く。と、意図を察したスケアクロウの手引で身体がほんの少しだけ軽くなった。
「おっ!? おわぁっ、そんなモノ持って何するつもりだ!?」
「・・・こうすんだよっ!!」
目の前でピンを抜かれてへっぴり腰になってる警部殿を前にして、俺は破裂直前のスタングレネードを思いっきり床に投げつけ、素早く人差し指で耳を塞ぐ。同時に発光。そして浮遊する俺達の身体。
「ま、待てーい! お前達も逮捕だぁっ!!」
「誰が捕まるか!」
俺達の身体はあっという間に拳銃弾が届くよりも高い高度に浮き、こちらを狙えるのは警察のヘリ位になった。
がしかし、今は警察の警戒度が最大まで高まってる状況。何が何でも早く脱出しなくちゃいけない。
まんまとダシにされた己のアホさに頭が痛くなってきた時、街の外、街を囲う壁から少し離れた所からコチラに向けて発光信号が送られてるのに気付く。パターンはモールス・・・ふむふむ。
「Go home・・・ゲーガー、あの光の発信者見えるか?」
「心配いりません。アインスさんです」
「仕事早くて結構。スケアクロウ、頼んだ」
「ええ」
急降下して光の元へと飛ぶ。
そこにはギルドのストライカー装甲車が停まっており、アインスはハンディサイズながら数百mまで光の届くライトを点け消ししてメッセージを送ってくれてたらしい。
地上に着地した俺達は開いていた後部ハッチから乗り込み、纏っていたローブを脱いで普段の格好に戻る。
程なくして運転席上のハッチからスルリと乗り込むと、アインスは慣れた手付きでエンジンを始動、スピード重視のかなり揺れるドライブが始まった。
暫し揺られてると、インカムからスケアクロウの音声が流れてきた。
『・・・スケコマシ』
カクン、体から力が抜けた。
「・・・俺のせいなの?」
『アンタ何したの?』
「うわっ、しかもオープンチャンネルじゃねえか」
思わぬ方向からの声で気付く。
俺宛の個人回線じゃないのかい。
「・・・まぁ、何故惚れただの抱いてとなったのかは、私から見てもよく分からないんですが。今回ばかりはレイさんが見に覚えが無いと言うのも納得出来るかと」
「今回ばかり?」
引っ掛かる言い方をされた俺は、この後に出てくる言葉に嫌な予感を感じながらも目線で先を促した。
ゲーガーは何故か少しだけ頬を赤らめると、定まらない視線をあちこちに飛ばしながら気不味そうに爆弾を放り込んだ。
「実際、過去にはやることはやってきたんですよね? 例えば・・・アインスさんとも?」
ギクリ。車の動きが少し乱れた。
俺は反射的に運転席の方に目をやってしまう。
・・・。
「・・・」
『・・・』
『えっ・・・?』
何それ初耳なんですけどと言わんばかりに目を見開き、グリュンと振り向いたスケアクロウ。ジッと俺を見据える彼女と、話題が話題なだけに無意識的に目を逸らしてしまう俺。それと沈黙を続けるアインス。なおハンドル捌きは若干不安定さが増している。
俺たちの反応は完全にクロそのもの。なので詳しく聞かせろとばかりに凄み始めるスケアクロウ。いや、うん、あんま気持ちの良い
俺と彼女の間に漂い始めた空気を察してか、顔の赤いままのゲーガーが小声で割り込んだ。
「・・・やっぱりそうだったんですね。付き合いが長いと聞いてましたし、歳の近い人間の男女なら・・・そういう事もしますよね・・・」
「・・・・・・」
『・・・なんで私達辱められてるのかしら』
『・・・・・・レイのバカ』
スケアクロウさんに名指しでバカと罵られた。
んなこと言われたってな・・・。
「いや、俺の歳でサクランボって、超レアな天然モノクラスだぞ・・・」
「つーーーん!!!」
・・・・・・完っ全に拗ねた。
過去に嫉妬されたってどうしようもねえでしょうが。
・・・とりあえず、今この場で下手な事口走って藪蛇になったら喧嘩になるかも分からないので、道中俺は沈黙を貫く事にする。
どうしても気になるって言うのなら、多分着いたところか夜中にでも聞きにくるだろうと思って。実際進んで話そうとは思えない話題でもある。
アインスがレイ達を拾う数時間前。
16Lab VIP専用のロータリースペースにて—————
「あの・・・アインスさん?」
「はい?」
「ここって・・・私達にとってものすごくアウェーな場所な気がするんですけど」
「気のせいだと思いますよ」
「えぇ・・・」
鉄血の工場から命辛々逃げ延びた研究者兼役員であった『リーサ・スタインフェルド』とその部下三名の女性研究員。
彼女達はアインスの駆るストライカーに乗せられ、16Labの研究棟にやって来ていた。
かつてのライバル企業、その技術の全てが結集していると言っても過言では無い上位研究機関『16Lab』。鉄血工造出身の彼女達にとっては、究極にアウェーで気不味い所ではない場所である。
そんな彼女達の内心など知った事じゃないとばかりに後ろから四人の肩に手を回すと、アインスは平均女性を上回る体力を発揮してエントランスへと押し込み始めた。
「さ、
「えっ、ちょ、ちょっと待っt」
「いつまでもここに立ったままなのもリスクがあるので早く入りましょう」
「ちょ、押さないで下sって力強い!?」
自動ドアが開いて中に迎え入れられる5人。エントランスに立っていたのは二人の人物。
一人はI.O.P.のCEOであるハーヴェル。もう一人はこの16Labの主任研究員である『ペルシカリア』だ。
「・・・あ、ど、どうも」
気不味い気持ちをなんとか表に出すまいと笑顔を返すリーサだが、どうにも居心地の悪さを隠しきれてない強張った笑みになってしまっている。
一方ハーヴェルは彼女の様子を見てそれを察し、深いシワの刻まれた顔に柔らかな笑顔を見せつつ、予め聞いていた情報をペルシカリアへと伝えた。
「紹介しようペルシカ。彼女はリーサ・スタインフェルド、鉄血ハイエンドのウロボロスの開発主任を務めたエンジニアだ」
「へー、本当に生き残りがいたなんてね・・・。
アタシはここの主任研究員をしてるペルシカリアよ。貴女達にはこれから色々と頼みたい案件があってね、是非とも力を貸してくれると助かるわ。よろしく」
「しゅ、主任研究員!? し、失礼しました! 私はリーサ・スタインフェルドと申します! これからどうかよろしくお願い申し上げます!」
「いーよーそんな気ぃ使わないで。めんどくさいし、ペルシカって呼んでくれればいーから」
「そそそんな、恐れ多いです・・・」
Topic:16Labに鉄血の研究員が加わりました。
結局、ポランシーノって何者やったんや()
(多分)次回からコラボに移行します。