裏稼業とカカシさん(旧題:裏稼業の何でも屋が出向く先には必ずカカシが待っている件) 作:chaosraven
体調崩しまくりで思っクソ時間掛かってすみませんでした。
————ヘンブリー・ステイン強襲作戦の前日
G&K A-01地区 本社にて
グリフィンの上級代行官ヘリアントスは、元々キリリとした佇まいに一際鋭利な雰囲気を纏わせながら早足で歩く。
モノクルの奥に光るその目には苛立ちを湛え、廊下ですれ違う社員の多くが彼女を見た途端、ギョッとした顔をして敬礼と共に道を譲る。
普段なら頷くなり礼の一つも返して通り過ぎる程度の配慮はするが、今のヘリアントスにそんな事へ気を回す余裕は無かった。
「はぁ・・・よりによってこのタイミングでか」
「? 何か申しましたか?」
「なんでもない、此方の話だ」
そう言って、自身の
先日クルーガーから伝えられた情報もあり、なるだけ本社の管轄外の地域に出る事は控えていたヘリアントス。
自分が社長と近しい立場の人間であることを理解している彼女は、もし仮に自身の身に何か起これば、下手すれば会社の運営を左右しかねない事も分当然分かっている。
故に、貴重なチャンスを棒に振ってしまうと内心嘆く気持ちはあれど、皆に迷惑は掛けられないと己を律して合コン通いも封印した程に。
しかしここに来てなんと、東欧地域のライバルPMCにさらなる不審な動きが見られると言う嫌な報告が、今度は身内の諜報部から入った。
『近々面倒事が起こる気がしていてな。心構えはしておいてもらいたい』
『・・・ここのところ、我が社に反感を持つ組織、団体、果ては裏社会の仕事人に至るまで、様々な人種が怪しげな動きを見せている』
怪しげな動きを見せる様々な人種の中でも最も相手にすると厄介な存在、それがグリフィンが本拠を置く東欧にいるライバルのPMC。その数は4社。
政府とPMCとの間で管轄地を取り決める『行政地区分譲協議会』の際、グリフィンが低汚染地域を多く獲得していった事に恨みを抱いてるであろう事は、表に言ってないものの謂わば公然の秘密と呼べる事実である。
まともな居住地が少なければ人口は増えにくくなるし、それが原因で人口流出して税収が減れば勢力低下の恐れもある。
態々大枚叩いて地域行政への入札権を獲得したというのに、蓋を開ければまともに生活出来る土地が少ないとなれば、誰だってグリフィンに対し負の感情を抱くのは当然だ。
実のところ、ヘリアントスもそうしたクルーガーの所業に対して思う所はあったのだが、今や自身もその恩恵を大きく受けている立場なので、口が裂けてもクルーガーを批判するなんて真似は出来ない。
そして彼らも彼らでなんだかんだ逞しく、今日に至るまで堅実な地域運営を行い、膝元で暮らす住人達を生き長らえさせてきた。
協議会から既に何年も経過している。今更過去の事を持ち出して敵対行動を取るには少々浅はか過ぎるのでは?
ヘリアントスはそう考えるも、実際に動いてる以上は何かしらの理由と目的がある。
それが何であれ、こちらに不利益を齎すつもりなら相応の対応を取らせてもらうつもりだった。
厳しい表情のまま、VIP用の地下エントランスまでやってきたヘリアントス。
彼女やクルーガーの様な重役や、衆目に晒したくないVIPゲストのため、地上にあるエントランスとは別に設けられたロータリー状の入り口。そこに社用車の『Lexvault Crown』製セダン車が停められていた。
ヘリアントスはこれから、4社管轄の区域と境を接する地区の指揮官らと共に対応を協議するべく、本部地区から離れた別地区へと向かう。
場合によっては戦力の増強等、指揮官よりも上位者の承認が必要になる為、オンラインミーティングではなく自ら現地に赴く必要があるのだ。
ちなみに会議自体は明日開かれる予定だが、彼女は前日に前入りして一泊してから参加するつもりである。
車の傍に控える形で立っていた運転手は、彼女らの姿を見るや丁重に後ろ席の扉を開けにこやかな笑顔で出迎える。
「お待ちしておりました、ヘリアントス上級代行官」
「ああ。急な出張で済まないが、道中よろしく頼む」
「お任せ下さい」
運転手のエスコートに従い、後部座席へ乗り込む。
ドアを閉める前、部下にもバッグを受け取りながら声を掛けた。
「貴官も、私が不在の間は頼んだぞ」
「了解致しました。進められる決済は此方で進めておきます」
「うむ。出してくれ」
「かしこまりました。扉、閉めさせて頂きます」
彼は笑顔を崩さないまま、丁寧に扉を閉めた。
そこから運転席に乗り込み、緩やかに車を発進させる。といっても自動運転が標準搭載されているモデルのため、彼は念のためステアリングに手を添えるだけ。
それでも高級サルーンの乗り心地は、厄介事を目前にささくれだっていたヘリアントスの心を少しだけ安らかにさせる。
道中走ること暫し。車内の雰囲気が少し緩くなり、そして車が
「・・・どうやら大変なお仕事の様ですね」
「あぁ・・・出来るだけ穏便に済ませようとすると色々なところに頭を使う問題でな。今から考えるだけでも気が重くなるよ」
「そうですか。でも、あまり心配する必要は無いと思いますよ」
「・・・ん? それはどういう—————
そう言った運転手の声はくぐもっていた。
ヘリアントスは咄嗟にドアを開けて逃げようとするも次の瞬間、後部座席用に色んな所に開いた吹き出し口から強い風が彼女に向かって吹き付ける。
こんな場面で空気を吹き当てる、気体の正体に気付いたヘリアントスは口元を袖で覆うも、運転手の男の声はそれを嘲笑う様な声色で語り掛ける。
「即効性の催眠ガスです、強い眠気がすぐに襲うことでしょう。
それにしても、自動運転の車ってこう言う時に便利ですね? おかげでハンドルを握らずともガスマスクを着けられる。貴女もこの事態に大分苛立っていたのか、目を瞑ってまるで此方の様子を見ようともしませんでしたし」
「き、貴様・・・!!」
男は身を乗り出して振り返る。
袖で口元を押さえたヘリアントスから発される、仇敵を射殺さんばかりの視線を受ける男。だがそのまぶたは既に1/3ほどが閉じられており、強烈な眠気に必死に抗いながら何とか睨み付けている様な状況。誰がどう見ても詰み、故に男の余裕綽々な態度は崩れない。
「我々の目的のためにご同行願いますよ、ヘリアントス上級代行官殿。ですが、まぁ今はゆっくりお休み下さい。時が来れば起こして差し上げます。多少手荒なやり方を選ぶやもしれませんが」
「く、クソ・・・」
ヘリアントスは呟く様に漏らした後、ぐったり脱力しながら意識を落とした。
男は完全に彼女が抵抗不能になったことを確認すると車を停め、グローブボックスから手錠2つとボールギャグを取り出し、一旦車を降りて後ろ席へ。
慣れた手付きで両手足首を手錠に掛け、口にボールを噛ませて後頭部で縛り猿ぐつわにする。
次に腰のベルトに掛けられた背部のホルスターを開き、護身用の『ベレッタPX4ストーム サブコンパクト』を取り出し、マガジンを出してからコッキング。既に装填されていた弾を取り出し無力化する。
続いてベルトを緩めてコートを開き、中のシャツやスカートを外から触って隠し武器や通信機の類がないかをチェック。
それが終わると今度は持ち込まれたボストンバッグを開き、中を物色。着替えの類には目もくれずに探していると、普段から彼女が持ち歩いているタブレット端末を見つける。
男はヘリアントスの指紋を使ってロックを解除。通信形態を機内モードに切り替え、さらに念には念を入れてSIMカードを抜き取ると、一旦画面を消したそれを助手席に置く。
中にはグリフィンの重要なデータが入っていると思われるが、それを吸い出す前にまずは
最後に拘束がちゃんと出来ているのを改めて確認した男は運転席に戻り、今度は自身の手で車を発進させた。
目的地はグリフィンのR20地区。そこに仲間・・・フレイム・スコーピオンズ社の暗部工作部隊が秘密裏に拠点を設けている。
マスクの内の男の口元に歯が見えるほどの深い笑みが浮かぶ。これから起こるグリフィンへの攻勢に愉悦を隠せなくて。
男は首に括り付けた二つの黒いポッチ・・・スロートマイクに指を添える。
「こちら『S』。パッケージを確保した。これより
『了解したS。くれぐれも丁重にな』
「ウィルコ」
短いやり取りを終え、男・・・Sはマスクの奥の目に並々ならぬ熱情を宿し言った。
「待っていてください
車は本来進むべき方向とは、全く違う方へと走り去ってゆく。
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グリフィン本部 地下独居房
ブリッツ指揮官率いる多目的戦闘郡がR20地区に飛び立ってから1時間後。
黒い壁に仄暗い照明、そして機械仕掛けの扉で完全に隔離された個室。たった1日過ごすだけでも気が滅入りそうな部屋。
「・・・クソ、あの野郎。この俺の首にナイフ突き立てた挙句、情報を吐かないなら死んでも構わないだと? クソ、クソ、クソッ。この俺を誰だと思ってやがるっ」
S-10地区指揮官のブリッツによる、まさに生死の際に立たされる
彼は過去、違法薬物の取引をグリフィンにお釈迦にされただけでなく、今回も新たに立ち上げた武器商としての大きな取引を潰された。
二度も自身の仕事、それも大金が動く依頼を滅茶苦茶にされたとあって、彼の心は怒りに荒ぶっている。
グリフィン如きがこの俺の道を阻むだと? そんな事認められない、認めてたまるかと、概ねその様な感情が煮え切っている。
「チッ・・・だがここまでやられた以上、武器商も店じまいしなきゃなんねえ。また新しくビジネス立ち上げるにしても、今度はどこに手付けるべきか・・・」
一方で商魂逞しい彼の思考は、グリフィンから出た後にどの分野で儲けをだそうかと考え始めていた。
数年前、
惜しむらくは、”表”より遥かに慎重さと正確さが求められる”裏”の仕事にはあまり適性が無かった点か。”表”で真っ当にビジネスを手掛けていれば、恐らく彼は堂々と幸せな暮らしを謳歌出来ていただろうに。
独居房の床に小さく開けられた換気用の通風口から、小さくカサカサと音を立てて男に忍び寄る存在がいる。
4対の足に1対のハサミを持つ、クモと同様の節足動物の仲間・・・尾に毒針を持つ真っ黒な『サソリ』が。
ブツブツと呟き考え込んでいるヘンブリーは、その音に気付かないまま。
やがて、床に着いた手まで接近したサソリはその尾を伸ばし、左手の甲に毒針を突き立てた。
「イテッ! な、なんだ・・・一体」
突然左手に走った刺される様な痛み。反射的に手を動かし、続いて目の前にかざしてよく見てみるが、仄暗い中では見えるものも見えにくい。
その間サソリは動きを止め、気配を消す。
やがてヘンブリーは首を捻った後再び考え始めた。それを見たサソリは音を立てずにゆったりと後退し、出てきた通風口から外へと出て行った。
「・・・あぁ、なんか眠くなってきやがった。クソ、復帰のためには今から考えてかなきゃなんねえってのに・・・でもまぁ、どうせ飯までもう少し時間もあんだろ」
ヘンブリーはそう言って寝転がり、静かに寝息を立て始める。
それが、ヘンブリー・ステインの最後の記憶となった。
ハンターさんをはよゲットしないと()