放課後の部活のミーティングで、次の日曜日に勇者部が行う幼稚園での子供会の内容を話し合ってから数日が経った。
今日はその子供会当日の日曜だ。
会は朝の11時から行う予定なので、勇者部メンバーも時間前の10時に現地の幼稚園に集合していた。ただ1人、三好夏凜を除いて。
「遅い遅い遅いおっせぇよ」
田所が苛立たしげに言った。すでに集合時間の10時を30分も過ぎているというのに、夏凜は一向に姿を見せない。待ちくたびれてイライラするぜ!
「どうしたんですかね、夏凜さん。まさか来る途中で事故にでもあったとか……」
「ニュースには何も出てないわね」
心配そうな樹。風はスマホでニュースサイトを確認するが、事件や事故などは起きていなかった。
「私、電話してみるよ」
友奈はそう言って、自身のスマホを操作し夏凜に電話をかける。
しばらく呼び出し音が鳴った後、電話は向こうから切られてしまった。
「あ、切れちゃった……」
「なにか用事でもできたのかしらね」
頬に手を当て思案顔の東郷。
「どうせ寝坊でもしてまーた話すのが気まずくなったとかじゃねえの? 今度は俺がかけますよ~、かけるかける」
友奈に続いて田所が夏凜に電話してみるが、今度は電源を切られてしまったようで完全に繋がらなくなってしまう。
「ファッ!? 何やってんだあいつ……」
「病気で寝込んでる、なんてタマじゃないわよねぇ」
と風。そこに幼稚園の先生が少女たちを呼びに来た。準備も含めてそろそろ時間だ、と。
「夏凜ちゃん、どうしちゃったんだろう……」
「もうほっとこうぜ! 最初からノリ気じゃなかったみたいだし、どうせサボりだゾ」
心配そうな友奈に対して、田所は怒りを露わにしたドライな対応だ。というのも理由があって、今日は夏凜の誕生日なのである。
たまたまそれを知った友奈が、せっかくだから子供たちと一緒に誕生日パーティーをしようと提案したのだが……
「せっかくTGが特性のぼた餅ケーキ作ってくれたのに、これじゃ無駄になるじゃねえかよお前よぉ!」
頭に来ますよ~、と田所は1人ぷんすこしている。
「しょうがないわね。夏凜のことは後で考えるとしましょう」
部長の風の判断で、今は子供会を優先しようということになった。
勇者部メンバーは園児たちと共に、おりがみを折って一緒に遊んであげていた。
田所は小さなおりがみではなく新聞紙を用意すると、どこから知識を仕入れたのか、それを器用に折って子供用の侍の兜を作ってやっていた。しかもかなり好評だ。
「さすがタドちゃん先輩ね。見事な出来栄えだわ」
東郷も太鼓判を押すことからも、そのクオリティの高さがうかがえる。
園児たちにせがまれるまま、次々と兜を量産するマシーンと化した田所が、ふとあることに気付いた。
「あ、さ、もしかしてKRNの奴、集合場所を間違えたんじゃねえの?」
4人の少女たちは手を止め田所の話を聞く。
「どういうこと?」
「普段通り部室にいる気がする……気がしない? 誰か現地集合だってあいつに確認とったか?」
4人は一様に首を横に振った。あり得そうな話だ。田所は軽くため息を吐くと、よっこらしょと立ち上がる。
「俺が連れてきてやるか、しょうがねえなぁ(悟空)」
もう帰ったかもしれないけど、と念を押しつつ見つけたら連絡すると言い残し、田所は讃州中学へと向かった。
◇ ◆ ◇ ◆
電車に乗り込み、田所は讃州中に到着する。部室を覗いてみるが、そこにはもう夏凜の姿は無かった。
一応校内も探してはみたが、やはり夏凜は見つからない。
だが、すれ違った教師の1人に彼女のことを訪ねると、運よく夏凜の姿を見かけたという話を聞けた。
「どこに行けばKRNに会えるのかしら」
「なんのために会うのよ」
「殺すのよ」
教師に彼女の自宅の住所を教えてもらうことができたので、田所は早速そこへ足を向けることに。
夏凜の家は海の近くに建てられたマンションの1室にあった。
チャイムを鳴らしてみるが応答は無く、ドアにはカギがかかっていた。居留守を使っている様子もないので、どこかへ出かけているらしい。
すでに日は傾き夕刻を指している。子供会もとっくに終了している時間だ。田所は仕方なく帰ろうと踵を返すと
「「あっ」」
ちょうど帰宅した夏凜と鉢合わせする形になった。
「タド!? なんでアンタがここにいるのよ!?」
予期せぬ訪問者におっぱげる夏凜。その手には袋に入れられた木刀が握られていた。
毎日決まった時間に型のトレーニングをしていると以前言っていたので、今回もどこかで練習していたのだろう。
「おめえを探しに来たに決まってるダルルォ!? 部活サボってトレーニングなんて行きやがってよぉ!! いい度胸してんねえ、通りでねえ!!」
「ちょ、うるっさいわね! 近所迷惑でしょ!?」
ご近所の目を気にした夏凜は、慌てて田所を家の中に引き込んだ。
「おっ、開いてんじゃーん」
「(私がカギを)開けたんだよなぁ」
部屋の中は年頃の少女が住んでいるとは思えないほど、飾りっ気のない殺風景なものだった。必要最低限の家具と、他は体を鍛えるための運動器具が置かれているのみである。
台所も使われている様子はない。テーブルの上にはコンビニ弁当が置かれている。ゴミ袋の中にも、いくつもの空のコンビニ弁当が覗いていた。
「コンビニ弁当ばっかじゃねえかよお前ん食事ぃ! ちゃんとしたもん食えよ体に悪いゾ」
3食すべてをインスタントうどんで済ませている田所には言われたくはない夏凜である。
「ていうか、もう子供会は終わったんでしょ? 時間も遅いんだからアンタも家に帰りなさいよ」
「まだまだまだ、夜はこれからなんだよ。手を入れる専門家も呼んであるからな」
「……誰を呼んだって?」
その時、ピンポーンと夏凜宅の呼び鈴が鳴った。
「入って、どうぞ」
家主の夏凜ではなく田所が来訪者を招き入れる。
「おっ、開いてんじゃーん」
ズカズカと上がり込んできたのは、風を筆頭とした勇者部の4人の少女たちだ。
「アンタたち……なんで」
「俺が電話で呼んどいたゾ」
「いつの間に!?」
「座って、どうぞ」
驚く夏凜をよそに、少女たちはテーブルを囲んでカーペットの上に座る。まるで自宅みたいな
そして、持参してきたビニール袋からお菓子や飲み物などを取り出し、テーブルの上に広げていく。
「なんなのよ……、いきなり来てなんなのよ!」
少女たちの勝手気ままな態度に思わず怒鳴ってしまう夏凜。
友奈は涼しげな顔でカバンから箱を取り出すと、それを開けながら夏凜に対してこう口を開いた。
「夏凜ちゃん、お誕生日おめでとナス!!」
箱の中には、東郷お手製のぼた餅ケーキが入っていた。
「誕生日って……私の……?」
「本当は子供会で園児たちと一緒にお祝いしようとしてたんだけどね」
「夏凜さんが来なかったですからね、仕方ないですね」
呆然とする夏凜に、東郷と樹はそう答える。
「危うくケーキが無駄になるところだったゾ? まったく、KRNの協調性のなさにも困ったもんじゃい」
そう言いながら田所も、こうして無事に誕生会を開けたことに笑みを浮かべていた。田所だけではない。風も樹も、友奈も東郷も、みんなが笑顔で夏凜のことを祝福している。
当の夏凜はみんなの顔を呆然としたような表情で眺めまわし、やがて肩を震わせ始めた。目尻には涙がたまり、あふれた雫がスウッと頬を伝って落ちる。
まさかの反応に5人の少女たちはギョッとした。
「ファッ!? 泣くほど嫌だったとかウッソだろお前!?」
「ち、違う……私、誕生日なんて……お祝いされたこと、無くて……それで……」
普段気丈な夏凜が人目もはばからず泣いている。それが田所たちに与えた衝撃はかなりのものだった。だが、これは決して哀しみの涙などではない。
夏凜は涙をぬぐうと、頬を朱に染めながら、つっかえつつも少女たちにハッキリとこう伝えた。
「その……こういうの柄じゃないんだけど……い、言わないのも失礼だから、言うわね。……ぁりがと……」
夏凜は恥ずかしそうに微笑みを浮かべ、みんなも笑顔に包まれた。楽しい誕生日パーティーはいよいよ始まったのだった。
◇ ◆ ◇ ◆
「それじゃあ、生意気な新入部員の加入と誕生を祝って、かんぱーい!」
「「「「「かんぱーい!!」」」」」
風の音頭を合図に、それぞれソフトドリンクを満たしたグラスを打ち鳴らしていく。
みんな思い思いにジュースを飲み、お菓子を食べながら談笑していると、樹があるものに気付き「あっ」と声を上げた。
彼女の視線の先には、部屋の隅にそっと置かれた折りかけのおりがみと、練習用の本。
夏凜は慌ててそれを背に隠し、田所がからかうように声をかけた。
「本当はみんなとおりがみ折りたかったんだろ?」
「いやちがう」
「はいって言え」
「はい」
「ハイじゃねぇよ1dollar!」
先輩の奴隷になる夏凜。そんなやり取りをしている2人を笑顔で見つめる友奈。ふと友奈の視界に、2人の向こうにある机の上の写真立てが映った。
そこには満面の笑顔の幼い夏凜と、どこか彼女に似た容姿を持つ1人の少年の姿が写っている。
「これ夏凜ちゃんと……もしかして、お兄さん?」
友奈が写真を手に尋ねると、夏凜は「んまぁ、そう……」と曖昧な返事で友奈の手から写真立てを取り上げると、隠すように伏せて机の上に置いてしまう。
そういえば、前も兄のことになると元気がなくなってたな……と田所は思い返した。
「KRN、なんか悩みがあるなら聞いてやるゾ?」
「別に、悩みなんてないわ……」
「ウソつけ、絶対ウソだゾ」
友奈も田所に同意するように声を上げる。
「勇者部5箇条、『悩んだら相談』だよ!」
「おめぇは勇者部に所属してるのに部の方針には従わねえんだな、マジおもしれー!」
女子中学生風の二人組みはゲラゲラ笑って立ち去ろうとしたので、夏凜は慌てて引き留めた。次いで「わかったわかった! ダイエー!」と、ため息を吐きながら重い口を開く。
「……兄貴は昔っからスポーツでも勉強でも、なんでもこなせる完璧超人でね……両親も周りの人たちも、私のことは眼中になし。兄貴ばっかり持てはやされてた。
子供の頃に書いた絵も、コンクールでもらった賞状も、兄貴のは飾られるのに私のはほったらかし。
出来のいい兄貴ばかりが両親から愛されてるのが、私にはとっても悲しくて、悔しかった。
でもね……そんな兄貴だけが、私のことを気にかけてくれてたの。けど、私も素直じゃないから兄貴のこと突っぱねてて……。
大きくなったら兄貴は大赦勤めになって、実家を出て……私も気まずくなって、疎遠になって……顔を合わせなくなってずいぶん経つわ」
夏凜はそこで一区切りつけた。
「そのあとは、私にも適性があるってことで勇者候補に選ばれて……これでみんなのことを見返してやれるって、手柄を立てるためにがむしゃらに頑張ったわ。
そのおかげで、晴れて正式な勇者になれたけど……。結局私は、自分のためにしか戦ってないのよね」
利己的過ぎて笑っちゃうぜ! と夏凜は自嘲する。
「あっ、そっかぁ……。あんたも大変だったのねぇ」
そう言う風は、目じりに浮かんだ涙をぬぐった。見れば少女たちはみんな、鼻をすすり涙を浮かべながら夏凜の話を聞き入っていたのだ。
「あたしと樹も、両親がバーテックスのせいで起きた事故で死んじゃってね……。だから、あいつらと戦ってるのも敵討ちって面もあるのよ。
そういう個人的な理由で勇者やってるのはアンタだけじゃないってことだから、まあ……そう気にするな!」
夏凜の肩に手を置き、励ますように言う風。
田所も風の横に立つと、夏凜に言葉をかける。
「俺も風と樹も親がいないから、まだ会うことができるKRNのことが羨ましいけど、生きてるからこそすれ違うって悩みもあるんだな……。まったく、人生上手くいかないもんじゃい」
田所は、やれやれと困ったように腕を組み、そうこぼした。すると友奈も夏凜の前にやって来て、彼女の手を握りながらこう言った。
「難しいことは分からないけど……どんな理由で勇者になっても、それでみんなのことを守れてるなら、それはきっといいことだよ! 夏凜ちゃんが家族の人たちと仲良くなれるように、私も応援する!」
まっすぐな友奈の気持ちに夏凜は頬を染め、小さな声で恥ずかしそうに「ありがとナス……」と呟いた。
「まま、そう深刻になんないでよ。最後にはきっと、全部がうまくいくってそれ一番信じられてるから。大丈夫だって安心しろよ~」
田所の自信にあふれた能天気なその言葉には根拠なんてなにもないけれど、それだからこそ夏凜は、なんだか救われたような気分になるのだった。
夏凜ちゃんのお悩み暴露はゲームであったらしいですが(ゲーム未プレイ)
ここではほんへにぶち込みました