今日も今日とて放課後に、部活動に勤しむ勇者部の少女たち。
友奈は勇者部の活動をまとめた新聞の構成を考え、東郷は部の活動をアピールするために作ったインターネットのホームページを弄っている。
部長の風はというと、今度の文化祭で勇者部が行うことになった演劇の台本に頭を悩ませていた。はぁ~、とクソデカ溜息を吐きながら持っていたペンを机に置く。
「ダメだやっぱ、ストーリーが思いつかん」
風の作業を見守っていた夏凜が、にぼしをかじりながら声をかける。
「別にプロの仕事を要求されてるわけじゃないんだし、パパパッと書いて終わりっ! にしたら?」
どうせ見るのは素人なんだし、テキトーにやってもヘーキヘーキ、と軽い調子の夏凜。
「ダメよ! そんなのアタシの脚本家としてのプライドがもう許さねえからなぁ?」
「なにが脚本家のプライドか……タドもなんか言ってやりなさいよ」
そう夏凜が田所に話題を振る。
「そうだよ。前に幼稚園でやった、勇者の人形劇の再利用でinじゃねーの?」
だが、風は腕を組み悩みを捨てきれないようだ。
「う~ん……。ストーリーはいいかもしれないけど、あれはタドと友奈で5人分の人形を操ってたじゃない? 夏凜が加わっても5人の役を3人で回すのは無理無理無理無理!」
それに今度の観客は幼稚園児じゃなくて中学生以上になるから、お話しも大人向けに改稿しないとね、と風。どっちにしろ色々と作り直しをする必要がありそうだ。
と、そんな少女たちの活動に加わらず、机の前で暗い表情を浮かべている者が1人……。
「はぁ~……」
風と同じようにクソデカ溜息を吐くのは、彼女の妹の樹である。浮かない顔の樹の周りに集まる少女たち。
「お、大丈夫か? 大丈夫か?」
「どうしたの樹? ため息なんかついて」
声をかけられ顔を上げる樹。
話を聞くに、近々音楽の授業で歌を歌うテストがあるらしく、うまく歌えるかが心配で得意のタロットで占ってみたらしいが
「これ! これなんか見ろよこれ! なぁ! この無残な姿よぉなぁ!」
樹はなぜか半笑いで卓上のカードを指す。そこには、破滅や破局という不吉な暗示を示す位置でめくられたタロットがあった。
「当たるも八卦当たらぬも八卦って言うし、気にすることないでしょ」
「そうだよ。(便乗) こういうのって、もう一度占ったら全く別の結果が出るもんだよ」
励ましの声をかける風と友奈。
結果、何度占っても死神の正位置でした。(震え声) 4回だよ、4回!(やり直した回数)
「勇者部の活動方針は困っている人を助けること。なら、困っている我が妹を助けるのもまた道理……。今日の活動内容は、樹を歌のテストで合格させる方法を話し合うってことでOK? OK牧場?」
風の突発的な提案で、樹の悩みを解決するためのアイディア出しが始まった。
東郷がα波を出せるようになれば勝ったも同然と言いだしたり、サプリ愛好者の夏凜が歌が上手くなるサプリを持ってくると言ったりするが、今一即効性のあるものは出ない。
「家で1人で歌ってるときは上手いんだから、人前だと緊張するってだけじゃないかしらね」
と風。
「あ、さ、じゃあこれからみんなでカラオケに行って練習するってどうかな?」
友奈の提案でこの日の部活は早めに切り上げ、帰り道にあるカラオケ店に向かうこととなった。
◇ ◆ ◇ ◆
カラオケショップ、MANEKIに入店した勇者部一行。
勇者としての訓練に明け暮れてこういった店に来たことが無かった夏凜と、記憶のない田所の2人は物珍しそうに店内を眺めている。
「そんじゃ、まずは景気づけにアタシが一曲」
風はそう言うと、部屋に備え付けられている選曲用の電子機器を操作していく。
その様子を見ながら、田所は不思議そうに声を発する。
「はえ~、すっごいハイテク。てっきりクッソ分厚い曲目リストを書いた本から歌いたい曲を索引して、コードナンバーを入力するんだと思ってたゾ」
「いやそれいつの時代のカラオケよ……」
時代錯誤な田所の発言にツッコミを入れつつ、スピーカーからメロディーが流れ始めたので、風はマイクを持って歌い始めた。
友奈と東郷がタンバリンやマラカスで、樹も手拍子で合いの手を入れ、みんなとても楽しげだ。
机の上には道中買ってきたお菓子が広げられ、それを牛鬼が我関せずと黙々と食べている。
「イェーイ、聞いてくれてありがとナス!」
1曲歌い終えた風。カラオケには採点機能もついており、90点以上のかなりの高得点をはじき出している。
続いては、友奈と夏凜のデュエットソングだ。こちらもかなり上手で、夏凜にいたっては初めてのカラオケだというのに慣れた様子で、風同様の高得点を挙げた。
3曲目に流れてきたのは、なにやら重厚な響きを持つ一種異様なサウンド。これは東郷が入れた、彼女お得意の軍歌であった。
軍歌が流れると同時に、風、樹、友奈の3人が立ち上がり敬礼のポーズをとる。
突然の謎行為にファッ!? っと驚く田所と夏凜。どうやら東郷が歌っている間はこの姿勢を続ける、というのが彼女たちの間での習わしらしい。
そしていよいよ本日の主役、樹の番が回ってきた。
「FUがあんだけ上手かったんだからITKも大丈夫だろ」
と楽観視していた田所だが、いざ聞いてみた樹の歌は……んまぁ、そう、よく分かんなかったです。(すっとぼけ)
緊張で喉が渇いていたのか、パッサパサ! パッサパサ! 口のなかパッサパサ! パッサパサだよどーしてくれんだ樹ちゃん! なため声がかすれてうまく音程がとれなかったのだ。
「はぁ~……」
本日何度目かのクソデカ溜息を吐く樹。やはり思うように歌えないというのはショックなようだ。
「まあ、今日はただの練習なんだし、好きに歌えばいいのよ」
「そうだよ。(便乗) 気にしない気にしない。お菓子でも食べてリラックスしよう……」
風と友奈はそう言って樹を励ます。と、言葉の途中で友奈がテーブルに視線を向けると、卓上のお菓子はすべて牛鬼のお腹の中に収められていた。
「こいつ義輝をレイプしてるか食ってるかしかしてないわね」
満足気にゲップする牛鬼を見ながら、呆れたように夏凜が言った。
その時、スピーカーから次の曲が流れ始める。今度は田所の番の様だ。
「歌いますよ~、歌う歌う」
メロディーにのって紡がれる歌詞は、田所の自己紹介文章そのものだった。
「え、なにこれは……」
困惑する夏凜。それに対する衝撃の答えは
「俺の自作曲だゾ」
「なんでタドの作った歌がカラオケに入ってるのよ!?」
夏凜のツッコミも意に介せず最後まで歌い切った田所の得点はというと、驚異の810点だ。
「なんで100点超えてるのよ!!」
「イケボなんかなぁ……? どうなんだろうね」
満足気にどや顔を披露する田所をよそに、結局この日は有効な解決策は見つけられず解散となった。
◇ ◆ ◇ ◆
夜になり自宅に帰った田所。先ほどまでのにぎやかさが嘘のように、今は1人黙々と夕食のインスタントうどんを食べていた。
静まり返った邸宅の中で、麺をすする音が寂しげに響く。と、その音に混じってコツコツという、ガラスを叩いているような小さな音が聞こえてきた。
続けて、「キュッ! キシュン! キシュ!」といった鳥の鳴き声らしきものも。それは窓の外から聞こえてきている。
「怖いなー、とづまりすとこ」
正体不明の異音を警戒した田所は、立ち上がってカギをかけようと窓に近づく。
窓の外の暗闇の中に、闇夜とは違う黒い色の物体が見えた。目を凝らすと、それは1羽の鳥であった。
それもただの鳥ではない。マスコットキャラクターのようにディフォルメされた体系に、服のような衣類を身に着けている。
「なんだこの鳥さん!?」
通常の鳥とは全く異なる体系をしたそれに田所はおっぱげた。同時に、なんでこんな奇妙な奴が家の窓の外にいるんだと疑問に思う。
一方の鳥さんはというと、田所の姿を視認してから一層強く窓を叩き始めた。
まるで、「おいコラァ! 窓開けろ! 飼育免許持ってんのかコラ!」と言っているようである。
このままではオ窓壊るる~、と思った田所は警戒しながら窓を開けて、謎の鳥を室内に招き入れた。
鳥さんは器用に服の中から1枚の写真を取り出すと、それを田所に見せる。写真に写っていたのは全身を包帯に巻かれた1人の少女。
それは、かつて田所が大赦本部に連れて行かれた際に出会った先代勇者、乃木園子であった。
「これは……お前もしかして、SNKの精霊か?」
田所の言葉に反応してコクコクと顔を縦に振る鳥さんこと、烏天狗のセバスチャン。どうやら彼女の推測は合っているようだ。
セバスチャンはしばらく部屋の中を飛び回り、やがて机に置かれていたノートと筆記具をもって田所の前に降り立つと、なにやら文字を書き始めた。
『MNKI H KKN TKUN』
ノートに記された謎の言葉。それは、古代から密かに使われてきたTDN表記と呼ばれる暗号だった。
現在ではほとんど使われることも無い、一部の者しか知らない失われた記述だ。現在でこれを解読できるのは、
「これは……『満開 は 危険 使うな』……。おい、どういうことゾ?」
セバスチャンに言葉の意味を訪ねる田所だが、喋ることはできないようで答えは返ってこない。
理由は分からないが、おそらく園子が田所への警告としてこのメッセージを送ってきたのだろう。
暗号が通じたことでセバスチャンは役目を終えたのか、そのまま田所の部屋を飛んで出て行ったのだった。
◇ ◆ ◇ ◆
田所が謎の警告を受けた翌日。放課後に勇者部員たちはいつも通り、家庭科室兼用の部室に全員集合した。
今、少女たちの目の前には夏凜が持参したサプリメントが並べられている。それも1つや2つではなく、10種類は優に超えているだろう数の品々が。
「はえ~、すっごい沢山……」
友奈が感心したようにこぼした。
「とりあえず、喉に効きそうなものを色々と持ってきたわ」
「これ全部KRNの持ち物なのかゾ?」
田所の質問に、夏凜は「当たり前だよなぁ?」と、さも当然の顔で答える。飲みすぎィ!
「樹、これ全部飲んでみて、どうぞ」
「ファッ!? これはキツいですよ……」
「いや、無理かどうか分かんないでしょ!?(不屈)」
問答をする夏凜と樹。そこに風が割って入る。
「アンタも無理なんじゃないのぉ?」
「出来らぁっ!!」
風の挑発に乗せられて、夏凜は錠剤をオリーブオイルでがぶ飲みする。
「おっぶぇ!?」
当然飲み干せるわけもなく吐き出してしまった。オーバードーズには注意、しよう!
樹は結局2、3錠ほど飲んでみたが、特に効果のほどは見られなかった。
今日も成果無しで解散、となる所で田所がみんなに声をかけた。
「この辺にぃ、上手いカラオケの舞台、来てるらしいっすよ。じゃけん今から行きましょうね~」
カラオケの舞台という、いまいち何なのか分からない言葉に首をひねる少女たちだったが、田所は返事も聞かず勝手にその場所に向かっていくため他の面々も慌てて後をついて行くのだった。
しばらく歩いて到着したのは商店街の中。その一角で、商店街主催のカラオケコンテストが開かれていた。田所が連れてきたかったのはここのようだ。
「! もしかして、今から訓練で私に出ろってことですか!?」
驚きの声を上げる樹だが、どうやらそういうことでもないらしい。
「いや、出るのは俺だゾ」
そう言うと田所は、コンテストに飛び入り参加を表明した。壇上に上げられマイクを渡されると、そこから静かに樹を見つめて一言。
「今日は、歌うのが好きだけど恥ずかしがり屋で人前じゃ上手く歌えない後輩を応援するために、1曲披露させてもらいますよ~」
その宣言と共に、備え付けられているスピーカーからメロディーが流れ始める。田所はサウンドに乗せて、一気にテンションをマックスまで上げた。
「曲名! 千本、桜! ビャァオッ! テンション! 上げて! いこうぜーワァァァァォッ!」
踊りとも思えない奇妙な動きでテンポを取りつつ、決して上手くはない……いや、はっきり言ってヘタクソな歌い方は聴衆の笑いを誘っている。まるで頭がイカレた人物のような、見るに堪えないパフォーマンスだ。
だが人目をまったく気にしない、自分勝手とも言える彼女の歌う姿は、とても堂々とした貫禄のあるものに樹には見えた。
そして、ノリノリでとても楽しそうに歌う田所の姿につられて、やがて観客も彼女と一緒に歌い始めたではないか。
「みんな踊れー!」
その声で観客も、勇者部のメンバーも、みんなが田所の歌に合わせて踊りだす。
(あっ、そっかぁ……。歌って自分が楽しんで歌えれば、それでいいんだってことをタド先輩は私に教えようとしてくれたんだね)
歌うことの意味に気付かされた樹。彼女も一緒に田所の歌を口ずさみながら、みんなと共に踊り明かしたのだった。
◇ ◆ ◇ ◆
いよいよやって来た樹の歌の試験当日。樹以外の勇者部員は、一足先に部室に集まっていた。
部長であり姉の風は、1人ソワソワと妹の到着を待っている。そんな風に田所が声をかけた。
「(FU、緊張で体が)硬くなってんぜ?」
「だって心配じゃないの!」
「おめえがしっかりしねえでどうすんだよ、なぁ? 寄せ書きも書いたしま、多少はね?」
寄せ書きとは、樹を応援するための言葉をノートにしたためたメッセージだ。それを密かに樹の音楽の教科書に忍ばせておいたのである。
ちなみに田所のエールの言葉は、『ベストを尽くせば結果は出せる』という格言だ。
「お姉ちゃん! 皆さん! 合格できましたー!」
部室の扉を開けながら、開口一番樹がそう叫んだ。
「やったぜ」
風もガッツポーズをし、自分のことのように喜んでいる。それは友奈、東郷、夏凜も同じであった。むろん田所も。
「せっかくだし、樹ちゃんの合格おめでとうパーティーをしようよ!」
友奈の提案にみんな賛同した。
「どうせならカラオケ店でやらね? ITKの歌を聞きたいけどな~、俺もな~」
田所の言葉で今日の部活は無しということになり、みんなで再びカラオケショップMANEKIへ向かった。
部屋へ通されると、さっそく樹が1曲目で自前の歌声を披露することに。
「ダイナモ感覚! ダイナモ感覚! YO! YO! YO! YEAH!」
まるでトリップしたかのように、のっけからフルテンションの樹。
曲目も大人しい彼女のイメージとはかけ離れた、アップテンポのラップ調のものだ。良くも悪くも田所に感化されたらしい。
でも歌っている樹はすごく楽しそうで、誰も無粋なツッコミなど入れず、彼女同様大いに盛り上がったのだった。
「はふぅ~……」
歌い終えマイクを置いた樹は、とてもスッキリとした顔をしている。歌唱得点もみんな驚きの100点だ。
「すごいわ樹ちゃん。まるでプロの歌謡ショーを見ているようだったわ」
拍手をしながら東郷が言った。
「いえ、そんな……。でも、その……プロを目指すのも、ちょっといいかなって思ったりして……」
樹が恥ずかしげにそう言う。本物の、プロの歌手になって大勢の人たちに自分の歌を届けたい、という将来の目標ができたそうだ。
「だったら、
田所が壁の一角を指さし言った。彼女たちがいる部屋には、歌手を志す少女たちへ向けたオーディション募集のポスターが貼ってあったのだ。
「あぁ~、いいっすね~」
過去の樹ならきっと、自分には無理だと断っていただろう。だが今の彼女は違う。
夢に向かって突き進むという信念を持ち始めた樹は、迷わず田所の案に賛同した。
早速東郷がPCを操作して録音用の機器を用意し、応募用の歌の収録は問題なく終了した。と同時に
デデドン!
しばらく忘れていた、絶望を告げる警告音が少女たちのスマートフォンから流れる。
「久しぶりにバーテックスが来たぁ!!」
世界が光に包まれて……決戦が始まろうとしていた。