神樹が展開した結界──樹海に立つ勇者部。
結界の外より来訪したバーテックスの総数は……7体っ!
以前のKBSトリオの3体同時襲撃を大きく上回る数である。
「多すぎぃ! 残り全部来てんじゃねーかよなぁ!」
敵の大攻勢におっぱげる田所。やべえよやべえよ……と焦りの色が隠せない。
「でも、逆に考えたら今日で戦いは終わりってことだよ!」
どんな時でも前向きな友奈の言葉に、田所も「おっ、そうだな」と気持ちを立て直した。次いで夏凜に声をかける。
「(今もサプリを)キメてるんだろ? (俺にも分けて)くれよ……」
「なんか嫌な表現ね……。まま、ええわ」
そう言って夏凜は田所に、自前のサプリを渡した。
「ついでにアンタたちもいっときなさい」
「わ、分かりました」
緊張で震え声になる樹。彼女らにもサプリを分け与えて、全員がそれを飲み込んだ。
「心配すんなよITK。こっちだって6人もいるんだから、数の上ではどっこいどっこいやな、どっこいどっこい。なんかあっても、俺が守っからよ(ライダーゴーストOP)」
「よろしくおねがしゃす」
田所は樹の緊張をほぐすように声をかけてやる。彼女もそれに笑って答えた。
「よし! 勇者部一同変身!」
風の掛け声で田所以外の少女たちは、スマホを取り出すとアプリをタップした。
光に包まれ花びらが舞う中で、勇者服を身にまとい戦闘準備が完了する。
そして円陣を組んで各々気合を入れいざ戦いへ、というところで田所が待ったをかけた。
その妙に神妙な顔つきに、みんな不思議な思いで彼女の言葉を待つ。
「前にKRNが言ってた満開なんだけどさぁ……あれ、使うのやめましょうね~」
「あんたまだ疑ってんの?」
夏凜がムッとした感じで言う。
「KRNの兄貴を信じたいんだけどな~、俺もな~。でも、もし万が一にもなにかあるとマズいじゃんアゼルバイジャン? だから頼むよ~」
「……はぁ~。わかったわかった、ダイエー。あんたの顔を立てて、なるべく使用は控えるわよ」
真剣な表情の田所に、夏凜は「そこまで言うなら仕方ない」といった風に、彼女の頼みを了承した。
「私は満開よりアンタの方が心配なんだけどね。本当に勇者に変身せずに戦えるの?」
未だ田所の戦う様子を見たことのない夏凜が、当然の疑問を投げかける。
それに対して田所は、ニカッと余裕の笑みを浮かべてこう返した。
「(俺の実力)見たけりゃ見せてやるよ」
義輝の出陣を告げるほらほら貝の音と共に飛び出す田所。先行してきた牡羊座、アリエス・バーテックスに突撃する。
「オルルァ! オルルァ! オルルァ!」
迫真空手を叩き込み、最終進化させる間もなく御霊を吐きださせた。
「ウッソだろお前……」
「止まるんじゃない! 犬のように駆け巡ってとどめを刺すんだ!!」
あまりの早業に呆気にとられる夏凜に田所は渇を飛ばす。
その言葉に夏凜は我に返ると、すかさず刀で御霊に切りかかる。が、アリエスの御霊はドリルのような高速回転で、刀を弾いてしまった。
「暴れんなよ……暴れんな……」
田所は御霊に飛びつくと、迫真空手流の締め技の1つである迫真固めでもって、回転を強制的に押し止める。
その隙を逃さず、今度こそ夏凜が御霊を両断することで、アリエスは塩の柱へと還った。
「よし! まずは1体撃破ね」
喜びもつかの間、後ろで待機していた東郷から通信が。
『みんな気を付けて! そいつは囮よ!』
牡羊座を警戒していた隙に、音もなく牡牛座・タウラスがすぐそばまで接近していたのだ。
しかも戦っている時間を使ってタウラスは、最終進化体であるONDISKへと姿を変えている。
『хорошо.♪ Спасибо.♪ До свидания♪』
謎の言語で歌い始めるONDISKタウラス。
なんか芸術的にも感じられるそのねっとりボイスを聞いた勇者たちは、意識が朦朧としてきて立っているのが困難な状態に。
「みんなが危ないわ……! 援護しなきゃ(使命感)」
東郷は銃を構えONDISKを狙撃しようとするが、その前に魚座の最終進化体・ひでピスケスが妨害に入った。
『おばさんやめちくり~』
「お↓ば→さ↑ん↓だとふざけんじゃねーよお前! お姉さんだろぉ!?」
まずはひでを片付けようと、東郷は武器をライフルから近接用の2丁拳銃に持ち替える。そのままひでピスケスに狙いを定めるが……
『溺れる! 溺れる!』
ひでピスケスは魚座の属性が示すように、まるで水の中に沈むように樹海の底に潜って身をひそめてしまったではないか。
「ふざけんじゃねぇよオイ! 誰が隠れていいっつったおいオラァ!!」
淑女を心掛けている東郷が、らしからぬ大声でひでに怒りをぶつける。一刻も早く仲間のピンチを救わなければという焦りからだろう。
東郷とひでピスケスの戦いは、思わぬ長期戦の様相を呈していた。
一方田所たちはというと、ONDISKの美声に翻弄され戦意を奪われたままだった。
だがその中で、唯一歌声に抗う者がいた。樹だ。
音楽とは相手を楽しませるためのもの、ということを身をもって知った彼女は、その音楽を悪しき手段に用いる目の前の怪物がどうしても許せない。
「あったまきた……」
冷静に怒りを口にする樹。
彼女は力を振り絞って立ち上がると、ワイヤーを伸ばしてONDISKの口に巻き付け、それを引き絞って強制的に口を閉じさせて歌えなくしたではないか。
樹の機転によって勇者たちは意識を取り戻した。
「樹ナイス! あとはアタシが……!」
そう言って風が大剣でONDISKタウラスを両断し、露出した御霊は友奈が破壊した。これで2体目撃破だ。
『もう許せるぞオイ!』
『申し訳ないが敗北はNG』
しばらくほっとしたのも束の間、田所たちの前に今度はてんびん座・KBTITリブラとみずがめ座・変態糞土方アクエリアスが迫る。
『ああ^~もう糞が出るう~~』
糞土方アクエリアスは、肛門と思われる器官から土石流のような茶色く濁った水流を放った。
「溺れる! 溺れる!」
水流に飲まれた田所は、勢いに抵抗できずどこかへ流されてしまう。
続けてKBTITリブラが、コマのように回転し竜巻を起こす。突風に飛ばされまいと樹海の根にしがみつく風、樹、友奈、夏凜。
身動きが取れなくなった4人の元に、ふいにどこからか火球が飛んできて着弾。それによる爆発で少女たちは吹き飛ばされてしまった。
最も後方で事態を静観していた最凶のバーテックス、獅子座型・MNRレオによる攻撃だ。
「ぅ……ぁ……!」
「く……ぅ……!」
不意打ちによって思わぬダメージを食らってしまった風たちは、すぐに動くことができない。
そこにとどめを刺さんと、MNRレオが再び火球を生成し始める。
「痛いですね、これは痛い……」
焦りの声を上げる風。だがそこに、1つの影が矢のような超スピード!? で飛来した。影はMNRレオにぶつかり、衝撃で火球は消滅する。
「おっ、大丈夫か? 大丈夫か?」
影の正体は田所だった。流されてしまった先から、バーテックスたちに気付かれないように樹海の根の隙間を通って戻ってきたのだ。
再び竜巻を起こそうとKBTITリブラが回りだそうとするが、田所は上半身に比べて貧弱な下半身を足払いすることでこれを阻止。
「ぐっ……タドだけにいいカッコはさせないわよ!」
起き上がった風が、武器の大剣をさらに巨大化させ、それによっててんびん座とみずがめ座を一刀のもとに両断することに成功した。
あとは獅子座だけ……と思われたが、今しがた倒されたはずのリブラとアクエリアスが超スピード!? で再生し、後方で東郷と戦闘中だったはずのピスケスまでが戻って来て、レオと融合を始めたではないか。
これは最終進化同様に、大赦の記録にもなかった現象である。
「みんなー!」
ピスケスが撤退したことで東郷も戻ってきた。彼女は言葉を続ける。
「バーテックスの数が1体足りない……足りなくない?」
慌ててスマホの地図を立ち上げる夏凜。
そこには、これまで空気と化し気配を消していた最後のバーテックス、ふたご座・HTNジェミニが、誰にも気づかれずに神樹に向かっていく姿が映っていた。
「やべえよやべえよ……」
このまま神樹の元にたどり着かせては、世界が滅びてしまう。
「ふたご座は私がやる! アンタたちは融合体をお願い!」
そう叫ぶと、夏凜は即座にジェミニの所へ駆けていった。
その背を狙って融合体──レオ・スタークラスターがビーム状に収束した水流を放つ。
『俺、あの娘をバラしちゃいますよ~』
「なにしてんすか! やめてくださいよ本当に!」
とっさに田所が自分の体を盾にすることで、ビームから夏凜をかばった。
東郷が銃で、風は大剣で攻撃するが、スタークラスターの外装は硬く攻撃が通らない。
今度はスタークラスターが多数の火球を作り出し、それを発射した。
勇者たちは避けるが、火球には追尾能力が備わっており後を追ってくる。
東郷が撃ち落とすも、いかんせん数が多く処理しきれずに、少女たちは炎に身を焼かれ倒れ伏した。
「こんなところで終わるなんて……冗談じゃないっての……!」
その中で、大剣を盾にしたことでダメージが少なかった風が1人立ち上がる。彼女の後ろから、スタークラスターは大きな水の球を放った。
風は成すすべなく水球に飲み込まれてしまう。
「ガボッ……!」
水のため剣で切り裂くこともできない。このままでは窒息してしまう。
(ダメよ……樹を、みんなを巻き込んでおいて……自分だけ先にリタイアなんてできる訳がない……!)
風は決意を固め、あの言葉を口にしようとする。
(こうなったら……まんk……)
「FUUUUUUUUUUUUU!!」
だが直前で田所が高速で水球に突っ込み、勢いそのまま風を抱きとめると、彼女を連れて水球から飛び出し救出に成功した。
「満開はやめロッテ!」
げっほげほ! と水を吐き出す風の背をさすりながら田所が言う。
「で……でも、そうでもしなきゃ、あんな強いのに勝てっこないじゃない!」
「お前(に使わせるのは)忍びねえなぁ? じゃあ俺が使ってやるか! しょうがねえなぁ~」
田所はそう言うと、覚悟決めたような決意の表情で、だが口調はとても軽い調子で一言呟いた。
「満開~」
次回の先輩の活躍をみんな、見よう!