第14話 失われた記憶
田所 浩二は、出し抜けにどこかの草原に立っていた。
突然の出来事で意識が追い付かない。自分はさっきまで、人類の敵と大乱闘を繰り広げていたはずだ。
苦労したが結果、戦いには勝利することができた。
その後、友奈が気絶したまま目を覚まさなくて、夏凜が救急車を呼び、勇者たちは全員病院に搬送され……
「あっ、そっかぁ……。俺、救急車の中で気絶したんだったゾ。ってことは、これは夢ってことでOK? OK牧場?」
田所の言うように、彼女は今夢を見ていた。
そしてこの夢は、AKYSスタークラスターとの遭遇で思い起こされた、過去の記憶の再現でもある。
今田所が立つこの草原は、名付けられていないが誰もがこう呼んでいた場所だ。『清らかな野に広がる大地』、と。
清野大地には多数の人々が、穏やかに暮らしていた。
ここに築かれたのは、争いのない平和な都市『キモティカ』。
田所もまた、キモティカに住む住人の一人であった。
そして彼女の隣には、田所が最も愛する恋人である遠野という男性が佇んでいる。
遠野はトカゲに似た顔をしており決してイケメンとは言えない容姿であるが、田所はそんなことなど全く気にせず遠野のことを愛した。
それは遠野の方も同じで、彼も田所のことをとても大切にしてくれた。
「遠野……」
「先輩……」
2人はお互いの名を呼びあうと、どちらからともなく唇を重ね合わせた。
さらに強く、強く、体を抱き寄せる。田所は久しぶりに恋人の温もりを感じた。それはまさに、数千年の時を超えたほどの懐かしさだった。
「なぁ。田所も今日(も遠野から穴を)突かれたろう、なあ」
「(公衆の面前で下品な話は)やめてくれよ……」
「いいだろお前成人の日だぞ(意味不明)」
田所たちの元に3人の人間が近寄ってきた。
2人に声をかけたのは、田所の同門である迫真空手の仲間。MUR大先輩、後輩のKMR、そして師匠のAKYSだ。
からかう様な口ぶりだが、彼らはきちんと田所と遠野の関係を祝福してくれている。
そんな彼らの元に、いや彼らだけではない。キモティカを、地上全てを包み込むように、天から光が降り注いできた。
それは太陽の光ではない。なにか分からないが、
光はとても暖かく、安らぎすら覚える心地のいいものだった。
光に包まれたキモティカの住人たちの体に変化が起こる。人々の体そのものが、今度は発光を始めたのだ。
田所の体も光を放ち、同時に体の奥から言葉にできない、凄まじいまでのエネルギーが湧いてくるのを感じた。
天からの光が消えた瞬間、田所は一転して暗黒の世界にいた。そこは宇宙空間だったのだ。眼下には、彼女が先ほどまでいた地球が浮かんでいる。
はっ、と田所が気付いた。
宇宙に浮かぶ星空に見えた無数の光点。それは彼女がこれまで戦ってきた人類の天敵、星屑と呼ばれる種類のバーテックスだったのだ。
さらに星屑の背後には、キロメートル単位はあろうかと思われるほどの、超巨大な銅鏡に見える円盤状の物体が。
銅鏡は星屑たちを従えているように思われた。
田所の目の前で、星屑の群れが地球へ向けて降下していく。
地上に降りた星屑は、そこで人々を襲い、食らい、大虐殺を演じ始めた。
「っ! やめルルォ!!」
田所は叫び、その行為を止めさせようとするが体が動かない。
見る見るうちに地上の人口が減少していく。
残された人々は、四国と呼ばれる土地に集まった。
四国にも怪物の魔の手が迫ろうとしたとき、地上から宇宙へ飛び出していく二筋の流星が見えた。
その光は、人類の守護者である勇者と呼ばれる2人の少女だった。
「あれは……!?」
少女の1人は、どことなく乃木 園子に似た容姿を持った人物だ。
もう1人は、田所の後輩である結城 友奈そっくりの顔をしている。ただ勇者装束は友奈とは違うものだったが。
2人の勇者は星屑の群れを突っ切って、銅鏡に激突した。
その瞬間、強烈な閃光が宇宙を包み……田所は意識を失った。
「ヌッ!!」
叫び声をあげながら、田所は意識を取り戻した。
今度はベッドの上に寝かされており、両腕には骨折を治すためのギプスがはめられている。
見回すと、部屋の感じからして病院の一室であることが分かった。
「お前ここ天国じゃねえのかよ!?」
「まだ入り口だよ」
田所の声に答えたのは、ちょうど見回りに来た看護婦だった。
看護婦は、田所が目を覚ましたことに気付くと医師を呼びに行った。
1人残された田所は、今まで見ていた夢のことを思い返す。
「俺、なんで今まで遠野たちのことを忘れてたんだ……。それにAKYS。なんでバーテックスがAKYSの姿に……?」
恋人や友人のことを思い出せなかったことに愕然とする田所。さらなる疑問が彼女の頭をかすめる。
「あの空から降り注いだ光はなんだったんだゾ? 奇妙だったけど、害は感じなかった……。それに、バーテックスと戦ってたやつら。1人はYUNそっくりだったけど……」
考えても謎は深まるばかりだ。
「SNKならなにか知ってるかもしれねえな。……機会があったら会いに行くか、しょうがねえなぁ~」
謎の答えを求めて、田所はいつか再び大赦本部を訪ねることを決めた。
◇ ◆ ◇ ◆
田所が目を覚ましたのと同時刻。先に治療を終えていた風と夏凜は、待合室でテレビを眺めていた。
備え付けのテレビでは、昨日起こった工事中の高架道路の落下事故に関するニュースを流している。
「これって、昨日のアタシたちの戦いの影響……よね?」
「おっ、そうだな」
風の問いかけに夏凜が答える。
「被害を出さないつもりだったのに……!」
「落ち着きなさいよ風。死人はおろか、怪我人だって出てないんじゃない。ま、工事してた人たちはまた一からやり直しだから申し訳ないけど、多少はね?」
落ち込みかける風をフォローする夏凜。勇者部に入って一番変わったのは彼女だろう。もちろん良い方向に、だ。
「あ、2人とも。もう治療は済んだんですか?」
待合室に、車椅子を押しながら東郷がやって来た。
風と夏凜はすかさず東郷の元に駆け寄る。
「こっちは風も私もかすり傷程度よ。東郷こそ、大丈夫か? 大丈夫か?」
「大丈夫っすよ、バッチェ元気っすよ」
東郷も大した怪我はしていないようだ。
さらに、田所と樹も合流する。
「タド、腕の具合はどう?」
風が心配そうな目を向ける。
「骨折してるけど、すぐ治るってはっきり分かんだね。でもぬわああああん(異常に)疲れたもおおおおん」
田所の言葉通り、折れた骨はすでにギプスの下で繋がりつつあった。
「樹、注射されて泣かなかった~?」
からかうような風の言葉に、樹は首を横に振ってこたえる。
「ん? どうしたの、樹」
「んにゃぴ、極度の疲労で喋れなくなったらしいゾ」
喋れない樹の代わりに田所が答えた。
戦いを終えて病院へ向かった勇者部員たち。
疲れからか、不幸にも満開の後遺症が発症してしまう。
田所をかばい満開の責任を負った樹に対し、病院の主、院長先生谷岡が言い渡した診断の条件とは……
「医者は数日も安静にしてれば治るって言ってるから、FUもそんな深刻になるなって」
『そうだよ』
田所は風を安心させようと明るくそう言い、樹も持っていたノートに便乗するように文字を書いた。
そうして、この場にいない仲間は友奈だけとなった。
戦いが終わって宇宙から帰還した友奈は意識を失い、いまだ目を覚ますことはない。
「(友奈ちゃんがこのまま目覚めないなんてことになったら)ひゃだ……ひゃだ……!!
あの顔立ちに、あのムッチリ、ムッチリ、ムッチリしたカラダ(が動かないなんて)!!
あんたたち、(友奈ちゃんがもしも死んじゃったら私も)逝くわよっっっ !!!!!!!」
親友の身を案じ涙を浮かべる東郷。
「医者は一時的なものだって言ってるし、大丈夫だって安心しろよ~。ヘーキヘーキ、ヘーキだから」
田所は東郷の背を撫でながら、落ち着かせるように声をかけた。
場の雰囲気が沈んだ様になったため、みんなを励まそうと風が声を上げる。
「よっし、みんな! せっかく戦いが終わったんだから、祝勝会でもしましょう!」
◇ ◆ ◇ ◆
「この辺にィ、美味いうどん屋の屋台、来てるらしいっすよ」
どこから情報を仕入れたのか、祝勝会のパーティー会場をその屋台にしよう、と田所がみんなを誘った。
「じゃけん夜行きましょうね~」
「いや今から行けよ」
夏凜のツッコミが決まり、少女たちは病院の外に停まっていたうどんの屋台まで、こぞってやって来た。
といっても、やはり仲間が1人でも欠けたままでは雰囲気も盛り上がらない。
「ま、前夜祭ってことにしときましょ」
風の言葉で、それぞれ好みのうどんを注文し食し始めた。
「うん、美味しい」
どうやって箸を持っているのか、田所は両腕共にギプスをはめられているというのに器用にうどんをすすっている。
「精霊がいれば食わせて貰えたんだけどな~、俺もな~」
「……だったら義輝に食べさせてもらいなさい」
夏凜がスマートホンを起動し、自身の精霊を呼び出す。
義輝は田所から箸を受け取ると、代わりにうどんをつかんで彼女の口へと運ぶ係を担った。
「あっ、そうだ。(唐突) 樹も友奈も満開の影響があったけど、タドは? あんたも満開使ってたけど、体のどこか悪い所は無いの?」
うどんを食べ終えた風が田所に声をかける。
「んにゃぴ、どこも何ともないですねぇ! ……ただ、闘いの疲れが全然取れないんだよなぁ。すっげぇ怠いゾ~」
「まあ、私たちがバーテックスと戦ってたのついさっきだからね。一晩寝たら良くなるんじゃない?」
と夏凜。
「そうそう、みんなに渡したい物があるんだったわ」
風はそう言って、スマホを3機取り出した。
『お姉ちゃん、これは?』
「新しい携帯。アタシらが今まで使ってたのは、大赦に回収されることになってるんだ。だから、大切なデータはそっちに移しといてね。あ、タドはそのまま使っていいって」
「あっ、そっかぁ。戦いは終わったんだから、もう勇者システムも必要ないもんなぁ」
スマホを受け取った夏凜は、義輝の方をちらちらと見る。
「……アンタとも、これでお別れになるのね……」
悲しいなぁ……、口には出さないが、夏凜は内心で相棒との別れを惜しんでいた。
義輝の方もそう思っているのかは分からないが、「ショギョームジョー」と呟かれた一言には、どことなく寂しさが感じられた。
その時、病院の方から1人の看護婦が少女たちの方へ、大慌てで走ってきた。
「おっ、大丈夫か大丈夫か?」
田所が、息を切らせてやって来た看護婦に声をかける。
「まずうち(の病院で)さぁ……結城 友奈さん……目覚めたんだけど、見舞いに行かない?」
「「「「「!!」」」」」
友奈が目を覚ました。その知らせを聞いた少女たちは、急いで彼女の病室へ向かった。
「ここは別の患者の部屋で、向こうに、結城さんの病室があるんだ。今から、そこへ行こうよ」
看護婦の案内で友奈がいる部屋に到着する。
バァン! 壊れんばかりの勢いで扉を開け放つ東郷。続けて田所たちも病室内へ雪崩れ込んだ。
「友奈ちゃん!! 大丈夫!?」
「……ぁ」
友奈はすでにベッドの上で起き上がっていた。ぼうっとした表情で東郷に視線を向けている。
「YUN!!」
「友奈ぁ!!」
田所たちも、友奈の名を呼びながら彼女の元に駆け寄る。
友奈は仲間の顔を見回しながら言葉を発した。
「みんな……怪我は無い? ……バーテックスは……?」
「バーテックスは全部やっつけたわ。アタシたちが勝ったのよ!」
「スタークラスターの御霊を壊した、この素敵なボディを見せてお」
ワイワイと、改めて勝利の喜びをかみしめる少女たち。
「グスッ……。それにしても、友奈ちゃんが目を覚まして本当に良かったわ。このまま起きないんじゃないかと、ずっと不安だったのよ……」
涙をぬぐいながら、東郷は心底安心したといった感じで言葉を紡ぐ。
「……えっと……」
そんな東郷を、不思議そうな目で見つめる友奈。
「? どうしたの、友奈ちゃん?」
「誰だよ(食い気味)」
「……ん? ぇ、今なんて」
東郷は友奈の言葉の意味を問い直す。
「えっと……あなた、誰ですか?」
「………………ファッ!? ウーン……」
友奈の、親友である東郷のことをまるで知らないといった風な反応。それは嘘か誠か、ただの冗談か……。
いや、友奈がそんな悪質な冗談を言うはずがない。彼女の記憶からは、東郷 美森という少女の存在がすっぽりと抜け落ちてしまっていた。
その事実を実感した東郷は、ショックのあまり気絶してしまうのだった。
これが最終章となりますが、まだお話は続きます