第16話 讃州サンビーチ最終報告
田所の説得を受けて、夏凜は勇者部に残ることを決めた。
2人はその後も、浜辺に腰を下ろししばらく他愛もない話に興じた。
話が一段落した時を見計らって、夏凜は気になっていたことを口にする。
「タド、あんたさ……なにか悩みでもある?」
田所の悩みと言えば、明かされることのない満開についてのことだ。
だが、夏凜に余計な心配はかけたくないと田所は「なんのこったよ」とすっとぼける。
「勇者部五箇条、『悩んだら相談』……なんでしょ」
五箇条を持ち出されては弱い。田所は正直に悩みを打ち明けることにした。
「……満開のことだよ。ITKが声出せなくなったり、YUNの記憶が無くなったり。これって、満開の影響なんじゃねえかな?」
「お医者さんは一時的な疲労って言ってたじゃない。それに、アンタも満開を使ったのに何ともなってないじゃないの」
「んまぁ、そう、(医者の言い分は)よく分かんなかったです」
「アンタ、最初から満開に否定的だったわよね。なにか知ってるの?」
満開の存在は園子から知らされたものだが、園子本人から自分のことは秘密にしてくれと言われている。
そのため詳細を夏凜に伝えるのははばかられた。
「んにゃぴ……」
そう言って田所は口をつぐんでしまう。
「ま、言いたくないってんなら無理には聞かないわ。満開のことは、私の方でも大赦に聞いておいてあげる」
「……ありがとナス」
日もだいぶん沈んできたので、そろそろ家に帰ろうということになった。
「KRN、明日は部活にいいよ、来いよ?」
「分かってるわよ。……また明日」
お互い別れを告げると、それぞれの家路につくのだった。
夜になり、夏凜は約束通り大赦に満開のことについて尋ねようとスマホを手に取った。
その時、ちょうどスマートフォンに電話がかかってくる。
「!」
電話の発信者は、彼女の兄の春信だった。
春信が大赦に務めることが決まって実家を出てからというもの、夏凜とは直接会うことはおろか電話で話すということもほとんど無くなってしまった。
そんな中での突然の連絡に夏凜はおろおろし、しかし無視する訳にもいかず通話をONにした。
「も……もしもし」
『……久しぶりだね、夏凜』
いつ以来かもわからないほどの久しぶりに聞く兄の声は、夏凜の記憶のままであった。
「どうしたの、突然連絡よこすなんて」
『バーテックスの討伐が完了したと聞いてね。怪我は無いかい?』
「うん……平気」
『そうか、それは良かった』
しばらく沈黙が流れる。夏凜は、思い切って確認したかったことを訪ねることにした。
「あのね、兄貴……。私の処遇なんだけど、このまま……讃州中学に残ったら、ダメ?」
『讃州中に? どうしてだい?』
「勇者部に、いたいの。戦いは終わったけど、その……まだいて欲しいって言うやつがいてさ」
『……そうか。勇者部が、今の夏凜の居場所なんだね』
「……うん」
『好きにするといい。上の方には僕から話を通しておくから』
「! ……ありがと」
またアイツらといられる。夏凜はそのことに、無意識に小さく笑みを浮かべた。
あっ、そうだ。と、もう1つ聞くべきことを思い出す。
「それと、満開のことなんだけど……。満開を使った勇者のうち2人が体に不調をきたしてる。後遺症じゃないかって言ってるやつがいるんだけど、それは……大丈夫なんですかね?」
『……それについては心配しなくてもいい。満開システムに不備はない』
家族だからなのか、夏凜は直感的に兄が嘘をついていると感じた。
しかし、追及したところで上手くはぐらかされるだろうと思った夏凜は、それ以上の言及は避けた。
その後二言三言言葉を交わし、夏凜は通話を切る。
「兄貴、何か隠してる。でも、一体何を……? ……タドの心配が当たっちゃったわね」
ピロン♪ とスマホから着信音が鳴る。今度は東郷からのメールだ。内容は
『明日、めでたく友奈ちゃんの退院が決まりました。これを祝って、我が家で盛大なぼた餅祭りを開催したいと思います』
というものだった。
夏凜は、東郷の友奈とぼた餅へのこだわりは一級品だなと思い、「了解」と短く返信して、この日は眠りについた。
◇ ◆ ◇ ◆
友奈も退院し東郷の宣言通りぼた餅祭りが行われ、全員揃った勇者部一同は大いに楽しんだ。
それから学校は夏休みに入り、今、勇者部の少女たちは讃州市にある海岸の『讃州サンビーチ』へと訪れていた。
というのも大赦が、12体のバーテックスを全て倒し世界を救ったご褒美として、1泊2日の旅行としてこの海岸を提供してくれたからだ。
水着に着替えて浜辺に陣取った風は、樹と共にシートを敷いてパラソルを広げた。東郷は横で2人の作業を見守っている。
「おまたせ! こんな水着しかなかったんだけどいいかな?」
3人の元に、水着に着替えた友奈が一足遅れて合流した。
友奈はフリルのついた、桜の色を思わせる桃色の水着を着用している。
「がわ゛い゛い゛な゛ぁ゛ゆ゛う゛な゛ぢゃ゛ん゛!」
彼女の水着姿を見るなり鼻血を吹き出す東郷。出血も構わず、友奈の姿を写真に収めていく。
2人の仲も最初のぎこちなさはすっかりと無くなって、昔のような
「夏凜ちゃんも、見てないでこっち来てほら」
友奈が、少し離れたところに立っている夏凜に声をかける。
夏凜は水着の上からコートのようにタオルで体をくるんでいて、その下が全く見えない。
友人と海に来るなど初めてのことで、恥ずかしくて水着姿を見られたくないらしい。
もじもじとらしからぬ夏凜の様子に、いたずら心に火が付いた風は「海入ってさっぱりしましょうよ~」と、タオルを無理やりはぎ取ってしまった。
「ああやだ恥ずかしいこんな恥ずかしい」
タオルの下から現れたのは、夏凜らしいスポーティーな水着。覗く手足はすらりと伸び、適度な筋肉がついている。
「夏凜も結構……いい体してんじゃん」
なにやらスケベ親父のような物言いの風。そこに田所も合流したのだが……
「淡い大地くんおまたせ~」
田所の声に振り向いた少女たちは、彼女の姿を見て全員同時におっぱげた。
なぜなら田所は水着すら身に着けていない、全裸の状態だったのだ。
田所の股間にうっすらと茂っている陰毛が、気持ちよさそうに風になびいている。(MRKMHRK)
「おファッ!? なんでなにも着てないの!?」
「え、だってここ裸で泳ぐ所なんだろ?」
「讃州市にヌーディストビーチは無い!」
風は田所の手を引いて、急ぎ更衣室へ引き返そうとする。
だが、田所は最初から水着を持ってきていなかった。
「もう終わりだぁ!」
ドウスッペ……ドウスッペ……と慌てる少女たち。
その時、樹が波打ち際からちょうどいいサイズの貝殻を拾ってきた。
東郷はそれを細工して即席の水着を仕立てると、田所の胸と股間を隠すように装着させる。
「まるで、『ヴィーナスの誕生』みたいだぁ……」
秘部を隠された田所の様子に、少女たちはかつての名画と同様の美しさを見た。
そんな田所の超エロエロの芸術的ボディーを見てJCフェチのリーマンがまた「すげーすげー」を連発。
田所は(その声援が)気持ちよすぎて野獣の声しか発することができない。(直球)
でも両手は無意識にもしっかり手を振って声援に応えてやっている。筋肉マンコ奴隷だからね。
気を取り直して、少女たちは子供らしく遊びに興じていた。
友奈、東郷、樹の3人は浅瀬で貝や海藻を拾ったり、風と田所はシートの上に寝っ転がって日焼けをしている。
そんな日焼け中の2人に、準備運動でしっかり体をほぐした夏凜が声をかけける。
「風! タド! 競泳で勝負よ!!」
「ほう……、瀬戸の人魚と呼ばれたアタシに勝負を挑むとは、いい度胸してんねぇ!」
風はすっくと立ちあがると、夏凜の挑戦を受けた。一方田所はと言うと、気だるげな態度でこう返す。
「んにゃぴ、ダルいんで俺はパスするゾ」
「負けるのが怖いなら無理にとは言わないけど?」
夏凜はすかさず挑発するような言葉を投げかけた。
「泳ぎはねぇ~、自信あるんですよ! 泳ぎ(のフォーム)綺麗ですよ。(自画自賛) (筋肉に)む、無駄が無いでしょだって」
田所は空手と同時に水泳部にも所属していたことがあるらしく、夏凜の言葉にムッとして反射的に勝負を受けることに。
「はい、よ~いスタート(棒読み)」
そして、勝負することが決まったと同時に開始の合図を勝手に宣言。一足お先に海へダッシュしていた。速攻ズルかよお前……(呆れ)
「「あっ、おい待てぃ!」」
風と夏凜も慌てて後を追いかけ海に飛び込むと、猛烈な勢いで田所との距離を縮めていく。
3人が沖に出たところで、突如ハプニングが起こった。
先を泳いでいたはずの田所の姿が見えなくなってしまったのだ。
残された2人は競争を止め田所を探すが、波は静かで誰も泳いでいない。
「……まさか!?」
海中に潜ってみると、なんと田所が力なく海の底に沈んでいるではないか。
2人は慌てて田所に肩を貸すと、協力して沖まで引っ張っていった。
浜辺に打ち上げられた田所は無事に呼吸をしている。
「泳いでる途中で急に意識が無くなったんだよなぁ。これ以上やると気持ち悪くなっちゃう、もういいよヤバイヤバイ」
目覚めた田所はチカレタ……と言い、再びパラソルの下へ戻って寝っ転がる。
その後は安全な浜辺で砂のお城を造ったりスイカ割りなどをしたのだが、ついぞ田所は眠ったままで遊びに参加することは無かった。
◇ ◆ ◇ ◆
夕方になり他の観光客もいなくなったので、勇者部の少女たちも旅館へ向かった。
「風呂入ってさっぱりしましょうよ~」という田所の言葉で、まずは海水を落すため一行は温泉に入る。
高級旅館だけあってお風呂はかなり広く、東郷も車イスごと入浴することができる親切設計だ。
おまけに大赦の計らいで、今日は勇者部の貸し切りでもある。
体の芯まで温まり、少女たちはすっかりリラックスしている。
「それにしても東郷さんや、一体なにを食べたらそれほどのメガロポリスにお育ちに?」
風が東郷の胸を見ながら、グヘヘと親父クサい笑みを浮かべ言った。
「べ、別にみんなと同じものですよ」
東郷は恥ずかしげに胸元を隠しながら答える。
「それに、タドちゃん先輩もいい発育をしてますよ」
少女たちの視線が田所の胸に集まる。
東郷の言うように、確かに田所のバストも中学生の標準を大きく上回る逸材だ。
おまけに腰にはクビレ、ヒップも適度な肉付きを持っており、モデル体型と言っても過言ではない。
その姿を見て、樹と友奈は改めて田所のスタイルの良さを羨むのだった。
「ビール! ビール! 冷えてるか~?」
「タドちゃん先輩は未成年なんだから、お酒はダメですよ」
風呂から上がった少女たちは、浴衣に着替え部屋へと案内された。
それにしても高級ホテルはいいな。フロントの従業員たちはみんな、まるで「客を見ないのがエチケット」って感じでいてくれる。
それとも田所の格好が激エロのモロホステスだから目をそらすのかな。(笑)
部屋の中にはすでに夕食の準備が済まされていた。
テーブルの上には鯛にマグロ、ホタテの刺身に伊勢海老やカニが並ぶ豪華な食卓が。少女たちはあまりに豪勢な食事におっp……おっぱげた……!
記念にと写真を撮ってから合掌をして食べ始める。
「うん、おいしい!」
思い思いに食事を楽しむ少女たちだが、そんな中にあって田所は、ほとんど手を付けることなく箸を置いてしまった。
「どしたのタド?」
みんな心配して声をかけてくれるが、田所は泳いだ疲れからか不幸にも食欲をなくしてしまっていた。
「いやーもう十分堪能したよ」
と言うと、自分の分の刺身やカニなどをみんなに譲って、田所は「一足先に休む」と隣の部屋へ引っ込んでいった。
◇ ◆ ◇ ◆
「オラ起きろよ! 寝てんじゃねえぞいつまでもオラ! 起きろよオラ! オイ! ふざけんじゃねえぞ! 起きろよ、オラ!」
風に頬を叩かれる感触で、田所は目を覚ました。彼女は布団も敷かず、畳の上で大の字になって眠っていたのだ。
一度退いてから全員分の布団を敷き、田所も改めてその上で横になる。他の面々も、就寝時間となっていたので布団に入った。
じゃあ、寝ようか(暗黒微笑) という時に、風が声を上げる。
「年頃の女の子が集まってする話と言えば恋の話、コイバナでしょ!」
しかし盛り上がっているのは風だけで、他の面々にはそもそも恋愛に関する話題が一切無かったのだ。
まだ中学生だし、勇者としての活動が忙しかったからね、しょうがないね。
「言い出しっぺの風はどうなのよ?」
夏凜が尋ねると、風は自信満々でこう答えた。
「実は2年の時にチア部の助っ人をしたら、アタシのチア姿に惚れた奴がいてさぁ、デートしないかって誘われたもんよ~」
「はえ~、すっごい以外」
感心したように風の話を聞いている夏凜だが、それ以外のメンバーはみんな興味を示さない。
「あんたたち落ち着いてるわね」
『この話10回目ッス』
「えぇ……」
樹の返答に夏凜は困惑の声を上げた。
「田舎少女は浮ついた話が1つしか使い回せないのか」
「あるだけいいでしょ」
「タドはどうなのよ? 先輩なんだし、恋愛経験の1つや2つくらいないの?」
夏凜の声に、田所は眠そうな感じで
「(告白されたのは)10人ちょっとくらいっすね、案外少ないっす」
と答えた。その顔は自慢気な、したり顔先輩と化している。
「え……なにそれ。アタシそんな話聞いてないんだけど」
風は初めて聞かされた友人のコイバナに、唖然とした感じで言った。
「自分も、たくさん恋したいですから。わかってくださいな」
「そんなに大勢から告白されたのに、なんで断ったの?」
「彼氏がいるからね、仕方ないね」
「「「「「……ファッ!?」」」」」
田所以外の全員が、彼女の言葉に衝撃の声を上げた。
うせやろ? と疑いの眼差しを向ける面々に、田所は遠野のことをかいつまんで話す。
「……まあタドちゃん先輩くらいの美人さんなら、伴侶となる方がいても不思議ではありませんね」
と東郷。他の少女たちも、確かに……、と納得した。
「それで、その遠野って人はどこに住んでるの? タドちゃん、会ってる様子が無いんだけど」
友奈が質問する。
「んにゃぴ、俺もその辺の記憶が無いから分かんないゾ。でも案外近くにいて、俺らのこと見守っててくれる気がする……気がしない?」
田所は、どこか確信を持った様にそう答えた。
◇ ◆ ◇ ◆
その後はしばらく雑談に興じていたが、夏凜が寝落ちしたのをきっかけに、みんなも一斉に床に就いた。
田所は遠野のことを話した影響か、この日も彼の夢を見ていた。
夢の中で2人は、神樹を思わせる大きな木の根元にいた。田所は遠野に膝枕をされている。
『先輩、満開を使ってしまったんですね……あれほど危険だと警告されたはずなのに……』
遠野は田所の髪を撫でながら、優しくも悲しげな声色で言った。
『でも、先輩が戦わなければ世界も勇者たちも、もっと悲惨な目にあっていた……』
田所は、遠野が満開や勇者のことを知っていることに疑問を浮かべた。これは夢ではないのか、と。
「(これ以上の満開は)やめてくださいよ本当に!」
遠野は最後に強くそう言い残すと、田所を残して立ち去っていった。
去っていく遠野の姿が大木に重なり、その中に吸収されるように溶け込んでいく。
やがて辺りが白くなっていき、田所は目を覚ました。
布団から起き上がる田所。
時刻は朝になっており、他の勇者部のメンバーはすでに布団をしまい朝食の準備をしている。
田所は遠野の最後の言葉を思いだす。
「これ以上満開を使うなって……戦いは終わったはずだろ……?」
一抹の不安を感じる田所。
窓の外に広がる空は、彼女の気持ちとは裏腹な快晴であった。
みなさま良いお年を