田所浩二は女の子である   作:ほろろぎ

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あけましておめでとナス!

順調にいけばこれを除いてあと3話ほどで終わるので
最後までお付き合いのほど、よろしくお願いしナス!


第17話 残酷(しんじつ)

 田所に残された遠野の言葉。その疑問が解けないまま旅行は終わった。

 送迎用のバスに乗って帰路に就く勇者部。

 遊んだ疲れから眠りこけていると、突如バァン! という大破音と衝撃に見舞われる。

 おっぱげて車の窓から外を見れば、バスに向かって黒塗りの高級車が追突していた。

 

「やべえよ……やべえよ……」

「いや、ブツかって来たのは向こうなんだから大丈夫でしょ?」

 

 慌てる面々に対して夏凜だけが冷静だ。

 

 高級車の扉が開かれる。

 中から降りてきたのはヤクザめいた男が1人。しかもその男は、大赦の仮面をつけていた。

 

「おいコラァ! 降りろ! 学生証持ってんのかコラ! ……おい」

 

 大赦の男はバスのドアを開けて中に入ってくると、勇者部の少女たちの前に立ちそう言い放つ。

 困惑する少女たちに対し尚も、「おいコラァ! 学生証見せろぉ! ……あくしろよ」と催促する。

 みんなしぶしぶ学生証を見せると、大赦の男は納得した様子でこう言った。

 

「おいお前らクルルァについて来い」

 

 男は再び黒塗りの高級車に乗り込むと、有無を言わさず発進させた。少女たちを置き去りにして。

 

「ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい! 待って!」

 

 勇者部一同は慌てて、走り去る高級車を追いかけた。

 

 車はしばらく走ると、人気のない所で停車した。

 全力疾走で後を追った少女たちはみんな肩で息をしている。

 ドアを開け、再びヤクザ風の大赦の男が出てくる。今度は片手にトランクケースを持っていた。

 

「お前中田か?」

「いえ、犬吠埼 風ですけど……」

 

 男は風が勇者部の代表であることを確認すると、彼女にトランクケースを渡した。

 

「……これは?」

「中開けて確認するんだよ、あくしろよ」

 

 風は男に急かされるままケースを開ける。

 ケースの中身は大赦によって回収された、用済みとなったはずの勇者専用のスマートフォンが入っていた。

 

「!! なんでこれが!?」

 

 たまげる風に男は説明を始めた。

 

「バーテックスに生き残りがいたんだよ。どう落とし前つけんだよこの野郎」

「バーテックスがまだ残ってて!?(重要) ……再侵攻を?(困惑)」

 

 「お前らもよーく聞いとけよ」、と男は勇者部の少女たちを見回す。

 

「勇者システムをまたアップデートしといたから、残ったバーテックスをとっとと殲滅するんだよ、おうあくしろよ」

 

 男は伝えることだけを一方的に伝えると、トランクを残して高級車で立ち去っていった。

 残された少女たちは、まだ戦いが終わっていなかったことに愕然とし、しばらく事実を受け入れられないでいた。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 大赦からバーテックスの生き残りがいると聞かされてから1ヶ月が経った。

 少女たちの不安とは裏腹に、未だ再侵攻は行われずにいる。

 その間に夏休みも開けて、少女たちは再び学園生活に戻っていた。

 

「お疲れ様でーす」

 

 友奈が、東郷と共に部室のドアを開け挨拶する。

 この日も普段通り勇者部は活動していた。他のメンバーは先に到着している。

 

「乙~」

「ウィ~ス」

 

 田所と風が挨拶を返し、夏凜も手を上げて返事した。

 

『ウィ~スです』

 

 一足遅れて樹も返事をする。が、それは彼女が普段使っているノートに記されたものではない。

 文章は樹の勇者アプリに新たにインストールされた、彼女の精霊『雲外鏡』の鏡面部分に投射されたものだ。

 

『この子、私の考えを読み取って文章化してくれるんで便利なんですよね』

「うわーっこれ(鏡の所に文字が)透けてるんだねハァッ」

 

 新しい会話の手法に驚く友奈。

 雲外鏡に反応したのか友奈のスマホからも、新たに追加された『火車』という猫に似た精霊が飛び出てくる。ついでになぜか牛鬼も出現した。

 さらに風、東郷、夏凜の精霊まで続々と出てきて、部室の中を飛び回り始めてあーもう滅茶苦茶だよ。

 

「大赦がシステムをアップデートしてくれたのはいいけど、ちょっとした百鬼夜行ね」

 

 と風。その後ろで、義輝が牛鬼と火車に3Pでレイプされている。夏凜が慌てて2匹から義輝を引き離した。

 

「けど、なんで精霊が追加されたのは私と樹ちゃんだけなんだろう」

 

 友奈が疑問を口にする。

 

「んにゃぴ、やっぱ満開に関係してるのかもしれないゾ」

「でもそうすると、タドにだけ精霊がいないのはなんで?」

「んまぁ、そう……よく分かんないです」

 

 精霊不在の謎は田所本人にも分からない。

 その時、友奈がさらなる疑問の声を上げる。

 

「あ、おい待てぃ! 精霊って勇者システムが更新されて増やされるんだよね? じゃあなんで東郷さんは、最初から3体の精霊がいるの……?」

 

 基本的に、勇者たちには最初、戦闘をサポートするための勇者は1人につき1体であった。

 だが、東郷 美森に関しては初めての変身時から3体の精霊がサポートについている。

 つまり、どういうこったよ?(すっとぼけ)

 だが友奈の疑問が解消される前に、それぞれのスマホからバーテックスの襲来を告げる警報が鳴り響いた。

 

「ついにバーテックスが、来たぁ!」

 

 少女たちは久しぶりに樹海を訪れると、反射的にアプリを起動して勇者装束を身にまとう。

 東郷が地図を確認すると、やって来るバーテックスはふたご座が1体だけ。

 

「今度こそ戦いを終わらせるわよー!」

 

 再び円陣を組んで、風はそう宣言する。

 

「行きますよーイクイク」

 

 ふたご座と対峙する勇者部だが、その中で唐突に田所が突出。ふたご座に向かって正面から迫真空手の正拳突きを見舞った。

 『おっぶぇ!』と吐き出された御霊も、これまたホラホララッシュで破壊し、あっという間に生き残りのバーテックスは殲滅されたのだった。

 

「ちょっと、タド! あんた、大丈夫なの?」

「大丈夫だって安心しろよ~。パパパッと終わらせたかったからま、多少はね?」

 

 少女たちの中で満開の危なさを知らされている田所は、友奈と樹のような影響が自分には無かったことから、率先してバーテックスの殲滅を請け負ったのだ。

 戦いが終わったため、花びらが舞い樹海化が解除される。

 

「ヌッ?」

「あら?」

 

 樹海から戻された田所と東郷の2人が立っていたのは、いつもの学校の屋上ではなかった。

 近くには大きな祠と、壊れかかった瀬戸大橋の残骸が見える。どうやら、校舎からはずいぶんと離れた場所に戻されたようだ。

 

「待ってたよ、やじゅじゅ」

 

 不意にかけられる声。

 振り返ると、そこには大赦の建物内部に安置されているはずの乃木 園子がいた。

 以前会った時と同じく、全身には包帯が巻かれベッドの上で寝かされた状態で。

 

「お前……SNKじゃねーかよぉ!」

「久しぶりだね~。わっしーも、会いたかったよ」

 

 園子は田所に久しぶりと言うと、続けて東郷の方に目を向け、彼女を『わっしー』と呼んだ。

 

「? TGはSNKの知り合いかゾ?」

 

 田所の声に、東郷は首を横に振って「知らない子ですね」と答えた。

 園子は寂しそうに笑みを浮かべると、田所に向かって声をかける。

 

「この前はせっかく会いに来てくれたのに、追い返しちゃってごめんね。先生頑固だから」

 

 気にするな、と返す田所。

 

「わっしーは……ううん。東郷さんも、勇者なんだよね?」

「ええ、勇者やってます。いつの日か世界を救うと信じて──」

 

 あっ、そっかぁ。と、どこか諦めにも似た物言いで園子は納得する。

 

「やじゅじゅは満開……しちゃったんだよね」

 

 田所は頷く。

 

「危ないから使っちゃだめだよーってメッセージを送ったんだけどね」

 

 やっぱり駄目だったか、と園子は後悔を滲ませながら言った。

 

「SNK。ここにはいないもう2人も満開を使ったんだけど、そいつら体の調子がおかしなったんだよ。これって……」

「うん、やじゅじゅの考えている通り。満開の隠し機能、散華の影響だよ」

 

 満開という神の力を使えば代償として、使用者の体の一部を神に捧げる必要がある。

 その代わり使用者の身は守られ、死ぬことは無い。

 

「……もしかして、以前私が病院から飛び降りた時も、アプリを起動していなかったのに精霊がバリアを張って私を守ったのも、その機能が働いて……?」

 

 東郷の言葉を園子は肯定した。と言うことは、つまり……

 

「TGも満開の経験者……なのか」

 

 東郷はかつて小学生の時代、鷲尾という家に養子に出されていたことがある。

 その時勇者に選ばれ、園子と共にバーテックスと戦い、散華で下半身の機能と記憶の一部を失っていたのだ。すべてが繋がっちゃっ……たぁ!

 さらに園子は衝撃的な事実を伝える。

 

「以前までの満開システムだったら、散華した供物も神樹様が新たに生み出すこともできた。けど、アップデートして強化された満開は、今の神樹様ではもう治すことができないの」

 

 つまり、神の手をもってしても一度捧げてしまった体の部位は、戻ってこない……。

 

「おぉ、もう……」

 

 樹の声を2度と聞くことができない事実に、田所と東郷は絶句する。

 ここで、田所の中に1つの疑問が浮かび上がってきた。

 

「……SNK、なんで俺は満開を使ったのに代償が無いんだゾ?」

「やじゅじゅは満開の後ですごく疲れやすくなってない?」

「おっ、そうだな」

「それはね……」

 

 園子は一拍の間をおいて回答を示す。

 

「やじゅじゅの代償は……寿命を失っているんだよ」

「ファッ!?」

 

 散華とは体の一部を供物とするもののはずだ。それがなぜ田所だけ命を消耗するのか。

 

「それは……やじゅじゅが、神樹さまと同じ神様(・・・・・・・・・)だから、供物を捧げる必要が無いんよ」

「「ファッ!?」」

 

 今度は東郷も田所と共に驚く。今まで一緒に過ごしてきた先輩であり友人であり仲間である人物が、神様とかうせやろ?

 

「天上より堕ちし者、暁の堕天使、『光をもたらす者──ルシ・フ・エル』。それが、やじゅじゅのもう1つの名前」

 

 そう言って園子は田所の正体、そして隠されていた世界の真実について語り始めた。

 

「バーテックスは、ウイルスなんかから生まれたんじゃない。人を滅ぼそうとする神様──天の神の眷属なの」

「天の……神」

「そして、かつて西暦の最後の時代。攻めてきた天の神とバーテックスから人々を守ってくれたのがやじゅじゅと、やじゅじゅの恋人である遠野様たち1919柱の神々」

 

 しかし天の神側の力は凄まじく、天の神に次ぐ実力を持っているとされた田所も敵わずに敗退。

 『下界(した)降臨()りて生死分けろ』と時空の狭間に叩き落とされてしまった。

 大昔に存在していた田所が、神世紀の海で大怪我をして眠っていたのもこれが原因だったのだ。彼女の異常な回復力も、神の力あってのものだと納得できる。

 

「追い込まれた遠野様たちは四国で神樹様として融合して結界を張り、そこで5人の少女を選んで、火を受け継ぎしものである最初の勇者──『ねふるむ』を造り出した。

神樹様と勇者は協力して戦いバーテックスを殲滅。そしてどうにかして天の神にダメージを与え、一時的に眠りにつかせることができたの」

 

 それが300年前のあらまし。

 しかし天の神は眠りにつく前に『火で死ね』と呪いの言葉を残し、それによって四国の結界の外は地球全土が炎に包まれ、何者も生きてはいられない地獄の時代に突入したのである。

 

「これって……衝撃ですよ」

 

 東郷がつぶやく。田所も

 

「チキショー! はめられたぜ! 人間ぶってたのにさ、俺は人を救うのが趣味の神級マニアだったのか」

 

 と自身の境遇におっぱげていた。

 不意に東郷がさらなる疑問に気付き、それを園子にぶつける。

 

「ちょっと待って。貴女、旧世紀の戦いで先代勇者がバーテックスを全てやっつけたと言ったわよね。なら、どうして奴らはまたやって来たの?」

 

 園子はとても言いづらそうに、しかし隠す訳にもいかず、目を伏せながら彼女の問いに答える。

 

「バーテックスは天の神から生み出されたの。つまり、天の神がいる限り、バーテックスも何度でも生き返る」

 

 現に今でも、結界の外では星屑が集合して新たなる12星座が復活しつつある、と。

 

「うせやろ……」

 

 園子の言うことが本当なら、これまでの勇者部の活動は全くの無意味。

 それどころか、戦いは永遠に続くということだ。

 

「……そろそろ誰か来る。2人はもう帰った方がいいよ。セバスチャンが出口まで案内するから」

 

 園子の言葉で、彼女の隣に精霊の烏天狗が現れた。

 烏天狗の先導で田所と東郷は部屋を後にする。彼女らの背に園子は

 

「真実は自分の目で確かめて」

 

 と言葉を残して。

 

 部屋に一人残された園子の元に、間を置かず大赦の女性神官がやって来た。

 

「園子様……勇者に真実を伝えるなど、よな(・・)の様に神樹様を裏切るおつもりですか。」

 

 神官は厳しい口調で園子を問い詰める。

 

「気に食わなかったら、海に投げ捨ててくれても構わないよ」

 

 冗談めかして答えるが、そのジョークも神官には通じないようだ。

 

「こっちの神様も、とうごまの木を惜しんでくれればいいのにね~」

 

 愚痴るような園子の呟きに応える者はいなかった。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 秘密の抜け穴のおかげで、田所と東郷は誰の目にも触れることなく、大赦本部から抜け出ることに成功した。

 

「TG、大丈夫か? 大丈夫か?」

 

 心配して声をかけるが、東郷は返事を返す気力もなくなっているようだ。

 田所はひとまず、意気消沈した東郷を自宅まで送り届けた。

 続けて、事態を説明するために野獣亭へ友奈、風、夏凜を呼んだ。樹はショックの度合いが強いだろうと思い呼んでいない。

 

「俺が、神様」

「……なんすかそれ」

 

 田所は自分が神であること、世界を滅ぼしたのは天の神でバーテックスは再生し再び攻めてくること、そして最後に、友奈の記憶と樹の声はもう戻らないことを伝えた。

 これらの事実に3人は衝撃を受け、特に風は妹の声が治らないという事に強いショックを受ける。

 

「アタシが……樹を勇者に巻き込んだからだ……アタシのせいだ……」

 

 風はガクリと膝をつき倒れこむと、そう呟いて涙を流し始めた。

 田所は風の肩に手を置くと、慰めの言葉をかける。

 

「違うゾ、風のせいじゃない。俺がもっと強く、満開を使うのを止めてれば……」

「……そういえば、アンタは最初から満開を使わないように言ってたわね。もしかして……最初から知ってたの?」

「んまぁ、そう……SNKから聞かされてました」

「(樹の夢を奪ったのは)お前(も)じゃい!!」

 

 立ち上がった風は、田所の頬に渾身の右ストレートを放った。

 「ブゲッ!?」と田所はなすすべもなく殴り倒される。

 さらに風は田所に馬乗りになると、彼女のことを虐待おじさんのごとくタコ殴りにし始めた。

 

「先輩! なにしてんすか! やめてくださいよ本当に!」

「暴れんなよ……暴れんな……」

「ぅあー! ぅおー!」

 

 友奈と夏凜が止めるのも構わず、風は田所の顔面を殴打していく。暴獣風のガンギマリだ。

 

「ウーン……」

 

 やがて田所が気絶すると、今度は立ち上がって勇者装束を身にまとう。

 

「ちょっと風、なにするつもり!?」

 

 夏凜の言葉に風は、怒りを滲ませこう答えた。

 

「えーちょっと大赦のほう潰しに行くからー、両側にこう退いちゃってくれるかな?」

 

 風は面前に立ちふさがる友奈と夏凜を押しのけると、野獣亭を飛び出して行ってしまった。




ようやく先輩の正体を明かすことができてよかった(小並感)
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