「オラ起きろよこの野郎! オラ!」
「……ヌッ!」
罵声と、鞭で叩かれる感触で田所は目を覚ます。
彼女の側では夏凜と友奈が、心配そうに田所を見ていた。
「……風は!?」
気が付いて早々、田所は友人の身を案じた。
「大赦を潰すって出て行っちゃったわ」
つい数分前のことだと夏凜が説明する。
「KRNはITKを連れてきてくれ。今のFUを止められるのはITKだけだ。YUNは俺と一緒にFUの後を追うゾ」
「「かしこまりっ!!」」
夏凜と友奈は勇者装束に着替え、それぞれ指示された行動をとる。
夏凜は犬吠埼家へ向かい、友奈は田所と共に風の元へ。
超スピード!? で風を追いかける田所たち。彼女らのスマホに、突如緊急を知らせるメールの着信音が響いた。
走りながらメールを確認すると送り主は大赦で、そこには『東郷に不穏な動きがあるため警戒せよ』という文面が。
「もしかして、東郷さんも大赦に乗り込むつもりじゃ……!」
不安げな友奈。
田所がアプリを開いて地図を確認すると、東郷は神樹が作った外との結界の壁に向かっていることが分かった。
「FUは俺がなんとかするから、お前はTGの所に行け!」
「分かった!」
そう言うと2人は分かれて、田所は単身で風の後を追いかけ続ける。
追いかけること数分、すぐに風の後ろ姿が視界に入った。
場所は大橋付近、大赦本部のすぐ近くまで来ていた。
このままでは大赦につうずるっこまれると思った田所はさらに速度を上げ、風の腰に抱き着く形でタックルし、彼女の動きを止める。
「んなんだお前!? 流行らせコラ!! ドロヘドロ!!(名作)」
「抵抗しても無駄だ!」
田所は迫真固めで風の動きを完全に封じるも、風は拘束を脱しようともがくことを止めない。
「なんで大赦を庇うのよ!? あいつらはアタシたちを騙して、都合のいいように利用してたんだ!!」
「大赦だって悪の組織なんかじゃねえんだよ! ちょっとやり方を間違えただけって、はっきり分かんだね」
「そのやり方が極悪だって、それ一番言われてるから。大赦を潰さないと腹の虫がおさまらないのよ!」
「ふ・ざ・け・ん・な、ヤ・メ・ロ・バ・カ!」
言葉をぶつけあう中で風の隙を見つけた田所は、「お前のここが隙だったんだよ!」と不意を突き、暴れる風に睡眠薬であるホモコロリを嗅がせることに成功。
勇者の耐性で昏倒するまでいかずとも、風は体から力が抜けて地面に倒れこんだ。
「FU、俺たちが初めて会った時のこと覚えてるか? お前、見ず知らずの俺にあんなに優しくしてくれたじゃねえか。そんな優しいお前に、誰かを傷つけるような真似してほしくねえんだよ!」
「アタシのことなんてどうでもいい! 最初から満開のことを知ってたら、誰も……樹も巻き込まなかったのに!」
「じゃあ、(その樹の声を)聞こっか」
そう言うと、タイミングよく田所たちの元に樹を連れた夏凜が到着した。
樹は風の前で膝を吐くと、自分の言葉を雲外鏡を通して姉に伝える。
『お姉ちゃん、私のために怒ってくれてありがとう。でも、私は自分の意志で勇者になるって決めたんだ。
それまでは、いつもお姉ちゃんの後に着いて行くだけだったけど、初めて隣に立てた気がして嬉しかったよ。
お姉ちゃんも、誰のことも、私は恨んでない。だから、いつもの優しいお姉ちゃんに戻って』
「樹……」
『それに、歌えなくてもまた新しい夢を見つければいいんだよ、上等だろ?』
自分の未来を失っても、尚も立ち上がり前に進む力を樹は持っている。それが彼女の、なによりの強さなのだ。
風はついに説得され「すいませへェェ~ん!」と涙を流し、樹は静かに姉の頭を撫でて慰めるのだった。
「あっ、そうだ」
事態が落着したところで、田所は東郷のことを思い出した。
東郷がなにをやらかそうとしているか分からないが、彼女は時々突拍子もない行動に出ることがあるため、友奈1人で相手をさせるのは不安が残る。
風も麻酔薬が切れて復活したので、4人は急ぎ四国の壁に向かった。
◇ ◆ ◇ ◆
壁に向かう途中の4人のスマホに、再び緊急を伝える警告音が鳴り響いた。
スマホを取り出すと、今まで表示されたことのない警告の画面が浮かび、『特別警報発令』とのメッセージが。
続けて、壁の方からバァン! と特大の大破音がした。
壁を見た4人はおっp……おっぱげた! なんと、結界であるはずの壁に大きな穴が開いていたのだ。
「穴が広がってないか?」
目の錯覚かと思った田所が問うが、風たちは首を縦に振った。どうやら見間違いではないようだ。
不意に辺りに光が広がり、田所たちは樹海に飛ばされた。ちょうどいいことに、近くでは東郷と友奈が対峙している。
「TG……お前、なにやってんでぃ!?(江戸っ子)」
「壁を壊したのは私よ。これ以上友奈ちゃんを、みんなを苦しめないために」
東郷の背後の穿たれた穴から、バーテックスの幼体である星屑が雪崩れ込んできた。
星屑は集合し、成長体である12星座を形作っていく。
「東郷さん、なんでこんな……」
「みんなもタドちゃん先輩から聞いたでしょう? 戦いは終わらないの……私たちはこれからも大切なものを失い続ける……。そんな生き地獄、みんなには味わわせたくないの!」
涙を浮かべ叫ぶ東郷。そんな東郷に、夏凜は剣を向けた。
「だからってこんな暴挙、見過ごせるわけないでしょ!」
「……夏凜ちゃんはなぜ、そうまでして戦うの?」
「それは……私は大赦の勇者だから」
「その大赦が、貴女を騙していたのよ。お兄さんもグルになってね!」
夏凜はその事実に返す言葉を無くしてしまう。
そこに、生体となったスコーピオン・バーテックスの尾が振り下ろされる。
動揺していた夏凜は避けることができず……
バァン!
地面に尾が叩きつけられるも、そこに夏凜の姿は無かった。寸での所で友奈が彼女を抱え飛びのいたおかげだ。
スコーピオンに続いてアリエスとカプリコーンも復活して、勇者たちに迫ってくる。
「こ↑こ↓は俺がなんとかしてやっかぁ、しょうがねえなぁ~」
「タドだけじゃ心配だから、アタシもやるわよ!」
バーテックスを引き受ける田所と風、さらに樹も参戦し、友奈たちから引き離す。
その友奈はと言うと、夏凜を庇った際にスコーピオンの毒針がかすり腕を怪我していた。
それを見た夏凜は、迷いを吹っ切り東郷と戦う決意をする。
近接戦を仕掛ける夏凜を、東郷は銃でけん制し言葉を交わす。
「夏凜ちゃん、なぜそうまでして大赦に従うの!?」
「大赦のためなんかじゃない! 勇者部のため、友達のために戦うのよ上等だろ?」
夏凜は、腕を抑え動けないでいる友奈に視線を向け、東郷に言い放つ。
「友達を救うために友達を傷つけるなんて矛盾してるんだよね、それ一番言われてるから」
「……っ!」
痛い所を突かれ東郷は言葉に詰まった。そこに友奈もやって来て、東郷に言葉をぶつける。
「東郷さん! 何も知らない大勢の人たちを巻き込むようなこと、しちゃあ……ダメだろ!」
「他の人のことなんてどうでもいいのよ! 友達を犠牲にしてまで守る価値なんてないわ!」
「勇者がそんなこと言っちゃ、ああ~ダメダメダメ(西田敏行)」
2丁拳銃を取り出し乱射する東郷から、夏凜は友奈を連れ一旦離れた。
「友奈、今の東郷は精神状態おかしいから、これ以上の話し合いは無駄よ」
仕方なく2人は力ずくで止めようとする。
東郷は懐から普段髪に結わえているリボンを取り出すと、それをハチマキのように額に巻いた。
ぜってぇお前らの言う通りになんかならねぇ、という決意表明だ。
そして東郷は禁断の言葉を口にしようとして
「まんk……」
「これはな、お前を気持ち良くするためのもんだよ」
スコーピオンを倒した田所が乱入し、風にも使ったホモコロリを嗅がせ東郷の動きを封じた。
田所は、倒れた東郷に優しく語りかける。
「TG、俺たちは幸せ者だなぁ」
「は?(威圧) こんな生贄扱いされてる私たちの、一体どこが幸せって言うのよ!?」
「だってお前のことを心配してくれる仲間がこんなにいるじゃねえか」
田所が辺りを見回す。側には友奈と夏凜、遠くではバーテックスと戦っている風と樹の姿が映る。
「この世界のどっかには、そんな仲間すら誰もいない状態で、孤独に1人きりで戦ってた奴もいるかもしれないだルルォ?」
「私はただ、みんなを苦しませたくないだけなの! そのためには全てを終わらせるしかないのに、なんで分かってくれないの!?」
「わかる? 突っ込め。突っ込めって言ってんの、ね? 突っ込めって言ってんだよォ!!」
田所は友奈と夏凜にツッコミを入れろと催促するが、2人はそれを理解しなかったため自分でツッコミを入れることに。
「TG、お前が一番恐れてるのって、またYUNに自分の存在を忘れられることじゃねえの?」
田所の指摘に東郷自身も、友奈と夏凜もハッと息をのむ。
「あ、さ、お前さ。友奈を助けるために壁を壊したって言ったけど、いつ友奈が助けてくれっつったんだよ」
「そ、それは……」
「お前YUNの親友なんだろ? だったらあいつのこと最後まで信じてやれよ?(イケボ)」
「……」
「それと、お前もYUNの隣に一緒に立てるような心の強さを持ちましょうね~」
「あんなつらい思いをまたするなんて無理ですもう!」
「いや無理かわかんないだろう! 勇者部五ヶ条、なるべく諦めない。お前も勇者部の一員ならへこたれんなよ、へこたれんな!」
「(でも)怖い……怖い……(カズヤ)」とグズる東郷。
友奈はそんな東郷の前に腰を下ろすと、彼女の手をしっかりと握った。
「東郷さん、私のせいで苦しませてごめんナス。二度と東郷さんのこと忘れない、なんて約束できないけど……
もし私が東郷さんのことを忘れちゃっても、東郷さんが私のことを覚えているなら……それって私たちの絆は絶たれてないってことじゃないかな?」
友奈は、東郷の額に巻かれているリボンに触れる。
「そのリボンも、大切なものなんだよね?」
「ええ……これがなんだったのか思いだせないけど、大切なものだという事は覚えているわ」
「それと同じだよ。東郷さんがそのリボンを大切にしているように、魂が欠片でも覚えているなら……何度忘れても、そのたびに出会って何度でもやり直せるよ!」
「……友奈、ちゃん……ほんとすいません(素)」
友奈の心からの言葉を受け、東郷もついに抵抗を止め怒りと哀しみの矛を収めた。
ひしと抱き合う2人の姿を見て夏凜も安堵し、田所も
「友情とは神様がくれた最ッ高の快楽。素敵なことやないですかぁ」
と彼女たちの抱擁を温かい目で見つめていた。
「好きすぎて体の中にしまっときたいよ? そしたらいつも一緒だもん。体の中にしまっといたらいつも一緒だもんね」
東郷がそんなことを言いながら友奈のぬくもりを堪能していると、バーテックスを片付けた風と樹も戻ってくる。
「お疲れっした!(カズヤ)」
姉妹の健闘を労う田所。
全員揃った所で東郷は改めて勇者部の仲間たちを見つめ
「許しは請わぬ」
と綺麗な土下座を見せた。
みんなも、しょうがねえなぁとあっさりと東郷の暴走の件を水に流す。
これも、これまで培ってきた勇者部の絆の強さだろう。
「あ、さ、俺明日誕生日なんだよね」
田所の唐突な話題に「あっ、そっかぁ」と、少女たちは返答に困る。
「だからさ、TG。特性のぼた餅誕生ケーキ、作ってくれよな~」
笑顔でそう言う田所。それが彼女なりの、東郷への罰という落とし所さん!? なんだって、はっきり分かんだね。
「ようやく一件落着……って訳でもなかったわね」
やれやれと一息つこうとする風だったが、すぐに辺りにはまだ星屑が漂っていることを思い出す。
『壁の穴も塞がないとね』
と樹。
東郷も立ち上がり、まずは星屑を一掃しようという時
デデドン!!
三度、緊急を伝えるアラームがスマホから鳴る。
デデドン!! デデドン!! デデドン!! デデドン!! デデドン!!
今回はこれまでのどの警報とも違う音が響きわたる。
画面には『超特級警戒警報』という見慣れない文字が。
「え、なにこれは」
「アラームが鳴りやまないよ!?」
今までとは違う異常な事態を知らせる警告音に、少女たちの中で嫌な予感が沸き上がってくる。
不意に、ピシっというなにかに亀裂が入るような異音が響いた。
なんだなんだと辺りを見回す少女たち。すぐにその音の発生源が上空であることに気付く。
「なんぞこれ……」
田所が漏らした。
樹海の空に大きなヒビが入っているではないか。
この空間は神樹の作った結界であり、そこに亀裂が入るという事は、結界がなにものかの力によって破壊されようとしているという事だ。
バァン!
ヒビは一気に空全体に広がり、ガラスを割るように砕かれてしまった。
結界が強制的に解除され、勇者部も、星屑さえもが現実の世界に引き戻されてしまう。
「!?」
「なんですって!?」
動揺する少女たち。
周囲にいた人たちも、なにごとかと宙を漂う星屑に目を向ける。
「ちょっと……なによ、あれ……」
夏凜が呆然とした声を上げた。
彼女の視線は空に向けられている。
現実世界の空、その向こう側の宇宙空間から、地表を覆いつくすばかりの超巨大な円盤状の物体が迫って来ていた。
円盤は銅鏡に酷似した形状をしている。
「……天の、神……」
田所が呟く。
彼女の言う通り、バーテックスの創造主であり人類の天敵、天の神は突如としてその姿を現したのだ。
銅鏡から光が放たれた。
光は雷撃となり、勇者部に降り注ぐ。
「「「「「きゃあああああッ!?」」」」」
「オォン! アォン!」
雷は精霊のバリアを貫いて、勇者の体に直撃する。
強烈な電撃を浴びせられた少女たちの体には焼け焦げができ、煙を上げながら倒れ伏した。ヒロイン屈辱だぜ!
「ぅ……ぁ……」
勇者たちが動けないあいだに星屑はあっという間に四国全土に広がり、そこで次々と住民たちを襲い手にかけ始める。
「おいヤメルルォ!!」
少女たちは叫ぶが、怪物は聞く耳を持たない。
男も、女も、老人も、子供も、一切の区別なく人という存在を駆逐していく。
さらに天の神は、レオ・スタークラスターをもしのぐ特大の炎の球を作り出すと、それを迷うことなく街の中心に座す神樹に向かって撃ちだした。
攻撃が直撃した神樹は、成すすべもなく炎に焼かれていく。
今ここに、四国は壊滅し人類終焉の時が成立した瞬間だった。
主人公の敗北展開は気持ちいいですね(建前)気持ちよくはない!(本音)
ちゃんと一転攻勢するから次回も見ろよ見ろよ