田所浩二は女の子である   作:ほろろぎ

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今回からゆゆゆほんへルートに入ります。


開花の章
第6話 敵対者、来たる


 むかしむかし あるところに 5にんの 花の勇者が いました。

 

 勇者たちは ひとびとをくるしめる魔王を せっとくするため たびをつづけています。

 

 魔王のさしむける てしたのてによって 勇者たちはきずつき 1り また1りと たおれていきました。

 

 そしてついに ききょうの勇者と さくらの勇者の 2りだけが 魔王のしろに たどりつくことができました。

 

「やっと ここまで たどりついたゾ~これ」

「もう わるいことは やめてくれよな~ たのむよ~」

 

 2りの勇者が 魔王に かたりかけます。

 

「うるさいんじゃい! わたしを こわがって わるものあつかいしたのは おまえたちダルルォ?」

 

 しかし魔王は 勇者たちのことばに きくみみをもちません。

 

「だからって いやがらせはマズいですよ!」

「はなしあえば わかるって それいちばんいわれてるから」

「はなせば また わるものにされるなんていやよー! いやよ! いやよ!」

 

 魔王は なきそうなかおで いいました。

 

「きみを わるものになんか させない!」

「そうだよ……ファッ!?」

 

バァン!

 

 唐突に、なにかが大破するような音が辺りに響いた。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 今日は勇者部の活動の一環で、幼稚園での人形劇を披露していた田所たちだったが、物語の終盤でアクシデントにより舞台セットの書割が倒れてしまったのだ。

 園児の前に晒される、人形を操作していた田所、風、友奈の3人。

 書割を倒してしまった張本人の田所は、やっちゃったぜ……といった表情を浮かべている。

 

「ドウスッペ……ドウスッペ……」

 

 動揺する風と友奈。

 

ITK()TG(東郷)、なんとかしろ」

 

 田所は、自分でこの事態を招いたくせに後輩に丸投げしていた。人間の屑がこの野郎……。

 

「このまま静寂が続けば放送事故になってしまうわ。樹ちゃん、なにか曲を流してちょうだい」

「かしこまり!」

 

 東郷が指示して流させた曲は、魔王のテーマソングであった。それを受けて、魔王の人形を操っていた風が立ち上がる。

 

「こうなれば、ここで返り討ちにしてくれるわ~!」

「えぇ、魔王がノリノリに!?」

 

 桜の勇者を担当していた友奈が慌てる。

 

「これは大変だわ。みんな、勇者を応援して頂戴! 頑張れ、頑張れ」

 

 東郷は機転を利かせて、観客の園児を舞台装置として巻き込んでいく。

 これに乗せられた園児たちも、声を合わせて「がんばえー」と声援を送り始めた。

 

「ぐおぉ、子供たちの声が私を弱らせるぅ……」

「逆に私は、みんなの声でパワーアップしたよ!」

 

 魔王と勇者の立場が逆転する。

 

「くらえ魔王! 勇者パーンチ! ……あっ」

 

 勇者の人形を持った友奈が、その手で風の持っている魔王人形に殴り掛かる。

 会心の一撃が決まったが、そのまま勢いあまって2人の手から、それぞれの人形が取れて床に落ちてしまった。

 慌てて拾おうとする友奈だが、その後ろから田所が、先に脱落してしまった3体の勇者人形を器用に操り、友奈に変わって落ちた人形を拾い上げる。

 

「こうして世界は平和になり、魔王を倒した勇者は天に召されたのでした……。ってことで終わり! 閉廷! ……以上! 皆解散!」

 

 田所が無理やり物語を締めくくったことで、どうにか無事に人形劇を終えることができた勇者部であった。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 劇をなんとか成功させた勇者部一行は、讃州市の本店の「かめや」で反省会を行っていた。

 

「おはな~しの終盤でと、タドがパネルを倒すんだもん。ビックリしたよ」

 

 注文した3杯目の肉うどんを食べながら風が言った。

 

「あんなハプニングが起こるとは思わな(カット)な」

 

 同じくうどんをすすりながら友奈が続ける。ちなみに彼女はまだ1杯目だ。

 

YUN(友奈)も人形落としたんだから、お前も連帯責任だぞ」

「まま、タドちゃん先輩の支援のおかげで大きな問題も無かったことですし、多少はね?」

 

 自分のミスを、友奈を話題に挙げることで有耶無耶にしようとした田所に、東郷はフォローを行う。

 

「あっ、そうだ。(唐突) 東郷先輩、今回の劇ってちゃんと記録取れてますか?」

「大丈夫よ、樹ちゃん。ばっちぇ録画されてるから、あとで勇者部のホームページに投稿しておくわ」

 

 樹と東郷も、うどんと一緒に頼んでいたおでんを食べながら話を進める。

 

「ところでFU()、今日は反省会のほかに話があるって言ってたけど……」

「そうそう、みんなに文化祭の出し物のアイディアをお願いしたいのよ」

 

 今はまだ4月だが、夏休み前に決めておきたいと風は言う。

 昨年は準備が間に合わず、何もできなかったため今回は先手を打とうという訳だ。

 

「風先輩とタドちゃんは今年が最後になるから、一生の想い出になることができればなぁ」

「どうせなら娯楽性の高い、大衆がなびくものがいいわね」

 

 友奈と東郷が漠然とした案を口にする。

 

「(なんか難し)そうですね」

「これは宿題ね。各自考えておくこと、いいわね?」

「宿題とかあーめんどくせー、マジで」

 

 風の宿題発言に田所が愚痴をこぼす。

 このあと、風が4杯目のうどんを汁まで飲み干し完食したことで、本日の勇者部の活動はお開きとなった。

 

 東郷と友奈は送迎用のバスに乗って、田所と犬吠埼姉妹とは別方向へ帰って行った。残された3人も歩いて帰路に就く。

 

「樹、今夜は何食べたい?」

「えぇ……。(私はもう)イーヨー」

「あれだけうどんお代わりして、まだ食べるつもりなのか……」

 

 風の底なしの胃袋に樹と田所は困惑する中、ふいにメールの着信を知らせるメロディーが鳴る。

 スマートフォンを覗く風。メールの差出人は大赦であり、文面には『バーテックスの襲来時期が近いため注意せよ』、といったようなことが書かれていた。

 

「そういやFUよ、おまえさ、YUNとTGに勇者のこととか話したのか?」

 

 田所の言葉を聞いた風は、少し沈黙したあとで叫ぶように言った。

 

「あああああああああ!! 忘れてたああああ!」

「忘れてたって、お姉ちゃん……マズいですよ」

 

 樹が呆れたように言う。

 

「勇者部の活動が楽しくてつい、ね。まま、折を見て近いうちに話すから、多少はね?」

 

 てへっ、と風は可愛らしく舌を出して誤魔化した。

 

「大丈夫だって安心しろよ~。ヘーキヘーキ、ヘーキだから」

「「ほんとぉ?」」

 

 2人をなだめる風だが、これがフラグになろうとは、この時は思ってもみなかったことであった。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 翌日、授業を受けている真っ最中の田所と風。授業を進める教師の声だけが、静かなクラスに響いている。

 

デデドン!

 

 不意に、その静寂を破るように絶望的な警告音が鳴りだした。音の発生源は風のスマートフォンである。

 メールでも電話の着信音でもないそれを聞いた風は、教師が注意するのも構わず、慌ててカバンからスマホを取り出し画面に目を落とす。

 そこには赤く大きな文字で、『樹海化警報』というメッセージが表示されていた。

 

「オー! こっちにも警告が来たぁ!」

 

 風に続いて田所のスマホにも、同様の文字が浮かぶ。

 

「タド、行くわよ!」

 

 風はやおら立ち上がると、田所に叫んだ。

 

「行くってどこにだよ?」

「樹たちのとこよ!」

「でも今授業中だゾ」

「ちゃんと見ろ。今は時間が止まってるから、授業もなにもないでしょ」

「あっそっかぁ……」

 

 風の言うように、今は彼女と田所以外の人間は微動だにせず、時計の針も外を飛ぶ鳥も、一切のものが不自然に静止している。

 これは大赦によれば、バーテックスが発生する前触れらしい。

 田所に友奈と東郷の所へ行くように指示すると、風は樹の元へと走って行った。

 

「おまたせ!」

 

 2年の教室に到着した田所は、扉を開け放つとそう言った。

 教室の中では唯一動ける友奈と東郷の2人が、突然の事態にドウスッペ……ドウスッペ……と動揺している所だった。

 

「2人とも大丈夫か大丈夫か?」

「タドちゃん、大変だよ! 突然みんな動かなくなっちゃって……」

「慌てんなよ……慌てんな」

 

 あたふたする友奈を田所は落ち着かせる。

 

「! 2人とも、あれを……!」

 

 後ろから東郷の声が聞こえる。彼女が指さす方を見ると、校舎の窓の外、四国を取り囲む海の方から虹色の光が広がってくるではないか。

 光はあっという間にすべてのものを飲み込んでいく。学校も、その中にいた田所たちも、地響きと共に光に包まれる。

 

「こ↑こ↓は何↑処↓」

 

 強烈な光のまぶしさに閉じていた目を開ける友奈。

 3人が立っているのは先ほどまでいた教室の中ではなく、植物のような物質に包まれた、どこまでも広がる広大な空間のただ中であった。

 

「こちらはですね、神樹が作った……これ作ったんかな? いや作ってないかもしれへんわ。イヤ紹介すんのやめとくわ。確信がないわ。作ってるかどうかわからへんから」

 

 今いる場所の説明をしようとする田所だったが、なぜか始める前にやめてしまう。

 

「タドちゃん、なにか知ってるなら教えてくださいオナシャス!」

「ンー、確か樹海とかいう結界みたいな場所で、一応安全なトコらしいゾ」

「どこらへんが?」

 

 友奈の頼みでうろ覚えの説明をする田所だが、東郷は疑念を浮かべる。

 

「とりあえず、風の所に行くぞオラァ!! (2人とも着いて)来いすか?」

 

 そう言って田所が先頭を歩く。

 スマホを見ると自動的に地図が表示されるようになっていたため、これを見て彼女たちは無事風と樹の元へ合流することができた。

 全員そろったことで、風が改めて現状の説明をする。勇者に選ばれた自分たちは、外界から攻めてくる怪物、バーテックスを倒さなければならないと。

 

「なんかごめんよ、ごめんやで?」

 

 これまで黙っていたことを友奈と東郷に詫びる風。

 

「あの……敵っていったい……」

「あれよ」

 

 東郷が尋ねると、風が樹海の先を指し示す。そこには奇妙としか言い表せない物体が浮かんでいた。

 ピンク色の、ボロ切れのような物をはためかせながら浮遊している、軟体動物にも見える異形──乙女座型、ヴァルゴ・バーテックスだ。

 

(あれ……? 私、なんで見たことある気がするんだろう……)

 

 バーテックスの姿を見た友奈は、言葉に出さずそんなことを考えていた。

 だが、彼女はこれまで樹海に足を踏み入れたことも無ければ、バーテックスのことなど微塵も知りはしなかったのだ。見覚えがあろうはずもない。

 友奈が奇妙な既視感を感じている隣で、田所もまた同様の感覚を覚えていた。田所がバーテックスから視線を外さずにつぶやく。

 

「『神は敵対者に問われた。お前はどこから来たのか、と。敵対者は答えた。地上のあちらこちらを巡り、歩き回ってきました』」

 

 それは過去に存在したが、今は失われた預言書の一説であることは、少女たちの誰も知る由もない。

 

「タドの言うように、あれがアタシたちの敵対者って訳ね」

 

 風が言った。

 

「そして、バーテックスが神樹様の元にたどり着いたとき、世界は死ぬ」

「あんなのと戦うなんてやだ! 小生やだ!」

 

 東郷は憎たらしい声で戦うことをン拒否するゥ。

 バーテックスは遠目で見てもかなりの巨体だ。ちょっとしたビルくらいのサイズのあるそれと、神の力を借りるとはいえ等身大の少女とでは比べるべくもない。常識的に考えて、戦いになるはずが無いのだ。

 

「(東郷は戦えるか)これもうわかんないわね。友奈、お前どう?」

「やば……やば……わかんないね……」

 

 突然、世界を守るため怪物と戦う選択を迫られた友奈は、すぐに答えを出すことができずにいた。

 不意に、ヴァルゴの尻尾状の器官から光が放たれ、それが少女たちの元へ飛んでくる。光は彼女らのすぐそばに落ち、爆発を引き起こした。

 

「いかん、いかん危ない危ない危ない……」

 

 熱風に吹かれながら田所が言う。幸いにも爆発による怪我をした者は1人もいなかった。

 

「タドは友奈と東郷と一緒に離れてて。ここはアタシがなんとかするから」

「(お姉ちゃん1人でなんて)やめてください! 私も一緒に池ー?(自問) 池ー!(自答) 行くー!(決意)」

 

 風と樹はスマホのアイコンをタップする。電子的に戦闘用の衣装が展開されると、姉妹はそれを身にまとった。風が黄色の、樹は若草色の勇者服だ。

 さらに2人のそばに、犬と毛玉のような、マスコットじみた存在も出現する。勇者の戦闘をサポートする、精霊と呼ばれるものだと風が説明した。

 

「2人とも、爆弾には気を付けよう!」

 

 田所はバーテックスの攻撃に注意するよう姉妹に言うと、友奈と東郷を連れてその場を後にした。

 

「樹、覚悟はいいわね?」

「行きますよー、行く行く」

 

 離れていく3人を背に、姉妹もバーテックスに向けてジャンプしながら向かっていく。

 

「あああああああ↓あああああああ↑! ああ!」

 

 慣れない浮遊感に、樹はうめき声をあげてしまう。

 そんな2人に向け、ヴァルゴ・バーテックスは連続して爆弾を撃ってくる。

 爆弾は姉妹の手前数メートルほどの所まで来ると、彼女らには着弾せずに爆発していった。

 これは精霊が自動的に、防御障壁を展開してくれているかららしい。

 樹の精霊──木霊の超フワフワの毛玉ボディを見て可愛い物フェチの樹がまた「すげーすげー」を連発。

 精霊バリアのおかげで、姉妹は難なくヴァルゴの目前までたどり着くことができた。

 本来であれば爆発による衝撃などを受けるはずであるが、大赦の造った勇者システムが当初の予定よりもバージョンアップされている成果だ。

 

「樹、武器を使って!」

 

 風はそう言いながら、自らも大剣を出現させた。樹もそれにならい、主武装であるワイヤーを手に取る。

 姉妹はそれらを使い、ヴァルゴに切りかかる。接近戦には弱いのか、ヴァルゴは抵抗できず少しずつ切り裂かれていった。

 

「いいじゃんいいじゃんいいじゃん。(戦い方が)キレイキレイキレイ」

 

 遠目で姉妹の戦いぶりを見ていた田所が喜色を上げる。

 勇者システムのバージョンアップとこれまでの地道な自主練のおかげで、2人は危なげなく、有利に戦闘を進められている。このままなら何事もなく怪物を倒すことができるだろう。

 田所は友奈と東郷の方をチラチラ見ながら、彼女らに声をかける。

 

「2人ともさ、風がこのことを黙ってたの、責めないでやってくれよな~。あいつも、お前らに余計な負担かけたくなかっただけだからさ」

 

 さりげなく風のことをフォローする田所は人間の鑑。

 

「……うん、分かるよ。私たちのことを思って黙ってたんだもんね。それって勇者部の活動と同じだよ」

「アジャース! アジャース!」

 

 理解を示す友奈に、田所は感謝を告げた。

 その隣で戦いを見ていた東郷は、バーテックスの様子がおかしいことに気付き2人に声をかける。

 姉妹の攻撃で体を切り裂かれボロ雑巾の体をなしていたヴァルゴだが、突然体から生えている布状の部位で自身を包み始めた。

 動きを止めるヴァルゴ。完全に布にくるまれたその様は、一同に虫のサナギを思い起こさせた。

 

「なんだコレコレ変態野郎!」

 

 風と樹はかまわず攻撃を繰り出すが、どうも硬質化した布のせいで攻撃が通らなくなってしまったようだ。

 

「お姉ちゃん、これどうなってるの?」

「わからない……こんなの大赦からも聞いてないわ。何か変……変よ変よ」

 

 樹と風も、この異常な事態に動揺していた。

 間を置かず、サナギ状バーテックスの体に亀裂が走る。

 

バァン!

 

 大破音を響かせ砕けたサナギの殻の中から姿を現したのは、さらに異様な形態へと最終進化を果たしたヴァルゴ・バーテックスであった。

 タコにも似た姿をしていたヴァルゴだったが、今のそれは胴体と思われる場所に大きな乳房状のものがついており、その胸から上には老けた中年男性の頭部が生えている。

 

「「なんだこのオッサン!?」」

 

 軟ダコのおっさんからただのオッサンになったバーテックスに風と樹が驚愕した。

 

「! あれは……『現場監督』!?」

「えぇ……(困惑)」

「きしょい……(小声)」

 

 怪物のコスプレをした変体親父、とでもいうべき姿となったヴァルゴを見た田所が叫ぶように言った。その後ろで友奈と東郷も、バーテックスの異常な姿にドン引きしている。

 

『オワァーッ!』

 

 現場監督ヴァルゴが雄たけびを上げた。同時に大量の爆弾を生み出し、それらが高速で犬吠埼姉妹にせまる。

 避ける間もなく姉妹は爆発に飲み込まれてしまった。それはこれまでの比ではない大爆発だった。

 

「やべぇよ……やべぇよ……朝飯食ったから」

 

 爆発に飲まれた姉妹を見て田所が焦り始める。理由は分からないが、田所はあのバーテックスの姿を知っていた。

 現場監督となったヴァルゴの強さは通常形態を大きく上回り、姉妹の勇者システムだけでは対処できないはずだ。

 事実、勇者と化した風と樹は先ほどの爆撃で燃やされた樹海の炎の中から出てこない。爆発によって怪我を負い、動けなくなったのかもしれない。田所たちの頭に、2人の死のイメージが浮かぶ。

 

「お前らはここにいろ! 俺は風たちを助けに行ってくる!」

「助けにって……タドちゃん、危ないよ!」

「自然には勝てませんが、ですが、自分の身は自分で守ることは出来るはずです」

 

 そう言い残すと、田所は振り返ることもせずに姉妹の元へ駆け出して行った。

 友奈の言うように、この行為は田所の命を危険にさらす以外の何物でもない。だが、彼女は姉妹の元へ行かずにはいられなかった。

 たとえ今の自分にできることが無かろうと、それは何もしなくていい理由にはならないから。

 

『(制裁の)鞭が入るぞ鞭が』

 

 現場監督ヴァルゴは、姉妹がいるであろう炎の中に向けて、布状の触腕を鞭のように打ちつける。

 振るわれたその先には確かに風と樹が倒れていたが、2体の精霊が展開するバリアのおかげで攻撃が姉妹に届くことはなかった。

 現場監督は構わずに鞭を叩きつけると、しだいにバリアに亀裂が生じ始めたではないか。このままではあと数打で障壁は砕け、2人にバーテックスの攻撃が直接届いてしまう。

 

「待てコラァ!!(迫真)」

 

 あと一撃でバリアが砕かれるという、寸での所で飛び込んでくる田所。

 彼女はそのまま風と樹を抱えると、ヴァルゴの元から2人を避難させるため逃げだした。

 

『誰が離れていいっつったオルルァ!! え!?』

 

 現場監督ヴァルゴは、背を向けて走る田所に向けて容赦なく爆弾を見舞う。

 

「あはん止めてぇェェェ!!!」

 

 叫びもむなしく爆発に飲まれる田所。吹き飛ばされた彼女の体が宙を舞い、そのまま重力に引かれ落下し、樹海の根の上に叩きつけられた。

 

「た、タド……!?」

「タド先輩……!」

 

 風と樹が田所の名を呼ぶが、彼女はピクリとも動かない。

 田所が身に着けている制服は爆炎で大きく破れ、露出した肌も火傷を負い、浅黒い肌がさらに黒く焼け焦げていた。所々に出血も見られる。重症なのは明らかだった。

 急いで治療しなければならないが、風と樹は未だ動けない。倒れている田所の息の根を止めようとバーテックスが迫る。

 

「勇者パーンチ!!」

 

 やばいやばいやばいやばい(小声)状況を打開するため、勇者となった友奈が飛び込んでくる。彼女の放った一撃が現場監督ヴァルゴに決まり、たじろがせることができた。

 しかし風と樹の2人がかりでもやられてしまったのに、友奈1人だけで現場監督を倒すことは難しいと言わざるを得ない。

 戦う友奈の後ろで田所がうっすらと目を開ける。しかし怪我のせいで指一本動かすこともできないでいた。

 思考もうまく定まらない。そんなうつろな頭の中に、突然何者かの声が響いてきた。

 

『田所さん!? ちょっと、まずいですよ!』

 

 この世界に来て初めて田所の名前を正しく呼んだ相手、その声の主は世界の守護者である神樹であった。田所はすがる思いで神樹に助けを乞う。

 

(いいだろ神樹! お前のことが頼りだったんだよ! 力貸してくれよな……)

『(その必要は)ないです。だってあなたは、そのための力を最初から持っている(・・・・・・・・・)んだから……』

 

 それだけを伝えると神樹の声は聞こえなくなってしまった。代わりに田所の意識がはっきりと覚醒する。

 同時に、言葉の意味は分からないが、神樹の言う『力』を彼女は確かに感じることができるようになっていた。

 

「行きますよ~、イクイク。ヌッ!」

 

 怪我の痛みなど感じていないかのように立ち上がる田所。彼女は力を開放し、苦戦している友奈を助けるためバーテックスに飛びかかった。

 

「突っ込め。突っ込めって言ってんの。ね? 突っ込めって言ってんだよ!」

 

 田所の体当たりの衝撃で吹き飛ばされる現場監督。友奈は自身の危機を救ってくれた田所をおっぱげながら見つめる。

 

「た、タドちゃん!? 勇者に変身してないのに、なんで……?」

 

 友奈の言う通り、田所の姿はボロボロになった制服のままであり、勇者服をまとっているわけではない。つまり勇者の力を使っているわけではないのだ。

 

「(詳しいことは俺にも)分かんねぇな。お前どう?」

 

 友奈に尋ねる田所だが、当然彼女も答えなど知るはずがない。2人の背後でバーテックスがよろよろと動き出す。

 それに気づいた田所は一瞬で友奈の目の前から消えると、次の瞬間には怪物の眼前に移動していた。

 

「赤豚ァ! 白豚ァ! 現豚ァ!」

 

 田所は現場監督ヴァルゴのボディーに、強烈なパンチを連続で叩き込む。

 

『ぐはぁ!(致命傷)』

 

 腹筋ボコボコにパンチ食らった現場監督は、たまらずに口から四角錐の物体を吐き出した。

 

「何、これ……?」

「それは御霊よ!」

 

 友奈の疑問に答えるように、風が言った。

 

「それを壊さないとバーテックスは倒せないの!」

 

 それを聞いた友奈は、すかさず御霊に向けて勇者パンチを繰り出す。が御霊は頑丈で、友奈必殺の拳ははじかれてしまった。

 

「一度でダメなら、何度でも……!」

 

 再度攻撃しようとする友奈を田所が止める。

 

「ワイと一緒にならないか?(兄貴)」

 

 彼女は友奈に、同時に攻撃することを提案する。

 

「分かった、一緒にやろう。勇者ダブルパーンチ!」

「最後の一発くれてやるよオラ!」

 

 2発の強烈な拳を叩き込まれた御霊は、あっけなく砕け散った。それほど、加わった田所の攻撃が強力だということだろう。

 

『終わっ……たぁ!』

 

 御霊が砕けると同時に、本体の現場監督ヴァルゴの体も、細かな塩の粒子と化し崩れていった。

 

 少女たちの勇者としての初めての戦いは、バーテックスのさらなる進化と田所の参戦という謎の要素をはらみつつも、どうにか勝利を収めることができたのだった。




ヴァルゴの進化体は当初、乙女繋がりでピンキーの予定でしたが
現様の方がインパクトあるかなと思いこうなりました。
(一応こっちも、女の子になりそうというセリフがありますし)
ラッシュの掛け声を言わせたかったってのも大きな理由ですが。
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