センセンシャル!
第一の敵対者、乙女座型──ヴァルゴ・バーテックスは、大赦も予想だにしていなかったさらなる進化形態、現場監督へと変貌した。
強力な力を得た現場監督ヴァルゴだったが、謎の力に覚醒した田所浩二の参入もあり、無事撃破することに成功したのだった。
「やったね、タドちゃん!」
「YUNもいい拳してんねぇ! どうりでねぇ!」
ハイタッチして勝利を祝う友奈と田所。そこに風と樹も合流する。
「タド、あんた一体……」
勇者に変身することも無く、生身で強化されたバーテックスを圧倒した田所に疑念を抱く風。
だが、田所自身もこの力の正体は分かっていないということを伝えるのみだった。
不意に樹海全体が、地震のように揺れ始める。
揺れと共に花びらが舞い始め、それが視界を覆うほどになると、次の瞬間には少女たちは唐突に、讃州中学の屋上に立っていた。
「神樹様が戻してくださったのよ」
呆気にとられていると、事情を知っている風が皆に説明する。
「ぬわああああん疲れたもおおおおん」
戦いが終わった安心から、田所はドサッと音を立てて屋上の床に寝っ転がった。
「あ、でもまだ授業中ですよね。タド先輩、そんなボロボロの格好で授業続けるんですか……?」
樹が田所の格好を見て疑問を浮かべる。彼女の服はヴァルゴの爆弾で下着ごと焼かれたため、胸も股間もあらわになっており、手足にわずかなボロ切れを巻き付けている状態でしかない。
「学校には大赦から説明して、早退ってことにしてもらうからヘーキヘーキ。みんなも疲れたでしょうから、今日はもう帰って休みましょう」
部長である風がそう言ったことで、一同はこの日は早々に帰宅することとなった。
なお、田所は大赦の車で家まで送ってもらったため、『変態露出魔讃州市に現る』などと噂になることはなかった、ということは追記しておこう。
◇ ◆ ◇ ◆
翌日の讃州中、放課後の勇者部室に揃う一同。
戦いから丸1日経ちゆっくりと休養できたことで、全員疲れを残さずに登校することができた。
風は黒板になにか書いている最中で、それ以外の4人は椅子に座って彼女の作業が終わるのを待っていた。
樹が友奈の頭の上に陣取っている、牛のマスコットのような精霊を見て言った。
「その子、とっても友奈さんになついてるんですね」
「牛鬼っていうの。ビーフジャーキーが好物なんだよ」
「がわ゙い゙い゙な゙ぁ゙ぎゅ゙ゔぎぐん゙」
牛なのに牛由来の食物が好みとは、共食いじゃないか。たまげたなぁ。
そこに、書記を終えた風がみんなに声をかける。
「まずはお疲れ様。早速だけど昨日のことを説明するから、友奈と東郷は見とけよ見とけよ~」
「よろしくお願いさしすせそ」
風は自身が書いた黒板上の、なんとも形容しがたい線の塊を指し説明を始める。
「こいつバーテックス。外の世界に充満してるウイルスから生まれた怪物ね」
「絵きったねぇ!(辛辣) クソだ……(画力が)」
幼稚園児の落書きと同レベルの風の絵を見た田所が言った。風はその言葉を無視して話を続ける。
「バーテックスは私たち人類を滅ぼすために、神樹様を破壊しようとしてるわけ。で、それに対抗するために大赦が造ったのが、神樹様の力をお借りして戦えるようになる勇者システムなの」
「はえ~」
「バーテックスの総数は12体。昨日私たちが1体やっつけたから、あと11体たおせばお役目も終わり」
「はえ~」
「注意事項として、樹海がダメージを受けると現実に反映されて事故とか災いが起きるから、派手に破壊されて大惨事なんてことにならないようにね」
風が話し終えたタイミングで東郷が口を開く。
「人類を守るため、風先輩は私と友奈ちゃんを勇者部に引き入れた、という訳ですか?
「そうだよ。(便乗) 適性が高い人は分かってたからね」
「タドちゃん先輩と樹ちゃんも、事情は知っていたの?」
東郷の疑問に、2人はうなづいて答える。
友奈が挙手してから発言した。
「次の敵はいつ来るんですか?」
「大赦のデータによると多分明日だと思います。かもしくは1週間後か、どっちかです。これもう分んないわね」
「なんでもっと早く勇者部の本当の意味を教えてくれなかったんですか……変身できたからよかったようなものの、友奈ちゃんは死ぬかもしれなかったんですよ……?」
「適正が高くても誰が選ばれるかは神樹様次第だからね。どこのチームが選ばれるか、敵が来るまでわからなかったのよ。むしろ、選ばれない可能性の方が高かったんだ」
「こんな大事なことを黙っていたなんて、なんだってテメェはそう後輩に対して理解がねえんだ?」
普段誰かを責めるようなことは言わない東郷だが、親友の友奈の身に及ぶ危険を想って、我慢できず風にキツい言葉をかけてしまった。
つい口から出てしまった言葉に、直後に言い過ぎたと自己嫌悪に陥る東郷。いたたまれず、彼女は1人部室を出て行く。
「あっ、おい待てぃ(江戸っ子)」
東郷の後を追って友奈が部室を飛び出した。
部屋に残された田所たち3人の間にも、気まずい空気が立ち込めている。
「やば……やば……(どうやって東郷と仲直りしたらいいか)わかんないね……」
勇者部の真実を秘密にしていたことについて、友奈は特に気にしていない様子だったが、東郷はかなりショックを受けていた。
風は、このままでは東郷が退部してしまうのではないかと不安を感じ始める。
「ITK、なんとかしろ」
「かしこまりっ!」
田所の困った時の樹頼りで、彼女はさっそくカバンからタロットカードを取り出し、姉と東郷の仲直りの方法を占う。
順々にカードを裏返していく樹だが、その内の1枚が突然空中に固定され、ピタリと止まってしまう。
「「「あっ、ふーん」」」
事態を察した3人がつぶやいた。直後、風の精霊である犬神が、アラームが鳴る彼女のスマホを持ってやって来る。
画面には案の定、バーテックスの襲来を知らせる文字が写っていた。なにが次来るのは明日か1週間後やお前ぇ!
◇ ◆ ◇ ◆
警報を聞いて即座に変身し、樹海で待機する風と樹、そして制服のままの田所。
結界を越えてやって来たのは2体のバーテックス、蟹座型のキャンサーと、蠍座型のスコーピオンである。
「えぇっ、2体もいるよ!?」
樹がおっぱげる。
「……いや、もう1体いるゾ!」
田所が叫んだ。その言葉通り、2体のバーテックスの後ろから続けて3体目の射手座型、サジタリアス・バーテックスが姿を見せる。
今回襲来したバーテックスは3体っ。鋭い尾の棘と堅牢な体。まだ中学生の勇者たちは、この怪物の攻撃に耐えることができるでしょうか? それでは、ご覧ください。
「いきなり3体が相手とか、これはキツいですよ」
初めての戦闘の翌日に複数の敵と戦わなければならない状況に、樹はつい弱音を吐いてしまう。
進行してくるキャンサーとスコーピオンだが、サジタリアスだけはどういうわけか、後方で静止したまま動こうとしない。不信に思い警戒する姉妹と田所。
サジタリアスは突然、口のような部位を大きく広げた。その中に1本の巨大な針を生成すると、目にもとまらぬ速度で撃ちだす。
針は風めがけて飛んでいくが、彼女に当たる寸前で田所が割り込み、拳のガードで軌道を変えることに成功した。
「いかん……いかん! 危ない危ない危ない危ない危ない危ない……」
風に怪我がなく田所は安堵する。
サジタリアスは続けて、無数の細かい針を撃ってきた。雨のように降り注ぐそれを、3人は走ってかわしていく。
「みんな……!」
遅れて到着した友奈。3人を助けるために、攻撃を中断させようとサジタリアスに向かっていく。が、その前にキャンサー・バーテックスが立ちはだかった。
「邪魔しないで! 勇者パンチ!」
必殺の拳を叩き込む友奈だが、キャンサーの持つ複数の盾でそれは防がれてしまう。
しかし盾の硬度より友奈のパンチの威力が勝っているようで、衝撃を受け止めきれずキャンサーの体には亀裂が走っていた。
「いける……! 連続勇者パーンチ!!」
バァン!
大破音を響かせ、キャンサーは盾ごと体の半分を砕け散らせる。
そのままの勢いで、友奈は弾丸のごとくサジタリアスに体当たりをかました。
「いくぞおおおおおおおおおお! オエッ!」
友奈に続けとばかりに田所が叫び、姉妹も共にサジタリアスに突撃をしかける。
背後からスコーピオンが3人に迫る。触れれば必死は確実の猛毒を含んだ尾がふるわれた。
殺気を感じた田所は振り返ると、迫真空手の正拳突きでこれを破壊する。
「やったぜ」
これで勝利と思われた時、3体のバーテックスに不穏な動きが表れた。
体表が赤く熱せられたかのように輝き、爆発するかのように砕け飛ぶ。
中からは、ヴァルゴ同様に最終進化を果たした異形の存在が姿を現した。
追い詰めたつもりが、逆に囲まれるという状況に陥ってしまった田所たち4人。
友奈はKキャンサー、田所はSスコーピオンに立ち向かうが、強力化したバーテックスに今度は攻撃が通用しない。
Kキャンサーの盾が4人を取り囲むように展開すると、それに向かってBサジタリアスが矢の雨を発射する。
矢は盾に反射し、四方から少女たちを襲う。精霊バリアによって守られているが、それが無い田所をかばうため他の3人は身動きが取れなくなってしまった。
(勇者を)バラしたいなって……思っていることが感じられる殺意の高い攻撃だ。
「なんだこの連携!?」
知性が無いTDN怪物と思われていたバーテックスが、お互いの特性を生かしあい攻撃してくることに驚く風。
「あーもうしつこいチンポ!(吾作)」
友奈はこのままではやられてしまうと、注意を引き付ける囮になることを決め飛び出す。
しかし、飛び出た直後にSサソリの尾の横なぎを受けて、あえなく吹き飛ばされてしまった。
「う、羽毛……」
昏倒し、変身が解けてしまう。
倒れたまま身じろぎしない友奈に向けて、Sサソリがとどめを刺そうと毒の尾を突き立てんとしたその時、
バァン!
一条の光が飛んできて、大破音と共に尾の棘が砕け散った。
光の来た方を見ると、そこには勇者服を身にまとった東郷が、狙撃銃を手にして立っていた。
「友奈ちゃんをいじめる奴はもう許さねえからな~」
怒りをにじませた東郷が、狙撃銃を連射してSサソリの体を撃ち貫く。数100メートルは離れているというのに、弾丸は1発も外れることなくバーテックスの体に着弾していく。
突然の東郷の参戦と見事な銃の腕前に、茫然とそれを見る風と樹。ゴルゴ13かなにか? いいゾ~、これと野獣は声援を送っている。
ついにSサソリは活動を停止し、御霊を吐きだした。
バージョンアップした勇者システムのおかげで、封印の手順を踏むことなく強い衝撃を与えれば、御霊を露出させることができるのである。
御霊は無数に分裂しどれが本物か分からなくなるが、東郷は動揺することなくすべてを撃ち破壊することで、Sサソリを塩の柱へと還した。
続けて東郷はKキャンサーとBサジタリアスの近くまでやって来ると、武器を狙撃銃から2丁拳銃に持ち替え、2体のバーテックスを撃ち始める。
衝撃でバーテックスは攻撃を中断させられ、その隙に田所たちは東郷の元へ避難することができた。
「東郷先輩、助かりました。ありがとナス!」
「いい腕前してんねぇ、どうりでねぇ!」
樹はお礼を言い、田所は銃の腕前を褒める。
東郷は風の方を向くと、謝罪の言葉を口にした。
「風先輩、部室では言い過ぎました。センセンシャル!」
「東郷……アタシの方こそごめん! 許して亭許して」
お互い頭を下げる。心からの謝罪に、2人の間にあったわだかまりは解消された。
ダメージが回復し復帰してくるKキャンサーとBサジタリアスに対峙する風、樹、田所、そして新たなる勇者東郷。
「こっちも協力! して! いこうぜーワァァァァォッ!」
田所が勝ちどきの声を上げる。
再び盾を勇者たちの周りに展開するKキャンサー。Bサジタリアスが矢を放つ前に田所が動いた。
「見切りはねえ~自信あるんですよ」
すでにお前たちの攻撃パターンは見切ったと田所は言う。
Bサジタリアスの眼前に移動した田所は、矢を放つために開かれた口に飛びつくと、力任せに閉じて塞いでしまった。
「暴れんな……! 暴れんなよ……!」
田所の怪力でBサジタリアスは口を開けることができない。
攻撃を妨げている田所を排除しようとKキャンサーがハサミを伸ばすが、そうはさせまいと東郷と風が妨害を行う。
2人がKキャンサーの相手をしているうちにBサジタリアスをたおそうと、田所は樹に指示を出した。
「君には、緊縛ショーに出演して頂きたいと思います。よろしいですね?」
その言葉と共に、樹は武器のワイヤーでBサジタリアスをがんじがらめに縛りあげ拘束した。
「あんたも縛られてると情けねぇなぁ、ん? 随分先生縛られてるとアレだねぇ迫力ないねぇフッフッフッフwww」
田所が余裕の表情で言う。
彼女は樹に手を貸し、2人の力でワイヤーを引っ張るとBサジタリアスは、ところてんのように細かく裁断される。
御霊ごと切断されたBサジタリアスの体は、ぱらぱらり^~と塩と化し崩れ去った。
残るKキャンサーも反射板として使っていた盾をハサミに変化させ攻撃してくるが、風が大剣で、東郷は2丁拳銃でことごとく破壊する。
連携を乱されたバーテックスはもはや勇者たちの敵ではない。丸腰になったKキャンサー本体も、2人の攻撃で御霊を露出させた。
「じゃあ……死のうか」
風が御霊に向けてとどめの一撃を振り下ろす。しかし、御霊はヒョイッとこれをよけた。
「ほら動くと、動くと当たらないだろ! 動くと当たらないだろ!!」
風はブンブンと大剣を振り回すが、御霊はヌルヌルとした動きで絶妙に彼女の攻撃をさけ続ける。
「あーhーんもう……」
疲れて息切れする風。
「風先輩。私が誘導しますから、とどめをお願いします」
「おかのした」
東郷の銃撃も同様に回避するKキャンサーの御霊。だがその移動先は、彼女によってうまい具合に誘導されたものである。
「今です! 12時の方向!」
東郷の叫びを聞いて、風は剣を振りかぶる。
「じゃあ死ね!(直球)」
大剣を振り下ろす先には、見事に御霊がやって来ていた。スパンッ! といい音を響かせKキャンサーの御霊は両断される。
「状況終了」
東郷の呟きと共に、Kキャンサーも塩の柱となり崩壊した。
3体の敵をすべて倒したことで、少女たちも元の世界──学校の屋上へと戻された。
車椅子に座っている東郷と、その側に立つ田所、風、樹。少し離れた位置に友奈が眠るように横たわっている。
「オラ起きろよ! 寝てんじゃねえぞいつまでもオラ! 起きろよオラ! オイ! ふざけんじゃねえぞ! 起きろよ、オラ!」
東郷は友奈の元まで行くと、心配のあまり大声を出して彼女を揺り起こす。耳元で叫ばれたため、友奈もすぐに意識を取り戻した。
「東郷さん……バーテックスは!?」
ガバッと飛び起きる友奈。周囲を見回し、戦闘が終わっていることを理解する。風がこれまでの展開を説明した。
「東郷さんも勇者になったんだ。この娘すごいよぉ! 勇気ある行動誇らしくないのかよ」
東郷が共に戦ってくれるということを知り、友奈は彼女に飛びつき喜びをあらわにする。
「あぁ~、でも私東郷さんの活躍見逃しちゃった。残念で狂いそう……!」
「また次の機会があるから、多少はね?」
悔しがる友奈を東郷はなだめた。
「あっ、そうだ。(唐突) 友奈ちゃん、課題は終わった?」
「(その話は)やめてくれよ……(絶望) 勇者アプリの説明テキストばっかり読んでて、全然進みませんでした……(小声)」
「そこは守らないから頑張ってね」
「お慈悲^~お慈悲^~」
友奈は近日中に提出しなければならない課題に、まったく手を付けていないという。
そういえばと田所と風も、近いうちにテストがあり、試験勉強がまだだということを思い出していた。
「おい(合格の目途が)立たねえなあ~? なんだじゃあ俺が立たしてやるか! しょうがねぇなぁ(悟空)」
田所の提案で、後日勇者部で集まって勉強会を開こうということになったのだった。
今回のサブタイトルは、『三神一体』という意味の言葉です。