そのうち創作意欲まで無くなってしまい時間がかかってしまいました。ごめんナス!
次はありふれの方を書くんでまた間が開いてしまいますが
気長に待っててくれよな~、頼むよ~。
「ちょちょちょ待ってください! 待って! 助けて! お願いします! うああああああああ!!!!」
帰宅するため夕暮れの廊下を1人歩く夏凜。その背に呼びかけるように、田所の声が響いてきた。呼び止めるというより、それはもはや助けを求める悲鳴だった。
田所を不審人物として警戒していた夏凜だったが、切羽詰まったような叫びを聞いてさすがに田所のことが心配になり、慌てて部室に引き返す。
「なに!? 大丈夫なの!?」
バァン! と音を立てて部室のドアを開くと、そこにはなんの異常も見受けられず、平然と佇んでいる田所と勇者部員の姿があった。
「え? え? なんだったの、今の叫び声は?」
混乱する夏凜。田所は彼女の手を引き部室に招き入れると、友奈たちの前に立たせる。
「お か え り」
「……あんた、なんで絶叫してたの?」
「お前を連れ戻すためだよ」
「……つまり、演技だったと?」
「そうだよ。迫真だったろ?」
「まぎらわしいんじゃい!!」
バァン! 夏凜は怒って自分のカバンを床に叩きつけた。
「普通に呼びなさいよ!」
「それじゃお前、戻ってこないダルルォ?」
「なんだってテメェはそう私に対して配慮がねえんだ?」
「え、そんなん必要ないでしょ」
「マジムカつくなこいつぅ……」
田所と夏凜のやり取りを見ていた風たちは心の中で、いいツッコミ役が来てくれたわ、と一様に思った。口に出すとまた本人から突っ込まれそうだから誰も言わないが。
「それでは、夏凜ちゃんも戻ってきてくれたことだし、改めて勇者部加入記念うどんパーティーを開こうと思います!」
「だから行かねぇっつってんじゃねえかよ」
改めて友奈は夏凜を引き連れかめやに行こうとするが、夏凜も変わらず断り続ける。
「なんでそんなに行きたくないの? もしかして、うどん嫌いだった?」
「そうじゃないけど……。あんたこそ、なんでそんなに私を連れて行きたいのよ?」
「お友達になるんぜよ!」
夏凜と友達になりたいから、と友奈は言う。
正面からぶつけられたストレートな思いに夏凜は赤面しつつも、友達なんて必要ないと、やはり断った。だがその態度は、無理してそう言っているのが傍目から見てもわかるものだった。
田所は、これもう一押しで折れるな、と感じ発破をかけるために口を開く。
「なんだお前貧乏なのかよ、しょうがねえなぁ。(おごってやるから一緒に)来いすか?」
「これマジ? じゃあアタシは肉うどん大盛りね」
「ファッ!?」
おごる相手は夏凜だけのつもりだったが、なぜか風がのっかってきた。
「じゃあ私は海老天!」
「ファッ!?」
今度は友奈がのってくる。
「では、私はきつねうどんをお願いします」
「じゃ、じゃあ、私は月見うどんで……」
「ファッ!?」
続けて東郷と、ちゃっかり樹もおごられる気のようだ。
気がつけば夏凜以外全員パーティーに参加する気満々で、自分1人だけが拒否し続けているのがなんだか馬鹿らしくなってきて、ようやく夏凜もかめやに同行することに賛同するのだった。
◇ ◆ ◇ ◆
かめやに着いた勇者部一同。早速席に着くと各々の食べたいメニューを注文する。
食事はすぐに運ばれてきて、全員行儀よく合掌してうどんを食べ始めた。
ちなみに田所はわかめうどんで、夏凜はお店で一番安い、具の乗っていない素うどんである。
「素うどんなんて、
わかめを口に運びながら田所が言う。
「別に遠慮してるわけじゃないわ。おツユに使われてるにぼしの出汁を味わうには、これが一番いいのよ」
そう言いながら夏凜はツユをレンゲにすくって飲むと、うん、おいしい。とこぼした。
「意外と言えばあんたもよ。てっきり、もっと脂っこいスタミナのつきそうなものを頼むと思ってたわ」
「知らないのか? わかめとかの海藻類は食べるとお肌にいいんだゾ~、これ」
ここぞとばかりに女子アピールする田所。
「だったらいい加減、その男の子みたいな口調もやめなさいな。女子力が落ちるわよ」
風がお代わりを注文しながら忠告する。
やはり田所が周囲から女の子と認識されていることに納得がいかない夏凜は、みんな一度病院で頭の検査でもしてもらった方がいいんじゃないかなーと言いたげな表情でうどんをすすった。
「あ、さ、それにしても夏凜ちゃんすごかったよね~。樹海~に入った途端いきなり現れてば、1人でバーテックスをやっつけちゃうんだもん。ビックリしたよ。」
「べ、別に、私にかかればあの程度の敵どうってことはないわ。勇者はすごくて当たりよ! チッ、バカじゃねえの」
「友奈ちゃんはちょっと抜けてるところも魅力の一部だってそれ一番言われてるからね。そんな友奈ちゃんと一緒にいると、十分ニチィ! パワーを貰えますよぉ~」
勇者の中で一番強いかもね、と夏凜を褒める友奈。
当の夏凜は褒められ慣れていないのか、頬を赤くしながら怒っているように答える。
しかしそれは、照れ隠しで怒ったような言い方になっているだけだということにみんな気付いていたので、場が険悪な雰囲気になることは無かった。
現に、親友をバカと言われた東郷も笑って流しているくらいだ。
「いつか友奈ちゃんとコイニハッテンシテ……? 素敵なことやないですかぁ」
「いや何言ってんのお前……(城之内)」
だが夏凜の方は、東郷の反応含めた勇者部の雰囲気に馴染めるのは、まだ時間がかかるかもしれない。
「あっ、そうだ」
いつの間にか3杯目のうどんを平らげた風が、なにかを思い出したように唐突に言葉を発した。
風は夏凜の方を向きながら彼女に問いかける。
「アンタ、三好春信って人のこと知ってる?」
「ぼわっは!」
夏凜は口に含んでいたうどんを盛大に噴出した。夏凜の口から発射されたそれは火山から吹き上がる噴煙のように、正面に座っていた田所の顔面にド迫力の勢いでぶちまけられる。
ゲホゲホとせき込む夏凜。樹は心配そうにその背中を撫でてやった。
「ゲッホゲホ! な、なんで風がその名前を知ってるのよ!?」
「アタシと樹が勇者になる代わりに、生活資金を援助してくれるって持ち掛けてきた人なのよ。同じ苗字だし、もしかして親戚?」
夏凜は答えづらそうに口を開けたり閉じたりしていたが、やがて隠すことでもないか、といった風な投げやりにも見える態度で、風の質問に答えた。
「……兄貴よ」
「はえ~、全然似てないわね」
「悪かったわね」
風の言葉に、これまで以上にぶっきらぼうな態度になる夏凜。彼女の姿は、なにかに拗ねている子供のような雰囲気を一同に感じさせた。
「兄ちゃんは大赦の重役で妹は勇者って、エリート一家じゃんアゼルバイジャン。これって……勲章ですよ。KRNも誇らしいダルルォ?」
純粋な賞賛の気持ちで口にした田所の発言だったが、これに夏凜は一見して分からないほど、わずかに苦悶の表情を浮かべる。
「私なんて、全然、すごくないわ」
こぼれた言葉に、田所たちはギョッとして夏凜の顔に目をやる。彼女はこれまでの勝気な性格からは想像もできないほど、弱弱しい雰囲気に一変していた。
それはまるで、今まで真夏の太陽の下で元気いっぱいに咲いていたヒマワリが、時を消し飛ばして一気に寿命を終え、萎れてしまった姿を見せられたかのようだった。
夏凜は箸を置くと、カバンをもって席を立った。
「ご馳走してくれてありがと」
「……もう帰るのかゾ?」
「お腹いっぱいになったから」
さよなら、と言い残し夏凜は一人店から出ていった。満腹だと言った彼女のうどんは、まだ半分以上が残されたままだった。
◇ ◆ ◇ ◆
日をまたいだ翌日の放課後、田所は1人で勇者部室に向かっていると、部室の扉の前で夏凜が立ちすくんでいるのを発見した。
夏凜は扉に手をかけ、開けるのかと思えば手を放し、また扉に手をやり、といったことを繰り返している。やれやれ、と田所は夏凜の元に近づいて行き声をかけた。
「警察だ!(インパルス板倉)」
「ファッ!?」
突然声をかけられて、びっくりさせられた夏凜は飛び跳ねるように驚いた。
「タングステンさん!? いきなり大声出すんじゃないわよ!」
「不審者がいるって通報があったからね」
「誰が不審者よ! 女子の制服着て平然と日常生活を送ってるおっさんに言われたくないわ!」
「あと、俺のことはタドでいいゾ」
「人の話を聞きなさいよ!?」
「で、KRNはさっきから部室の前でなにやってるんだ?」
「ぅ……べ、別になんだっていいでしょ」
田所の疑問に夏凜は答えられない。だが、田所は全部お見通しだといった風に言葉を続ける。
「どうせ、昨日気まずい別れ方したから顔を合わせづらい、ってことでいいすかぁ~?」
「ぐっ……そうだよ」
夏凜は心中を当てられ、吐き捨てるように肯定した。再び、やれやれといった顔で、田所は夏凜の手を引くと部室の扉に手をかける。
「世話の焼ける奴隷だな。ほらいくどー」
「え、ちょ、待って……!」
夏凜の制止を無視して扉を開けると、部屋の中にはいつものメンバーが顔を並べているのが見えた。
「お ま た せ。KRN連れてきたゾ~」
「あらいらっしゃい。ずいぶん遅かったわね」
風がいつも通りの雰囲気で2人を出迎える。他の3人もよそよそしい感じなどなく、普段の通りに接してきてくれたことに夏凜は内心で安堵していた。
「で、なにやってたのよ?」
「KRNはみんなに会いづらくてドアの前でうろうろしてたゾ」
「言うなバカァ!」
「タドは?」
「ウンコしてた」
女子なら軽々しく口にしてはいけないことを平然と言う田所。
「あっ、手を洗うの忘れてたゾ」
「手きったねえ! ……クソだ」
夏凜は握られていた田所の手を慌てて振りほどき、自身のハンカチで手を拭いた。あとで石鹸できちんと洗わなきゃ。(使命感)
「それじゃあ全員そろったことだし、ミーティング始めるわよ~」
ぱんぱん、と手を叩き、風がみんなの注意を集める。そこに夏凜が待ったをかけた。
「その前に、情報の共有をしときたいんだけど」
夏凜はそういうと、黒板にこれまでのバーテックスの襲来周期を書き始める。
その様を見ながら、田所がなにかに気付いたように鼻をフンフンと動かし始める。
「なんか匂う、匂わない?」
「アンタがトイレ行ったからじゃないの?」
「いや、そういうんじゃなくて香ばしい、いい匂いなんだよなぁ」
鼻を鳴らしながら匂いの跡を辿っていくと、その発生源は夏凜のカバンであった。
「ン何だお前?!」
田所は持ち主の許可も得ずに、勝手にカバンを開けて中身を探り始める。これに驚いた夏凜はすかさず田所を止めようと、彼女の体にしがみついた。
「オロナイン、抑えろ!」
「やめろォ(建前)、ナイスぅ(本音) ンアッー!」
田所は風と友奈に指示して夏凜の動きを封じさせる。その間にもカバンを探る手を進めていくと……。
「チキン……じゃないわ……カツ、え? ……とんかつマック、とんかつマックバーガーありました!」
やがて発掘されたそれはとんかつマックバーガーなどではなく、袋詰めにされた業務用の煮干しであった。
「……煮干し?」
およそ女子中学生が持ち歩くものではないそれに、夏凜以外のメンバーがキョトンとした表情を浮かべる。
「何よ!? ビタミン! ミネラル! カルシウム! タウリン! EPA! DHA! 煮干しは完全食よ!?」
「はえ~、好きなんすねぇ~」
他人には知られたくなかったのか、うっすらと頬を赤く染めながら早口でまくし立てる夏凜。勇者部は彼女の意外な面を知れてほっこりした気分になった。
東郷は自分のカバンから重箱を取り出し、夏凜に開けて見せる。そこには彼女お得意のぼた餅が入っていた。
「せっかくですし、交換しませんか」
「なにそれ?」
「さっきの家庭科で作ったんだよね。東郷さんはお菓子作りの天才なんだよ」
友奈は自分のことのように東郷の腕前を自慢する。
「いい、いらない」
と口では拒否の姿勢を取りながら、ぼた餅を見てゴクリと喉を鳴らしたのを田所の野獣の眼光は見逃さなかった。
「あっそっかぁ……仕方ないね。(レ) じゃあ俺たちだけでいただッキーマウス」
そう言うと夏凜に見せつけるように──実際見せつけながら──田所はムシャリムシャリとぼた餅を口に入れる。
「うん、おいしい! やっぱり~東郷くんのぼた餅を……最高やな!」
──クゥーン……──
田所が食べるぼた餅の甘い小豆の香りが漂い、夏凜の鼻腔を刺激し彼女のお腹が可愛らしく空腹を訴えてきた。
お腹を押さえ赤面する夏凜の前に、田所はスッと小皿に乗せたぼた餅を差し出す。
「煮干しと交換だゾ」
「し、しょうがないわね! そんなに食べたいなら分けてあげるわ!」
やれやれ。田所はぼた餅を渡し、代わりに煮干しを受け取った。口に放り込むと、わずかな苦みと香ばしい風味が広がり、なるほど夏凜がハマるのも理解できた。
夏凜の方も、ぼた餅を口にして「素晴らし菓子……」と呟き、その美味さに驚いている様子だった。
◇ ◆ ◇ ◆
数分後、お茶も用意され煮干しとぼた餅をゆっくりと味わった一同は、改めて夏凜の話に耳を傾ける。
「大赦と過去の勇者の戦闘データによると、バーテックスはおおよそ20日周期で現れると考えられていた。でも今回は……」
1体目のヴァルゴが襲来してから間を置かず、翌日にまとめて3体がやって来て、その次は1ヶ月開けてカプリコーンが来た。
「おまけに、今回の奴らは異常な姿に進化して強くなってくる。大赦も予測してなかった、相当な異常事態よ」
「初めて戦った時は、タドがいなかったら危なかったわね」
「次も東郷さんが来てくれなかったらピンチだったよ~」
「あのー……」
樹が手を上げて発言の許可を求めた。
「なに?」
「強くなったバーテックスの姿って、なんだか人間っぽく見えたんですけど……あれって一体なんなんでしょうか?」
カプリコーン以外の4体は、どれもこれもが意味不明の怪物じみた容姿から、成人男性を思わせる形態へと変化した。
ウイルスから進化して発生した異常生物なのだから、人間に対応した進化を行ったとでもいうのだろうか?
田所と、現物を見ていない夏凜以外の少女たちが、その醜悪なビジュアルを思い出し気分を悪くしている中で、田所はどういう訳か、人の姿を取ったバーテックスたちに
「それに関しては調査中だって。ま、私にかかればどうってことないわ。『満開』もあるしね」
「満開?」
初めて耳にするワードに、誰かが聞き返す。
「勇者が戦闘経験を蓄積することでパワーアップできるシステムよ。満開を繰り返せば繰り返すだけ、より力も増すって寸法よ!」
「はえ~、すっごい」
夏凜が満開システムのスゴさを力説し友奈たちが感心する中で、ただ1人田所だけが疑念の表情を浮かべていた。
「……くっせぇなお前」
疑念は呟きとなって田所の口から発せられる。囁きのようなそれは、しっかりと夏凜の耳にもはいていた。
「アンタ、なにが言いたいのよ」
「なんの代償もなしに強くなるってホントぉ? 都合がよすぎる……よすぎない? デメリットが無いのにメリットばっかりって、この世の法則からしてあり得ないんだよなぁ」
田所の言うことももっともだ。しかし夏凜は、彼女の疑いの眼差しを真っ向から否定する。
「大赦の報告にも、危険性は無いって明言されてるとはっきりわかんだね。それに」
一拍置いて小さな声で、しかし断固とした意志で夏凜はこう言った。
「それに、兄貴も満開システムの開発にかかわってる。兄貴が、危険かもしれないものを、私たちみたいな子供に使わせるわけない」
家族のことを信頼したい気持ちは、家族の記憶が無い田所でも十分に伝わった。なので、彼女もそれ以上の追及をすることはできず、口をつぐまざるをえなかった。
2人のちょっとした言い合いから部室の雰囲気が少しだけ暗くなったが、そこは部長の風が取り直したため問題になることは無かった。
「ま、なんにしても使ってみればわかるわよ」
風のその言葉で情報共有の催しは終了となり、その後は近々行うことになっている、幼稚園でのこども会の手伝いの段取りへと話題は移行した。
この時は軽く考えていた問題の先延ばしが、後になって少女たちを苦しめることになるとは、まだ誰も予想していなかった。
今回のサブタイは、ラテン語で「疑い」という意味です。
また、オーニソガラム・ドゥビウムという花もあるそうです。