ぴんぽーん♪
来たか。
内心ドキドキしている。たかだか小学五年生の女の子がうちに来るというだけで。
その少女は目の前で俺の本を買ってくれた。サイン会で一番最初にやってきてくれた。俺の小説の本当の部分を理解してくれた。そして最高のファンレターをくれた。
彼女からメールで直接会って話したいという連絡を受けたあと、何度かのやり取りを経て、我が家へやって来る運びとなった。
彼女の家で小説の話をするのは難しいようだった。ご両親はきちんとされた方らしく、俺が行ったら客として手厚くもてなされてしまうから、俺が彼女と二人きりになることも無理だと。そしてそんな親御さんの前で出来るような会話ではない。おちんちんという言葉ひとつで大騒ぎになるに違いないそうだ。俺たちが気兼ねなく話したらとんでもないことになるだろう。
ファミレスというわけにもいかない。公共の場で女子小学生と卑猥な会話などしていたら通報されてしまう。
小学五年生とわかったときは一人で来させるのはどうかと思ったのだが、普段から電車通学で我が家の最寄り駅は定期券内であり場所も大体わかるということと、六月に入って日が高いうちに帰宅できそうであること、そして何より彼女が我が家を訪ねたいと希望していることが決め手となった。
「はーい」
俺が出迎えるはずだったが、勝手に妹が出てしまった。
慌てて追いかける。
「あれ? 男の子?」
玄関でドアを開けた詩歌は首をひねっていた。
「そんなわけないだろ、失礼な」
妹をどかして来客を出迎える。
梅雨入り前の強い日差しを浴びて立っていたのは、確かにあげはちゃんだが格好がボーイッシュだった。黒いキャップを目深に被り、黒い薄手のウェアと短いブルージーンズ、紺のスニーカーという出で立ち。
しかしよく見ると肩のところはスリットが入っていて肌が見えているし、革のポシェットでいわゆるパイスラッシュが発生していて一応胸があることがわかる。
「こんな可愛い男の子がいるかよ。ごめんなうちの妹が」
「い、いえ……」
「待ってたよ、あげはちゃん」
「はい、あげはも楽しみにしていました」
そう言って俺を見上げて微笑む。
俺も笑顔で応えた。
「え、なに、もう恋人同士みたいじゃん……」
「何言ってるんだ詩歌、失礼だろ。おいで、あげはちゃん」
妹はなぜか立ちすくんでいて役に立たないので、リビングに通す。
外は暑かっただろうから、飲み物は冷たいものが良いだろう。
「オレンジジュースでいいかな」
「あ、はい」
あげはちゃんはちょっと緊張しているようだった。当然だな。玄関に突っ立っていた妹がやってきて、自己紹介を開始する。なにを焦っているのだ。
「あ、あー、あげはちゃん。紹介が遅れてごめんなさい、四十八先生の実の妹の詩歌です」
「はじめまして。
お辞儀をし合う二人。
「あの、詩歌さんは、お兄さんの小説をお読みになってるんですか?」
「あ、うん! ファン第一号なんだよ」
「あ、そうなんですね! あの、あの」
「ちょ、ちょっと待った」
ここで止めなければどうなるかはわかっていた。あげはちゃんが「詩歌さんもおちんちんがあればよかったと思ってるんですか、どこで心のちんこが勃起しましたか」とか言っちゃったらヤバイ。やばすぎる。
俺はあげはちゃんの顔をじっと見てから、詩歌を一度だけ見て、その後あげはちゃんの顔を見ながら首を振った。こいつは、わかってない。というジェスチャーだが伝わるだろうか。
あげはちゃんは人差し指を唇につけて、考える素振りを見せた後、手をパーにしてこくんと頷いた。わかってくれたか!
「詩歌さんは四十八先生の小説をまだちゃんと理解してないんですね」
わかったけど言っちゃった!
言っちゃうとあれだから目配せしたのに!
でも、小学五年生だもんなー、しょうがないよなー。
「ちょ、ちょ、それはないんじゃあないかな~?」
内心では激おこであろうが、お姉さんとしての矜持を保つため極めて冷静な態度を見せる詩歌。しかしここで小競り合いをしてもらっても困る。
「いや、悪いな詩歌。あげはちゃんは俺の小説の一番の理解者なんだ。お前よりも誰よりもだ」
「そ、そんなはっきりと……はあうっ」
詩歌はよほどショックだったのだろう、膝をガクッと落とすとそのままぺたんと床に尻を付けた。
「もうしわけありません、お姉さん。そういうことですので」
あげはちゃんは俺にピッタリと寄り添って、詩歌を見下ろしながら手のひらで口を覆った。
「そ、そ、そんな、そんなぁ~」
妹は小走りでリビングを去っていった。悪いな、詩歌。これもお前のためなんだ。また枕を濡らすのだろうか。泣き声は聞こえないけど、よく枕は濡らしている。
「邪魔者もいなくなったことだし、お話しようか」
「そうですね」
あれ、今そうですねって言った?
いや、邪魔者がいなくなったことについてじゃなくて、お話をしようということについて賛同したんだよな。そうだよな。
「じゃ、そっちに座って」
俺の向かいにあるソファーを指差す。
「……こっちのほうが声が大きくならなくて話せますよ」
そう言うと、あげはちゃんは俺の隣に座った。それもそうか。俺はオレンジジュースを彼女の前に置き直すと、すぐに彼女は半分ほど飲んだ。氷がカランと音を立てる。
帽子を脱いで、ふるふると頭を少し振ると、肩口まである髪がふわりとなびいて、少し甘い匂いが鼻をついた。真奈子ちゃんもいい匂いがしたけど、この子もいい匂いだな……。次回作の参考にしよう。
ポシェットもとって傍らに置くと、胸元が見えてしまって目をそらす。まだブラジャーを付けていないんだな……。
「質問とかしてもいいですか」
「も、もちろん。ネタバレ以外は何でも話すよ」
「嬉しい」
ふふ、と笑う表情はなぜか、なぜか色っぽく感じた。セクシーという言葉からは程遠い容姿なのだが。なんにせよ男の子と見間違うようなことはありえない。
「メイちゃんはまだ処女なんですか?」
「いい質問だね」
さすがだ。最初の疑問がそことはね。いや、普通の感想だと思うんだよ。成人男子が読んだらそうなるはずなんだよ。
「最初は絶対そうですよね」
「うん。登場したときはね」
「ご主人さまが本当に自分のものを挿入したのかどうかって、わからないように書いてますよね」
「そう! そうなんだよ~」
こういう話がしたかったんだよ! なんで編集者は言ってくれなかったの? この子以外の目は節穴か?
「フェラチオは何回もしてますよね」
「うん」
「最後はおもちゃじゃなくてご主人さまのおちんちんが挿入されたんですよね? そうなんですよね?」
興奮気味に俺の顔を覗き込んでくる。俺も興奮してきた!
「そう! そうです!」
「やっぱり! 良かった~!」
ばんざーいと両手を上げて喜んでくれるあげはちゃん。
メイの処女喪失を
「ご主人さまってちゃんとゴム付けてるんですか?」
「付けてないよ」
「えっ、見損ないました」
眉を吊り上げて、むっとするあげはちゃん。思わず笑ってしまう。
「なんで笑うんですか、先生のことも見損ないましたよ」
「違う違う、あのね、メイちゃんに飲むように命令されてるビタミン剤があるでしょ。あれがピルなんだよ。避妊薬。避妊はちゃんとしてるんだ」
「あ、そうだったんですね! それはわからなかったです、まだまだだな、あげはは」
彼女は心底嬉しそうな顔をした後、心底悔しそうな顔を見せた。ほんと、最高のファンだな。
「ところで、あの二人が舌を出してる描写のところ」
「うんうん」
「あれってキスなんですか?」
「あー、ちょっと違うんだよね、キスよりエロい」
「どんな感じなんですか?」
ベロチューより、口から出した舌だけを絡ませる方がエロいと思うのは俺だけではないだろう。しかしいくらあげはちゃんがおませさんだとしてもそれを理解するのは難しいだろうな。
「こう出すじゃん」
「はえ」
俺が舌を出したら、あげはちゃんも出した。小さくて、ピンク色だ。
「ほうひて」
「ほうへふは」
ベロを出して、口を近づけていく。
目が潤んでいて、ぽうっとしたような表情になっていく。ほらな、女子小学生がやってもこんなにエロいんだ。俺の描写は間違ってなかったな。
首を曲げると合わせてくれる。このままもう少し近づけたら……
「お兄ちゃん、あげはちゃんってまだ、いる、の……って、え! えええ!? 何やってるのぉー!?」
いきなり妹が戻ってきたようだ。リビングには扉が付いていないので、廊下からは丸見えである。
「いや、ちょっとね」
「ん、もぅ。良いところだったのに、お姉さんは意地悪ですね」
「え、ええぇ。あ、ああ、もう駄目」
何が駄目なのかわからないが、すぐにまたどこかへ行ってしまう。どんどんと階段を駆け上がる音が聞こえるのでまた自分のベッドに行くのだろうか。あいつどんだけベッドが好きなんだよ。
「勘違いされちゃったかな」
「そうですかね」
「でもわかった? どういうことか」
「はい。とっても、とっても興奮しました」
俺のやっていることは、あくまでも小説の内容の補足でしかなく、決して女子小学生に卑猥なことを教えているのではない。ましてやえっちな行為になりそうになったなどということはまったくない。
「ご主人さまが手を使わないで舌だけでならアイスを食べていいって言うのありましたけど、あれってえっちなんですか?」
「うん。もちろんだよ」
「本当ですか~?」
「じゃあ、やってみる? ちょうどあるよバニラの棒アイス」
「え~、いいんですか?」
ダイニングのほうがリアルなんだが、ソファーのところにはカーペットが敷いてあるので、ソファーで股を開いて棒アイスを股間のところにセット。
あげはちゃんは、両手を腰の後ろに回して、俺の前にひざまずく。
「ぺろぺろ」
ふむ。女子小学生が俺の目の前で棒アイスをぺろぺろしているだけだな。もちろん何もやましいことはない。
「ちゅぱちゅぱ」
なんともほほえましい光景じゃないか。年下の女の子に棒アイスを奢ってあげただけだ。
「ん……はぁ、ぺろ、ん、あ、たれちゃう、はああ」
下から上に舌を舐め上げる。思わずびくんとなった。俺が。
「髪が、邪魔ですね」
鬱陶しそうに、長い髪を掻き上げる。その仕草はなんとも色っぽく、妖艶と言ってもいい。
「ぺろ、ちろちろちろ、はぁ、おいひい」
俺は空いている左手で目を覆った。
「どうひたんですか? ひょっとして、すっごくえっちなんですか?」
俺は無言で、顎を引いた。
私にはJSのファンがいないのはどうして!?(R15だから当然なんだが)