「もしもし、どんなぱんつ履いてるの?」
……。
え?
俺? 俺に?
誰が誰に聞いてるの?
俺が言うならわかるんだが……。俺が言われるのは意味がわからんぞ。
「あの~、どちら様ですか?」
「もちろん、あなたの姉の文乃よ」
もちろん本当の姉ではなく、俺の担当編集者の富美ケ丘さんである。美人編集者でありながら、俺のお姉ちゃんをやってもらっている。
確かに、スマホの着信通知は富美ケ丘と書いてあったよ。うん。
で?
「えっと……弟のさかひさだと思ってかけてきてるの?」
「違うわよ」
ほっ。
違ったらしい。
誤爆ってやつですね。
そうだよなあ。俺だと思ってたら、言わないよなあ。
俺が言うのもなんだが、俺のぱんつのことを知りたいとかどうかしている。
「誰と間違えたのさ」
「妹のさかひさよ」
「は?」
なんだって?
「俺が妹? どういうこと?」
いつTSものになったの? 俺のおにいちゃんはおしまいなの?
そういうタグとか設定しなおさないといけない設定変更はヤメてほしいです。
スマホからは俺の質問に対する答えが聞こえてくる。
「女装、したんでしょ?」
「……!? なぜそれを」
「女の子になった動画、みたよ」
あげはちゃんがツイートしたやつのことか。
それを見たというのはわかる。なんせバズったから。
それはわかるけども……。
「だから女装して、妹になって」
「いやいや、それは」
さすがに勘弁だ。
トラウマが蘇る。あげパパに……ううっ。
だから全世界が求めていても、俺はもう女装はしないと決めたんだ。
英語、中国語、スペイン語で、美人だ可愛いセクシーなどと大絶賛されていても、俺は名乗り出ない。
国民的アイドルが友達になりたいと言っていても、アメリカの雑誌記者が探していても、イギリスのスター発見のテレビ番組で呼びかけられたとしても。
俺の女装がどれだけこの世に必要とされているか、そのことはよーくわかるけど。俺も俺以上に可愛い女の子なんていないと思うけど。この世に人類が誕生してから最も美しい人が女装した俺なのは間違いないけれども。
それでも俺は……もう……。
ん? それにしても……
「なぜアレが俺だと?」
そう、あの女装は完璧すぎて、俺を知っている人でも俺だとはわからないのです。ただの超可愛い女の子にしか見えない。
よってあれは実の妹である詩歌でも、俺だとあげはちゃんに教えてもらってようやくわかっているのです。
だからあげはちゃんのツイートを見たというだけでは、俺だとわからない。むしろ女装だということすらわからないはずだ。
「わかるよ、お姉ちゃんだもん」
トクン……。
うそ、でしょ……?
「妹の顔を見間違えるわけないわ」
ドクン……!
心臓が……アツい……!
一度も見たことない妹の顔だぞ……!?
っていうか、俺だぞ……?
弟になったばかりの……俺の女装を……見破るって……それって、それって完全に……。
「異常なまでに姉妹シチュが好きな、
「そうだったんですね!?」
あぶねーっ!?
すっかり俺への愛の為せる技かと思っちゃったよ!?
ラブかと、ラブなのかと思っちゃったよ!?
いや、児童向けの小説の編集者がマリみてが好きってのは、そんなに意外ではないけれども。
「で、でも俺のはあくまで女装だよね。さすがに妹っていうのは」
そう。
そうだよ。
いくら見た目が見目麗しいからって、俺を妹ってのは無理だろ。
俺がプティスールなわけないんですよ。
やっぱり……やっぱり、それって愛……
「異常なまでに男の娘の姉妹が好きな、
「
いや、わかるけど。
マリみても、おとボクも好きだけども。っていうかやるんですね、おとボク。そうだったの? 女装した男子が女子校に入学するストーリーのエロゲーだよ?
児童向けの小説の編集者がエロゲーのタイトルを好きって言っちゃうのは……いやごめん、作家の俺がエロゲーファンだったわ。作家がやってんだから、編集がプレイするのはむしろ必須と言ってもいいよ。
児童向け小説にエロゲーは必須! 間違いない!
「だから、あなたが女装してても、どこにいても、あなたのこと見つけられるのよ」
「おお……」
お姉さま……。
間違いなく、お姉さまだよ……。
「そんなわけだから、今すぐ女装して会いに来るのよ」
「ぐっ」
したくないし、行きたくない。
しかし……
「妹は姉の言うことを聞くものよ」
「お姉さま……」
そう言われると抗えないんだよな……。
「はやく来るのよ、
「
男の娘としての名前つけられちゃったよ。
でもさー。
女装はもう……。ごめんねお姉さま。
「家に来なさい。一緒に寝るわよ」
「賢子、行きまーす!」
そういうことなら話は別ですよ。
妹として一緒に寝ますよ。そして男の娘として……フフフ。
なる早で向かうと告げて、準備を開始だ。
とりあえずカノジョに連絡。
「あ、もしもし。ももきゅーちゃん?」
「どしたの、さかぴ」
「女装するから、手伝ってほしいんだけど」
俺が千年に一人の美少女になれるのは、ももきゅーちゃんのメイクによるところが大きい。自分ではとてもとても。せいぜい十年に一人ってところだろ。
「おっけーおっけー、おけら街道まっしぐら」
「おけら街道……?」
ギャルの言葉は難しい。
官能小説にすら出てこない言葉がさらさら出てくるんだよな。
「んじゃ、すぐに行くから、お風呂入って待ってて」
「ラージャマハル」
ギャル語で答え、通話を終える俺。いや、本当にギャル語なのか知らないけど。
風呂に入っておくのは、詩歌のボディソープで体を洗い、詩歌のシャンプーで頭を洗っておけということだ。やっぱり体を女の子の匂いにしておかないとね。
あと、ひげとか脇毛とかの脱毛ね。大事です。
お風呂からあがり、服を着て待つ。まさかまたこれを着ることになるとはね。
ももきゅーちゃんを出迎えて、ドレッサーの前へ。
大人しく化粧をされていると、とんでもないことを言われた。
「それにしても、またパパ活するなんてね~。そんなによかったの?」
「しないよ!?」
「え? なんで? パパ活しないの?」
「しません。二度としません」
そんなことのためにするわけがない。
ブロードウェイやハリウッドが欲しがっても女装なんてしないのに。
「ちょー楽しそうだったのに~。ウケる~」
けらけらと笑うももきゅーちゃん。とんでもないですよ。
「やめてください」
あれは悪夢です。黒歴史です。
本当の理由を説明しておかないと。
「お姉さまに会いに行くのです」
「お姉さま?」
「文乃さんのことだよ」
「ふーん? なんで?」
俺と編集の文乃さんが義姉弟の契りを交わしていることは、カノジョのももきゅーちゃんもわかってくれている。
ももきゅーちゃんは、理解が広く、懐は深く、太ももはムチムチなので、包み隠さず伝えた方がいいんだよ。
というか、隠し事がバレると超怖い。ももきゅーちゃんは、それが裏切り行為とみなした場合は、容赦がないのです。
簡単に言えば、浮気するよって先に言っておけば浮気してもいいんだが、こっそり浮気したら殺すということ。
よって今から行うことも全部「ありのままを話すぜ」って感じ。
「お姉さまは、女装した俺を妹として溺愛したいらしい」
「は? なに言ってんの?」
ももきゅーちゃんを持ってしても、理解の範疇を超えているようです。むべなるかな。
「彼女は妹が好きらしい」
「ふーん。それはわかる」
「俺は今、彼女の弟なのよ」
「ま、それもわかる」
「で、弟が女装したら、それは妹なんだって」
「それはちがくね?」
うん。違うよね。そのとおりだね。
弟が女装しただけで妹になるなら、苦労しないよね。
「あのね、女装した男が好きで、妹も好きだから、女装した弟も好きなんだって」
「なにいってんの?」
うおー!?
理解が得られねえーッ!?
いつも女神のごとく、なんでも笑顔で許してくれるカノジョだというのに!?
女装した弟を妹として愛でる姉とは、そこまで異常なことなんですか!?
もうね、何が正常で何が異常かわかんないのよ! 小学5年生の女の子を弟子にして、その子が官能小説を書いてくるような日常なんですよ! その子のお父さんとパパ活する女の子に言われても!? ももきゅーちゃんの方がおかしいのでは!?
いや、ももきゅーちゃんが間違っていて、俺が正しいなんてことあるはずないか。うーん。
「まぉ、俺もよくわからないんだけど、お姉さまが望んだことだから」
そう。そうですよ。
自分のことはよくわかりませんが、お姉さまが言うことには従わないと。だって、俺は妹ですもの。うふふ。
「それってあたしがお兄ちゃんの言うことなんでも聞くようなもんじゃね?」
「おっと、それはどうだろう」
お兄様には悪いが、彼と一緒にされては困りますよ。
「兄妹と姉妹じゃ全然違うでしょう」
「どこが?」
どこがだと?
どこもかしこも違うだろと思うが、まあそう言うわけにもいかない。
「だって同性同士と、異性同士じゃない!」
そこでしょうよ。
大きな違いだよ!
「異性じゃん。女装してるだけで、さかぴは男なんだから」
「そうだったー!?」
なんてこった。姉妹だから問題ないと思っていた。
いや、待て。他にも違うところがあるぞ。
「でも、本当の姉弟じゃないし!」
「本当の姉弟じゃない方が問題じゃん」
「そういやそうだー!?」
なんてこった。本当にそのとおりだね。
実の兄弟だったら問題ないじゃん。うちの詩歌と同じだよ。
実妹なんて女とは思わん。義妹はエロい。間違いない。
「俺が血の繋がってない男なのに、女装して妹になるのが問題だってことか?」
「え? 問題ないって思う?」
……。
問題があるか、ないか。
うーん? そもそも問題がなんだかもよくわからん。
わかんないよー。もう、わかんないよー。
「おかしーっしょ」
なんか怒ってるよー。怒らせちゃったよー。ギャルが怒ると怖いよー。
なんでも理解してくれて、わかってくれて、許してくれると思っちゃってたよー。さすがにそんなことなかったんだよー。
でもなんでだよー。なにがそんなに気に食わないんだよー。
苦悩する俺に、メイクする手を止め、髪をくるくるいじりながら、カノジョは問う。
「パパ活みたいに、それが
「その理由ならいいんですね!?」
なんでだかわかりませんが!?
どういう理屈なのか?
っていうか、いもかつって何?
混乱する俺を見て、ももきゅーちゃんはちょっと照れくさそうに、派手なネイルで頬を掻きながらぽつりぽつりと。
「ほら、なんか都合のいいように使われてそーだったから。言われるがままじゃダメだよ。ちゃんと見返りっていうか? ちゃんとするんだよ。損しないようにしなよ」
「ももきゅーちゃん……」
なんてこった。俺を心配してくれてのことだったんですね?
それで怒っていた……いや、怒ってくれていたと?
「パパ活みたいに、自分を大切にね」
パパ活って自分を大切にする行為だったのか……知らなかったよ……。
妹活っていうのは、要するにちゃんと対価を貰えってことなのね。
小さな手で、頭をナデナデしてくれるももきゅーちゃん。
優しすぎる……ラブが、ラブがありすぎる……。
「ちょ、泣いたらメイク崩れちゃうじゃん」
「うう……なんていいカノジョなんだ」
「へへ。大事にしなよ、カノジョ」
「うん。うん、大事にします」
最高の彼女にメイクをしてもらい、最高の美少女になった俺は、妹活をしに向かった。
ちゃんと対価を貰うぞ! もちろん性的な意味で! ももきゅーちゃんもそうしろって言ってくれてるしね! 自分を、自分の性欲を大切にね!