「それで? なんなんだ詩歌、あげはちゃんまで巻き込んで」
「そりゃあそうでしょ、私はともかく二人のファンを差し置いてファンでもない他の女の子を連れ込んでるなんて聞いたら二人ともすっ飛んで来たよ」
「それはお前の伝え方のせいじゃねえか」
愚妹のアホちん加減にはほとほと困り果てたものだ。なぜかこのアホちんを尊敬している
リビングのソファーはついに満員。対面のソファーには青みがかった黒髪ショートカットの沙織ちゃん。左のソファーにはツインテールにしている妹の詩歌。大人二人用のソファーの真ん中に俺、左にふわふわロング茶髪の真奈子ちゃん、右に黒髪さらさらセミロングヘアのあげはちゃんという布陣である。
真ん中のローテーブルには数々の大人のおもちゃが置いてあり、みんなで自分を慰めるところを見せ合う……などというイベントは当然発生しない。人数分の麦茶と小袋に入ったおかきが置いてあるだけだ。
俺は体を右に向ける。
「ごめんね、あげはちゃん」
「……教えて下さい、なんでその子じゃなきゃ駄目なのか」
うーん、真実は伝えることは出来ない。電車でおっぱいをガン見していたことを誤魔化すためですとか口が裂けても言えない。
「あげはだったら、何でもしますよ?」
その表情は蠱惑的で、思わずつばを飲み込む。この子の言ってる何でもはつまりはえっちなことだとわかるからだ。しかし何でもとは言ってもぱふぱふとかは物理的に不可能である。
「じゃ、今すぐぱんつ見せたら?」
「え?」
俺ではなく沙織ちゃんがぱんつ発言したことであげはちゃんは驚いたようだ。俺も驚いた。あと、沙織ちゃんがいち早くおかきを食べ終えてることにも驚いた。そんなに好きならあとでまたあげるね。
「そこの変態は、私に、ぱんつを見せろって言ったのよ」
「なっ、くっ……」
なぜか勝ち誇ったように言う沙織ちゃんと、なぜか負けたような顔を見せるあげはちゃん。何これ、いつの間に勝負が始まってたの? 大体、偉そうに言ってるけど君はぱんつ見せてないよ? あと普通に変態呼ばわりされてることについては誰も何も言ってくれないの? ぱんつを見せろって言ったのが事実だからですか? じゃあしょうがないな。
「見せてあげなさいよ、何でもするんでしょう?」
「……するもん……見てなさいよ」
あげはちゃんはソファーから立ち上がり、俺の前に立った。真正面には薄い胸がある。やはりブラジャーは付けていない。
あげはちゃんは、ショートパンツというのかほとんど太ももが全開の状態になっているデニムのボタンを外した。そして腰のあたりをぐっと掴む。みんなが見ている前でズボンを脱ごうというのか。
あげはちゃんの奥にいる沙織ちゃんはこれは見ものとばかりに余裕の笑み。
左にいる真奈子ちゃんは何も考えて無さそうな微笑み。
妹は期待に胸を膨らませた笑顔。なんでだよ。お前は止めろよ。こいつだけはよくわからん。
あげはちゃんだけは羞恥がありありとわかるほど顔を真っ赤にして、手も震えて、口を真一文字に結んでいた。
ショートパンツを握ったまま固まる姿はまるで処女を消失する寸前の乙女の如く緊張感にあふれていて、とても見ていられない。
「いいんだ、あげはちゃんは無理しないで」
「う、うう……」
がくっと肩を落として俺の右にもたれかかる。あげはちゃんは人一倍えっちだからえっちなことが苦手なんだ。こうなる前に止めてあげるべきだった……。俺は白いTシャツ越しに彼女の背中をさすった。
「何でもするって言ったのに、こんなことも出来ないなんて」
「いいんだ、いいんだよ、あげはちゃんは一番俺のことをわかってくれてるんだから」
そもそもあげはちゃんのぱんつを見たって小説に活かせるわけでもないのだ。俺が猛省していると対面から舌打ちが聞こえた。
「くっ……変態のくせに優しくして……」
勝負に勝ったと思われた沙織ちゃんだったが、何故か悔しそうな表情を見せる。なんかもうよくわかりません。
俺と沙織ちゃんの間に入り込んできたのは、赤と黒のチェックのミニスカート。どうやら真奈子ちゃんのようだ。
「先生!」
真奈子ちゃんは満面の笑みを俺に向けると、
「はいっ」
一気にスカートを捲りあげた。
――レースのいっぱいついた白いシルクのぱんつが俺の視界を支配する。黒いワンポイントのリボンがチャームポイントだね。
「なっ!?」「くっ!!」「はううっ!?」
周囲の戸惑いの声。そりゃそうだ。俺も現状を整理できん。あと詩歌は戸惑いなのかなんなのかよくわからん。
「どうですか?」
なんと感想を求められた。何が正解なんだ、エロゲーでもこんな選択肢無かったぞ。
「えっとー。か、かわいい」
「やったぁ~! 先生に褒められた~! ふふ」
む、無邪気過ぎる。フリスビーを取ってきたことを飼い主に報告する忠犬のようだ。
清井真奈子ちゃん。彼女にとってはスカートを捲りあげてぱんつを見せることなどこれっぽっちもエロとは結びついておらず、お気に入りのイヤリングや靴を見せるのと何も変わらないのだろう。
「じゃ、じゃあ私もっ!」
はいはいと手をあげてスカートをめくろうとした愚妹。
「お前はいい。いらん」
「ぐひゃううっ!?」
当然、片手で静止した。じゃあ俺がやるよ、どうぞどうぞみたいな流れでぱんつを見せるな。
「あ、しーちゃん先輩、お漏らししてません?」
「ち、ち、違うのこれはお漏らしじゃないの」
「早くおトイレ行ってきたほうがいいですよ~」
「う、うん。違うけど行ってくる」
詩歌は退室した。ま、あいつは放っておこう。
そんなことより不穏な動きを見せる沙織ちゃんに注意だ。
「何もわからない少女を洗脳している男がいるんですよ、と」
「警察に説明するシミュレーション!?」
「変態というだけでは逮捕できないですからね」
「なんで俺を逮捕させたいんだよ!?」
もはや沙織ちゃんは俺を警察に突き出すつもりであるようだった。くそっ、俺が何をしたというのか。ファンが強引に見せつけてきた下着を見ただけじゃないか。
「なんですか、あなた! 先生をいじめるのはやめてください!」
おお、さすがファン弐号。俺の味方だぜ。
「そのセリフがすでに洗脳されているというのです。自分からスカートを捲りあげてぱんつ見せてるんですよ? もはや動かぬ証拠です」
くっ、そう言われるとそうだね。
「待ちなさい! あげはは全部わかったうえでやってるの! 洗脳なんかされてない!」
おお、そうだそうだ! さすが俺の一番の理解者。
「あなたは結局出来なかったじゃないですか」
「ううっ」
「よかったですね、洗脳されてなくて。良識のある普通の女の子で」
「うううっ、うううっ」
「沙織ちゃん、あげはちゃんをいじめないで、お願い」
あげはちゃんは本当はえっちな小説を書く手伝いがしたいけど恥ずかしくて出来ないんだよ。でもその気持ちだけで俺は嬉しいんだよ。
「大体、なんで小説を書くのにぱんつを見せる必要があるんです」
「わかりませんけど、それを聞いたらネタバレじゃないですか」
「ほらわかってない。まぁ、わかっててやってたら完全に有罪ですけど」
ばかな!? 日本はおかしな国です! ファンが作品を書くために出来ることをしたいと言って、それを作家が喜んで受け入れている。それの何が問題だって言うんです!?
「じゃあ事実だけ伝えてみましょうか? 彼女にぱんつを見せてと頼んだら見せた、と」
「それはヤメて!? 刑事的に無罪だとしても社会的ダメージがデカいから!」
「ほら、見なさい」
ふふん、と冷たく笑う沙織ちゃん。ふうむ、その表情。黒ストッキングのまま股間を踏みつける生徒会長キャラみたいで非常にいいですね。メモしておこう。
「ふふ、お子様ね」
「な、なんですか」
意外すぎることに真奈子ちゃんが沙織ちゃんをガキンチョ扱いしはじめた。確かに身体的には一番大人だが間違いなく内面は君が一番お子様だぞ。
「先生はね、作家なの。文学者なの。アーティストなの。つまり芸術のためなの。写真や絵画のモデルをしているのと同じなの。そ~んなこともわからないなんて~」
おおお! そうだよそうだよ! なんてこった、真奈子ちゃんは実は本当は真実を理解していたんだね! 俺は今、モーレツに感激しているぅ!
「むうう。い、一理ある……」
ようやくわかってくれたか、沙織ちゃん!
「そうですよ。ここまでエッチで変態だったらもはや芸術です」
「ごめん、あげはちゃんは今すこ~しだけ黙っててもらえる?」
理解力が有りすぎるというのも考えものだね。世の中にはね、本音と建前っていうのが必要なんだよ?
「沙織ちゃん、そういうことなんだよ。君が好きな作家だって、探偵とか少女漫画家とか旅館の女将さんとかに取材をしたり質問したりしてるんだよ」
「くっ、なにか一緒にされたくないような気もしますが、そのとおりですね」
「わかってくれて嬉しいよ」
うん、うん。わかりあえるって素晴らしいね。
「この前、舌をぺろぺろしたのだって小説に活かされるんですから」
「誰が、誰の舌をぺろぺろしたんです?」
「私が、先生の。舌を、ぺろぺろ」
えへん、と眉毛を吊り上げて、立派な胸を反らす真奈子ちゃん。
こほん、と咳払いしてから、スタンガンを取り出す沙織ちゃん。
「待って! 事情があるの、待って!」
「黙れ変態、死ねロリコン」
沙織ちゃんを落ち着かせるのに、おかき三袋を必要とした。
ロリの日ということで更新しました!
それにしても感想が通報だの警察だの不穏すぎますね。
多分、読者の目がちょっと濁っているのだと思います。
ほのぼのとした創作ですので、そこをご堪能ください。