女子小学生に大人気の官能小説家!?   作:暮影司

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白く濁る液体を口から零した少女が欲するものは

 

「ボツです」

「ええ!?」

 

 富美ケ丘文乃(ふみがおかふみの)という女性編集者に新しいプロットを送ってしばらくしてからかかってきた電話に出たら、いきなりこれだ。

 前回言われたのは読者層と同じ年代の新キャラであるメイちゃんの妹のマイちゃんが可愛くないというえげつないダメ出し。

 そこでモデルとなるJS(女子小学生)の網走沙織ちゃんと遊園地のプールに行って散々可愛さを研究してきた。よってボツなわけがない。そんなんだから上司に濃い目のカクテル飲まされていつの間にかホテルに連れ込まれるんだよ。俺の妄想だけど。

 

「マイのどこが可愛くないって言うんですか」

「うーん。まぁ可愛くはなりました」

 

 可愛くはなったのかよ!

 

「じゃあ?」

 

 何が問題だと言うのか。っていうか先に褒めてくれませんかね。ご褒美くれませんかね。年上の女編集なんだからそれくらいわかってよ!

 わかるわけもないので大人しくダメ出しを聞く。

 

「メイちゃんは食欲がありすぎるけど我慢出来ないところが共感するわけですよね」

「え、ええ」

 

 ほんとは違うけどね。性欲だけどね。っていうかご主人さまの誘惑に負けるだけだけどね。

 

「マイちゃんにはそういうポイントが無いじゃないですか」

「うーん」

 

 意外と言うのはプロの編集に対して失礼だが、まっとうな意見だった。だって、肉欲って言葉をお肉食べたいって意味だと思ってるような人だからアホかと思ってたし。あとDVとか平気でしそうなダメ男と付き合いそうだと思ってたし。それはただの偏見だが。

 

「じゃあ、食欲の代わりに性欲がありすぎるということで」

「……四十八手足(よそやてあし)先生……? 児童向けレーベルで性欲があるヒロインなんて許されると思ってるんですか?」

 

 思ってるんですか、もクソもすでに出版されてますけど? あんたたちの目が節穴なだけですけど? 俺が書いたのはゴリゴリの官能小説でそれを児童向けレーベルで出したのはあんたですけど?

 内心ではお前に言われたくねー! と思ってるとはいえ年上のきちんとした社会人の人からここまで低い声で叱られるとビビる。

 

「す、すみません。そ、それじゃあ睡眠欲……」

「は? それじゃただの睡眠障害じゃないですか。真面目にやってくださいよ」

 

 ううう、眠くて仕方がない女の子だって可愛いじゃんかよお。寝たフリしてえっちなことされてるシチュエーションとか知らないの? 知らないんだろうな……。

 

「じゃ、よ~く考えてくださいね」

 

 通話が終了してホッとした。ふええ、大人の女の人って怖いよぉ。

 

 さて考えるにしても人間の三大欲求はすでに封じられている。小学生が何を考えているかを考えてみるが、なんにも考えてなかったとしか言いようがない。うんことかちんこでゲラゲラ笑うようなバカであり、おもちゃが欲しいとかお菓子が食いたいとかしか考えてなかった気がする。あと女の子のぱんつが見たいとか。それは今も変わらないし、きっと一生変わらない。やだ、男ってみんなバカ?

 

 結論としては男はバカなので参考にならない。考えるべきはマイちゃんのことであり、女の子にしかわからないことだ。うんうん唸ってるより聞いた方が早いな。

 

「どしたの、お兄ちゃん。また女の子に聞きたいことがあるの?」

「さすが詩歌。そのとおり」

「ふっふーん。そうでしょそうでしょ。じゃあどうぞ」

「ん? 何が?」

「え? 女の子の気持ちを聞きたいのでは?」

「そうそう。だから呼んでくれよ、女の子」

「えっ? えっ? それって女の子だと思われてないってことー!? ん、ん~ッ!?」

 

 いやそうじゃないけど、とか言う前に勝手に部屋を出ていく詩歌。ショックだったのかと思ったが、なぜか気持ちよさそうだった。気持ちよさそうってはっきりいって意味がわからないが、そう見えたのだからしょうがない。要するに、こいつはちょっとおかしいのだ。普通の女の子とはとても思えないので参考にならない。

 

 マイちゃんのモデルである網走沙織ちゃんに意見を聞こうか。しかし、彼女はエンタメを禁止されていて、小説を読むのが唯一の楽しみというすでに禁欲的な子だ。一般的な意見といえるのだろうか。

 メイの場合は食欲、ということになっている。遺憾だけれども。食欲旺盛なメイちゃんはダイエットのために食べ過ぎを我慢している女の子なら共感を得られるだろう。しかしメイが単純に食事を摂取するのが困難でもっと食べたいという事情だと、この飽食の時代には可哀想になってしまうだけだろう。つまり駄目だな。

 

 よし、じゃああげはちゃんをモデルにしよう。いや、やめておこう! 絶対違う! 彼女は見た目はともかく中身は愛すべきエロジジイだ。絶対に女子小学生と同じ意見なわけがない。沙織ちゃんなんか比較にならないくらい共感を得られない。本来俺が書きたかったのは彼女のような女の子なんだが、とても児童向けレーベルでは表現できない。非常に残念だ。児童向けレーベルに相応しくない思考の女子小学生、それが小和隈(こわくま)あげはという女の子だ。

 

 そうなると消去法で必然的に真奈子ちゃんになる。真奈子ちゃんはメイのモデルではあるが、別に食いしん坊キャラではまったくない。天然でドジっ子な一面という性格的な部分はメイに活かすとして、真奈子ちゃんの好きなものをヒアリングしてマイのキャラクター設定の参考にするのはアリじゃないか。

 

 早速俺は、清井真奈子(きよいまなこ)と書かれた連絡先をタップ。コール二回で通話が開始される。

 

「はいっ! あなたの真奈子です!」

「あ、あー、真奈子ちゃん。実は話したいことが……」

「今すぐ行きます!」

 

 プツッ。

 

 あっという間に通話終了。別に会う必要はなかったのだが……。それにしてもあなたの真奈子って言い方。あなたの小説の大ファンという意味だろうが、誤解されるような言い回しをしてしまうあたり天然なんだよなあ。

 

 ゲストを出迎えるにあたり身だしなみを整えようと、洗面所に入ったら風呂場に電気が付いていた。どうやら妹は昼から入浴しているようだ。まぁ俺たちの部屋は扇風機だけで冷房を使用していないので、シャワーを浴びるのは少しもおかしいことではないのだが、シャワーの音は聞こえない。

 

「ひうん、ふう、ひうっ」

 

 漏れてくるのは過剰な快感で身悶えているような声だ。なんだろう、水風呂にでも入ってるのかな。ぬるま湯で十分だろうに。

 ヒゲを剃り終わり、顔を洗って髪を整えている間もずっと詩歌は風呂から出てこなかった。可愛い後輩の真奈子ちゃんがやってくることは伝えておいたほうがいいか。

 

「詩歌ー」

「ええっ!? お兄ちゃん!? そこにいるの!!」

「ああ。ちょっといいか?」

「え、え!? いくら女の子だと思ってないからってお風呂に入ってくるのは駄目だよ!?」

「いや、そうじゃなくてな。えーと、お楽しみのところ悪いんだが……」

「お、お、お楽しみのところって……!? あ、あ、ううううう! はぁはぁ……ば、バレてるの?」

 

 何がだよ。どんだけ水風呂を楽しんでるんだこいつは。確かにアホな行動ではあるがそこまで秘密にすることもないだろ。

 

「まぁ、ほどほどにしとけよ」

 

 風邪ひくからな、とは言わなかったが。

 

「ほ、ほどほど……あ、だめ、ますます捗っちゃう」

 

 なんでだよ。まぁいいや、真奈子ちゃんが来ちゃうし放っておこう。

 

 リビングに移動し、お茶菓子を用意していたら程なくしてインターホンが鳴った。

 本当にすぐにやってきたにも関わらず、髪の毛は綺麗に編み込まれており、可愛いバレッタを付けて、服装もばっちりコーデされたものだとわかる。オフショルダーの白いフリルのトップスと黒いミニスカート。そのスタイルも相まって、もはや幼いとは言えない。

 

「ごめんね、なんか来てもらっちゃって」

「とんでもないです! いつでもすぐに駆けつけますよ!」

 

 走ってきたからだろうか、テンションは高いし、汗もかいているようだ。早く上がってもらおう。

 リビングは冷房が効いており、真奈子ちゃんは中に入るとふうと息をついた。

 

「座って」

 

 ソファーに座るよう促して、カルピスを作る。お中元でいただいたものだが、こういうときじゃないと飲む機会がない。のどが渇いているだろうから大きめのグラスであえて薄めに作った。

 こういう場合、少年漫画のちょっとえっちなラブコメだったらうっかりカルピスを頭から被って「ふえぇ、べとべとだよお」みたいな展開になるだろうな。

 そんなことを考えつつ渡したら、すぐにごくごくと半分ほどを飲んだ。急いで飲んだせいか白い液体は唇からつつと溢れる。それをぺろりと舌で舐めあげると、「おいし」と呟いた。うーん、えっちなラブコメよりエロいような気がしますね……。

 

 座ってと伝えていたはずだが、彼女は突っ立っていた。なんででしょう。

 俺がソファーに座ると当然のようにすぐ横に座った。キャバクラかな?

 

「今日はどうしたんですか、四十八せんせ?」

 

 キャバクラなのかな? 知らないけど。でもこれは媚びてるわけじゃなくて天然なんだよなあ。

 

「えっと、小説のネタ探しで悪いんだけど」

「そんな! 一番の光栄です!」

 

 まぁファン弐号を豪語する真奈子ちゃんだ、そこは本当にそうなんだろうなあ。

 

「大好きだなって思うことある?」

「えっ!? 今、思ってます……」

 

 そう言うと、指を絡ませながら少しうつむいた。今、思っている……? あぁ、小説のネタを提供できることが嬉しいのか。それだと特殊な事情すぎて困るな。質問を変えよう。

 

「幸せだなって思うことは?」

「今、思ってます……」

 

 ますます顔を赤くして声が小さくなる真奈子ちゃん。ううむ、同じ意味になってしまったか。作家としては嬉しいが、ネタ探しにはならない。

 

「んーと、じゃあ今欲しいものは?」

 

 我ながらこれは良い質問じゃないか。ここで真奈子ちゃんが「肉棒」とか「えっちなお仕置き」とかは絶対言わない。そして「四万十川の鮎」とか「夜中に作らせたふぐ刺し」とかも絶対言わないわけ。これだ。

 

「欲しいものは、お洋服とかアクセサリーとか……もっと可愛くなりたいです」

「うわー、可愛い」

 

 言ってることが可愛い。さすが、男子とはえらい違い。ただし、小学六年生でカッコイイ服が欲しいとかいう男子のことは大嫌い。

 

「お化粧とかにも興味あるの?」

「あ、あります。でも、まだ早いからって」

「まあね、全然必要ないもんね。あー、でも、それいいな~。そういうのいい。これだ!」

 

 もう確信していた。そうだ、女の子はもっと可愛くなりたいという欲望があるじゃないか。とびっきり可愛らしい欲望が。

 

「ありがとう、真奈子ちゃん。相談して本当によかった」

 

 お礼を言うと、意外にも真奈子ちゃんは俺の手を取って、

 

「じゃあ、ご褒美ください」

 

 と言ったのだった。ご、ご褒美……!?

 

 





詩歌の奇行を期待している声が大きくて困惑ですが、詩歌に関してはすらっすら書けるので全然ネタが切れません。本編はそれなりに考えているんですけども……w

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