女子小学生に大人気の官能小説家!?   作:暮影司

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少女は言われるがままに妖艶になってゆく

 ご褒美とは。

 

 官能小説においてはお仕置きとほぼ同義である。ご褒美もお仕置きもやることは同じなのである。一般的にはさぞ不思議であろう表現であろう。「ふざけるな」と「ふざけろ」がまったく同じ意味であるかのように。日本語って難しいね。

 しかもご褒美とは言いつつ、嬉しいのか嬉しくないのかわからないし、お仕置きと言いつつヤメて欲しいのかヤメて欲しくないのかもよくわからない。読者がどちらとも取れるようにするのが良いのです。でも下の口だけはいつも正直だよね。嘘つきだったことが無いね。

 

 さて、清井真奈子ちゃんがお仕置きをして欲しいわけがないので詳しく話を聞かねばなるまい。

 

「もちろん何でもするけど、どんなご褒美?」

「えっと、お買い物に付き合って欲しいです」

「ん? またスーパーに行くの?」

 

 黒くて太い棒……ふ菓子が欲しいのだろうか。いっそ駄菓子屋行ったらどうかしら。日本一長い棒もあるし、うまい棒もあるし、チョコバットもあるよ。

 

「ち、違います」

 

 ぷるぷると首を横に振る。真奈子ちゃんはみんながいると元気で幼い感じがするが、二人きりになると妙にしおらしくするような気がする。なんでだろ。ご褒美が欲しいとか恥ずかしいこと言ってるからかな。いや、ご褒美が欲しいというセリフが恥ずかしいのは官能小説だからであって現実にはそんなことないだろう。謎は深まるばかりだ。

 

「お洋服を買いに行きたいんです」

「あー、なるほど」

 

 言われてみれば当然の話でしたね。ついさっき洋服とかアクセサリーとかが欲しいっておっしゃってましたよね。俺はバカなのかな?

 

「了解、了解。財布と鞄役ってことだね」

「えっ? 財布と鞄じゃなくてお洋服を買って欲しいです」

「違う違う、俺が、財布と鞄。つまり金を出して荷物を持つ役目ってことだよ」

 

 説明の仕方が昭和だったかな。アッシー君みたいだったかな。俺って何歳なの? バブル時期に書かれた官能小説を読みすぎて知識が偏っているのかな。

 

「そ、そんなの駄目です。お金は自分で出しますから、選んで欲しいんです」

「俺に?」

 

 こくこくと頷く真奈子ちゃん。ふうむ。普通女の子は自分の着たいものを着たいのでは? 詩歌は俺が選ばなかった方の服を買うという天の邪鬼だが、真奈子ちゃんはそんなことはしないだろうし。似合ってないとか好きじゃないとか言われるのがわかってて購入する妹が変なのだ。

 

「もちろん構わないけど」

「ほんとうですか」

 

 ぱああ、と顔をほころばせる。ううむ、詩歌と一緒に「ファン弐号、参上」とか言ってたときとは別人だ。やはり愚妹がすべて悪いに違いない。

 

「今からでもいいですか?」

「あ、うん。全然いいよ」

 

 夏休みの午後二時。今から出かけてもたっぷり時間はあるだろう。

 

「行くのはスーパーの二階でいいのかな」

 

 やたら白ブリーフの品揃えがいいところだけど。買い物してるのおばちゃんばっかりだけど。

 

「え? デパートですよ?」

 

 デパート! 服を買うのはデパート! 昭和かな。そんなことないのか。お金持ちは今でもそうなのかな。ちなみにこの街からは電車で十五分程度で行くことが出来る。

 早々に支度を済ませると、わくわくとした気持ちが溢れ出ている真奈子ちゃんと玄関を出た。

 

 ぴよぴよ

 

 先に自動改札を通った彼女は懐かしい音を立てた。そうなんだよなあ、こども、なんだよな。

 詩歌がもう子供じゃないのかっていうと違うと思うが、それでも電車に乗るときにこども料金であるということは否が応でも痛切にこどもであるということを明らかにする。そんな相手に、俺はエロい小説を読ませているということを忘れてはならない。いや、つらい。忘れたい。

 

 夏休みの昼の鈍行列車はがらがらで、冷房の効いた車両に俺たちは座った。隣に座ることに抵抗が無くなってきたな。

 

「しーちゃん先輩とお買い物したりするんですか?」

「デパートには行かないかなー」

「そうなんですねっ。やった」

 

 ぐっと二つ握りこぶしを作ってガッツポーズ。うーん、やっぱり詩歌に対して何かあるんでしょうか。同じ男を取り合ってるとか? そんなわけないな……。

 地下に入っていく電車。突如暗くなる車内。こうなると三分以上の間ドアが開くことは無い。

 そして窓から突然入り込んでくる触手。動けなくなる男たちと、絡め取られる女たち。ぬるぬるの触手は衣服を溶かす粘液を……

 

「先生?」

「お、ごめん」

 

 ついついネタを考えてしまった。我ながら仕事熱心にも程がある。それにしても児童向けのレーベルで触手ってどうやって出せばいいんだろうね。うーん、見た目が可愛いキャラクターなのに触手があるってことにしようか。これは凄い発明かも知れないぞ!?

 

「ひょっとして小説のことを考えて?」

「あはは、そうなんだ。ごめんね」

「いえっ! 凄いです! つい考えちゃうなんて、凄い……カッコイイ」

 

 ぽわわと顔をとろけさせる。うーん、本当に小説が好きなんだなあ。このファンのためにも考えないと。触手について。キリッ。

 

 目的の駅につき、俺は真奈子ちゃんの後をついていく。この街については俺のほうが詳しいとは思うのだが、どこのデパートに行くのかわからないからね。

 到着したのは下着売り場だった。

 

「えっ? えっ?」

「お洋服を買うときは、先に下着を買うことにしてるんです。インナーに似合うアウターを買いたいので」

 

 そういうことを聞きたいわけじゃなかったんですが。俺が選ぶの? 真奈子ちゃんが身につけるランジェリーを? え? マジ?

 なんかもう売り場に足を踏み入れるだけでも恥ずかしいのですが。さすがに詩歌だって下着を買うときは母親と買いに行く。俺が一緒なんてことはありえない。

 しかしこの清井真奈子ちゃんという女の子はまったくもって純真無垢な存在なので、男性に下着を選ばせるということに対してえっちな意味を一切感じていないわけだ。言ってしまえば、ぱんつやブラジャーを選ぶことと、靴下を選ぶことに違いがないのだろう。だとしたら俺だけがエロい気持ちになってはいけない、決して。

 

「先生、これとこれならどっちがいいと思いますか」

「こっちのほうがえっちだな」

「えっち?」

 

 しまったぁー!? えっちな気持ちになってはいけないと考えすぎて、えっちという言葉が出てしまった。でも実際にえっちなんだから仕方がないぞ。

 真奈子ちゃんは言葉の意味がわからないとばかりにきょとんと首を傾げる。なんということだ。絶対に言っちゃ駄目だって思っていましたが、そもそも言葉がわからないときた。

 

「ごほん、いい間違えた。ニッチだね、ニッチ。マニアックとも言う」

 

 なかなかうまい言い訳だ。実際のところ女子小学生が黒いレースのブラジャーをするのはニッチでありマニアックであり邪道だろう。はっきりいってえっちすぎる。まるでサキュバスの設定ですよ。

 もう一つの方はシンプルな白の下着。王道だ。真奈子ちゃんには白が似合うよ。

 

「わぁ~、さすが小説家ですね。ボキャブラリが豊富です」

 

 そういう褒め方が出来る女子小学生も凄いと思うけどね。その二つを胸の高さに掲げる。左の胸は白、右の胸には黒があてがわれている状態だ。うーん、無自覚って怖いね。

 

「それでどちらがいいでしょうか」

「もちろんこっちの黒い方」

「あ、そうなんですねっ。じゃあ、一つ目はこれにしようっと」

 

 ――俺って一体……。このままでは真奈子ちゃんがサキュバスになっちゃうじゃないか。それにしても小学生でDカップって……。

 真奈子ちゃんは「これ、セットでください」と店員に告げる。ブラとショーツのセットで購入するらしい。それにしても買い物カゴとか使わずに店員に言うだけで買うのが自然だなー。ほんとうにお嬢様なんだな。

 

「次は、こっちのしましまと」

 

 次はぱんつから選ぶようですよ。ふむ。縞パン。間違いないね。横縞と縦縞どちらがと聞かれたらどっちもと答える。縞パンの嫌いな男子なんていません。それに若い子に似合うよね。もちろん真奈子ちゃんにも似合うだろう。

 

「こっちかな~」

 

 フリルいっぱいのレースのピンクのぱんつだった。しかも紐パン。えっちえち! えっちえちですよ!

 

「どっちで……」「こっちだね!」

 

 質問が終わる前に選んでいた。もちろん紐パンの方を。なんか半分以上透けてるんだけど!? けしらからんね~。

 

「こっちなんですね、すみませーん、これもくださーい」

 

 しまった、またしてもえっちな方を選んでしまった!? そして、真奈子ちゃんは単純に俺の選んだものを買っていくだけだからいいが、女性店員が俺を見る目がヤバイ! 完全に女子小学生にエロい下着を買わせているド変態を見る目だ! 違うんです、違うんですよ。……少しも違わねえ~。

 でもさー。俺は二択で選んでるだけじゃん? 別に俺の好みを押し付けているわけじゃないじゃない?

 

「あと他には……」

「あ、これなんかどう? セパレートじゃなくて一体型になってるよ」

「あ~、素敵ですね~」

 

 下着というよりすけすけのエプロンのような。そして秘部だけをぎりぎり隠すような代物だね。まさにメイちゃんに着せるべきものだ。つまり超えちえちということで……

 

「店員さん、こちらも含めてお会計お願いします」

「あ、はい」

 

 にこっと笑って手に取るが、俺の方を向いたときの顔はセクハラ野郎を見るようだった。もはや何も言うまい。でもいいじゃない、別にそれを身に着けたところを見るわけじゃないし。

 レジではクレジットカードでサクッと購入していた。カードなんて持ったことないよ……。

 

 次に向かったのは普通の洋服売り場。普通といってもブランド物だけど。

 

「服は試着したところを見て選んで欲しいんです」

「あ、おっけーだよ」

 

 ワンピースやらスカートやらをいくつか手にとって試着室へ。試着室の前で待つっていうのも緊張するな……。

 

 しゃーっとカーテンが開く。

 

「先生、どうですか。さっき選んでもらった下着に合ってますかね?」

 

 ……そういえば言ってましたね。インナーに合うアウターを買うって。真奈子ちゃんは下着が見えるように着崩した状態で俺に感想を聞いてきた。ついさっき見るわけじゃないしとか言ってたバカはどこの誰なんでしょうね。誰かに見られたら通報されませんでしょうか。

 彼女の格好はすけすけのランジェリーの上から羽織ったブラウスとカーディガン。なんというか清楚で真面目なファッションの奥でこんなエロい下着着てたのかよ、と興奮が止まりませんね!?

 

「凄く、似合っています」

「ありがとーございますっ」

 

 この日、彼女はとてつもなくえっちえちなコーディネートを三つ購入することになった。

 




えー、作者は縞パンの方が好きです。(何言ってるの?)

っていうかあとがきって性癖暴露コーナーじゃないですよね。なんなんですかね。そういうのが知りたいって人はTwitterをフォローしてくれたらいいじゃない!(宣伝?)

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