女子小学生に大人気の官能小説家!?   作:暮影司

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ロリコンを叱りつける女を言葉巧みに惑わせる

 

 俺は自信満々で編集部へやって来ていた。

 

 目の前にいるのは俺の担当編集、富美ケ丘文乃(ふみがおかふみの)女史である。あいも変わらずぽわぽわと色気のない雰囲気を醸し出している。わかりやすく言うと女家庭教師だとしたら、生徒に性の喜びを教えてあげるお姉さんではなく、不良の男に勉強を教えたお礼として気持ちよくしてもらうタイプのお姉さんだ。俺はどっちも好きですよ。

 

 今はそんな女性編集へ渡したプロットについての打ち合わせ。「こんなの、こんなの知らないぃ」とか言って感動するに違いない。アヘ顔待ったなし!

 

「どうですか、マイちゃんの設定。可愛くなりたいんですよ!」

 

 この清井真奈子(きよいまなこ)ちゃんからヒアリングした乙女すぎる性格。圧倒的可愛さ。これは間違いないだろう。

 文乃さんはアヘ顔には程遠い、究極に無表情な顔で口を開いた。

 

「ベタですね」

 

 ベタ!?

 ありきたりの設定ってことかよ! 大発明だと思ったんですが!?

 

「ええ、だって、髪型とかいろいろ試すんですよ?」

「みんなしますね」

「アクセサリーにも興味津々で」

「普通、興味ありますよ」

「化粧ですら、してみちゃうんですよ?」

「だからしますって」

「俺はそんなことなかったですよ!?」

「そりゃ男のコはそうでしょうけど」

 

 嘘だろ……。俺たちが川の周りでエロ本落ちてないから探検してるころに女子はそんなことを!?

 そりゃ「男ってみんなガキね」とか言うわけだぜ、委員長キャラが。そして本当にガキなのか試してみるかとか言われて大きなイチモツを見せられて本当に大人になっちゃうやつだな。いかん、脱線した。そんなことを考えている場合ではない。

 

 つまり真奈子ちゃんのような考えは割りと普通のことだったわけだ。なんてこった、普通のJS(女子小学生)はどんだけ可愛い生き物なんだ。うちの妹も隠れてやってたのかしら。

 

「なんてこった……」

 

 頭を抱える俺に意外な優しさが降りかかる。

 

「いえ、ベタだとは言いましたが駄目とは言ってませんよ」

「へ……?」

「別にいいじゃないですか。メイちゃんの妹のマイちゃんはオシャレが大好きなおしゃまさん。いいですよ。全然いいです」

「おおお!」

 

 なんてこった、女神じゃないか。ろくでもない男に騙されて体を売られそうだなーなんて内心思ってたことを本当に申し訳ないと思っています! 一生ついてきますよ、文乃さん!

 ところが、彼女は少し顔を曇らせた。

 

「問題はですね」

「も、問題は?」

「ご主人さまとの関係ですよ」

「は、はい」

 

 そりゃ重要な部分だ。メイドのお仕事がストーリーの中心ではなるが、そんなものは導入部ってやつだ。要するにご主人さまとのやり取りのほうがメインなんだよ。仕事を頑張ったからご褒美。失敗しちゃってお仕置き。結局やることは同じ。これが基本だ。

 

「なんか、マイちゃんに対して、ちょっとえっちな目線じゃないですか?」

 

 は?

 はあああ!?

 ……今更、何を言ってるんだコイツは―――――!!!!

 

 最初から、ずっと、ご主人さまは、常に、えっちな目線しかしてねええええええよ!!

 

「メイちゃんにはそんなことなかったのに、マイちゃんにはって……ロリコンじゃないですか」

 

 メイちゃんにもそうだったんだよ―――――!!!!

 ものすっごくエロい目で見てましたよ―――――!!!!

 なんなら何度もエロいことしてるし本番だってしてるんだよ―――――!!!!

 

「なんですかその顔、ふざけてるんですか?」

 

 ふざけてるのはそっちだろ―――――!?

 

「言いたいことがあったら言ってください」

 

 うーん。人生で一番エクスクラメーションマークの多い一分間だったが、言いたいことが言えない一分間でもあったな。しかし最悪、言いたいことを言ったら発禁すらあり得る。「本当はメイちゃんはご主人さまに中出しされて気持ちよかったんですよ」なんて言ったら何が起きるかわからない。だから俺は言いたいことを極力抑えて、せめてこれだけは言わせてもらおう。

 

「ロリコンの、何が悪いっていうんですか!」

 

 俺の正義の一言に、文乃さんは勢いよく立ち上がり、烈火の如き怒りの表情を見せた。

 

「悪いに決まってるでしょ! 女子小学生向けの小説にロリコンの男が出てくるなんて許されるわけないでしょ!?」

 

 頭ごなしに叱られる。言いたいことがあったら言えと言っておきながらこれですよ。なんと理不尽な。

 いや、はっきり言って反論は可能だ。だって女子小学生向けの少女漫画にロリコンは山ほど出てくるもん。むしろロリコンのお兄さんばっかりと言っても過言ではない。こちとら少女漫画だってちゃんと読んでますよ。もちろん、勉強のためであって特殊な性癖があるからではない。

 まあ、他所の話をしたところで意味はないだろう。一旦とりあえず黙っておく。

 

「確かに少し背伸びした女の子向けの恋愛ものや性を扱ったものもありますが、そちらの方向に転換しようということですか? それにしたってロリコンは駄目です」

 

 最初っからそういう方向なんだよ! 腹ペコキャラだと思ってるほうがどうかしている!

 なんならそっちが思ってる性なんてレベルじゃないし。まぁそれを今更言ったところで仕方がないが。今はそういうことを言っている場合ではない。

 

「ちょっといいですかね」

「はい?」

 

 ここは反論させてもらおう。編集がいつも正しいわけではないし、譲れないところは譲れないと言うべきだ。

 

「おしゃれに憧れる、可愛くなりたい女の子は、やっぱり年上の大人っぽいお兄さんに女性として扱われたい。そういう気持ちもあるのでは?」

「……まぁそれは確かに。私も小さいときは……ごにょごにょ」

 

 眼鏡をくいっと押し上げる文乃さん。ほらほらほら、少女漫画を読んでいた甲斐がありましたよ!?

 

「そこでですよ。読者の自己投影である主人公の女の子が好意を寄せる男性が、ガキには興味ないぜみたいな態度だったらどうです?」

「いや、まぁそれは駄目ですね……」

「そうでしょ? 恋に年の差は関係ないっていう方が良いですよね?」

「そうですね……それはその方がいいですね……」

「ですよね」

 

 よしよし、いいぞいいぞ。ここでもうひと押しだ。

 

「しかも。しかもですよ。自分の姉が好きかもしれない相手とか、興味があるのでは?」

「なるほど……それはありますね。背伸びしたい年頃ですからね。年上の男性にも憧れるし、姉と比較されて勝ちたいとかそういう気持ちもあります。そういう方向で攻めるんですか」

 

 そういう方向。ここで言ってるのは官能小説的な方向という意味ではなく、少女漫画的な方向ということだろう。姉妹とご主人さまとの三角関係にするというのは大きな方向転換とも言える。いままでの読者はメイを主人公として応援、または自己投影していたはずで、今後はどちらの味方をするかで意見が別れてくるはずだ。

 

「そういうことです。マイは可愛くなりたい気持ちがいつしかご主人さまのためになっていく。そして食べることだけにしか興味のなかったメイが、自分より年下のマイの影響で段々と恋する気持ちに気づいていくんです」

「なるほど……さすがですね四十八手足先生」

 

 よっしゃー! うまくまるめこめ……違った、真意が伝わったぞ! これでプロット通るだろ。やったぜ。

 

「じゃあ、締切は再来週ですから」

「え!? 再来週!?」

「再来週が無理なら、二巻は半年後ですね」

「なにその二択! つらすぎる! 二ヶ月後とかになりませんか!」

「なりません。二週間後の原稿次第では、二巻が出るのは来年です」

「書きますぅ! 書かせてくださいぃ!」

 

 俺はその日から家に引きこもって執筆に明け暮れた。専門学校が夏休みで良かった……。

 

 

 





ビジュアル的には何も起こらない、極めて真面目なお仕事モノらしいエピソードでした。この小説の本筋ですね。
極めて稀に存在する一部の性癖の持ち主の方々には物足りなかったかもしれません! ごめんなさい、一部の性癖の持ち主の人!

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