女子小学生に大人気の官能小説家!?   作:暮影司

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俺は禁忌の扉を開けたことに気づいてしまった

「ごめんね、みんな急に呼び出してしまって」

「いいえ、私は先生のためならいつでもどこでも駆けつけます!」

「あげはは、真のファンですから」

「ぼくは詩歌さんに呼ばれたんであって、あんたのためじゃないから」

「みんな、ありがとうね!?」

 

 それぞれに返事をするとややこしいことになりそうだったので、ここはサラッと流したいところ。

 本日も最近お世話になりっぱなしの女子小学生三人に我が家へ来ていただいた。呼んだのは詩歌だけど。なんで呼んだのかよくわからないけど。兄妹だからえっちなことをしても問題ないって言ってたのに、なんで呼んじゃったの? それって問題あるってことじゃないの?

 今回はリビングではなく俺と詩歌の部屋に通している。リビングでえっちなことをするのはちょっと背徳感があるし。

 いや、ちょっと誤解のある表現でしたね。まさか女子小学生にえっちなことをするわけないです。これはそう、マーケティングだね。ターゲットのインサイトを知るためのモニタリングだね。俺は真面目過ぎるかもしれないね。小説に真摯に取り組みすぎる紳士だね。

 だからやっぱり問題ないってことなんだよね。

 じゃ始めよう、えっちな実験……じゃなかった、女子小学生が何をえっちだと思って、何は思わないのかという調査を。

 

「ええっと、今からみんなに俺からしたことをどう思うかを教えて欲しいんだ。行動の意味を言っちゃうとネタバレというか、正確な感想にならないから質問はせずに、素直に教えて欲しいんだけどいいかな」

「はい」

「うん」

「ま、いいけど」

 

 一応の了承を得た。よしよし。

 

 どたどたどた!

 

「ちょちょちょ、ちょー!」

「なんだよ」

 

 妹が慌てた様子で部屋に戻ってきた。焦りすぎだろ。

 

「な、なんで私がいない間に始めようとすんの」

「いや、お前を待つ必要ある?」

「はうっ!? ふぅふぅ、さすがお兄ちゃん」

「何がだよ……」

 

 相変わらず何を言ってるのかわからんやつだ。

 

「さ、私の前で思う存分、やっちゃって!」

 

 なぜかビデオカメラを構える詩歌。それはお前の運動会や学芸会を撮影するために親父が買ったものであって、俺がいたいけな少女にえっちなことをするところを撮るもんじゃないだろ……いや、違った。何を言ってるんだ俺は。これは貴重なご意見をいただく機会なのだから記録に残すのは当然じゃないか。さっすが詩歌、我が妹。

 

 じゃあ、詩歌と同じ順番でやってみるか。まずは耳に息を吹きかけるぞ。三人には俺のベッドに腰掛けてもらった。

 

「じゃ真奈子ちゃんからお願いするね」

「はいっ! がんばります!」

「ははは、頑張らなくていいからね。とりあえず三人とも同じことをします。後で感想を聞くから、最初は黙っておいて」

「はいっ」

 

 ふーっ

 

「ふわわわ」

「思ったことを覚えておいてね」

「は、はい」

「次、あげはちゃんね」

「ごくり」

 

 ふーっ

 

 あげはちゃんは、肩をびくびくと震わせた。感度が高いっぽいな。次は沙織ちゃんの番だな。

 

「え、ぼくにもそれをやるの……」

「後でお菓子あげるから、ね?」

「はぁ……仕方がないですね」

 

 ふぅ~

 

 ノーリアクションだった。

 

 それぞれに感想を聞く。最初は真奈子ちゃん。

 

「なんか、嬉しかったです。えへへ」

「嬉しい?」

「はい」

 

 うーん? 真奈子ちゃんはいい子すぎるのかもしれない。参考になるだろうか……

 次はあげはちゃんだな。

 

「これは前戯ですね」

「は!?」

「前戯です」

「いや、聞こえなかったわけじゃないんだけど……」

 

 あげはちゃんは性知識がありすぎるというか、理解が有りすぎると言うか。そんなふうに考える女子小学生がいるのか? 果たして参考になるのだろうか。

 

 最後は沙織ちゃん。

 

「キモい」

「えっ!?」

「キモい」

「二回も言わなくていいから!?」

 

 キモいって……これほど傷つく言葉があるだろうか……

 しかし耳に息を吹きかけたらキモいって厳しくね?

 あと、ひたすら無言でビデオカメラを回してる詩歌も怖くね?

 

 次も同じ要領で、足裏マッサージを行う。それぞれの感想は、

「幸せです」

「疑似SEXです」

「死んで欲しいです」

 だった。マジで参考にならなくね?

 

 ここでヤメたら本当に意味がないのでとりあえず続行。詩歌はやたらに反応していたお互いの二の腕をもみ合うという行為だが……

 

「これはちょっとよくわからないです」

「なんですかこれ」

「イミフ」

 

 うーん、ここに来て同じ意見で揃うとは。この行為はさすがにえっちではないようだ。

 

「えっ、ええっ、そうなのぉ?」

 

 詩歌はその反応に驚いたようだ。お前はどう思ってたの?

 

「そうなんだぁ、うへ、うへへへ」

 

 驚いた後、なぜかニヤついていた。ショックを受けたのかと思って少しでも心配した俺がバカだった。

 

 さて気を取り直してネクストステップだ。二の腕を揉むのは問題なし、ということだからその次っていうと……揉んで、いいよな。

 

 もみもみ

 

 うっわー。柔らかい。

 

 もみもみ

 

 うーん、真奈子ちゃんに比べるとボリュームは少ないけど、あげはちゃんも揉み心地がいいね。

 

 もみもみ

 

 沙織ちゃんは手に馴染むというか、吸い付くような肌だな。

 

 ということで太ももを揉んだわけだが……とりあえず詩歌のカメラワークがウザい。俺の顔と彼女たちの顔と、揉んでいる手のアップとみたいにせわしなく動かしていた。資料映像なのだから俺が文句を言うわけにもいかないが、ウザい。

 

 さて、感想を聞こうと思ったが、何やらみんなで目配せしている。そういうのはバレないようにやってくれないかしら。

 

「ねえ変態」

「なにかな沙織ちゃん」

「早くお菓子持ってきて。今すぐ」

「あ、ああ。そうだな、飲み物も出してなかったな。みんなの分持ってくるよ。詩歌も手伝って……」

「あ、詩歌さんは残ってください」

「え。あ、そう」

 

 沙織ちゃんがそう言うと、他の三人がコクコクと頷きつつ、親指を上に向ける。だから、そういうのは俺にバレないようにやってくれないかしら。そりゃ俺はアウェイでしょうけども。

 

 階段を降りて、お湯を沸かし、お菓子を用意して、お茶を煎れる。

 みんな何を話しているんだろう……俺には言えないことなのかな。例えば、太ももを揉んだことをセクハラとして訴えるとか……いや、そんなわけないよね。太ももだもんね。おっぱいじゃないし。だからまったくもって問題なしだ。

 仮に電車で横に座っている女子高生の太ももを触ったからって問題……あれ? あるな!? ひょっとして太ももを触るのはダメだったのか!? しまった! しかも詩歌がビデオでしっかり証拠を!

 

 って、熱っ!? ポットのお湯が手にかかった!

 

 じゃばばばと水道の水で冷やす。左手の小指はパソコンでAを打つのに必要だからとても大事なものだ。火傷のせいで締め切りに間に合わなかったら……いや、それは杞憂か。俺はもう豚箱行きだ。新刊どころじゃないんだ。

 

 終わったな……俺の人生。

 

 お茶とお菓子を乗せたお盆を持ってとぼとぼと歩く。階段を登る足が重い。

 ため息を漏らしつつ、陰鬱な気持ちでがらりと戸を開けると、思いがけない歓待の声。

 

「先生、お待ちしておりました!」

「あげはは、どんなことでもしますよ」

「お菓子」

「お兄ちゃん、お疲れ様」

 

 お、お前ら……俺を訴えないのか。脅迫しないのか。

 

 俺の人生はまだ終わらないのか……その有り難さを噛み締めつつ、まずは沙織ちゃんにお菓子を提供。

 

 ざくざく

 

「な、なんですかこの甘いおせんべいは」

「歌舞伎揚げだよ。お茶に合うんだ」

「ほおでふか」

 

 正直、沙織ちゃんはお菓子を出しておけばなんとかなると思っていました。目をきらきらと輝かせて、頬を膨らませて一所懸命に咀嚼している。

 こんなに美味しそうに食べてくれると餌付けしそうになるね。

 

「ありがとな、沙織ちゃん」

「なにがでふか」

 

 こちらに目もくれず、歌舞伎揚げに夢中だが、一番好感度の低いであろう彼女の態度は俺をほっとさせてくれた。

 

「先生、先生、早く続きをしましょう。先生の原稿のお役に立ちたいです」

 

 正直、俺の大ファンであるところの真奈子ちゃんは大丈夫だと思っていました。両手で拳を握って、縦にぶんぶんと振りながら本気で俺の役に立とうとしてくれている。

 天と地がひっくり返ったり地球が静止する日が訪れても、この子だけは俺の味方でいてくれるとそう信じている。

 

「ありがとう、真奈子ちゃん」

「えへへ。お役に立てたら嬉しいです」

 

 俺のことを心から思ってくれているファンの笑顔を見ると、本当に救われる思いだ。

 

「あげはは、わかってますから」

 

 きゅっ、と俺の服の袖を掴むあげはちゃん。そうだ、そうだよ。この娘は俺の真の理解者じゃないか。俺がしていることはあくまでも小説を書くためのものだということを言わなくてもわかってくれるんだ。

 

「ありがとね、あげはちゃん」

 

 こくり、と頷いてくれる。頭を撫でると、くすぐったそうに目を閉じた。なんという信頼感。この娘が俺に怒ったり文句を言ったり通報したりする気がしない。

 

 でも、ダメだ。

 やっぱりダメだよ。

 

 だって耳に息を吹きかけることを前戯だと思ってるのに、太ももを触ってしまったのだから。

 このまま続けたらアウトだ。

 

「みんな、ごめん。さっきのことだけど反省してる」

「あ、お兄ちゃん、そのことだけど、あの」

「三人とも、今まで本当にありがとう」

「あの、お兄ちゃん?」

「でも、もういいんだ。これ以上は……」

「お、お兄ちゃん?」

「もし出所してきたときにまだみんなが俺のことを忘れてなかったら……」

「お兄ちゃんてば!」

「なんだ、詩歌か」

「はうあっ!? そ、それでこそお兄ちゃん……」

 

 詩歌は休憩中にも関わらずビデオカメラを回していた。なにがそれでこそなのかはさっぱりわからん。

 

「あ、あのねお兄ちゃん。えっと、お兄ちゃんが下に言ってる間にみんなで話したの」

 

 ああ、なるほど。

 それぞれの認識では、あれっ、二の腕と同じノリで太ももを触られたけど……これって……いや、考えすぎか。ってなるところだったかもしれない。

 そこでみんなの認識のすり合わせを行った。そんなところか。

 

「みんなはお兄ちゃんがすることには疑問を持ったりしないけど、それだとちょっと問題があるかもって」

 

 ……そうか。そうだよな。

 

 耳に息を吹きかける行為と足裏マッサージ、そして二の腕を揉む行為までは詩歌も経験済みだから問題なしと判断できたが、太ももについては妹からみてもNGだった。そういうことだろう。

 

 俺は覚悟を決めた。

 初犯だから実刑だけは、なんとか免れるように弁護士に払う費用は惜しまないことを!

 

「だから、お兄ちゃんは次からは自分の考えではなくて、私の言うことを聞いて」

「……は?」

「だから、事前にみんなに話しちゃうとネタバレで意味がないでしょ。でも、私はお兄ちゃんの目的も知ってる。私は参加しないし、私は女の子だから、ね?」

 

 それはつまり、続けていいと。

 しかも俺の意思じゃなくて妹の指図だから、一切の責任を取らなくていい。そういうことなのか?

 

 うう……

 

「ちょ、ちょっとお兄ちゃん!?」

「悪い……ありがとうな、詩歌」

「ふえっ!? 泣いてまで感謝するの?」

「するよ……」

「いいんだよ、お兄ちゃん。小説のためだからね」

「うう、すまねえ。すまねえなあ」

「いいってことよぉ~。こちらこそごちそうさまだよ~」

 

 詩歌以外の三人も、ただ微笑んでいた。なんて、なんてありがたいんだ。俺なんて、本来なら豚箱送りでも仕方ないというのに……

 

 よし!

 じゃあ、気を取り直して。

 思う存分、妹の言いなりになろうか!




たまーに反省する先生であった

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