ガリガリちゃんを持った三人は三者三様に溶けさせていた。
テンションの上がっていた沙織ちゃんは「冷たすぎ」と言いながら、少しずつ少しずつかじっており、溶けるスピードに追いついていない。じわじわと右手が水色になっていく。アイスキャンデーを食べることにすら慣れていないのだな……。
あげはちゃんはガリガリちゃんを手渡す前からずっと……というかチークキスをした後からずっと虚空を見つめたままだ。どうしたんだろうか。さすがに心配な気もするがときおり咀嚼しているし、ときおり「にょほふふ」みたいな日本語になっていない言葉を漏らすのでとりあえず放置している。白昼夢でも見ているのかな……。
真奈子ちゃんは「普通、普通かぁ」と言いながらときおりため息をついていた。うん、どうやらこれは俺が悪いみたいですね!? 急いでフォローしなくっちゃ!
「あ、あのね真奈子ちゃん、普通っていうのはもちろんいい意味で普通ってことだよ。きんどんの良い子悪い子普通の子の普通の子というか」
うん、女子小学生には絶対に通じないよね、この例え。むしろなんで俺は知っているの?
真奈子ちゃんは無言で垂れているガリガリちゃんの液体を舐めていたが、こちらをちらと見ると、
「悪い子でもいいから、かわいいって言って欲しかったです……」
とおっしゃった。
うむ。超絶に可愛いですね。
いや、そんな場合じゃないな。俺の下手なごまかしによって凹んじゃってるんですよ、早く元気づけなきゃ!
「可愛いよ! 超絶に可愛いよ!? さっきはむしろ、そう、あまりの可愛さに動転していたというか? 可愛すぎて逆に可愛いと言えずに普通と言ってしまったというか?」
本当は可愛さじゃなくてエロさですけどね? 耳を舐められることの気持ちよさを教えてもらっちゃいましたよ?
「ほんとに?」
「ほんとほんと」
溶けていくガリガリちゃんで口の周りと手をべたべたにさせつつ、口を尖らせる真奈子ちゃんは子供らしくもありつつ、セクシーさもあった。いや、それはマズいだろ。非常に今更ではあるが真奈子ちゃんは小学生らしからぬナイスバディのため非常に魅力的なわけだが決してそういう目で見てはいけない。純真無垢な女の子なのだ。
とりあえず機嫌を治してくれたっぽい真奈子ちゃんから目を逸らすとあげはちゃんが睨んでいた。あれ? 俺また何かやっちゃいました?
「可愛すぎると可愛いと言えないんですね」
し、しまったー!
そうなっちゃうよね? 今の話の流れだと「かわいかった」と俺があげはちゃんに言ったことが逆に普通だったことになっちゃう!
しまった~、適当な嘘をつくからこんなことに。
待てよ? あげはちゃんは真奈子ちゃんと違って小学生らしい姿をしているが、おませさんなので女性らしく扱われることを好むぞ。
「ごめん、実はあげはちゃんは本当はセクシーだと思ってたんだ」
「せ、せ、せくしー!?」
「そうなんだ、あげはちゃんがあまりにも女の魅力に溢れててそれを言うのが恥ずかしくてかわいいって」
「女の魅力……そ、そうですか」
両手を頬に当ててはにかむあげはちゃん。片手にはガリガリちゃんを持ったままだし、ぼたぼた溶けてるけど、どうやらすっかりご機嫌になったようだ。よかったよかっためでたしめでたし。
「へ~、つまりえっちな目で見てたわけですね、小学五年生を」
ぎゃー!?
「待って! 沙織ちゃん、スタンガンはヤメて!」
目の前にやってきたのは左手にガリガリちゃん、右手にスタンガンを持ってバチバチいわせている網走沙織ちゃんだった。こんな絵面見たことないですよ!? ガリガリちゃんとスタンガンを同時に持つというのは成立するの!?
一難去ってまた一難。ピンチを乗り越えたら、さらなるピンチがやってきた。なぜ俺はこんなに窮地に立たされがちなのか。
うーん、しかしあれだな、これはひょっとしてアレじゃね?
「ごめんね沙織ちゃん」
「また謝罪ですか。謝って済むなら警察はいらないです」
「いや、そういうことじゃなくてね。ほら、俺が真奈子ちゃんとあげはちゃんに可愛いとかセクシーとか言ってたから。嫉妬して拗ねちゃったんでしょ?」
そういうことだったとはね。まったく沙織ちゃんも可愛いところがあるじゃない。
ばちっ
「あっち! あっつ! 痛った!?」
「誰が嫉妬ですか」
ま、まさか照れ隠しで尻にスタンガンをぶち込まれるとは……とりあえずここは褒めてなんとかするしかない。
「沙織ちゃんも良かったよ、舌打ち」
「し、舌打ち!?」
しまった、舌打ちだと思ってるのは俺だけで彼女はチークキスを上手にやっているつもりだったのか。フォローしなければ……
「いや、むしろ舌打ちが良かった」
「ええ……」
フォローしたつもりがドン引きしている。なんてこったい。
「あっ、それってご主人さまの?」
突如会話に入り込んできたゆるふわウェーブ髪の真奈子ちゃん。ナイス! それだ!
「そう。そうなんだよ。メイとマイのご主人さまみたいで素晴らしいんだよ」
「ふーん。じゃあもっとしたげるよ」
目をきらきらさせて期待している真奈子ちゃんの前で、淡々とした表情で細い身体の沙織ちゃんから床に組み伏せられる俺。そして服を捲られ、腹が出される。スタンガンはとりあえず放ってくれましたが、とんでもないことになってきた気がしますね?
「食べすぎてお腹が出てないかチェックするシーンですね!」
「あ、あのシーンか」
真奈子ちゃんが俺の小説の解説をしてくれているぞ。言われて初めてわかったよ。あれはそういう言い訳でしたね。本当はただのセクハラです。
「ああ、おへその周りをたっぷりねっとりと」
「あげはちゃん、それ以上は言わなくていいからね」
この場において真実は俺とあげはちゃんだけが知っていればいいんだよ。しかしメイドさんのお腹をご主人さまがいじくるのはえっちですが、女子小学生が男の腹を触ったところで誰得なんだって話だよ。
「さて、さて。変態はお腹大丈夫かな」
仰向けに寝転されて太もものあたりに沙織ちゃんが……要するに騎乗位みたいな感じになった。彼女は左手を俺の胸に置いて、前のめりになる。おいおい、なんかどきどきしてきたぞ。
「ひうっ!?」
いきなり肉棒を突っ込まれた処女のような声をあげたのはなんと俺だ。沙織ちゃんはいまだにガリガリちゃんを右手に持っており、俺の腹にぽたぽた落ちている。そう、女王様がローソクのロウを垂らすようにだ。
「ふーん。お父さんと違って太ってないな」
さわさわと左手が俺の腹を撫でていく。そして右手からはぽたぽたと冷たい雫が垂れてくる。なんだこのプレイ!?
「ちょ、はう!? あの、ひう!?」
俺が出来るのはただ耐えるだけ。つめたいくすぐったいつめたいくすぐったい、やめてやめてやっぱりやめないで、なんか気持ちいい……
「あはは」
真奈子ちゃんは俺の横に突っ立って、見下ろしながら無邪気に笑っている。どうやらガリガリちゃんは食べ終わった模様。
「うふふ、先生、勃っちゃだめですよ?」
あげはちゃんはすべてを見透かしたかのように俺を見下ろしている。いや、勃ってないよ?
「へそ」
そう呟いた黒髪ショートヘアの女の子の細くて小さな指が、俺のへそをなぞる。沙織ちゃんは笑うでもなく、ただ淡々としていた。
「くっ」
くすぐったいのは身体なのか心なのか。なんともいえない気持ちになる俺。メイはさぞ恥ずかしかっただろう。自分の生み出したキャラクターと同じ境遇になる作家は世の中にどれほどいるでしょうね? ましてや官能小説の女の子側になる男の作家なんていますかね!? いや、いっそ児童向け小説でもいいよ。児童向け小説の女の子の主人公と同じ体験をする一八歳男性なんていますかね!?
「あひゃああ!?」
これも俺だ。彼女が持っていたガリガリちゃんがいよいよ溶けて棒から滑り落ち、俺の腹にずるりと落ちたのだ。冷てえよ!?
「あ、もったいない」
なになに!?
沙織ちゃんは俺の腹に落ちたガリガリちゃんを直接食べ始めた。
「しゃくしゃく、ぺろぺろ」
「ちょっ、ちょっ、くすぐったぃ」
お腹を歯や舌がなぞっていく。なんというこそばゆさだ。これがメイの味わった感触なのか……
「ふ~、やれやれ~って、ええ!? どういうこと!?」
妙につやつやした顔でやってきた妹は俺たちの現状を見て驚いたようだった。無理もない。女子小学生にお腹を舐められ、それを微笑みながら見ている女子小学生が二人いるという状況。俺もどういうことなのかわからん。
「う~ん、もう。まったくお兄ちゃんはいっつも私のいないときにぃ」
文句を言いながらビデオカメラを回し始める詩歌。やめてくれ。
「ぴちゃぴちゃ」
うひー。沙織ちゃんが俺の腹を舐めている。それを妹が撮影している。そんな様子を真奈子ちゃんとあげはちゃんが見下ろしている。なんだこれ!?
「なんだこれー!?」
妹も同じ気持ちだったようです。兄が女子小学生におへそを撫でられながらお腹を舐められているというシチュエーションはやっぱりなんだこれって感じですよね? だが、嬉々として撮影する気持ちはよくわかりませんね? ちなみに少しもえっちではないよ?
「ひうん!?」
またしてもお腹に冷たいものが落ちてきた! ってか、こういう声を上げるのが毎回俺なのおかしくない!?
「おっと、あげはも食べるのが遅かったー」
棒読み! あげはちゃんわざとやりましたね!? くっ、あげはちゃんは恥ずかしがり屋さんだが、俺の腹にいたずらするくらいなら平気ということだろう。そりゃそうだ、少しもえっちじゃないもん。
「もったいないから、舐めなくちゃー。ごくり……」
んほおおお! くすぐったい! 沙織ちゃんと違ってあげはちゃんは意識しまくっているため、手もソフトタッチで舌使いもおっかなびっくりだから、かえってそれがくすぐったい。今、俺のお腹は女子小学生の舌が二つと手が三つ動き回っている状況なのだ。
「どんな状況なのこれ」
そう言いながら詩歌はビデオカメラで俺の腹を撮影する。マジでどんな状況なんだよ。
「いいな、いいなー」
なぜか羨ましいという顔で俺の腹を覗き込む真奈子ちゃん。ちょ、ちょっと、仰向けで寝っ転がってる男にスカートで近づいちゃ駄目だって習わなかったの!? もちろん紳士の俺は目を閉じましたけど、もう水玉が頭から離れませんよ。考えないようにしようとすればするほど意識しちゃう。そうするとお腹の下が膨らんじゃう。ヤバい!
「あっ、ふふふ、あげはの舌で感じちゃったみたいですね?」
あげはちゃんにバレた! 違うよ、そのせいじゃないよ水玉のせいだよなんてとても言えない。もう、そういうことにしておこう!
「ふう、なんとか食べ終わった」
「ああ!?」
なんということでしょう、腹のアイスキャンデーを食べ終えた沙織ちゃんは、休憩のつもりなのか片手を俺の股間に置いてしまった。
「はわわわ」
あげはちゃんが両手で顔を覆い、指の隙間から見ていた。いや、ちゃんとズボンは履いてますよ? テントみたいになってたところに女子小学生の手が触れているだけです。わあ、それって大変なことじゃない?
「ん? こんなのさっきあったっけ」
沙織ちゃんは不思議なものを見つけたというようにためつすがめつしている。やめて、そこをそんなに見つめないで。そしてその様子を妹が撮影している。絶対駄目だって!
「ご、ごめん、トイレ行きたい」
「あ、はい」
さすがにトイレという話であれば沙織ちゃんもすぐにどいてくれた。あぶなかった……