「小さな女の子役って、課題なの?」
昼休み、からあげ定食はまだ食べ終わっていない。俺は
「ん~ん。学校のじゃなくて、オーディション」
「えっ、オーディションとかもう受けてるの?」
「っていうか、まぁ、一応? 声優の仕事もしてるかな」
も? もということは別の仕事がメインなのか?
「AV女優のついでに?」
「ち、違う! なんで!?」
大きな声で否定した後、
「えっちな仕事もあるって言ってたじゃん」
「ちょっとえっちなって言ったの! ちょっとだけ!」
「つまりイメージビデオということか……」
「なにそれ……」
知らないけどろくでもなさそう、という顔をした。説明はしなくてよさそうだ。じゃあなんなのよ。俺が疑問符を頭上に浮かべると、彼女はいかにも恥ずかしそうに口を開いた。
「グラビアとかやってるんだけど」
「ふーん」
「えー。リアクション薄い……」
だってセクシー女優に比べたらエロくないもん。しかしグラビアアイドルか、なるほど、それでスリーサイズとか教えるのに抵抗ないのか。普通教えないっていうか詳しく知らないよな。
「本当はハズいんだけど、声優になるのは本当に難しいから……」
「声優になるために身体を売っていると」
「言い方悪すぎない?」
怒ってるのかテレているのか、その両方なのか顔を赤くする。
しかし声優になるためにグラビアアイドルをやるってすげー話だよな。ある意味真逆の存在な気がするんだが。まぁ、目の前の女の子はとんでもないスペックの持ち主ということなんだろう。
「声優の仕事って?」
「んー、まぁ、その、まだ大したものは全然……えっと、成人向けの同人ゲームなんだけど」
「なにっ!? タイトルは!? どういうやつ!?」
がたっ! 椅子が音を立てるくらい俺は勢いよく立ち上がった。
「えー。リアクション強い……」
そりゃそうだろう。だって同人とはいえエロゲー声優ってことだろ!? すごい! すごすぎる! サイン貰わなきゃ!
ご自慢の声優の仕事に熱烈に反応している俺になぜか冷淡な目をしている対面の彼女は首を傾げた。
「それ聞いて、どうするの?」
んー。サインを貰えるくらい好感度を上げるにはなんと答えるべきか。
立場を逆転して考えてみよう。仮に俺が官能小説を出版してたとして、それを彼女に伝えたときに一番嬉しい反応とは。
そりゃあ、もちろん買ってくれて、読んでくれて、そして使ってくれたら最高だ。そういうことだな。
「買って、やって、ヌく」
「――――ッ……」
目を
俺だったら……先生の文章でヌきます、楽しみです。こんな感じかな。想像するだけでニヤつくね。よし、もうひと押しだ!
「お前の声を聞きながら、オナニーする」
俺はニヤついた顔のまま、そう言い切った。さぁ、喜べ。
「さ、さ、さいてー……だけどちょっとだけ嬉しい……うう……」
彼女は箸を置いて両手で顔を覆った。ドスケベボディを青少年に惜しげもなく晒してるやつにしては随分と恥ずかしがり屋だな。
「でも、その、自分はそういうシーンは無いキャラクターの声で……」
「ちっ、なんだよ」
「うわっ、露骨。だから、ちょっとえっちなって言ったでしょ」
「ふ-ん。からあげ早く食わないと冷めるよ?」
ぱりぱり、もぐもぐ。
「完全に興味失って漬物食べ始めた!?」
そりゃそうだろ。エロゲーでエロシーンのない声をやっていますって、そりゃねえぜって感じ。
「えっと、そういうシーンがあったら買って、自分の声で、そ、そういうことしたいって思ってるってこと?」
「ん? うん」
「そ、そうなんだ」
ちょっと嬉しそうな顔を見せる。うーん、俺だったら狂喜乱舞するけどな。小江野さんは食欲が回復したのか、からあげを食うのを再開させた。所詮は学食の味なのだが随分と美味そうに食う。
「で、なんでまた小さな女の子役のオーディションを? ロリコンもの?」
「ぶふっ」
せっかく美味そうに食ってたのにまたしても噴飯した。
「なんでそういうのしかやらない前提なの!?」
彼女はご飯を水で飲み込んでからそう言った。よく噛んで食べた方がいいぞ。
「だって、えっちじゃない仕事なんてしたくないだろ?」
「したいよ! えっちじゃない仕事がしたいの!」
「ふーん。変わったやつだな」
「えぇ……」
またしても箸が止まっている。俺はもう食い終わっちゃうよ。
「それが? 女児向けのアニメか何かなのか?」
「そうよ。小さな女の子役がやりたいの」
熱意を感じる眼差し。夢見る少女は美しいね。
俺は味噌汁を啜りながら、そう思った。
それにしても世の中とはうまくいかないものだ。
俺のようにえっちな仕事だけがしたい人間が女児向けの仕事をすることになって、女児向けの仕事がしたい女の子がえっちな仕事をしているなんて。
「それで?」
「それで、とは?」
からあげを頬張りながら、なぜか怒ったような態度を見せる。冷めたからかな。だから言わんこっちゃない。
「だから! あの本、付箋とかいっぱい貼ってあった。小さな女の子向けの小説を本気で勉強で読んでいるんでしょう? なんで?」
むう。
女子小学生に
「うーん、なんて誤魔化したらいいんだ」
「えっ、ごまかすって言っちゃった?」
「しまった」
真面目で正直者だとこういうときに困る。
「なに、本当のことが言えないワケ? まさか、え、えっちな理由じゃないでしょうね」
頬を赤らめつつ眉をひそめて睨まれる。えっちな理由で女児向け小説を読むやつがいるかよ。もっと恥ずかしい理由だっつーの。
「うーん、ちょっとここでは言えないな……」
「えっ、そんなに!?」
こんなに恥ずかしそうな顔で、からあげ定食を食べる女の子を俺は知らない。勝手にえっちな理由だと勘違いしているなコイツ。ひょっとして実はえっちな娘なのでは? この人も俺の小説のモデルになってくれそうな気がしますね?
「大体、小さな女の子のことなんてわかるんじゃないのか。俺はわからんから勉強しているが、君は数年前のことを思い出せばいいだけだろ」
まったくの正論だと思うのだが、彼女は少し困ったような表情になる。どうした、からあげだけ先に食べてしまったからご飯が余ってるのか。やらんぞ、漬物で食え。
「それが、その……その女の子はちょっと変わってるというか……いや、変わってるっていうのは今の御時世的によくない表現なんだけど、自分が子供の時とは少し違う感情が……」
何やら煮え切らないことを言ってから、白米を口に含んだ。おかず無しでイケるタイプなんだ。おかず、無しで。俺は無理だな~。大好きだもん、オカズ。
「とにかくっ、小さな女の子に詳しいんでしょ?」
いや、その言い方はやめてくれ。絶対ヤバいから。
「うーん、まあ、ある意味プロだけど……」
まったく自覚はないが、女子小学生のファンがいるからね。
「えっ、えっ、プロ!? ちょっと、詳しく」
「だからここじゃちょっと」
「んー、じゃあ連絡先交換しよ! ほら、QRコード」
こうして俺は、からあげの油でテカテカした唇の女の子と連絡先を交換した。
次回はJS出ますから! ちゃんと出ますから!