「女の子は好きだな! 特にえっちな子が!!」
「あんたには聞いてない!!」
小江野さんからばしり、と背中にもみじを作られた。「何を言ってるの?」と言わんばかりの目つきだが、こちらのセリフだ。俺にならともかく、女子小学生に女の子が好きかと聞く方がおかしいのではないか?
ん? あ、そうか。そういうことか!
ピーンと来たね。
「わかった、つまり今度の仕事が女の子同士のやつなんだ」
「どうやらわかっちゃったみたいだね」
小江野さんはわずかに微笑む。
なるほどなるほど。今までの発言に合点がいったね。
個人的にはそんなに好きじゃないけど、そういうジャンルもあるよな。
「でもさ、その話を沙織ちゃんにするのはちょっと早くないか?」
「え、あ~、やっぱりそうかな……」
頬を人差し指で掻きながら、ちょっとバツの悪そうな顔をする。
沙織ちゃんは無表情のまま俺たちのやり取りを静かに見守っていた。あげはちゃんと違って無垢な子なのだ、きっと言ってもわからないだろう。
とはいえ、ちょっと話題が話題なので、俺は沙織ちゃんの頭を両手で挟むようにして耳を塞いだ。
「俺はレズものは好きじゃないんだけど、応援するよ、AVデビュー」
「な、な、なんでよっ!?」
「なんでかというと、やっぱり男優に自分を重ねるのがいいから男がいないとちょっと気持ちが乗らないというか」
「そういう理由を聞いてるんじゃないよっ!?」
なぜか激昂する小江野さん。テレているのだろうか。恥ずかしさをごまかすために怒ったふりを? しかし男と出会ったその日にスリーサイズを教えるようなドスケベのくせに今更なぜ?
「なにその、きょとんとした顔……」
「いや、ここまで来て何を恥ずかしがっているのかな、と。いいじゃんAVだって。買うよ俺」
「か、買うんだ……へぇ……って、だから、違うんだって! なんで全部そういう発想になるの!? このエロ小説家!」
褒められた。やったね。
それにしても、レズビアンポルノじゃないとすると一体? 皆目検討もつかない。
顔を真っ赤にした小江野さんとは対象的に、冷静極まりなく無表情な沙織ちゃんは俺の両手首を掴んでそっと外し、小江野さんの前に立つと、
「百合のお芝居をするってこと?」
とおっしゃいました。どゆこと?
「そう! そうなの! さすがね~」
小江野さんはポニーテールを揺らしながら大きく頷く。
沙織ちゃんがさすがなのは同意なので、俺も頷いておく。名探偵みたいだもんね。
「今度オーディションを受けるアニメの原作が百合小説で、自分は女の子同士の恋愛をしたことがないからちょっとよくわからない……そんなところ?」
「うわ、すっご、まったくそのとおりっ!」
小江野さんはそう言って、両手をぱちぱちとさせながら称賛をおくった。すごい、さすが名探偵沙織ちゃん!
なるほどそうだったのか。だったら、さっさと言えばよくね? なぜ自白しなかったんだ、犯人は。
「お、女の子同士の恋愛とか、ちょっとわかんなくて。はは」
よくわかんないのが恥ずかしかったのかな? 小さな女の子に教えを請う事を恥ずかしがっているようでは成長できないぞ。ソースは俺。
「いかにも男が好きそうだもんね、おっぱいは」
「ちょっ……そ、そういうわけでもないけどっ!? 好きな男性は画面の向こう側から出てこないから……」
小江野さんは、その豊満なボディをくねくねとよじった。
ふーむ。やはり声優を志す女の子はアニメに出てくるイケメンが好きなのか。
官能小説を書いている俺が、活字で表される女性を魅力的だと思うように。
好きな異性が空想上の生き物という意味では俺たちは同士かもしれないな。
「男好きという意味ではなくて、男性に好まれそうという意味だったのですが。主に体目的で」
「なっ……」
沙織ちゃんのセリフを聞いた小江野さんは、くねくねを止めて自らのボディを守るように抱いて、頬を染めた。おそらく褒められて照れているのだろう。
沙織ちゃんはいつもどおり無表情だが、若干ジト目な気もする。せっかく褒めたのに勘違いした鈍感女だからかな?
「じゃあ好かれる方じゃなくて好きになる方ってことか」
「あっ、あ、うん。そうそう!」
「……ですよね。ぼくとしたことが」
「え? え?」
ドスケベボディだから男からはモテるだろうけど、女子から好かれるタイプじゃないからそっちの役で当然だな、という意味だな。言わないでおこう。
「それで、作品はなんという……?」
「えっとね。まだ情報解禁前だから内緒だよ? お稲荷様がみてる、っていう……」
「おいみて!? おいみてだとう!?」
どうした!? 沙織ちゃんがいつもの沙織ちゃんじゃない! 初めてテンションが上がった状態をみた気がする。好きな作品なのだろう。
「ほほう、まだ二巻しか出ていないのにアニメ化ですか、やりますね。しかしながら作品の格からして映像化は必然。ぼくはアニメを見ることは出来ませんが、原作が脚光を浴びて続編やスピンオフが出ればそれで十分です。むしろ原作ファンとしてはイメージが崩れるのが嫌なので、みなくて全然いいのです」
饒舌極まりない沙織ちゃんは、段々とテンションが落ちていく。やっぱり見たいんじゃないか。
「詳しいね! その主役のオーディションを受けたいの」
「あなたが? うかのみたまちゃんを?」
少し上を向きつつ、顎をさすり、値踏みするように睨めつける。そして「ふぅ」と嘆息して首を横に振った。なんか見てるだけでぞくぞくするほど冷たい態度ですね。なんだか興奮してきました。
「な、なによー!? 私じゃ駄目っていうのー!?」
「そんなはしたない体で、みたまちゃんの声は無理でしょ」
「か、体は関係ないから!? 声優は声のお芝居だから!?」
「みたまちゃんは純真無垢なの。変態には無理」
「変態じゃないってば! 自分は純真無垢だってば!」
さらりと短い髪を掻き上げる沙織ちゃん。超クール。
うぐぐと涙目になる小江野さん。超哀れ。
「このままじゃ受からないと思ってるから頼みに来たんじゃん」
じろっと目線を送られる。俺はそっと横を向いた。
「そもそも、ぼくにはメリットがない」
そう言ってから、ぽすんと俺という座椅子に着席。おかえりなさいませ。
つまりメリットがあれば協力するということだ。俺は沙織ちゃんの頭の上から、肩を落としている小江野さんにアイコンタクトを試みる。ウインクとかで通じるかな。
「……?」
ぽけっとしていた小江野さんは、俺の顔をみて小首をかしげた。伝わらないのか。もう一度、片目を閉じる。
「……うん!」
両手を使ってガッツポーズしながら、俺にウインクを返した。違うんだよ、俺は励ましてるわけじゃないんだよ。「頑張るね」みたいなアピールをして欲しかったわけじゃないんだよ。ポーズしたときにぷるんっとちょっとだけ大きな胸が弾んで見えるとかそういうのを求めていたわけじゃないんだよ。でも、このやり取りは小説に使えそうだから、心の中にメモっておきますね。メイちゃんにやらせようっと!
それにしてもどうやって伝えようかと思ったが、別にこっそり伝える必要はないことに気づきました。
「あるよね? 作品のファンである沙織ちゃんにとってのメリット」
俺がそう言うと、彼女は人差し指を顎に当てて目線を斜め上にした。
「う~ん。もし自分がキャスティングされたら、試写会に友人を連れて行くこともできるけど」
ぴくっ。
反応しているね、沙織ちゃん。
短い髪から、シトラスの香りが鼻をくすぐる。ふわ~。
「アフレコ現場を見学とか」
ぴくっ。
反応しているよ、沙織ちゃんが。
デニムのスカートが俺の股間をくすぐる。あひ~。
「ひょっとしたら原作者に会って、写真とかサインとか貰っちゃったり」
がたっ。
ついに俺という椅子から立ち上がった。ちょっとさみしい。
「
「えっ」
「ぼくのお友達の
「う、うん! ありがと! さおりん!」
「さ、さおりん……」
「え? 嫌だった?」
「全然。お友達ですから。当然です」
「だよね~! よかった~」
手と手を握り合う二人。なにやら友情が芽生えたようでよかったです。なんか3Pするときの女子たちみたいだな、なんてことは決して思っていない。
声優の卵でグラビア女優できるくらいナイスバディの18歳というハイスペックな女子を女子小学生達の刺身のツマみたいな扱いをしてくる感想欄って素敵ですね。
そんなわけで感想を手軽に送れる3択をご用意
1.「そんなことないよ小江野さんいいじゃん」
2.「そうだそうだ、もっとJSの出番ふやさんかい」
3.「そんなことよりアホな妹を出せ」