女子小学生に大人気の官能小説家!?   作:暮影司

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ぎこちない手つきの姉はスキンシップが過剰すぎる

 

「さ、賢者(さかひさ)! こっち来なさい」

 

 小江野さんの姉の演技が始まったようだ。なぜか素人の女子小学生よりも遥かに不自然な気がするが。

 

「ん~? なぁに~?」

 

 しかも、俺の演技が上達している気がする。おねショタもののAVで男優としてデビューしようかな。

 

「えっと、えっと、ひざ枕してあげる」

 

 下手くそか。

 大体、それは真奈子ちゃんがやったじゃない。パクリ?

 そもそも、真奈子ちゃんは自然にそこまで持っていったけど、いきなりひざ枕してあげるなんて姉弟で言い出したらオカシイだろ。

 例えば仮に、詩歌がそんないきなりひざ枕してあげるなんてことを言ったとして……俺がされるかって話だよ。あれ? おとなしく言うことを聞くな。あながちおかしくないのか。

 

「されてあげよう」

 

 だからといって「わぁいありがとう! さかひさ、ひざ枕大好き!」とか言うのは我ながらキモいにもほどがあるので、先程までと同様、俺の中での弟を演じることにする。まったくしょうがねえな姉ちゃんは、みたいなキャラである。正直羨ましい。

 小江野さんはソファーの右端に座ったので、俺の向きとしては彼女のお腹を見る形になる。左頬に神経が集中されていくね。

 

「わわわわ」

 

 言うことを聞いただけなのに、慌てふためくとかおかしな話だ。

 とりあえず、頭の位置の具合が悪いという素振りで頬を太ももになでつけたり、手で太ももを触ったり、しておこう。もぞもぞ。ぺたぺた。

 

「ううう」

 

 ふーむ、姉の演技が足りてないな。こんな日常的に行われていることでいちいち反応しすぎなんだよ。もぞもぞ。ぺたぺた。くんかくんか。

 

「むむむっ」

「くっくくっ」

 

 なぜか真奈子ちゃんと沙織ちゃんが反応したような……いや、気にするな。俺は今、小江野さんの弟であることに全力を注ぐべきなんだ。ここで手を抜くことは三人に対して失礼だと言わざるを得ない。まぁこの場にはもう一人いるけれど……

 

「んっ、んんっ、ハァハァ……うんっ、ひううっ」

 

 ……いや、気にするな。俺は今、小江野さんの弟であることに全力を注ぐべきなんだ。俺に妹などいない。

 それにしても、太ももがむっちむちである。やはり小学生とは全然違う。さすが声優だ。いや声優関係ないな、さすがグラビアアイドルだ。

 ……ちょっと膝を曲げよう……

 その動きの意味に気づいたかどうかわからないが、右耳に軽く吐息がかかるように言葉が降ってくる。

 

賢者(さかひさ)さ、えっと~、なにか困ってることとかある?」

 

 なんと。小江野姉は弟の悩みを聞いてくれるのか。

 ズボンがテントを張ってしまって困っている。なんて言えないよ絶対。

 ここは無難なコメントにしておこう。

 

「うーん、次の小説のネタに困ってる、かな」

「そ、そうなんだ~」

 

 ……え? そんだけ?

 マジカヨ、と思って顔を見上げようとするが見えない。

 下乳しか見えない。

 仕方がないから見るしか無い。本当は顔を見たいんだけど、まったくしょうがねえなあ……

 

「え、えっと~、よしよし」

 

 ド下手くそ!

 真奈子ちゃんの何を学んでいたんだ。この流れで頭を撫でられたところで……

 

 !?

 

 下乳が押し寄せてくる……!?

 そして何も見えなくなった……暗闇がこんなに嬉しいものだったとは……柔らかい……温かい……優しい……これが、これがお姉ちゃん、なのか……

 

「よしよし、いいんだよ~」

 

 いいのか……マジか……いいんだ……頭を撫でられていると、何もかもどうでもよくなっていく……言葉で精神的に癒やしてくれた真奈子ちゃんとは、まったく別のアプローチ。肉体的な癒やしというものが、この世にはあったんだな……

 

「そ、そうだ、お姉ちゃんがマッサージしてあげるね~」

 

 おお……そうきたか……若干沙織ちゃんのパクリだが、するのとされるのはむしろ逆だ。別物かもしれない。

 優しく頭を上げられると、そのまま肩を揉んできた。

 肉体的にというよりも精神的に癒やされますね。

 そのまま腕も揉まれる。いいですね。

 そして手首の方へ移動していき……

 

 !?

 

 肩になにやら素敵な感触が!

 顔もいいけど、肩もいいねえ。

 

「ど、どう? 気持ちいい?」

「……めっちゃ気持ちいい」

「そっか、よかった」

 

 うーん、素晴らしき哉、姉弟。

 でも全然言い方が姉っぽくない。素じゃん。

 この状況、みんなはどう思っているのか……テントに気づいてないだろうかと、様子を見る。

 

「ぐ、ぐぬぬ……」

「く、くく……」

「く、くちゅくちゅ……」

 

 ふうむ、この癒やしの空間にいるとは思えない反応……これは声優志望なのに演技の出来ないポンコツっぷりに遺憾の意を表しているのだろうか。とりあえず俺の股間を凝視したりはしてないようです。そりゃそうか。

 

「あ!」

「え、痛かった? ごめん」

「いや、そうじゃなくて」

 

 突如として、太ももの付け根を揉まれたので思わず声が。

 強引にテントをつぶされる痛みが心地よい。そして背中でクッションをつぶす感触も最高だ。

 

「も、もっと」

「あ、うん、おっけー」

 

 ああ、これが。これがリンパマッサージ……リンパが……リンパがね、リンパ―!

 

「はい、もう、おしまい」

「小江野さん……長いですよ」

 

 女子小学生たちは明らかに怒気を含んだ声で、リンパマッサージをやめさせた。やっぱりリンパなんて言葉じゃ騙されないんだね。みんなやってることなんですよ?

 

「さて、次は私の番か」

 

 すっくと立ち上がる、詩歌。

 

「いや、キミは違うだろ」

「なに言ってるの」

「あんたはいいから」

 

 すぐさまツッコミが入った。あぶねー、妹が姉になることをあまり不思議に感じていなかった。

 そんなことよりさっきから真奈子ちゃんがちょっと怖くない? そんな変な女でもあなたの先輩だよ?

 

「くっ……ちょっとトイレ……いや、やっぱお風呂」

 

 ええ……なにその水回りの選び方……どっちでもいいことないだろ……風呂でするのはやめてくれよ……。

 心配な俺を置いて妹は、姉選び選手権から離脱した。まぁそもそもノミネートされていませんが。なんでいきなりボケたんだろ。

 というわけで、姉候補全員の演技が終了したことになる。

 

「で?」

 

 説明するまでもなく、これは沙織ちゃんのセリフである。

 

「えっと~、それぞれみんな良かったと思うな」

 

 うんうん。俺は素直で正直な感想を述べた。

 

「で?」

 

 説明しよう。これは真奈子ちゃんのセリフである。

 

「全員、俺の姉に相応しいと言えるだろう……」

 

 ふむふむ。俺はこういうときの選択肢を間違えない男だ。こういうときは、選ばない。それが正解。

 

「えっと……ありがとう?」

「「そこは、で? でしょ」」

「ひーん!?」

 

 うむうむ。こういうときの選択肢を間違えちゃうのが小江野さんだ。小学生にツッコミを入れられて半泣きである。でもここでバラエティのノリを要求する? 詩歌がボケたから?

 

「「賢者(さかひさ)」」

「はひっ!?」

「「どっちが姉に相応しいの?」」

 

 はうう……なんでこの二人こんなにグイグイくるの? 俺は選択しないという選択をしたのに……。

 

「え、えっと、自分という可能性もあるのでは……」

「「は?」」

「ご、ごめんなさい……」

 

 哀れなり、小江野さん。まぁ、明らかにド素人の小学生に演技力で負けていたのだ。声優への道は遠い……。

 

「「……」」

 

 無言の圧力。この状況でどちらかを選ぶことなどできるだろうか。いや、できない(反語)

 

「フ、フッフッフ……」

 

 俺は出来うる限りふてぶてしく、腕を組んで目を閉じ、にやりと笑う。

 

「合格だ」

 

 片目だけを開けて、肩をすくめる。我ながら、芝居がかっているにもほどがある演出ですね。しかしここで大事なのは雰囲気なんです。

 案の定、三人ともどういうことなのかと思案顔だ。

 

「みんな合格だよ。みんな俺の姉に相応しい」

 

 そう、そもそも一人にする必要など無いのだ。姉が三人いる。まったく問題なし。むしろ多いに越したことはない。

 AVだって一対一より、3Pの方がいいし、4Pだったら尚良い。そう考えている。

 

「三人とも、詩歌の姉に相応しいよ」

 

 キラーン。

 俺は歯を輝かせて笑った。(想像上の演出です)

 

「……」

 

 あれ?

 

「……」

 

 なんで二人とも、そんなジトッとした目をしているの?

 

「や、やったー。自分も合格だー。やったー」

 

 助けてもらってなんですけれど、なぜキミはそんなに芝居が下手なの? うちの学校の声優科は何を教えているの?

 この空気、なんとかせねば。

 俺はコホンとわざとらしく咳払いをしてから、

 

「俺はね、真奈子ちゃんみたいな優しいお姉ちゃんも好きだし」

「好き!?」

「沙織ちゃんは本当の家族みたいだったし」

「ほ、本当の家族!?」

「小江野さんのように残念な姉も悪くない」

「残念!?」

「みんな、それぞれの良さがあるし、みんな素敵だったよ」

 

 うんうん。みんな違ってみんないい。優劣など、つけられるはずもありません。

 

「そ、そういうことなら……」

 

 髪をいじいじしながら嬉しそうに微笑む真奈子ちゃん。うんうん。

 

「まぁ、いいけど……」

 

 ぎゅっと肩を抱いているが、顔がほころんでいる沙織ちゃん。うんうん。

 

「ざ、残念……」

 

 ぽけっとしている小江野さん。おそらく嬉しすぎて放心しているのだろう。うんうん。演技は残念だったけど、姉としては魅力的だよ。主に身体的な意味で。

 

忍琴(おしごと)さん、良かったね」

「まなちん……」

「ま、まなちん? えっと、先生の言うとおりだよ」

「自分にも良さがあるかな」

 

 早くも姉妹愛が垣間見える、真奈子ちゃんと小江野さん。

 

「うん、残念さではとても敵わない」

「……さおりん……?」

 

 沙織ちゃんともすっかり仲良しだね。よかったよかった。

 

「じゃあ、小江野さん、オーディション頑張って」

「うん。……うん? いやいやいや、弟がいるお姉ちゃん役じゃないんだけど?」

 

 どうやら気づいたようです。俺もすっかり忘れていました。

 

「しーちゃんだっけ。彼女はどこに……」

 

 探しに行こうとする小江野さんを、片手で静止する沙織ちゃん。

 

「いや、詩歌は妹に向いてない」

 

 俺の実妹なのに妹に向いていないと言われてしまうとは。でも俺も向いてないような気はしていました。

 

「だから、真奈子を妹にしなさい」

 

 なるほど。確かに真奈子ちゃんは俺の妹よりも遥かに、妹に向いている。さすが沙織ちゃんだ。

 

 





劇場版SHIROBAKOを見てきました。最高でしたね。
この小説も同じお仕事モノとして、頑張らないと。(全然違う)

次回予告

百合とはなにか。
それを知るディレクターの網走沙織は、発育のいい二人に容赦ないカラミを要求する。
純粋すぎる清井真奈子は、どんな要求でもNG無し。
自分のオーディションのために懸命な二人に対し、小江野忍琴がノーといえるわけもなく……

ドンドン親子丼、ドーンとイこう!(最低だな)

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