何をおっしゃっているのか。
「は? えっち? これが?」
「どう考えてもえっちでしょ……」
馬鹿なことを言う小江野さんを問い詰めたい。小1時間問い詰めたい。俺もキスよりエロい行為だなんて思っていたこともあったけど、それは間違いだったんだよ。
「あのね、小江野さんも出演されているエロゲーあるよね。エロゲー」
「う……まぁ、お仕事させていただいておりますけど」
「そのゲームでね、回想シーンが全部舌を絡ませただけのシーンだったとしたらどうなのよ。そんなんでエロゲーになると思う? エロゲーなめんなよ!?」
「べ、別にそういうわけじゃないけど! じゅ、十分えっちなの! ……あと、海藻シーンって何……? もずくとか?」
やれやれ。何をわけのわからないことを。
誰も小江野さんのもずくを見せろなんて言ってないんだよ。
それにしても、舌を絡ませることの何がえっちだっていうの。そりゃ、えっちしているときに舌を絡ませてたらえっちですよ? 今は誰も服すら脱いでないんだ。こんなものがえっちであろうはずがありません。
「大体、小江野さんのために見本を見せてくれた二人に対して申し訳ないと思わないの?」
俺は二人の女子小学生を見ろと手を動かした。
泣きそうな顔をしても無駄だ。いいから俺と舌を絡ませろ。四の五の言ってないでさっさと舌を出せ。舐めて、吸って、これでもかというくらい蹂躙してやる。
「わたしは別に構いませんけど」
「えっ」
「ぼくもまぁ別にいいけど」
「えっ」
あまりにも優しい天使すぎる二人があっさり許可。これはよくない。
「甘やかしすぎても、彼女のためになんないよ?」
そう、これは小江野さんのオーディションのためなんだよ。決して俺がしたいからじゃないんだよ。
沙織ちゃんは、俺には見せたことがないくらい優しい表情で、
「忍琴は、要するにすっごく意識してるってことでしょ」
なんて声をかけ、真奈子ちゃんも本当の妹に対する姉のように、
「わたしとするのとは全然違うってことだよね」
と言って微笑む。
なんだなんだ。この女の子たち同士だけでわかりあっている感じ。
「うん……」
ものすごく小江野さんが、恥ずかしがっている。俺は小学生にここまで優しくされることのほうが恥ずかしいのではないかと思うが、いかがか?
ちなみに俺は恥ずかしくないよ。むしろ誇らしいよ。俺にも優しくして欲しいですよ。駄菓子屋さんに行って大量に買い込んでやるぞ、ちくしょう。
ジェラシーを感じる俺だが、女子たちは仲良しな感じで話を続ける。
「変態と、さっきみたいなこと、してることを想像するだけでそんなふうになったんでしょ」
「う、うん」
「それでいい。その気持ちのまま、芝居に臨めばいい。セリフ」
どゆこと?
俺はよくわからんが、小江野さんは深く頷いた。
「こ、今度、二人でお出かけしてくれませんかっ……?」
ファッ!?
小江野さんの声じゃない……いや、確かに小江野さんの声なのか。ロリっぽい感じの甘ったるい声。沙織ちゃんよりよほど子供の声に聞こえる。
しかも、上手だ。本当に声優だったのか……。さっきまでクソ下手だったのに。
「わー。かわいい~」
真奈子ちゃんが賛辞を送る。真奈子ちゃんがかわいいというなら、それはもうかわいいに違いない。
「合格」
沙織ちゃんがそう評価した。沙織ちゃんが合格というなら、これはもう合格するだろう。
「ありがとうございます、さおりん師匠! まなちんもありがとう!」
「お友達の役に立てて嬉しいよ」
「うんうん」
ふむう。これが友情パワーなのか。闘う男同士の友情も美しいが、美少女たちの友情は美しく、麗しい。絵になるっていうやつだ。ラノベだったらここに挿絵が入るね。もはや嫉妬の感情はなくなり、芸術品を鑑賞する気持ちだ。
「さて、先生。わたしともキスしてください」
「は?」
「ぼくもよくわかんなかったから、もう一回」
「へ?」
「じゃ、じゃ、じゃあ、やっぱり自分も」
「ダチョウはもういいだろ!?」
みんなして俺をからかっているのか? バーゲンセールの服を取り合うように俺の顔を奪い合い始めた。えっちすぎて恥ずかしいからできないと言っていたのにどういうことなのよ。
「いやー。いいお風呂だった。スッキリしたー」
丁度いいところに妹が帰ってきた。
「助かった、詩歌、見てくれこの状況」
「んっ!? どういう状態なの!?」
確かによくわからん。説明もしにくい。
「ぼくが変態とキスしちゃった」
「ええええええ!?」
沙織ちゃんがわざとらしく、汚された感満載で言うと、詩歌が仰天した。しかし事実なので否定できん。
「自分はまだなので、キス、しようかなっと。お礼に」
「うぇええええええ!?」
恥ずかしそうな顔を見せる小江野さんに、目をくわっと見開く詩歌。
「先生とキスするのに邪魔なので、しーちゃん先輩はどっか行ってください」
「ええええええ!?」
辛辣すぎる真奈子ちゃんに驚いたのは俺だ。詩歌は水槽の中の金魚のように、口をパクパクさせている。
「お……お兄ちゃん、ちょっと、今すぐマッサージしないと……」
ふらふら~と、同じ部屋にある妹のベッドの方へ倒れ込むと、布団の中から顔だけを出し、こちらをぼんやりと見ながらの電動マッサージ器の電源を入れた。
あいつ、中一のくせに妙にマッサージが好きだよな……今すぐしないと駄目なことあるか? 不要不急の電マはお控えくださいよ。
「しーちゃん先輩なんてどうでもいいから、キスしましょうよキス」
「ええっ!? 真奈子ちゃん!? どうしたの!?」
「順番待ち」
「沙織ちゃん!?」
「自分は三番目、ヨシ!」
「今、この状況でよく指差し確認でOK出せますね!? 小江野さん、顔真っ赤ですよ? そんなに恥ずかしいならやらなくていいですよ!?」
ブイーンブイーン
おっと。
これは決して妹の電マの音ではない。
無料通話ではない電話の呼び出しだ。着信通知は、
「ごめん、編集からだ」
「「ええ~」」
ええ~じゃないよ。俺のほうが、ええ~だよ。何の用事だかわからんから怖いのよ。
「はい」
「ああ、
「お世話になっております、
スマホを片手に、ぺっこりお辞儀。
「わ~。先生がお仕事してる……カッコいい……」
「白い鳥文庫の編集さんと話してる……素敵」
「ほっ。やっぱり恥ずかしいから、よかったかも」
「ブイーンブイーンブイーンブイーン」
ええい、仕事の電話中なのにうるさいなあ。
とりあえず、廊下に出る。
「一、二巻の売上なんですけど、微妙です」
「び、微妙ですか」
「とりあえず四巻までは出すことになりましたが、三巻の売上次第では四巻で終わりです」
「な、なるほど」
要するに、次が正念場だけど、わかってんのか。おい。という脅しだ。この編集者は脅されたらすぐに股を開きそうな顔をしているくせに、すぐ俺を脅す。
「で、三巻のウリはどうするんです。二巻で妹を登場させて三角関係にしたのは、まあまあでしたけど」
まあまあか。そんなに間違ってはいなかったということだろう。新キャラを登場させるというのは王道だが、問題はどういう役回りかということ。
沙織ちゃんのような読者が、喜ぶような新キャラ……。
今さっき見た、美しい光景が浮かんでくる。
「メイのことを好きになる女の子を登場させる……とか」
「ええ!? 四十八先生、百合!? 百合展開!?」
「ま、まあ。そんな感じ……駄目ですかね」
「全然! 全然駄目じゃない! むしろイイ! 最高! 待ってました!」
「あ、そうですか。それはよかったです」
何このテンション。百合好きなのかな。それともそういう人なのかな? やたら俺の性表現に鈍感なのはそういうことなのかな?
「じゃ、それで! プロットお待ちしております!」
「あ、はい。わかりました」
電話を切り、部屋に戻る。
「あ、先生、どうでした?」
「えっと……みなさんにお願いがあります」
「なんですかっ! なんでもしますよっ!?」
真奈子ちゃんは、頼もしく目を輝かせて胸を叩いた。
「お菓子を用意するなら」
沙織ちゃんは、照れくさそうに、頬を掻いた。
「自分も助けられたからね。今度は助ける番」
小江野さんは、任せなさいとばかりに胸を揺らした。
なんと頼もしいのでしょう。
よし、お言葉に甘えるぜ!
「女の子が女の子を好きって、結局どういうことなんですかね? 俺だけわかんなかったんだけど……」
頭を掻きつつ、そういうと。
三人は、しょうがないなあと言わんばかりに、姉が弟に見せるような笑みを見せた。
……やっぱり、恥ずかしいわ。これ。
サブタイトルはいつも最後に考えるんだけど段々難しくなってきます。
サブタイトルと後書き書くのに時間をかけすぎなのではと思わなくもない……。
さてこれで小江野さんオーディション編が終わりです。
つまり感想を送るチャンスということです。たまには送ってやるかと思っていただけたら是非!
好きなシーンやセリフ、キャラとその理由があると最高に嬉しいです(多分みんなそう)