のぞくべきか、のぞかないべきか。
それが問題だ。
やはり温泉といえば、のぞき。
のぞかない温泉なんて、意味がない。
しかし、しかしだよ。
相手が女子小学生というのは、いかがなものか。
ましてや、俺が求めているのは小説のネタである。
真奈子ちゃんがメイに似ているというのは内面的なことであり、体型は異なる。まぁ三年くらいしたら同じくらいになるかも知れないが。
じゃあ、マイならいいのかというと、それもいかがなものか。
つまり、ご主人さまがマイの風呂をのぞく。それを俺が書く。そして富美ケ丘さんに見せる。うん、アホほど叱られる気がしますね。
理想的には、俺が小江野さんをのぞき、それをハプニングとして小説に載せるのがベストなんだが……うーむ。
お昼寝している真奈子ちゃんの顔をぼんやり見ながら、そんなことをずっと考えていたら車が止まった。どうやら着いたようです。
「んう……」
目をこすりながら、可愛らしく伸びをする真奈子ちゃん。天使。
「着いたみたいだよ」
「あ、寝ちゃってたんだ……恥ずかしい……」
シーツをぎゅっと手繰り寄せて、恥ずかしがる真奈子ちゃん。なんか意味深な感じがするからやめて。何もしていません。
「うわー、いいところだなー」
キャンピングカーを降りたらそこは湖の見えるログハウス。周りは静かな林であり、隣の家は見えない。
こんな別荘に一人で居たら、ひょんなことから少女と知り合って、その子が太古からのお祭りの儀式で生贄として捧げられることを知り、その子と愛の逃避行をすることになりそうだ。悲劇っぷりがヌけるいい作品になりそうだぜ。
「ありがとうございます、わたしも気に入ってるんです」
今考えていたことを彼女には伝えないでおこう。つい、いつでも官能小説のネタを考えてしまうぜ。
「それでは失礼します」
運転手の方が頭を下げて、車に乗り、そのまま去っていった。あの人はここに泊まらないのか……。
「さ、入りましょう」
「うん」
真奈子ちゃんは、玄関のドアノブに鍵を刺し、回してから入った。
……あれ?
「あの~、他の人は?」
「いませんよ?」
ええええええ!?
二人っきりはマズイだろ!?
「いや、それは……」
「大丈夫ですよ、温泉は入れるようになってますし、わたしお料理できますから」
そういうことではないが……いや、うん、俺が意識しなければ問題ないだろう。
なにせ彼女はあげはちゃんとは違って、まったくそういうことに疎いからね。あげはちゃんはおませさんだが、乙女すぎて何も起こらないのでそれはそれで結局大丈夫なのだが。
中は木がふんだんに使われている洋風の部屋だ。木製の重そうなダイニングテーブルやら、暖炉やらが設置されており、まぁまぁの広さ。
真奈子ちゃんが冷蔵庫に入っていた麦茶を入れてくれたので、口にする。
「さて、まずはお風呂にします? お食事にします? それとも、あ、た、し?」
「ぶっふぅううううう!」
麦茶吹きました。
「げはっげほっ」
「わー、たいへん」
背中を擦ってくれる。優しい。そしてやらしい。いや、やらしいわけがない。
「い、今の、それともあたし、っていうのは……」
「よくあるじゃないですか、一度言ってみたかったんですよ」
そういうことね。
意味はよくわかっていないけど、漫画や映画で見たことあるセリフを言ってみたかっただけ。納得です。
ちょっとした、いたずらごころがむくむくと湧き上がる。
「今の、真奈子ちゃんを選んだら、どうなるの?」
「えっ、あたしを選んでくれるんですか」
「そりゃあ、そうだよ」
「えへへ……」
はにかんだ。もう満足です。なにかしてもらう必要なんてないじゃん。
あ、床が麦茶でびちゃびちゃだな。
「えと、雑巾とかあるかな」
「あ、大丈夫ですよ」
台所からキッチンペーパーを一枚取ると、ささっと吹いてくれた。
「服も濡れちゃいましたね」
「あ、ごめん」
俺の服もだが、彼女の服も少し濡れていた。麦茶の噴射が「いっぱいでたね……」って感じだった。もちろん、べとべとはしていない。
「じゃあ入っちゃいましょうか、温泉」
「あ、そうだね……」
扉を少し開けて、案内してくれる。
中に入ると脱衣場だった。そりゃ男湯と女湯があるわけないよな……
「お先にどうぞ」
「ありがとう」
だよな。
さすがに一緒に入るわけがないね。
水着で一緒に入るパターンとかなんじゃないかと予想していたりしたが、杞憂であったようです。
ささっと脱衣して、引き戸をがらがらがら。
「うわー」
小さいけど内風呂と露天風呂があって、サウナまであるみたいだ。ほんとにお金持ちなんだな……。
ぱぱっと体を洗って、外へ。内風呂なんて入ってる場合じゃねえ。外に出るんだ、外出しだ。
「しゅ、しゅごい……こんなに白くて、濃くて、どろどろなのぉ……」
まさかの濁り湯だった。本格的だぜ……。
「おお~」
丁度いいぬるさ。長いこと入っていられそうだ。
見えるのは緑の山々、西日が水面を照らす。秋の到来を予感させるような、少しだけ涼やかな風が濡れた肩を撫でる。
「ふんふんふ~ん♪」
気持ちいい。
思わず、鼻歌が出ちゃうね。
「ふんふふふ~♪」
お、一緒に鼻歌を歌ってくれるんだね、こりゃいいや。
「ふんふふふんふんふ~ん♪」
「ふんふ~ん♪」
こうやって露天風呂にゆっかり浸かりながら、二人で鼻歌を歌っていると、エロいことすら考えなくなるな……たまにはこういうのもいいよな……
「ってええ!?」
なぜ一緒に歌ってくれる人が!?
振り返るとそこには、一度きりのアヴァンチュールを求める熟れた果実のような豊満な痴女が……いるわけがないが、やっぱりいるわけがない真奈子ちゃんがいた。いつの間に!?
「うふふ、ご機嫌ですね~」
俺は口をパクパクするしか出来ない金魚状態なのに、真奈子ちゃんは平常運転だ。
実は水着を着ている……なんてこともない。
お湯が白濁しているので、ほとんど見えませんが、たしかに裸ですよ!
「よかったです~」
にこにこしている……。
ここで襲う……いや、襲うわけないだろ、騒ぐだ。
騒いだら……この幸せな雰囲気が、笑顔が失われてしまう。
彼女は俺と一緒に風呂に入るということを、幼稚園児同士が一緒に風呂に入るのと同じような、純真無垢な気持ちでいるのだろう。
だから俺も平然とした態度のまま、穏やかな気持ちのままで、ゆったりとお湯に浸かっていようじゃないか。
そうだよ、どうせこれは経費も落ちないわけで、取材じゃないんだ。
小説のことなど考えずに、休暇を楽しむとしよう。
それにしても髪をアップにしている真奈子ちゃんは可愛いなあ……
「あ、猫だ~」
「ぎゃー!?」
真奈子ちゃんは猫を見つけたらしく、立ち上がってしまいました!
俺はにゃんにゃんな部分を見つけてしまい、勃ち上がってしまいました!
穏やかな気持ちでいようと思った途端にこれだよ! しかし、詩歌よりもご立派な……もはや幼稚園児のようだなんて思えない……。
「ほらほら、あそこ、猫いますよ。にゃ~」
「ちょ、ちょっと、近いですよ……」
当たっちゃったらどうするの……胸を当てられるのは構いませんが……俺のが当たっちゃったら大変だよ……
「あれ? 先生、ひょっとして恥ずかしいんですか?」
「つんつんしないで……」
肩を人差し指で突いてくる……なにこの感じ……恥ずかし甘酸っぱい……はっ!?
「ご主人さまがメイに背中を流せと命令して流させたけど、その後一緒に入ったらご主人さまがテレまくってたじたじになってメイがからかう……これでは!?」
「わぁ~! さすが! いつも小説のことを考えてるんですね~。尊敬です」
「まあね!」
30秒前に小説のこと考えるのやめようと思ったばかりとは言えない。
「にゃ~ん」
「わ、猫ちゃん近づいてきましたよ」
「お、ほんとだ。かわいいにゃ~?」
「かわいいにゃ~」
児童小説家モードになった俺はすっかり平静を取り戻し、真奈子ちゃんと一緒に露天風呂にいることにも慣れました。そうだよ、別に風呂に入るくらいなんてことないんですよ。舌を絡ませた仲ですよ。いまさらなにをって感じですよ。
「撫でちゃお」
「きゃー!?」
猫を撫でようとした真奈子ちゃんは、身を乗り出してしまって、俺の目の前にはぷりんとしたヒップが!
慌てて目を逸らすが、完全に目に焼き付いております。やっぱり全然平気じゃないぞこれ。
かと言ってお湯から出るのも無理。天国のような地獄ですね。
その後、三十分ほど露天風呂に入って、完全にのぼせた。
うーん、なんて健全なんだ……
個別パート、意外と嬉しい感想いただけるので続けます。