「あーん」
「もぐもぐ。おいしい~。じゃ、お返しにあーん」
「うふふ、おいしい」
「おいしいね」
「うん」
料理をお互いに食べさせあっているだけですが、何か問題でも?
ひとつ屋根の下、二人っきりで箸を交差させているだけだ。
まともな感覚であれば、ほっこりするはずだ。もっこりしたとしたらそれは病気です。
「はい、焼売ですよー」
「あーん」
焼売でも俺と違って箸をぶっ刺すようなことはしない。丁寧に箸でつまんで、辛子を付けて食べさせてくれる。ンマーイ!
よっしゃ、それじゃあ今度は……。
「じゃあ、お返しに手羽先どうぞ」
「あーん」
手羽先揚げを手で掴んで、口元へ。
「んっ」
食べさせやすくするために、少しだけ斜めにしたり、下から上からと角度を変える。まるで口づけをするように。
「んんっ……ちゅ……かぷ」
彼女は骨から肉をはずしながら、口だけで手羽先を食べているだけだ。何一つやましいことはない。
きれいに揃った歯と、小さな舌が目の前で懸命に動いている。
もっと、もっと食べさせたい……。
「おっきくて、お口に入んないよう……」
「ああ、無理するから……いいよ、先っぽだけで……」
手羽元のさっぱり煮をあーんしているだけだ。何一つやましいことはない。軟骨の部分をかじるのは難しそうだった。
鶏を食べ終わる頃には、彼女の唇は油とタレでてらてらしていた。
同じようにあーんしてもらった俺も、おそらく同じような口になっているだろう。
次は……これかな。
「はい、カレーを付けたナンだよー」
「あーん」
彼女はなんと、本格インドカリーも作れてしまう。スゴイんだよなあ。
俺はもちろん、本格的に手でちぎって、カレーを付けて口に近づける。
「あ、ちょっと垂れそう」
「あっ」
指をぺろりと舐められた。
「指を舐めるのは普通だよ、普通、気にしない、気にしない」
……まぁ、気にしないよね。そうだよね……。
「もっかい……じゃないや、もう一口どうぞ」
「はい……あ、もっと垂れそう」
「まぁ、たっぷりつけたほうがね、美味しいからね」
「あーむ」
うーん、指ごと口の中に……俺の指が唾液で濡れちゃったじゃないか……。
「お返しです」
「わ、わっ」
もう付け過ぎだよ~。舌を出して床に落ちないように、顔を近づけ、彼女の親指、人差し指、中指を口に。間違えた、ナンを口に。
「ちゅぱっ」
「んっ……」
「あ、まだ付いてる……ぺろっ」
「は、んっ……」
指に付いたカレーを舐めるたびに、スパイシーな香りと、甘さでクラクラくる。
「もっと……」
「たっぷりのほうが美味しいよ、たっぷりの方が美味しいよ……」
ますますカレーがひたひたになっているナンを食べあう。本当だ、たっぷりの方が美味しいな……。
「交代、しよっか……」
「うん……おいしいね……」
もう俺たちの指はお互いの唾液で、てらってらしていた。
「ナンが無くなったね」
「カレーだけでいい……よ。指についていれば……むしろ指が美味しいんだよ」
「そうだね……」
それからしばらく。お互いに指に付けたカレーを舐めあった。本格インドカリーなのでスプーンは使わない。当然だ。
指をなめることに、指をなめられることに夢中になる。
「美味しかった」
「美味しかった……ね」
ふー、さすが本格インドカリーだ。二人とも汗をかいた。舌が出たままで、しばらく口にしまえそうにもない。
当然だが、自分の指はべちょべちょだ。唾液で。
「唾液は甘くて美味しいよ?」
あ、本当だ、すごく甘いな……カレーの後だからだろう。
「あ、おいしそう……わたしの……わたしも……ぺろぺろ……」
お互い、自分の指を丁寧に舐めあげて、その甘美な味に満足していた。カレーを食べた後は、コーヒーよりも大好きな人の唾液がオススメだ。あんなの苦いだけでちっとも美味しくないんだ。
しかし、指も口の周りも体液でべっとべとだ。
「さ、もう一度お風呂に入りましょう? いい子だからね?」
「そうだね……」
「はい、ばんざーい」
「ばんざーい」
「はい、いい子いい子」
お互いに服を脱がし合う。
なにか問題でも?
まぁ、確かに小学生にもなってばんざーいをするのは幼いかもしれない。幼稚園児じゃないんだぞ、と。
でもいいんだよ、ぼくたちはこれで。
「おいで、
「うん、
「いいお湯だねぇ」
「そうだね」
「背中流してあげよっか、賢者くん」
「うん、ぼくも背中流すね」
ごしごし。
ごしごし。
真奈子お姉ちゃんの背中は、すべすべで白くてキレイだなあ。
「さ、お風呂から出たらバスタオルで拭きますよ~、賢者く~ん」
「うん! ぼくも拭いてあげるね!」
「賢者くんは、まだ小さいのに、賢いね~。お姉ちゃんの自慢の弟だな~」
「えへへ~」
ぼく、ほめられちゃった! うれしいな!
「パジャマも似合ってますよ~」
「お姉ちゃんもかわいいよ!」
「うそ! ありがとぉ~」
お姉ちゃん、うれしそう! かわいいな!
「はい、ハミガキしてあげますよ~」
「ぼく、じぶんで出来るよ?」
「ううん、お姉ちゃんがしたいの。させてくれるかな?」
「じゃあ、いいよ!」
しゃかしゃかしゃかしゃか!
お口の中がきもちいい!
「はい、がらがらがら~」
「がらがらがら~」
「ぺっ」
「ぺっ」
洗面台の鏡に向かって、にかっとする。
お姉ちゃんも笑った。
「さ、一緒に寝ようね」
「うん!」
お姉ちゃんとベッドに入る。
同じお風呂に入っていたのに、お姉ちゃんからはとてもいい匂いする。ふしぎだな。
「お姉ちゃんに抱きついていいんだよ、いつもみたいに」
そっか、いつもそうしてるもんね!
じゃあ、しようかな!
安心する……
「じゃあ、おやすみのちゅーをしてね? いつもみたいにね? ちゃんと口にだよ?」
「うん!」
お姉ちゃんとキス!
恥ずかしいけど、嬉しいな!
いつもしてるんだから、いいよね。
姉弟だったら就寝前にキスくらい……ん? しないだろ!? 兄妹だってしないんだから!? キスは恋人になってからって言ったよね!?
っていうか、お姉ちゃんって誰!?
いつもみたいにちゃんと口にキスしろってどういうことだ!?
いかん、なにかオカシイ!!
「はうわ!?」
「ど、どうしたの、賢者くん」
「どうしたの賢者くんじゃないよ!?」
うわうわうわ、記憶は少しも失ってないけど、意識は誰かに乗っ取られていたような感覚だ……。おいおい、俺は一体、何を……
「ほ、本当に俺は催眠術に?」
「あーあ、とけちゃった」
残念そうに肩を落とすお姉ちゃん。じゃないよ、真奈子ちゃんだよ!
思い出してきた……別荘に来てから、お風呂を出た後にやっぱり俺たち二人だけで泊まるなんて駄目だって俺が言ったら……
「でも、しーちゃん先輩と二人なら問題ないですよね?」
「ないよ、そりゃ兄妹だから」
「わたし達も姉弟ですよね? ほら、お姉ちゃんですよー」
「くっ!? 魅惑のひざ枕……?」
「賢者くんは偉いね~、小説のために弟の気持ちになるんだよね~」
「弟の気持ち……」
そう言えば、女児向け作家としての職業的な成長のために女子小学生の弟になったこともあったな。あれは勉強になった(気がする。そうであれ)
「ほ~ら、わたしはお姉ちゃんだよ」
「お姉ちゃん……」
「わたしはお姉ちゃん。真奈子お姉ちゃん。賢者くんの大好きなお姉ちゃんだよ~」
「真奈子お姉ちゃん、好き……」
「そうだよ~、賢者くんは~、真奈子お姉ちゃんのことが大好きな~、小学生の男の子で~、わたしの大切な弟だよ~」
「そうだ……そうだった……」
「じゃあ、一緒にご飯を作って食べようね……いつもどおり食べさせあって……」
「そうだね……」
こんな感じで今の今まで、俺は真奈子ちゃんの弟になりきっていた。やべえ、真奈子ちゃんはなんと催眠術を使うぞ!?
一度催眠術にかかった後は、言われるがままに何を言われてもそうだと思ってしまっていた。
小さな男の子として扱われれば、自分が小さな男の子だと思い込んだ。
今となっては真奈子ちゃんの唾液が甘露だったことが、催眠術のせいだったのかどうかもわからない。
お風呂にいるときは自分が弟だと信じて疑わなかったな……おかげで少しも恥じることなく身体を隅から隅まで見てしまった。
これは……このままにはしておけない。
「真奈子ちゃん」
「はい……やっぱり同じベッドで寝ちゃ駄目ですか……?」
「そんなことより、催眠術のことを詳しく」
「えっ!?」
「小説のネタにするから詳しく教えて」
「な、なるほど! さすが先生です!」
催眠術なんて、王道じゃないか!!
官能小説のネタとして最高だぜ!!
ま、ひょっとしたら児童向け小説でも役に立つかもしれない。
その夜、俺は催眠術のことを聞いて、メモを取りまくり、気づいたら寝落ちしていた。
難産でしたー!
こういう後で仕掛けがわかるタイプの小説書いたことなくて。
なんていうんですかね、ミステリ?(こんなアホなミステリがあるか。ミステリをなめるな)