「どうしてこうなった」
落ち着け。
落ち着くんだ。
もうすぐ収録開始だけど落ち着くんだ。
「ごめんねー、ありがとー」
両手を合わせて感謝してくれるのは、同じ専門学校に通う声優科の
今から録るラジオのパーソナリティーだ。
ラジオはインターネットラジオで、美少女ゲームの紹介をすることがメインの内容となっているのだが、彼女はハッタリで知っていると言っただけなので、ろくに知らなかった。
直前に一夜漬けでエロゲーをプレイしてみたものの、やっぱり時間が足りないことがわかり、できるかぎりの知識を与えるべく一緒に居たら、結局スタジオまで着いてきてしまった。
「始まりました~、美少女ゲーム好きのためのラジオ、HEY! MEN! ガールズ!」
二次元だから平面。平面のダジャレでHEY! MEN! らしい。翻訳すると「やぁ、男。女の子たち」ですね。いや、そんなことはどうでもいい。
問題はラジオパーソナリティが目の前にいるということだ。
つまり、俺は、インターネットラジオの、収録ブースにいる。
「パーソナリティをつとめますのは自分、新人声優の
いや、凄くない?
どんだけ練習したらそんな上手にできるんだっていうくらいスラスラだぞ。
さすがエロゲー声優経験者は違うね。
「美少女ゲームは好きなんですけど、いかんせんまだ一八歳になったばかりなので、まだまだ知識がない自分なんですが!」
そう。
そりゃそう。
エロゲーに詳しい女子中学生がいる方がおかしいのであって、普通は知らない。なので、この設定は正しい。
一応プロデューサーも若い女の子が美少女ゲームの紹介をするのが面白いから起用しているので、ドン引きするくらい知識がある必要はない。
面接のときのハッタリが嘘ではないくらいに知っていればオッケーなのだ。
「強力な相方がゲストに駆けつけてくれました! 白い鳥文庫、我慢できない! メイドのメイちゃんの作家。
「ど、どうも。
なぜか。
なぜか俺も出演。
スタジオに付いてきちゃったら、出演することになっちゃったのである。
素人が出るのはオカシイと思ったが、彼女は俺を作家だと紹介して突然俺の出演を提案。プロデューサーはそれを聞いて二秒で了承した。
しかし、俺は主に小中学生を対象とした小説のレーベルである白い鳥文庫の作家だぞ。こんなアダルトなラジオに出ていいのか。
とはいえ代表作のメイドのメイちゃんは、はっきりいって本当はエロ小説だ。読む人が読めばわかる。
だからといって……
いや、だからこそマズイのでは……そもそもこんなこと出版社が許さないと思ったのだが。
「もうすぐ、拙著の我慢できないメイドのメイちゃんの二巻が発売となります、ヨロシクおねがいします~」
「
やっぱり、まずくない?
コミカライズしたときにヤングなんちゃらとか、なんとかスクエアで掲載されるタイプの小説ならいいけど、俺のは付録がいっぱい付いてくるタイプのやつだよ?
あと、一八歳になったばかりという意味では小江野さんと俺は同じなんですよ。理屈的におかしいよね。
さっき自分は一八歳になったばかりだから詳しくないって言っちゃったのに、なんで俺は詳しいんだよ。駄目じゃん。
「やっぱり、作家ですからね。シナリオを重視する美少女ゲームに詳しいわけです。先生の小説にも、もちろん美少女は登場しますしね」
うん、登場するんだけどね。
違うのよ、そういう意味の美少女だとマズイのよ。白い鳥文庫はね、文科省が推薦するタイプの文庫なのよ。
家族で見に行って感動する映画の原作を生み出しているやつなのよ。
でもねでもね、俺が最初に書いたときは、そういう意味の美少女として書いていたのよ。なんせ官能小説のつもりで書いてたからね。
だからなおさらマズイのよ。
どうすんのよ~。
「四十八先生の一番思い出に残ってるゲームと言えばなんでしょうか」
「そうですねえ、たくさんあるんですけども」
つい、たくさんあるって言っちゃったよ。
まぁいいや、俺は一八歳という年齢を公表してないしね。なんとかなるだろ。
「やっぱりメイドものですかね」
「やっぱりメイドものなんですか」
「そりゃあね。メイドさんが好きだから、書いてるわけで」
「なるほど」
「主従関係という立場がいいし、ご奉仕っていう言葉がいいし、何よりもメイド服はカワイイですからね」
「はい。自分も始めて着たんですけど」
そう。
小江野さんはメイド服を着ている。
ラジオだから基本的には声だけの出演だが、収録の様子の写真を一枚だけ撮るらしい。WebやTwitterで宣伝用に使用するためだ。
エロゲーの紹介ラジオで着用する可愛くてそれでいてスケベではない衣装は何かと聞かれた、スーパーバイザーの俺の回答はあまりにも正しかった。
非常に似合っている。とてつもなく似合っている。
正当な家政婦さんにはとても見えない。明らかにエロゲーのキャラとしてのメイドに見える。端的に言って、えちちのちです。素晴らしい。
「カワイイですね、メイド服」
「ええ。やっぱりそうですね」
「そんなメイドさん大好きの四十八先生がとくにお勧めしたい美少女ゲームはなんでしょうか」
「一つ目はですね」
いつの間にか普通に喋っていた。
好きなメイドものの美少女ゲームの話を、メイド服を着た美少女にするという激レアイベントだ。そりゃテンションが上がります。
ちなみにうっかりえっちな言葉を使ってしまっても、ピー音で編集してもらえるので大丈夫だと説明を受けている。安心だね!
「メイドさんのピーが、ピーピーなんですよ。それで俺のピーもピーです」
オンエアされたときはこんな感じになるだろうね!
「あ、あ、そ、そうなんだ~」
小江野さんはピー音がない俺の声を聞いているので、全部丸聞こえだ。合法的セクハラって感じでお得ですね!
「やっぱりメイド服を着た美少女は最高です。はっきりいって小江野さんを見てるだけでピーです。マジでピー! ピーピー!」
「あ、ありがとう?」
うへへ。こりゃ楽しい。
すっかり自分が女児向けの小説家であることなど忘れてしまう。
……はっ!?
そもそも白い鳥文庫の作家がラジオ出演時にピー音連発していいのか?
それで文科省が推薦してくれるのか!?
やっちまったなぁ!?
「さて、本日は初回の放送でしたが、特別ゲストの白い鳥文庫、我慢できないメイドのメイちゃんの作家の
……いいのか?
これでいいのか?
ピー音連発的な意味でメイドを愛している俺の書いたメイちゃんは、全国の女子小学生に支持されるのか!? 「がんばれメイちゃん!」とか言って応援してもらえるのか!?
「実は! 自分と四十八先生は同じ学校に通っていて、同じ学年という縁があって今回ご出演いただいているんですよね~。一八歳で作家なんて凄いですよね!」
おいおい、年齢もバレちゃったよ!?
一八歳の学生でメイドもののエロゲーをやりまくっていて、小学生の女の子が読むレーベルの、メイドが主人公の小説を書いているやつだということがインターネット経由で赤裸々に明かされたよ。
くそっ、我ながらなんてやつだ!
「来週も出演していただけるということで、次回もよろしくお願いします~。ではでは、今週はこのへんで~」
次回も出るんだよなあ……
この番組は一回の収録で二回放送分を録るいわゆる二本録りというやつなので、このあとも続く。
何もかも丸裸になってしまった状態で、今度は妹について熱く語ることになっている。
二巻がメイちゃんの妹のマイちゃんが登場するからね。
メイド愛と同様に妹愛を語るわけだ。やっぱりヤバくないですか!?
しかも俺には実妹がいるというのに……
このラジオ、誰も聞かないでくれ……。
小江野さんルートについてはこれが書きたくて始めたって感じですねー。
バカですねー。