女子小学生に大人気の官能小説家!?   作:暮影司

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触手に溶かされてゆくエルフの衣服

 ピシュピシュピシュ!

 マイに襲いかかるのはピンク色の大きなミミズのようなモンスター。それを弓矢で撃ち落としていくのはエルフのエルだ。

 

「くっ」

 

 多勢に無勢。ミミズは次々にマイの体に巻き付いていく。

 

「マイっ!?」

「僕のことはいいから! エルは逃げて!」

「そんなの、出来るわけないっ!」

 

 弓矢を投げ捨て、引き剥がそうとするエルに、ミミズたちが襲いかかる。

 

「あたしが囮になるから、今のうちに!」

「それこそ出来るわけないでしょっ」

「でもこのままじゃ……」

 

 ぎゅううっ

 二人のうら若き乙女たちに、絡みつくミミズモンスター。ヌルヌルとした体液が、少しずつ服を溶かしていく。

 

「ああっ……あつい……」

「くうっ……助けて、助けて勇者様……」

 

 二つの月による月光が二人の白い素肌を明るく照らす中、二人はお互いの無防備となった肢体を見ながら、身の危険以上に目覚めた新たな気持ちに気づくのだった……

 

「ボツです」

「ええ!? なんでですか!?」

 

 三巻の原稿の内容についてこんな感じで考えていますよというメールを送ったら、担当編集の富美ケ丘さんから電話がかかってきたのだが、またしてもボツだと言う。自信作であり、そんなわけがない。

 

「説明いります? 世界変わってるんですけど。モンスター出てるんですけど。月が二つあるんですけど。そしてこんなの百合じゃないんですけど」

 

 ボロクソじゃないか!

 何だよ!

 これが編集者の仕事かよ!

 文句を言うだけで飯が食えるなんて羨ましいですね!

 俺が苦労して触手プレイを入れようとして頑張ったっていうのに!

 

「じゃあどうやって触手を出せばいいんですか」

「ショクシュ? よくわかりませんが出さなくていいです」

 

 畜生!

 作家が表現したいことが何一つ表現できない! 創作に携わるものへの暴力だ!

 面白いものが世の中に出ないのはこういう横暴のせいなのだ! 我々は団結しなければならない! 読者のみなさ~ん! こいつが敵ですよ―!

 

「エルフが出てくるようなファンタジーだったなんていまさら読者が混乱するようなことはやめてください」

 

 読者の味方みたいなことを! 読者は待ち望んでいるだろ!

 だいたい、ご主人さまとメイドの姉妹がいる状況なんて十分ファンタジーだろ! 現代日本でそんな事あるかよ! エルフが出てきてなぜ悪い! メイドもエルフもみんな大好きだろ! いいかげんにしろ!

 

「名前もエルフのエルって、ちょっと安直すぎませんか」

 

 今更だろ! メイドのメイちゃんだぞ! 今更すぎるだろ!

 

「そもそも勇者様って。てきとーに新キャラ出すのやめてください」

 

 てきとーって言うな! なんか、こう……助けを求めて欲しい雰囲気だったんだよ! エルフが出てきたら勇者も出てきてほしいんだよ! なんとなく!

 

「服を溶かすのは意味がわからないし、本当にやめてください」

 

 そこが一番書きたいんだよ! 要するにデカイみみずに服を溶かされるエルフがみたいの! 桜上水みつご先生の!

 

「そこは譲れないのですが」

「三巻が売れなかったら四巻で打ち切りですけどいいんですか」

「すみませんでした! 書き直します!」

 

 卑怯者め。売上の話と、打ち切りの話をしやがって。それを言っちゃおしまいだよ。

 くっそー、作家のクリエイティビティを何だと思ってるんだ。ゴブリンにレイプされちゃえ。死ねずに次々と犯されろ。

 

「四十八先生は編集部としても期待している新進気鋭の若手作家ですからね」

 

 ん?

 

「独特の文体自体はいい持ち味だと思いますし、ちゃんとした続編にしてくれれば問題ないですから」

 

 んん?

 

「この我慢できない! メイドのメイちゃんは個人的にも大好きな小説ですから、本当に楽しみにしているんで、もっと頑張って書いてくださいね」

「はい! がんばります!」

 

 なんていい編集者なんだ。

 こんなに素晴らしい人がこの世にいたことに感謝しなければならない。

 一生ついていこう。

 

「お、お兄ちゃんやる気だね。どうしたの」

「生きててくれることに感謝するレベルの女性に出会った。一生ついていくことに決めた」

「ン~ッ!? また新たな出会いに感謝ぁ~ッ!」

 

 妹は自分のベッドにルパンダイブした。

 不二子ちゃんどころか抱き枕すらないのに、何がそんなに興奮するのか。

 愚妹に構っている暇はないので、さっさと三巻のことを考えよう。

 さて、百合要素を追加することは決定。メイの相手が本当の妹のマイではないことも決定しているから、新キャラの登場は不可避だ。

 エルフが出せないとしたら、どんな魅力的なキャラクターを生み出せばいいのか……。

 

「んむ~」

「んっ、んっ」

 

 そんなに魅力的な女性なんて……いたじゃん!

 今、いたじゃん!

 そう、もちろん!

 

「んっ、ん~!」

 

 なんか変な声を出してベッドをごろごろしている愚妹、ではもちろん無く。

 素晴らしき美人編集者富美ケ丘文乃その人であります! こんなに魅力的な女性を登場させないわけがない!

 メイの年上で、メイを評価する立場。うん、そうだね、メイド長だね。

 メイド長の名前は……フミでいいな。

 よっしゃ、これで書ける!

 

 ――翌日。

 俺と担当編集はパソコンによるWeb会議を実施していた。

 出版社のエリート編集者らしく、ぴしっとした藍色のスーツ。美しい。

 プリントアウトされた俺の原稿案をぺろぺらとめくってから、こちらを向く。品のいい化粧だ。本当にきれいな人だな。仕事もできそうだ。

 

「なるほど、メイド長ですか」

「ええ。いいでしょう、メイド長」

「うーん、この女性……なんか魅力的じゃない気がするんです」

「な!?」

 

 まさか。だってモデルはあなたですよ?

 清楚で可憐で柔和で、上品なうわ若き乙女ですよ?

 

「なんかこうメイに対する指導? というか苦言? にですね、愛を感じないというか」

 

 ええ!?

 だってそれは富美ケ丘さんが俺にしてくれたアドバイスですよ!?

 

「ビジネスライクというか……上っ面というか……」

 

 そ、そんな馬鹿な。

 そのまま頑張ればいいだけで、期待していて、大好きなはずでは。

 

「本当は好きじゃないけど、仕事だからなっていう感じがだだ漏れなんですよね」

 

 いやいやいやいや、そんなはずは……。

 

「あ、すみません。せんせー! すいちゃんせんせー!」

 

 モニターに映った富美ケ丘さんは、上げた手をぶんぶんと振る。大好きな友達を見つけた女の子のように。どうやら編集部を通りがかった作家らしい。

 

「すいちゃんせんせーの次回作、もう、さいっこう! さいっこうですよ!」

「えー。いつもそう言ってくれますけど、そうですかぁ?」

「やばいです。もう読んでて興奮が止まらないし、涙も止まらないし。好き。大好き」

「あはは」

「ちょーっとだけ矛盾みたいなのとかあったんで、後でメールしますけど、ホント、それだけですから。基本名作ですから。永遠に重版ですよきっと」

「ありがとうございます」

「それじゃ、すいちゃんせんせー。ちょっと今野暮用なんで。また」

 

 ……全然俺と対応が違うじゃねえかよお!!!

 今のと比べたら俺なんてビジネスライクとか上っ面どころじゃねえよ! まじで仕事だからしょうがない感じがだだ漏れまくりだよ!

 そもそも俺との打ち合わせを野暮用って言っちゃったよ。

 しかも顔だよ。満面の笑みからのこのスンとした顔。もう露骨すぎませんかね。

 

「で、ですねえ」

「あ、いや。すみません。ちょっと今わかったことがあるんで、書き直します」

「あ、そうですか。じゃあ、できたらまた送っておいてください」

 

 ぷつっと回線を切ったあと。

 

「だ~」

 

 ぐで~っと椅子にだらけた。

 一生ついていこうと思ってからまだ24時間経っていないのだが、もはやそんな気持ちはない。

 かといって文句も出ない。

 あれが本当のことなのだ。

 愚痴っている場合ではない。

 俺はWeb会議の録画を見直す。

 腹は立つ。腹は立つが、今の富美ケ丘女史こそ、理想のフミだろう。

 よく知りませんが、すいちゃんせんせーとやらへの態度は理想的だ。

 俺もあんな風に接してほしかったし、メイド長がメイに今のように接していたらそれは百合なのかもしれない。

 

「書いてやる。書いてやるぜぇ……」

 

 編集者にちやほやされないと書けないようなやつと一緒にするんじゃねえ。

 書きたいものだけ書くのがクリエイターか? そうじゃないだろ。

 理不尽な思いとか、思い通りにいかない歯がゆさとか、そういう経験を作品に昇華することが創作だろ!

 

 翌日に送った原稿はオーケーが出た。

 フミが魅力的だしメイへの愛を感じるってさ。あんただよ。自画自賛か。

 しかし、俺は清々しい気持ちだった。

 編集の富美ケ丘さんのおかげで書けたことには間違いないからね。そりゃエルフのエルちゃんは無いだろ。冷静に考えたら当然だ。言ってもらわないとわからない方がどうかしている。

 そう思ったら、感謝していた。

 そして好きになっていた。

 なんせ、自分のキャラクターのモデルだからね。

 一生ついていくかどうかは、わからないけどな。




お久しぶりです。
連休を使ってこれを読み直したら、自分で書いたのに笑ってしまいました。
笑っちゃった所に「ここすき」したいですよね。
ぜひみなさんも「ここすき」していただけると幸いです。
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