小さい。
やっぱり外に出て一緒に歩くとなおさら痛感するなあ。
小学六年生の清井真奈子ちゃんは、おそらく140センチメートルくらいと思われる。
女の子の身体としては小さいが、子供にしては大きい。そして手足が細い。
去年の詩歌と比べても身体は一回り小さく感じるが、胸だけは今の詩歌よりも大きい。将来凄いことになりそうだ。AV女優で例えると……いや、止めておこう。
いくら俺が官能小説を書いているからと言っても許されない思考だな、せいぜい少年誌のグラビアアイドルくらいにしておかないと。
ぶんぶんと
俺たちは昼飯の材料を買うためにスーパーマーケットへ向かっており、場所を知らない真奈子ちゃんは半歩後ろをついて来ている。
妹や小さな子供だったら気安く手をつないでもいいが、小学六年生といってもやはりレディ。そういうわけにもいかないので、ちらちら後ろを振り返りながら歩くことになっている。
しかし俺が見つめるたびに彼女の足が止まってしまうので、近所のスーパーに行くだけなのに時間がかかっていた。
う~ん、このあたりが参考になりそうな気がしますね。
妹の要請で昼食の買い物をしている理由の一つとして、俺が今書いている小説のヒロインであるメイドの言動の参考になるんじゃないかと思っていた。
なんかドジっ子というか天然というか、そういう雰囲気を感じるのだ。
それにしても、早く目的地に着きたいからまだ来ないのかと思って見ているのに、それで足を止めちゃうなんて……。
これがメイだったら。
おどおどと怯えた表情で、もじもじとスカートの裾を握り込むメイ。
「これはお仕置きが必要だな」
そう言ってご主人様は、とびっ子ローターのスイッチを入れるわけだ。
怯えていた青い顔がだんだんと羞恥の赤い頬に変わっていく。
そうするとますます歩くのが遅くなって……通路にぽたぽたといやらしい雫を零して……
「
「おおう」
つい、妄想の世界に飛び立ってしまった。まったく俺は仕事熱心すぎるね。
決して
「ごめんごめん、ちょっと考え事を」
「ひょっとして小説のネタですか!?」
「そ、そうなんだ」
「凄いっ! さすが作家ですねっ」
「ま、まあね」
なぜだろう、自分でもそう思っているはずなのに、こう素直に言われると少し心が痛む……。
「ちょ、ちょっと急ごうか。遅くなると詩歌にどやされる」
「あっ」
うっかり詩歌にするように手を出してしまった。手を出すというのは、言葉通りの意味であって、決して性的な意味でいたいけな少女に手を出してしまった、という意味ではない。もちろん妹にも手を出していない。
少しだけ躊躇したものの、真奈子ちゃんは俺の手を握ってくれた。手をつないで歩くのは恥ずかしいだろうけど、こうしてくれたほうが歩きやすい。
ちょっと前まで、詩歌もこのくらい手が小さかったなあ。
今日は暑いということもないが、なかなかの日差しが降り注いでいる。
できれば木陰を歩きたい、そんな天気だった。
彼女がなるべく影の部分を歩けるように赤いレンガのような歩道を、二人で手をつないで歩く。
ようやくスーパーに入ると、冷房がふわっと身体を包んだ。ようやく一息つけるって感じだな。
俺は左手でかごを掴むと、野菜の目玉商品売り場からチェック。
野菜を買わないで帰ると、詩歌が文句を言うだろうからな。俺は味噌汁の具はワカメが好きだから野菜いらないんだけど。別にワカメ酒とかそういう意味ではなく。もずくの味噌汁も好きだな。
「あ、あの……」
手をつないでからはずっと話してなかった真奈子ちゃんが、申し訳無さそうに唇を動かす。
どうしたのかな、ワカメ酒って何ですかとか聞かれるのかな。聞くわけないな。
「どうしたの?」
「あの、は、恥ずかしいです」
完全に下を向いている。おかしいな、うっかり何か言っちゃったのかな。まだ真奈子ちゃんはもずくみたいなものが生えてないからお酒を注いでもワカメ酒とは呼ばないかもしれないね、とか言っちゃったのかな?
言ってたら恥ずかしいとかじゃなくて通報される気がするな。
「スーパーの中では、その、手を……」
「あ、ああ」
スーパーは冷房が効いてるから手を握ってても暑くないな、などとアホな考えだったな。そりゃ食品スーパーの野菜売り場で手をつないでいるなんてバカップルすぎる。
「ごめんね」
「いっ、いえっ」
俺が右手を離すと、彼女は解放された左手を胸に当て、息を整えていた。そんなに恥ずかしかったのか、申し訳ないな。
「あ、そうだ、お菓子買ってあげるよ、一つだけ。ってそんな子供じゃないか」
「あ、えへへ、実はそれ憧れてたんです」
「憧れ?」
「わたし、スーパーって来たことがなくて」
「スーパーに来たことがない?」
「うちのお料理は全部家政婦さんが作ってるんです」
「ええっ!?」
な、なんと!? ドジっ子メイドみたいだと思ってたのに、メイドを雇ってる側のお嬢様だったのか?
確かに見た目はお嬢様の方がよっぽど納得だった。
「お買い物のお手伝いするとスーパーで一つだけお菓子買ってもらえるっていうの、しーちゃん先輩が嬉しそうに言ってました」
しーちゃん先輩ってのは、うちの詩歌のことだろう。小学校のときはよく、しーちゃんと呼ばれていた。中学生に上がったときから先輩が追加されたものと思われる。
「そっか、じゃあ、先におかずの材料を選び終わったらお菓子売り場に行こう」
「はいっ。楽しみです」
まだ俺たちはスーパーの入り口付近にいる。立ちっぱなしだと邪魔になるので、一旦果物売り場の方へ移動した。
「あ、バナナ」
別に珍しくもないだろうが、真奈子ちゃんがバナナを手に取った。まさか食べたことがないとか?
本当にスーパーに来たことがないのだろう、房のバナナを一本ちぎってしまう。これはもう買うしか無いな。
しかし、その一本のバナナを左手の指だけで握ると口元に持っていく。え、まさか食うの?
真奈子ちゃんは右手で髪を掻き上げて耳にかけると、うっとりとした表情でバナナの先に向かって口を近づけ、少しだけ舌を出してはぁはぁと息を漏らす。えっろ……ってこれは。
「あ、メイの真似?」
「そうです~」
これってご主人様が朝から行うセクハラなんだけど。女子小学生が真似しちゃうとはね。本当に発行して大丈夫なのかな俺の小説……。
「似てる似てる、可愛いよ、ありがとう」
「あ、あう。ありがとうございます」
バナナを買い物かごに放り込みつつ、今の映像を脳内にバックアップ取りつつ、一旦は今見たことを忘れるという高度な技術が必要とされる作業を行った。
ここにいるのはマズイと判断したので、早々に奥の方へ。
「食べたいものある?」
「先生の好物が食べたいです」
「俺の? んー、そうだなあ」
ここで女体盛りだよ! なんて言ってもまったく面白くないことはわかっているので、本当のことを答えたいが、今から調理できないものを言っても仕方がない。二日目のカレーとか、何回も温め直したおでんとか。そういうの好きなんだよね。
「あ、あれって試食ですか?」
「お、そうみたいだね」
スーパーの試食を見たことがないのだろう、はしゃいでて可愛いなあ。
鼻をくすぐるのは、焼けた肉の美味しそうな煙と香り。
「ご試食いかがですか~、美味しいフランクフルトですよ~」
「ごめん、チョット待って」
俺は真奈子ちゃんを止めた。ここでフランクフルトはマズイ。バナナですらあれだったんだ、フランクフルトはヤバイ。絶対ヤバイ。焼いているオバちゃんがドン引きするようなことになる。
俺の小説には歯を使わずにフランクフルトを食べるシーンがある。本当は比喩なんだが、真奈子ちゃんはそう思っていないだろう。ここで止めなかったら女子小学生の公開フェラが始まってしまう。
「真奈子ちゃん、あれはね、楊枝に刺さったやつだけだからね食べていいのは」
「あ、そうなんですねっ。あぶないあぶない」
本当にあぶないところだったぜ。
美味しそうに試食を食べている真奈子ちゃんを見ながら、心から安堵する。
お嬢様に食べさせるなら、思いっきり庶民のものがいいかもなー。
「よし、昼は他人丼にしよう」
「なんですかそれ?」
面白そう、と彼女は目を輝かせる。親子丼が母娘とえっちするという行為をさすからといって、他人丼が母親と別の娘との三人プレイを指すわけではない。他人丼っていうのは親子丼の鶏肉を豚肉にしたもののことだ。え? 説明しなくてもわかるって? でも俺は初めて聞いたときそう思ったから一応ね?
豚バラと玉ねぎ、卵を買い物かごに入れてお菓子売り場へ。
きょろきょろと物珍しそうに目線を泳がせる真奈子ちゃん。これほどお菓子を買ってあげる甲斐のある相手もいるまい。
「わぁ、なんて黒くて太くて立派なモノなんでしょう。わたしの小さなお口で上手に咥えられるかなあ」
「ああ、それは、ふ菓子だね」
真奈子ちゃんは決してエロいわけでも、天然なわけでもない。俺の小説っぽく言っているのである。作者としても嬉しさ二割で、罪悪感が八割ですね。
ふ菓子を大事そうに両手で持って頬を赤らめている真奈子ちゃんに、カゴに入れるように促す。これがわざとやっているならともかく、ピュアゆえの行動だからなあ。
レジでポイントカードを提示するところや、レジ袋不要カードを使用するようなことですら、興味深そうに覗き込む純粋な少女を見ていると、ますますもって俺の小説の真実なんて知らなくていいと思ってしまう。頼むから手を使わずにバナナを剥く練習なんてしないでくれよ。
トートバッグに食材を放り込み、肩にかけてスーパーを出ると、すぐに左手を差し出してきた。
俺はためらいもせずに右手でその手を掴んで歩き出す。
うん、こういうところはメイの参考にできそうだ。
ただ可愛いだけで、エロくもなんともないけれど。