女子小学生に大人気の官能小説家!?   作:暮影司

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いいなり使用人と貴族の部屋

 生演奏のゆったりしたジャズを聞きながら、若干俺はビビっていた。

 自宅でパーティーが出来るということ自体が驚きだが、そこはちょっとしたホテルのパーティールームそのものといった部屋で、シャンデリアがいくつも光り輝き、白いテーブルかけの丸テーブルがそこかしこに配置されている。

 芸能人の結婚披露宴みたいだ。ここまで大金持ちとは思わなかった。

 

「あ、四十八(よそや)先生」

 

 彼女が小走りで近づいてきたおかげで、少し安心する。

 真奈子ちゃんの装いも純白のドレスで、ところどころがきらきら光っている。

 ウェディングドレスに見えなくもないが、どちらかというとディズニープリンセスを思わせた。エロい対象にしてはならないものナンバーワンだ。怖い。不安になってきた。

 

「12歳のお誕生日おめでとう、真奈子ちゃん」

「ありがとうございます、四十八(よそや)先生。わたしももう12歳なので、これでもういつでも大丈夫です」

「……何が?」

 

 大丈夫と言われると、かえって不安になることがあります。今です。

 頭を掻こうとして、使い慣れない整髪料でべったりだということに気づく。

 いや、本当に大げさじゃなくビシッとした格好で来てよかった。まさかこんな本格的だとは……。

 

 今、俺は清井真奈子ちゃんの誕生日パーティーにお呼ばれしていた。彼女は俺の妹である詩歌の年下のお友達なので、その経緯で招待されたのだ。

 詩歌は中学生なので学生服姿で、一緒にやってきたので俺の隣にいる。

 

「おめでとー、まなちゃん」

「あ、しーちゃん先輩、来てたんですね」

 

 あれっ?

 詩歌が真奈子ちゃんにお祝いの言葉をかけたわけだが、その存在を今知ったかのような反応だ。まるで俺についてきた金魚のフンを見るような。

 いや、そんなわけがないのだが。きっと俺の目がおかしいのだろう。

 詩歌は少しもショックを受けた様子はなく、笑顔で応える。

 

「そりゃそうだよぉ~、まなちゃんは私にとって姉妹(しまい)みたいなものじゃない」

「しーちゃん先輩! ちょっと、ちょっと! そこのスタッフさん! しーちゃん先輩をVIPルームにお通しして」

 

 やはり俺の目が節穴だったらしい。真奈子ちゃんは大歓迎のようです。それにしても姉ならともかく姉妹という言い方が気になる。百合のお芝居のときのことが忘れられないのかしら。なんなら俺のお稲荷様も見てましょうか?

 真奈子ちゃんは、おいでおいでのような手付きを素早く繰り返し、その手の先から一人の女性が近づく。

 

「しーちゃん先輩さま、こちらへどうぞ」

 

 むっ!?

 キュピーン。女体アンテナが反応したぞ。鬼太郎が妖怪を見つけたときのように、ビンビン来る。

 この女性は一体……!?

 

「メ、メイ!?」

 

 そこに居たのは、紛れもなく俺の書いている小説のヒロインであるメイドのメイそのものだった。

 

「はい?」

 

 小首を傾げるその表情は、物憂げというか落ち着いた大人の雰囲気を醸しており、まったくメイとは似ても似つかない。

 しかし顔と服装、そしてボディ。要するにルックスだけで言えば完全にメイだった。むしろメイよりメイだ。つまり、桜上水みつご先生が描いてくださったメイよりも俺が思い描いていたメイにそっくり。

 こんな完璧なメイドが日本にいたのか。メイドさんは本当にあったんだ! エルフみたいなファンタジーじゃないんだ!

 

「ま、真奈子ちゃん。この人は?」

「はい? ああ、バイトの方です」

「バイトなの!?」

「はい。パーティーだから人手が足りないので」

 

 バ、バイト……こんな完全無欠のメイドさんが……。

 

「しーちゃん先輩さま、お段差にお気をつけくださいませ」

「う、うん」

 

 メイがパーティールームを出ていった。あぁ……。

 

「さぁ、四十八(よそや)先生。まずはダンスタイムを……そしてその後……うふふ」

「あのバイトさんの名前は?」

「え? いえ、バイトさんの名前までは知りません……。今日はじめて会いましたし」

 

 むむむ。あれほどまでに似ているなら色々と知りたい。なんなら決めていなかったメイのプロフィールを彼女にしてしまいたい。血液型とか。誕生日とか。好きなディルドーの形とか。

 

「知りたい……」

「えっ?」

「彼女のことが知りたい」

「えええええ?」

 

 ズカズカと後を追うと、困ったような表情であたふたしつつ真奈子ちゃんが袖を掴む。

 

「あ、あの、えっと、わたしの誕生日ですし、その、ダンスの後にもいろいろと予定が」

「真奈子ちゃん」

「は、はい……」

 

 俺が彼女の名前を強い語気で言い放ったため、萎縮してしまった。しゅんとした表情は可愛らしいが、胸が痛む。しかしこの出会いを見逃すわけにはいかない。なんとしてでも彼女を逃してはならない。ただのバイトであれば尚更だ。一期一会かもしれないのだ。

 

「彼女のことが知りたいんだ」

「な、なんでですか……」

「それはもちろん……」

 

 大きな瞳をうるませて俺を見上げている。なにか予定していたことが駄目になってしまうかもしれない不安からだろう。申し訳ない気持ちでいっぱいだが、我慢できない。メイドのメイちゃんに我慢できない、我慢できないメイドのメイちゃんの作者です。

 

「まさか。ひ、ひとめ……」

「作品のためだ」

 

 うつむきながら何か口にした真奈子ちゃんだが、俺の小説のファンである彼女なら理解してくれるだろう。

 

「あのバイトの彼女は、メイドのメイちゃんそのものなんだ。彼女のことを聞くことで、描写がよりリアルになると思うんだ。もちろん小説のためだよ」

「あ、ああ! そういう! さっすが四十八(よそや)先生! さすがです!」

 

 やっぱりな。小説のためだと知れば、わかってくれると思ったんだ。彼女はありがたくも、俺の小説の大ファンであるのだから。本当は官能小説だということはつゆ知らずも。

 

「そういうことなら……」

「ありがとう。ごめんね、せっかくの誕生日パーティーなのに」

「いいえ、じゃあVIPルームに行きましょう」

 

 パーティールームから両開きのドアを開け、絵画や花瓶が飾ってある廊下を少し歩いく。VIPルームと思われる部屋の少し開いているドアから何やら声が漏れていた。

 

「許してください……」

 

 こ、これは我が妹の声。

 一体何が起きているのか。どうせ妹のせいでろくでもないことが起きているに決まっている。俺の魂を賭けよう。

 

「何をやってるのかな」

 

 不穏なセリフが聞こえているにも関わらず、俺と同様にのんびりとした感じで中に入る真奈子ちゃん。

 そこで見たものは。

 

 じゃーんじゃーんじゃーん(げえっ、関羽! ではなく、サスペンスの方です)

 

 突っ立ったままで微動だにしないメイドさんと、その下でうずくまっているパンツ一丁の妹だった。なにそれ。どんな事件だよ。

 

「えっ、お前、何やってるの」

 

 俺は推理を披露することもなく、普通に疑問を口にした。

 真奈子ちゃんも俺の隣にすっくと立つ。蘭のポジですね。

 

「しーちゃん先輩、相変わらずですね」

「相変わらず!? この状況は普段どおりじゃないよ!?」

 

 確かに目に映る光景は異常事態なのだが、なんか異常に感じない。詩歌そのものが常に異常だからだろう。

 

「何やったんだ、詩歌」

「ちょっとは信頼してくれてもいいのに!?」

「何言ってるんだ、そのメイドさんが変なことするわけないだろ」

「んん~っ!? 名前も知らない会ったばかりの女の子にその信頼度~ッ!?」

 

 部屋のど真ん中で、メイドさんと真奈子ちゃんと俺に見下されながら、パンツ一丁でカーペットにぺたんと座った妹は、高い声を上げた。おっぱい見えるぞ。あるのか知らんけど。

 

「はぁ……はぁ……まなちゃん、おトイレどこかな」

「お風呂じゃなくてですか?」

「あ、そうだね。じゃあお風呂にする」

 

 だから何でどっちでもいいんだよ。

 真奈子ちゃんはパンツ一丁だから言ってくれたんだと思うけど。

 

「しかし、しーちゃん先輩さまは、完全に全裸になるまで野球拳をやめないというお約束でしたが」

「何やってるんだよお前……」

「だって! VIPだって言うから!」

 

 VIPの概念どうなってるんだコイツは。

 そういえば俺が持ってるちょっと古い官能小説の短編で、そういう設定の話があったけど……まさかな。

 

「しーちゃん先輩をお風呂場に連行して。終わったら戻ってきてね」

「承知いたしました」

「まなちゃん? 今、連行って言った?」

「上着いります?」

「いります……」

 

 前かがみになったところに、上着をかけられて、メイドさんに連行されていく我が妹……どうみても逮捕です。早く罪を償って帰ってこいよ。

 二人が出ていったが、ソファーに腰掛ける雰囲気もなく、突っ立ったまま、顔を見合わせる。

 

「……野球拳? っていうのしますか?」

「しっ、しないよ?」

「そうですか……」

「あの、一応補足しておくけどVIPルームでそういうことしないからね?」

「あ、やっぱり」

 

 あぶない。野球拳がなんだかわかってないんだと思うけど、真奈子ちゃんのお父上がVIPルームにお客様を通すたびに「あ、野球拳やるんだな」って思っちゃったらヤバい。そうなったら妹は確実に有罪。執行猶予も無しで実刑確定。

 

「ただいま戻りました」

 

 カーペットの上に少し濡れた部分があるのを見ていたら、バイトのメイドさんが戻ってきた。冷静というか感情の起伏が少ないタイプらしい。表情も少しまぶたを閉じた状態をずっとキープしている。

 

「おかえりなさい。名前を教えてくれますか」

 

 年上であっても、こういった言葉遣いになるのは普段から雇い人に接しなれているということだろう。金持ちぱねえ。

 

瀬久原柑樹(せくはらかんじゅ)です」

「瀬久原さんね」

 

 名前はメイじゃなかった。そりゃそうか。

 

「瀬久原さん、このカッコイイ男の人が四十八先生。最高の小説家です。小説の取材だから聞かれたことはすべて答えてね」

「承知いたしました」

 

 あっさり了承したな……。いいのだろうか。

 

「よろしくね、柑樹」

「はい」

「よ、呼び捨て!?」

「マズかったかな」

「いえ、その瀬久原さんがいいのなら」

「甘んじて受けます」

 

 メイだと思ってる相手だと、どうしてもさんを付ける気がしない。

 真奈子ちゃんは少し不服そうだ。それはそうだろう、雇い主がさんを付けているのに俺が呼び捨てというのはおかしい。おかしいのだが、ここは許して欲しい。

 まぁ、とりあえず聞きたいことを聞いていこう。まずはジャブだ。

 

「身長はいくつですか?」

「158cmです」

 

 なるほど。メイの身長は158cmだったのか……メモメモ。

 そこから計算すると、ご主人さまが174cmで、マイは148cmということになるな。すごいな、めちゃくちゃ捗るな。

 

「体重はいくつですか?」

「44kgです。昨日のお風呂上がりに量ったものになります」

 

 正確な回答。素晴らしい。

 やっぱりちょっと痩せているんだよな。イラストのメイは食いしん坊設定だから、肉付きがよくなっている。その方が元気な印象だし、児童向けなのだろう。

 しかし柑樹がそうだと言うならそうなのだ。

 

「ブラジャーはBカップですか?」

「そうです」

 

 やっぱり! そうだと思っていたんです。身長や体重なんかは特に考えていませんでしたが、ブラはBだと思って執筆していました! 裏が取れました!

 一応メモをしていると、肩をつんつんされる。

 どうやら真奈子ちゃんが指で突っついていたようだ。

 

「わたしには聞かないんですか?」

「え? ブラのこと?」

「はい」

「それはセクハラになっちゃうでしょ……駄目でしょ」

「そうですか……」

 

 なぜか残念そうだが、俺はそんなセクハラ野郎ではない。

 柑樹は、メイドさんのエプロンのところで両手を合わせたままじっとしている。こういう態度や表情はメイとはまったく違う。ドジなんかしなさそうだ。

 

「お尻は柔らかいですか?」

「それは誰と比較してでしょうか」

 

 なるほど。本当に正確な考え方をしていらっしゃる。

 

「わ、わたしが、四十八先生と瀬久原さんのお尻を触って比較しましょうかっ」

 

 真奈子ちゃんが興奮気味にそう言ってくれた。真奈子ちゃんでもメイドさんのお尻を触るのは興奮するらしい。

 

「構いませんが……」

「でも……俺より固いわけないもんな」

 

 こくり、と頷く柑樹。

 メイのお尻が俺と比較して固いなんてありえません。

 

「平均的なお尻の固さの女の子がいればいいんだが……」

「あ、そういえばわたし、お尻の固さが平均ですっ」

 

 真奈子ちゃんがはい、はいと手を上げた。なんと都合のいい。平均的なお尻の固さの女の子が目の前にいるなんて。いくらなんでも渡りに舟すぎやしないかと思うが、真奈子ちゃんがウソを付く訳がない。

 

「じゃあ……」

 

 真奈子ちゃんが自分のお尻を触った後、柑樹のお尻を触ってもらおうと言おうとしたら、真奈子ちゃんが俺にお尻を突き出した。

 

キャイ~ン、とか言うわけじゃないよね……





なんか真奈子ちゃんがどんどんとんでもないことになってる気がします!
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