吾輩は小説家である。
そんなことを言う作家がいるのでしょうか。ましてや女児向け作品の作家が。ここにいるんだよなあ……。
なんでこんな独白をしているかというと、なんというか小説家っぽいことがしたいなーという気持ちなのである。
それは決して専門学校の成績が悪かったこととは一切関係ない。
カランコロンカラン
喫茶店だ。
レンガとか使ってるような、レトロな感じの喫茶店だ。
チェーン店のコーヒーショップなどではなく、非常に入りにくい門構えの喫茶店だ。
こういうところで執筆をするとなんかそれっぽい。ここで万年筆を走らせて官能小説を書いているおじいさんとか超憧れるが、俺はノートパソコンで女児向けの物語を書くことにする。
「いらっしゃいませ」
迎えてくれたのは、激シブの格好をしたロマンスグレーのナイスミドル。そうそう、そうでなくちゃな。
「いらっしゃいませ」
そしてウェイトレス。大学生が腰エプロンでやる気なさげにやってる感じ……じゃなくて、その格好はメイド服で、この場には似つかわしくないくらい見目麗しい……まるでメイのような……
「って瀬久原さん!?」
そこにいたウェイトレスは
身長は158cmで、体重は44kg。Bカップ。17歳のJKで、太ももがむちむちしている美少女である。
しかしやっぱり見れば見るほどメイそのものだ。あまりにもメイ過ぎて最近はメイを彼女に寄せている。
「お好きな席にどうぞ」
「お、は、はい」
他に客はいないようだった。こういうところは静かで、やんわりとした音楽が聞こえるくらいがいいのだろう。
テーブル席に座ると、彼女が接客を開始した。
「
おお。
俺のことを覚えていてくれたことが少し嬉しい。ぱんつを見せてくれたりお尻を触ったり太ももを触ったりしただけの俺のことを……たったそれだけの関係なのに……。
俺の方は黒いガーターベルトと白いシルクのぱんつだったことを一生忘れないけれど。桜上水みつご先生にも伝えておいたしね。いつか挿絵に描いてくれるはず!
「こちらをどうぞ」
瀬久原さんは水とおしぼりを置いてくれた。ふーむ。
水をこぼさないな……普通こういうときはこぼすよね。メイならね。
じっ
じっ
俺が彼女の目を見ると、彼女も俺の顔を見つめる。
そのまま水を口に運ぼうとして……
「つめたっ」
「ああっ」
俺はうっかり水をこぼした。ズボンはびしょびしょだ。
「あ~しまった~」
「大丈夫ですか、お客様」
取り乱した様子で、股間をおしぼりで拭く。
うん、非常にメイっぽい行動だ。素晴らしい。
こうなったら俺もご主人さまっぽく振るまわないとな。
「濡れてしまったな」
俺はイケボを出す。俺の中での声優の設定があるからね。
足元にひざまずき、懸命に股間を拭いてくれるメイドウェイトレス。頭に手を置きたくなりますね。
「お客様、大丈夫でしょうか」
あっ。やべ。ナイスミドルが来ちゃった。
「大丈夫です。なんでもありません」
キリッ。
ここで邪魔をされるわけにはいかない。
「すみません、一番手間のかかるメニューはなんですか」
「は、一番手間のかかるメニュー……当店ではフルーツパフェになりますが」
「ではそれをください」
ふう、とりあえず注文をすることで邪魔者を遠ざけることに成功だ。
果物を取りに行くのか、裏手に消えた。しめしめ。
おしぼりでは吸水力がないからか、奥からタオルを持ってきたメイ……いや瀬久原さんは、懸命に俺の股間を拭く。とっても気持ちいいですね。
喫茶店の水は股間を濡らすためのものだな。飲んでる場合じゃないね。
「ちょっとお尻の方にもかかっちゃったなー」
そう言うと、すぐに拭こうとしてくれる。ただし、少しだけの躊躇や恥じらい、とまどいがにじみ出る。これが重要だ。
俺は一切動かないので、当然、俺の腰を抱きしめるような格好になる。
太ももには胸が押し付けられ、お腹は顔がくっついてヘソに吐息がかかる。
「もうちょっと上も濡れちゃったなー」
濡れているわけがない。物理的におかしいから。
しかし彼女は体を上に動かしていく。やはりメイだ。見た目だけじゃない。
普段のメイは真奈子ちゃんの性格に近い。しかし、ご主人さまの命令に関することであれば話は別。
真奈子ちゃんであれば天真爛漫にくっついてきて、俺が抱っこするだけになるだろう。
しかし瀬久原さんはたどたどしくも、体をぎゅっと押し付けながら背中をまさぐる。
信じ切ってるわけじゃない。
疑りつつも、嫌ではない。
この綱渡りのような感覚。
お互いが、相手が嫌じゃないか、相手がどう思っているかを探りつつ抱き合っている……。
あくまでも俺は拭かれているだけだから、当然密着している彼女に手を回すことはない。
あぁ、この感じ……。
たまらなくドキドキする……ッ!
これだ、これが、官能小説ではなく女児向け小説に必要な距離感だ。
この体験が今後の執筆活動に活かされること間違いなし。創作のためにもっと濃厚に接触しなければ。創作のために。
「ありがとう、ごめんね」
「いいえ」
ゆっくりと体を離していく瀬久原さん。
これがいい。
バッと離れるのではなく、ちょっと惜しんでいるかもしれないと思わせる感じが。
ひょっとして、ひょっとしたらだけどまだくっついていたかったのか、と期待させる感じがいい。
「新しいお水を用意いたします」
カラのコップをお盆に載せて、歩いていく。
その後ろ姿を見て思った。
好きだ。
愛していると言ってもいいね。
なぜならこの人はメイだから。
自分の生み出したキャラクターを好きでない作者がいるだろうか。
ましてや官能小説のヒロインである。メイという女の子は少なくとも俺は官能小説として書いた小説のヒロインなのである。
それが目の前にいたら、愛さざるを得ない。
「どうぞ」
「ありがとう……あっ」
ここで言う、愛とは何か。
それは、水をこぼすことである。
「ああー、またしても手が滑ってしまった」
顔面から水を浴びた。
もう顔から首から膝までびしょびしょだ。
「なんということだ」(イケボ)
「大丈夫ですか、お客様」
そう。
ここで、わざとやりましたね、などと。
野暮なことは言わない。
迷いなく、ソファー席の俺にまたがって、頬を包み込むように手を当てて、タオルで顔を拭く。
ここで言う、愛とは何か。
それはちゃんとタオルを準備しているということである。
近づく顔。
見つめ合う瞳。
唇が触れていないだけで、接吻をしているかのような。
しかしあくまでも客の接客をしているウェイトレス。それ以上のことはしない。俺も客としての一線を越えることはしない。
わざと水をこぼした客と、気づいていても何も言わずに拭いてくれるウェイトレスがいるだけなのです。嗚呼、なんと素晴らしいことでしょう。
顔を拭いてもらい、首を拭いてもらう。抱きしめるように、しかし決して抱きしめないように。
「中まで濡れてしまったな」
イケボでそう言ってから、俺はボタンを外していく。
彼女は、首から鎖骨、そして胸と。俺がボタンを外していくに従って拭いていく。
カチャカチャ
俺はベルトを外した。
ズボンを下ろす。
「やれやれパンツまで濡れてしまったな」
当然、股も濡れている。
そして、当然、拭いてくれる。
優しく、優しく。
中のものの大きさがよくわかるボクサーパンツを。
少しも嫌がることはなく、けれどまったくの無感情ではなく。
ちょっとだけ恥じらうように、ちょっとだけ臆病に。
ふきふき。
ふきふき。
「パンツの中も、濡れてしまった」
俺のセリフに、小さくつばを飲む音がする。
パンツを脱ぐようなことはしない。だってお店の中だし。いくら他に人がいないからといっても超えちゃいけないラインはわかっております。
「失礼いたします」
脱がさずに、タオルをそっと差し入れて拭いてくれる。
ふきふき。
ふきふき。
何の問題もないですね。ただ17歳JKの美少女メイドが俺のパンツの中に手を突っ込んでふきふきしているだけだ。
ただそれだけのことなんだ。
メイがご主人さまにするように。
生きてて……よかった……。
それにしてもこんな状況で平然としていられるご主人さまは理解できない。誰だこんなわけのわからないキャラを生み出したのは。
もっと読者の共感を得られるようにしなければ……ふふふ、俺ってマジで小説家って感じだな……。
「拭けたと思いますので失礼いたします」
それにしてもメイはご主人さまのことが好きだから何でもしちゃうわけだけど、瀬久原さんはアルバイトなのにどうしてここまでしてくれるのか……。
いや、まさか。
まさかとは思うけれども実は俺のことを……?
そんなバカな。
いや、むしろそうでもないのにここまでしてくれる方がおかしいのでは?
こりゃ小説なんて書いてる場合じゃないぞ……むむむむ。
「お客様、フルーツパフェをお持ちし……」
前のときも、いろいろと触らせてくれたりはしたけど、あれは真奈子ちゃんの命令で仕方なくやっていたと思っていたが、それにしたって普通あそこまでしてくれるものだろうか。
実は初めて会ったときから特別視してくれていたのでは……その方がよっぽど納得できる……。
「お客様?」
しかし、なぜ出会ってすぐに俺のことを……元々どこかで会ったことがあるとか……?
はっ!? まさか前世で!?
そうか、彼女がメイにそっくりなのは実は前世で一緒になっていたからでは……!?
俺の中にある
「瀬久原くん。あのお客様とは知り合いなのかい」
「いえ、別に」
つまり彼女は俺の
なるほど確かにそれならばすべての謎に説明がつく。
だから彼女は俺のことが大好きで、俺は彼女のことを無意識に小説のヒロインにしたのか……現世こそ俺は彼女を幸せにしなければなるまい……ふふふ。
「もしもし、警察ですか。うちの喫茶店でお客様が半裸になっておりまして……声をかけても反応しない状況で……」
ついに通報されちゃったよ……
柑樹ちゃんを書きたいなーっていうだけで書いちゃったエピソードでした。
やっぱり感想があまり来ないと筆が進まないので、お願いですから感想くださいいいいい!