「こわかったよー」
「大丈夫、大丈夫だよ~」
「おまわりさんたちが、おまわりさんたちがね」
「いいのいいの、全部忘れていいんだよー」
「うん……」
なにもかもどうでもいいんだ……。
ぼくには、真奈子ちゃんがいるからね。
いやなことを思い出しても、真奈子ちゃんがいればだいじょうぶだ。
「真奈子がついてるからねー。
「うん……」
あたまをよしよししてくれる。
よかった……。
「真奈子が守るからねー」
「うん」
ぼくのことは真奈子ちゃんが守ってくれる。
あのこわい人たちからも守ってくれたもんね。
「はい、ぎゅー」
「うん。ぎゅー」
だきしめてくれる。
やわらかくて、あたたかくて、いいにおいがする。
「ん……」
かおをおむねに押し付けると、もっとやわらかくて、もっとあたたかくて、もっといいにおい。
「ふわふわしてる」
「うふふ。かわいい」
ベッドのうえで、真奈子ちゃんのむねに顔を押し付けていると安心する。
どきどきもする。
真奈子ちゃんのからだをぺたぺたとてきとうにさわってみるけど、どこもやわらかくて、きもちいい。
「あっ……うん……」
真奈子ちゃんがこえをもらす。なんかきもちよさそう。
もっとしたほうがいいのかな。
なんか真奈子ちゃんの体はちいさいきがするな。ぼくよりぜんぜんちいさい。おむねはおおきいのに。
「むにむに、ふにふに」
「あっ、先生……」
「せんせい?」
「賢者くん! 賢者くんはいいこだねー。いいこいいこー」
「うん……ぼくいいこ」
「あぶないあぶない」
ぎゅっと、だきしめあう。
ずっとこうしていたい。
「でも……」
おぼろげにかんじる、ふあん。
なんかこわいんだ。
それをかんじとった真奈子ちゃんが、そっとあたまをなでてくれる。
「真奈子の部屋にいれば大丈夫なんだよー」
「そうだった」
「外に出たら怖い人たちがいるよー」
「こわいなあ」
「ずーっと。ずーっとここに居ればいいんだよー」
「うん。ありがとう。真奈子ちゃん」
「いいこだねー」
「うん。ぼくいいこ」
外はきけん。
あんぜんなのはココだけ。
なんども言われているからおぼえた。
「さ、お風呂に入ろうか」
「うん……ちょっとはずかしいような……」
「恥ずかしくない。全然恥ずかしくない。恥ずかしくないんだよー」
「……そうだった。はずかしくないんだった」
「そうだよー」
トイレとおふろのときだけは、真奈子ちゃんのへやを出る。
真奈子ちゃんが手をつないでくれるから、真奈子ちゃんのへやから出てもだいじょうぶなんだー。
「おふろーおふろー」
「うふふ」
ふたりでろうかを歩く。
「い、いたー!」
ん?
あれは……
「見ちゃいけません!」
「わあ」
真奈子ちゃんが手で目をふさいだ。みちゃいけないものだったのか。おばけかな?
「ちょ、ちょっとまなちゃん! お兄ちゃんに何してるの!」
「誰か! 侵入者よ!」
「まなちゃん!?」
なんかきいたことのあるこえのような……?
「お兄ちゃん! お兄ちゃ―ん! ちょ、離しなさいよ、バカ兄貴ー!」
バカ兄貴……?
そんなことを言うのは……
「――ハアッ!? 詩歌!? ここは誰!? 俺はどこ!?」
「チイッ! 正気に戻ってしまったっ! まったく余計なことをっ。……ハヤテさん、その人を離してあげてください。学校の先輩でした」
ハヤテさんと呼ばれた執事が去っていくところを見ながら記憶を辿る。
どうやら俺はまた催眠術にかかっていたらしい。
真奈子ちゃんの催眠術は深く入ってしまうから危険だ。
しかし、通報されてしまったことを誰にも言えず、ビビりまくって警察のご厄介になている際にいち早くやってきて助けてくれたのが真奈子ちゃんだった。
「そうだ……思い出してきた」
あの日の夜。通報された夜だ。
真奈子ちゃんのご両親の力はなかなかのものらしく、俺は速やかに開放された。
そもそもお店の中で半裸になったまま問いかけに応じなくなっただけなので、きちんと説明すればそれほど問題にはならなかったようだ。
とはいえ開放されたときには夜遅くなってしまったので、そのまま清井家に泊まることになり、夜中に悪夢を見た。
児童向け小説家はとんでもないヘンタイだった、ヘンタイすぎて逮捕された……そういうニュースが日本を賑わすという夢。
その夢を見て、ふらふらと廊下をさまよっていたら真奈子ちゃんが声をかけてくれた。夢が怖くて眠れない、という話をしたら真奈子ちゃんが催眠術を使って俺の不安を取り除いてくれた……とそういうことだ。
「なるほど……それで今こういう状況か……」
そのときは心のダメージが大きすぎて耐えられなかったのだ。
馳せ参じてくれたこと、催眠術をしてくれたことには感謝してもしきれないな。
あのときは本当に助かったけど、いつまでも真奈子ちゃんに頼っていてはいけない。
もう、催眠術はおしまいだ。
「よかった、お兄ちゃん。編集さんから電話とか来てるよ。締め切り過ぎてるって」
「編集……? 締め切り……?」
どうやら俺は間違っていた。
やはり真奈子ちゃんの部屋の外は危険だ。
編集者だの締め切りだの、こんな恐ろしい言葉を使うやつらが生息している場所に存在しちゃいけない。
「真奈子ちゃん、お風呂行こうか」
「そうしましょう」
「ちょっと!? お兄ちゃん!? 小説書かないと。読者が待ってるよ。ファンが」
「読者……ファン……ううっ、頭が!」
あげはちゃんを始め、女子小学生からファンレターをもらっており、続きを待ってますと言われている……ううう……。
しかし……ぐぬぬ……。
「まなちゃん、ホントなにやったの……魔王に洗脳された勇者みたいになってるんだけど」
「しーちゃん先輩、なに言ってるんですかー」
「目が笑ってないんだけど……」
「賢者くんはずっと我が家に居たいだけですよ」
「賢者くん!?」
「落ち着け、詩歌。真奈子ちゃんは俺に催眠術をかけていただけだ」
「催眠術をかけていただけ!? ええ!?」
詩歌はおどろきにとまどっている。
催眠術なんて官能小説とかエロ漫画とかエロビデオではよくあることなんだが、詩歌はそういうものを見ないのでピンと来ないのだろう。
「真奈子ちゃんは悪くないんだ。俺が通報されたのが悪いんだ」
「通報!? え!? もう全然わけがわからないんだけど!?」
詩歌はますます混乱している。
実の兄が警察に通報されるなんて官能小説とかエロ漫画とかエロビデオではよくあることなんだが、詩歌はそういうものを見ないのでピンと来ないのだろう。
「詩歌……俺には編集とか締め切りとかの方がよっぽどわけがわからないんだけど」
「お兄ちゃん! 現実から目をそむけないで」
そむけたい……!
全力でそむけたい……!
催眠術にかかっていたい……!
「詩歌、俺は帰りたくない……真奈子ちゃんに催眠術をかけてもらって生きていきたい……」
「なに言ってるのお兄ちゃん……」
俺が言ってることがおかしくて、妹が正しいということはわかる……。
詩歌のほうがまともで正しいなんてことがヤバいってこともわかる……。
わかるんだが……。
「お兄ちゃんは小説を書かないと。本当は書きたいんでしょ」
うう……。
正しい……。
「ファンが待ってるよ……」
ううう……。
正しすぎる……。
「あと専門学校も休み過ぎだよ。お父さん怒ってたよ」
「それはマジで目をそむけたい……」
うううう……。
正しすぎてツラい……。
「通報されたせいだってお父さんに言う?」
「今すぐ帰ります!」
あぶねえ。
迷ってる場合じゃなかったわ。
通報されたなんてバレたらどうなることやら。
数日いなかったことは、ちょっとうっかり催眠術にかかってたって言えば許してくれるだろ。
「先生、行かれてしまうんですね。でも、真奈子はいつでも待っていますから、つらいことや悲しいことがあったらいつでも戻ってきてくださいね」
真奈子ちゃん……!
実家に帰るのに、実家を離れるような気持ちに……!
真奈子ちゃんがいるところこそが心のふるさとなのか……!?
「なにやってんの。早く行くよ、バカ兄貴」
「お、おう……」
珍しく妹が手を握ってきた。
……やっぱり帰るべきは自分の家か。
まともな詩歌
まともじゃない真奈子ちゃん
どうしてこうなったんだ……
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