女子小学生に大人気の官能小説家!?   作:暮影司

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妹に彼女との初めてを見せつける

 

「わ~、新婚さんみた~い」

「えっ、えええっ?」

 

 どこがだよ。妹の詩歌による大きめの独り言に心のなかでツッコミを入れる。

 真奈子ちゃんはエプロンを付けていた。

 もちろん服の上からであって、決して裸エプロンではない。新婚だったら裸エプロンが必須だということもわからないのか詩歌は。

 普通に小学生にしてはちょっと巨乳の激カワロリがうちの台所で料理をしているだけだ。

 彼女は買い物も初めてだが、料理も学校の調理実習などでしか経験がなく、ぜひ手伝わせて欲しいと志願してくれたのだった。

 しかし真奈子ちゃんは少し嬉しそうに見える。まぁこの年頃なら花嫁に憧れるのかもな。純粋無垢のお嬢様のままで居て欲しいものだ。もっとも願わなくともこの娘が出会い系サイトで収入を絞り込み検索するようにはなりそうもないし、体を持て余している主婦ですと書き込むこともないだろう。まぁ、そういうネタは嫌いじゃないけど。

 そんなことを考えながら料理している間も、対面式キッチンの向かい側からは詩歌の視線が注がれていた。なんでそんなにニヤニヤしてんの? 俺の顔にチンコでもついてるのか?

 

「わ~、初めての共同作業みた~い」

 

 無理のあるからかい方だが、ピュアな心の真奈子ちゃんは「はうう」と恥ずかしがっている。

 どうやら詩歌の言う初めての共同作業というのはケーキ入刀を指しているらしい。

 単純に豚バラを切るのに、最初は俺も包丁を握っていただけだ。これを見てその発想、我が妹ながら乙女すぎやしないか。

 そもそも披露宴まで初めての共同作業をしない夫婦なんているだろうか。ホテルの部屋を選んだり、一緒に腰を振ったりするだろ。付き合ってすぐにするであろうコスプレ用の衣装や道具を選ぶ作業はどうなるんだ。ケーキ入刀より性器挿入の方が先だと思います。

 

「あ、うーん、固い~、入らない~、あっ、痛い」

「あっ、ごめんね、痛かった? 大変だ、血が出てる」

 

 今のやり取りは、決して俺がギンギンになった男のそれを強引にねじ込み、少女が破瓜の苦しみに耐えているのではない。

 真奈子ちゃんが包丁で玉ねぎを切るのに失敗して、ちょっと指を切っちゃったのだ。子供用の包丁を渡したからかえって切りにくかったかもしれなくて申し訳ない。

 俺は彼女の左手を取り、小さな薬指の先をじっと見つめて傷の様子を見る。

 

「わ~、指輪の交換みた~い」

「ふぇええ!?」

 

 どこがだよ。またしても詩歌は妙なことを口走っている。なに? あいつ結婚したい症候群なの? マジで病気を疑うレベル。真奈子ちゃんは真に受けちゃうんだからやめろっての。

 だいたい、指輪の交換だったら、こんな風に指をしゃぶったりしないぞ。

 

「ちゅぱ、ちゅぱ、ちゅぷっ。こんなもんか」

「ふぁっ!? ふぁああああ!?」

「なあっ!? なあああああ!?」

 

 思わず、メイドがご主人さまの指をしゃぶるようにご奉仕的に舐めてしまったが、もちろん目的は応急処置である。

 別に俺が実は吸血鬼という設定だから血を舐めたわけではない。

 急を要するため事前説明無しで行ったため、真奈子ちゃんが驚いたのはわかるけど、詩歌は何で叫んだの?

 俺の指しゃぶりがあまりにも上手すぎたからかしらん。スキルが高いのは俺が小説の描写のために普段からよく自分の指をしゃぶってるからです。俺に男性経験があるとかいうわけでは決して無い。

 

「驚かせてごめんね? ほとんど切れてないから舐めるだけだけでもいいと思うけど、心配だったら消毒と絆創膏を」

「いえっ! いいですっ! ありがとうございますっ!」

「は~。甘ったるくて見てらんない」

 

 詩歌はダイニングテーブルの椅子から立ち上がり、部屋を出ていった。

 今他人丼を煮るために温めている煮汁は確かに、砂糖とみりんの匂いを漂わせているが、見てらんないことはないだろう。変なやつだ。

 

 真奈子ちゃんはまだ痛むのか、傷口を舐めていた。なぜか痛そうというよりは、恍惚としたような表情だが……まさか真奈子ちゃんが吸血鬼だったのでは……って自分の血をそんな旨そうに舐める吸血鬼っていんのかね。

 吸血を性行為のようにエロティックに表現した創作物は枚挙にいとまがないが、俺は直接表現されたものが好きです。ヴァンパイアよりサキュバスが好きです。

 

 スライスした玉ねぎと豚肉を雪平鍋に放り込む。ちゃちゃっと混ぜつつ、炊飯器のご飯を丼に盛る。次に冷蔵庫に余っていた大根とねぎをだし汁で煮たものに味噌を溶く。漬物や常備菜も今のうちに出しておこう。

 意外かもしれないがそれなりに料理はできる。両親が不在にしがちな家で、年の離れた兄貴が妹に飯を作るのは当然の流れだからだ。

 我に返った真奈子ちゃんが手伝いを申し出た。

 

「あ、あ、あの~。役に立たなくて、ごめんなさい。どうしたらいいですか?」

 

 おどおどと怯えているようなその表情はまさにお仕置き待ったなしのドジっ子メイドそのものだな。もちろん足の指を舐めるように命令するわけにはいかない。

 

「これ、テーブルに並べてくれる?」

「はいっ」

 

 たどたどしくも料理を並べていく真奈子ちゃん。う~ん、滑って転んでうっかりヨーグルトとか蜂蜜とかを頭からかぶっちゃって「ふぇえ……」と言いつつイベントCGゲットのチャンスだったな、これがエロゲーなら。

 やっぱ和食だと絵にならんのかな……納豆とかかぶって「べとべとですぅ」とかでもエロいのかな。臭いから駄目かな……いや臭い方がエロいという可能性も……などと創作に携わる作家としては非常に至極まっとうな考えをしつつも、他人丼は完成。ほんと俺って仕事熱心で困っちゃうよね。クリエイターの鑑だね。

 

「詩歌呼んでくるから待ってて」

「は~い」

 

 まさか二人で食べて新婚気分を味わえという意味ではないと思うので、妹を探しに行く。

 トイレを開ける。いない。あいつはいつも鍵をかけないから開けないとわからん。

 風呂を開ける。いない。あいつはいつも鍵をかけないが、普段はさすがに入ってるときは電気が付いてるからわかる。まぁ、客人が要るのに風呂入ってるとは思えないが一応ね。どっかのしずかちゃんみたいになんでそのタイミングで入ってるのっていうこともあるからね。特にえっちなラブコメだとね。

 まさか親の部屋には居ないだろうから、俺たちの部屋かな。

 

「お兄ちゃん……お兄ちゃん……」

 

 なんだ、なぜ俺が居ないとわかりきってるのに俺を呼んでいるんだ?

 しかも切なげな声で。

 まさか俺はもうすぐ死ぬのか? 実はこれは病院のベッドで見ている夢で、妹は死に際の俺を呼んでいるのか?

 

 様子をうかがうとどうやら、ベッドの上で少女漫画を読んでいるようだった。またか。

 うちの妹はスカートがシワになるからという理由で、下に何も履かない状態でベッドに寝転んで漫画や小説を読んでいることがある。Tシャツだけワイシャツだけパジャマの上だけとかだね。スカートのシワが理由ならパジャマの下を脱ぐ必要はまったく無いと思うんだけどね。

 漫画や小説がどういう話なのかは知らないのだが、だいたい読みながら俺を呼んでるんだよな。でも、それで呼ばれたかと思って行くと顔を真っ赤にして怒り出すんだ。どういうことなんだか、思春期の女の子はわからん。

 いつもは放っておくのだが、今は客人を待たせているからな。

 近づいても気づかないようなので、少女漫画のタイトルをチェックしてみる。

 モテモテ兄貴がすべてを見せつけてくるんですけど!?

 という題名のようだ。なにそれ。官能小説だったらブラコンの妹に彼女との性行為を見せつけて妹が寝取られ属性に落ちていくみたいな内容だろうけど、少女漫画だからそんなわけないし。

 

「ああ……お兄ちゃん……他の女の子とばっかり……ううっ、うっ」

 

 なんだ? どんだけ感情移入してんだ。本を読んでいるときの独り言にしてはやたらくっきり聞こえるよ。しかし、今呼んでいるお兄ちゃんというのは俺じゃなくて物語の登場人物なのだろうね。

 

「お兄ちゃん……お兄ちゃん!」

 

 片手で本を持ったまま、妹はびくんびくんと痙攣した。おいおい、大丈夫かよ!?

 

「おい、詩歌、呼んだか? 大丈夫か!?」

「うわあああああ!? お兄ちゃん、いつの間に!? ノ、ノックしてよっ!?」

「だからノックできないんだって」

 

 ノックするドアがない部屋の作りはお前のせいですよ。奥まった廊下だから壁しか見えないとはいえ、部屋は廊下から丸見えだ。同じく二階にある親の部屋にはもちろんドアがある。

 

「見られたらまずい状況だったのか?」

 

 一応相手も難しい年頃なので、聞いてみる。

 

「んな、んな、んなわけないでしょ~。お友達が来てるんだよ~?」

「だったら漫画なんか読んでるなよ……」

「仕方ないじゃん、あんなの見せつけられたら……我慢できなくなっちゃう……」

 

 ……甘い匂いにむせて出ていったのでは?

 どうもこいつの言っていることは要領を得ない。

 

「まぁ、いいや。飯出来たから、下履いてダイニング来いよ」

「あ、うん。手を拭いてから行くね」

 

 拭いてから行く?

 洗ってから行くの間違いでは? なんで漫画を読んでて手が濡れるんだよ。

 

 食事を終えると、後片付けは詩歌が担当してくれるということで、二人でお茶など飲みつつ目をキラキラさせている真奈子ちゃんにサインを書いて渡した。

 

 大事そうに持って帰っていく真奈子ちゃんを見送ると、俺も少し作家としての幸せを感じて、それを噛みしめる。本来伝えたいこととはまるで違うとは言え、読者が喜んでくれるのは嬉しいことだなあ。

 

 さて、次の本のコンセプトは姉妹丼にしようかな……。


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