女子小学生に大人気の官能小説家!?   作:暮影司

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しつこい枕営業の誘いは断って

 

賢者(さかひさ)くん、なんのよう?」

「俺に枕営業しない?」

「は?」

 

 俺は同じ専門学校に通う声優の卵、小江野忍琴(こえのおしごと)を久しぶりにランチに誘った。またしても唐揚げ定食だ。どうやら唐揚げのような油が多いものは喉に良いと聞いてるかららしい。

 

「声優といえば、枕営業だろ?」

「……」

「どうした、唐揚げが口に入ってないのに、口をパクパクさせて」

「いや、呆れ返ってモノも言えないという貴重な体験なんだけど」

「ふむ? でも小江野さんは、可愛いし、スタイルも抜群だから、確実に求められるよね」

「……」

「どうした」

「いや、ちょっと気持ちの整理が。ちょっと、待ってね」

 

 お味噌汁をゆっくりと飲む小江野さん。

 まさか?

 

「ひょっとしてすでに枕営業を?」

「ぶっ」

「ああっ、なめこ飛んできたぞ!?」

 

 もったいないから食べますね。

 俺は天丼と冷たい蕎麦のセットなので、蕎麦になめこ入れちゃう。

 小江野さんは、水を一口飲むと、俺を睨む。

 

「してるわけないでしょ!?」

「まぁ、そうか。小江野さんが枕営業したら、もう日曜日の朝のメインヒロインくらいは余裕だもんね。まだなれそうにないもんね」

「……ほんとに?」

「おっ、やっぱり枕営業しようと思ってるね?」

「……し、しないよ」

「悩んだね? 悩んじゃったね?」

「しない!」

 

 ぶすり、と唐揚げに箸を突き刺す。お行儀悪いですよ?

 わさびを蕎麦につけて一口啜るが、所詮専門学校の学食という味だった。やっぱり温かい方が無難だったか。

 唐揚げを一気に口に入れて、もぐもぐと咀嚼し終えた彼女は、ご飯を追いかけることも忘れて俺に質問してきた。ご飯余っちゃうよ?

 

「で? そもそもなんでキミが誘ってきてるの? まさかアニメ化したの?」

「いやいや、まさか」

 

 そんなわけがない。そもそも白い鳥文庫でアニメ化した作品なんて、十年で一つだけ。そういうレーベルじゃないのよ。

 

「ん~? じゃあ、ドラマCD?」

 

 ラノベとかだと、アニメ化の前にドラマCDが出るのはよくある。そのままアニメ化したときの声優にも抜擢されやすいよな。

 

「いやいや、まさか」

 

 ドラマCD化されてえー!

 もっと売れないと無理です。

 

「じゃあ、何の声を」

「いや、そうじゃなくてね、俺の小説の宣伝をラジオでして欲しくてね」

「ん?」

「タダでしてもらうのも悪いから、せめて俺の体を」

「どういうこと!?」

 

 大きな目を丸くした。二重のきれいな目だな~。

 

「いや、だからね。俺が枕営業しようかと。小江野さんに」

「な、なんでよっ!? 逆でしょ」

「逆ならいいんだね」

「そ、そうじゃないけど!」

 

 元気だなあ。

 こんなに元気な女の子とランチできるの嬉しいですね。

 枕営業してくれたらもっと嬉しいです。目指せアニメ化!

 

「ラジオで宣伝してくれるなら、俺は小江野さんに抱かれてもいいよ」

「なにそれ……」

「じゃあ、宣伝しなくていいから、抱いてくれ」

「な、なにそれ」

 

 彼女は慎重に紙コップの麦茶を飲んだ。

 俺も喉を湿らしておくか。

 

「まぁ、冗談はこれくらいにして」

「冗談だったの!?」

「そりゃそうだよ」

 

 蕎麦を四本ほどつまみ、ずるるっと啜る。なめこそば美味しいです。もっとなめこ飛ばしてくれないかな。

 小江野さんは恨みがましい目で、ごはんを口に運ぶ。唐揚げを食べてから時間が経ちすぎですけど、大丈夫ですか? もっとこう、口に唐揚げが入ってる間に飯を食ったほうがいいですよ?

 俺は回りをちらりと確認してから、少し前傾姿勢にする。

 

「本題に入るけどさ」

「なんで小声?」

「あんまり他の人に聞こえないほうがいい話をするからさ」

「いまさら? 散々してたと思うけど? 他の人に聞こえる声で枕営業なんて言わないでよ……」

 

 そうは言いつつ、耳を澄ませてくれる。優しいな。

 

「エロゲー、今度エロいシーンやるでしょ」

「な!? なぜそれを……」

「ふふふ、エロいシーンのないキャラクターが、ファンディスクでエロ解禁。よくあることです」

「よくあるんだ……」

「当然予約したよ」

「予約したんだ……」

 

 当たり前だった。小江野さんがエロ声優やってるゲームなんてやらないわけないじゃん。

 

「いや~、待ち望んでたよ」

「待ち望んでたんだ……」

「そりゃあね。小江野さんが声優やってるから、とりあえず買ったものの、やっぱり不満だったからね。アンケートハガキも送ったよ」

「そ、そんなことしてたの!?」

「どう考えても三人のヒロインより、小江野さんのキャラの方が声がエロいだろ、いい加減にしやがれくださいって書いて送ったぞ」

「うあー」

 

 目を><(こんなふう)にする小江野さん。感謝するがよい。

 

「っていうかさ、そもそも自分、言ってたっけ? 名前」

 

 小江野さんはラジオのときなど声優の仕事を本名で活動しているが、エロゲーでは名前を変えている。よくあることです。

 

下野雄梅(しものおしばい)だろ」

 

 本名をもじってるパターン。よくあることです。

 

「バレてる……」

「声聞けばわかるだろ」

「わ、わかるの」

「わかるよ」

 

 小江野さんはいかにもアニメ声といったキンキンした声ではないが、独特の甘さと色気を持った声をしている。見た目は太陽とかひまわりの似合うグラビア女優だが、声優としてはミステリアスな美女とか、ゴスロリ美少女とかを演じるといいんじゃないかな。

 なお、エロゲーをやるとしたら、調教されるキャラクターがベストだね。メイドでもロボットでも生徒でもいいんだが、とにかく調教したいです!

 

「調教はないけど、期待してるよ」

「ちょ、ちょうきょう?」

 

 小江野さんがエロ無しのエロゲ声優としてデビューしたエロゲーは、よくある学園モノだ。幼馴染と、ずっと憧れていた女の子。そして転校生の三人が攻略できるというゲームだった。

 下野雄梅が担当したのは、女教師の役だ。そのエロゲーに登場する女性の中では最年長だが、アフレコした声優の中では一番若かっただろうな。なんせエロゲーの収録に一八歳の女の子がいるわけだから。

 

「先生とえっち……小江野さんの声の先生とえっち……早く発売してくれ」

「ちょ、ちょっと……」

 

 恥ずかしがる小江野さん。ふうむ。

 

「ひょっとして、まだ収録してない?」

「う……台本はもらってる」

「ほ~。これから演じるってわけか……」

 

 わくわくが止まらないですね!

 海老天を半分かじって、ご飯を掻き込む。くふー!

 

「そ、そうなんだけど……」

 

 割り箸で唐揚げをつんつんさせる小江野さん。早く食べなさいよ。冷めてしまっては元も子もないんだよ?

 

「どうした? どうせあの先生だって、実は男性経験ほとんどないんだろ」

 

 エロい経験が少ないから自信がないと見た。

 しかしあの手のゲームのお約束として、だいたいああいう女性キャラは男性経験がない。非処女が童貞のユーザーに嫌われるという理由もあるだろうが、エロい女教師がそのままエロかったらつまらないし。「実は初めてなんだ、優しくしてほしい」ってお願いしてくる年上のセクシーな女性。いいですよね~。

 

「そう、なんだけど……」

 

 ころんころんと転がされる唐揚げ。そいつはそんなことのために生まれてきたんじゃない。食ってやれ。

 

「なんだ? 何を悩んでるんだよ」

「んー……」

「やっぱり恥ずかしいのか?」

「それは、だいじょぶ。ラジオでなれたから」

 

 そりゃよかった。

 エロゲー紹介のラジオパーソナリティをやってるから、エロゲーそのものには抵抗がないらしい。

 

「んじゃ、何が?」

「その、やっぱり、本当にしたことないから、嘘の演技になっちゃうなって。経験が少ないキャラでも、収録のときは、その、するわけだし」

 

 ほーん?

 俺は素直に思ったことを口にしてみる。

 

「しかしさ、別に殺人鬼役の声優だって人を殺したことはないだろうし、魔法少女役の人も魔法は使ったことないだろう」

 

 何でもかんでも経験したことがないといけないということもなかろう。レイプモノの官能小説を書いてる人だって、レイプはしてないだろうし。

 ましてやロリコンエロ小説を書いてる人は、ロリとえっちなことをしていない。してないよ!

 

「うん。でも、それは誰も経験がないから違和感がないの。もし唐揚げを食べたことがないのに、唐揚げを食べるお芝居をしたら浅い芝居になると思う」

「なるほど……」

 

 小江野さんはお芝居に対して真摯なご様子。すでにプロ意識があるのかな。胸と一緒で立派ですね。

 ようやく転がすのをやめて、ぱくり。

 

「この歯ごたえとか、肉汁の感じとか、にんにくとしょうがの風味とか、ご飯との相性とか。知らないのに演じるなんて」

 

 目を閉じ、唐揚げを味わい、ぱくぱくとご飯を食べる。美味しそうだ。

 確かに、唐揚げを食べたことがある人間が、食べたことがない人のお芝居を見たら違和感があるかもしれないな。

 イカ天を食べながら、こんなの食べたことなかったら想像もつかないだろうなと思う。歯ざわりとか、むちんとしてるよ。むちん、と。

 

「つまり、小江野さんはお芝居のために、経験したいということだね」

「そ、そうなんだけど、相手がね」

「……」

 

 ばくばく唐揚げとご飯を食べる小江野さんを、じぃ~っと見る。

 これは、ひょっとして、ひょっとするのか?

 

「じゃあ、枕営業はしないけど、俺の小説の宣伝をしてもらうお礼として、小江野さんのお芝居の手伝いをするというのはどうかな」

「そ、それはいいアイデアだね! ウインウインだね!」

 

 うんうん。小江野さんはご飯を口に入れたままお味噌汁を飲み干す。

 

「じゃ、じゃあ、明日はどう? ちょうど土曜日だし」

「うん、問題ない、ぜ」

 

 俺も天丼を口に入れたまま、冷たい蕎麦も啜る。味はよくわからん。

 

「じゃ、そういうことで」

「ん。じゃな」

 

 二人とも立ち上がる。

 同じ場所に食器を下げるはずだが、なんとなく別々のルートで向かった。

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