「くっ、殺せ」
俺がこれを言う日がくるとは。
「すぐに殺しちゃったら、つまらないじゃないですか」
妖艶な笑みを浮かべるあげはちゃん。今にもヒーローに戦闘員をけしかけそうだ。現在の格好は戦隊モノの女幹部にも見える。
「お似合いですよ、師匠……いや、
小学五年生の女の子が18歳の男を呼び捨てにするとか……いいですね。今度書いてみましょうね。いつも小説のことばかり考えてる俺、エラい! プロ! 早くプロになりたい!
なお、お似合いなのはむしろ彼女だ。露出が多く、胸と股間と膝から下だけが黒いレザーで包まれている。つけた耳は猫というより女豹を思わせた。
「賢者は、手錠が似合いますね」
嬉しくねえ~。
警察のことは思い出したくないんだよ!
そう、俺は今手錠をかけられている。手にも、そして足にもだ。
後ろ手に縛られ、正座させられている。しかもパンツ一丁で。なんでそんなことになったかって? しょうがないじゃん! 手錠を買っちゃったんだもの、あげはちゃんが!
「取材ですからね、取材」
「……」
あげはちゃんは取材と言っておけば俺はなんでも納得すると思っているようだ。パンツ一丁で手錠かけられた経験が、青い鳥文庫で活かせると思っているんでしょうか。
もっともあげはちゃんの書きたいものには役に立つのかもしれない。彼女はまったくエロくない官能小説を書きます。
「さて、何から使おうかなぁ」
「くっ」
アダルト極まりないお店で買ってきたアイテムを物色するあげはちゃん。
今は俺の部屋で、家族は誰もいない。さすがにこの状況を家族に見られたらそれこそ死ぬ。
家族がいないのはいいが、普段寝起きしている部屋に、SM女王の格好をしたJSがいるという状況だ。異常です。
「これかな? それともこれかな?」
手に取って、俺の顔を伺い、また次のアイテムを手に取る。ねずみをいたぶる猫のように。恐ろしい子……!
「これ?」
それはニップルクリップと言うらしいものだった。乳首に取り付けて、ぎゅっと締め付けるものだ。バラエティ番組で乳首に洗濯バサミを挟むやつがあるが、あれの本格的なものと思えばいいのだろうか。見た目は銀色のアクセサリーにも見える。
よくわからないが、痛い気がするので顔をしかめた。
そもそも乳首は女性は気持ちいいらしいが、男は別にね?
「ふーん、これで乳首を攻められたいんだあ~。とんだヘンタイさんですね~」
「くっ」
もう「くっ」しか言えなくなってしまったぞ。あげはちゃんの方が断然いいセリフを言っており、このままでは師匠としての威厳が!
しょうがない、ここは小説家の面目躍如といえるボキャブラリィに満ちた、文学的アプローチのリアクションをしてやろうじゃないか。
「こうかな」
「んほおおおおおおお!!」
無理!
無理だった。
「もうちょっとキツくしよ」
「んごおおおおおおおお!」
死ぬほど痛い。というわけじゃないのだが、未知の痛みのため悶える。
なんだよこれ。何やってんのマジで。
男の乳首を痛めつけて、何の利益があるのでしょう。この世にこれほど無意味なことがあったとは。
こんな意味のわからないことをして何が面白いんだ!?
「面白い」
面白いのかよおおおおお!
やってる方は楽しいんですかね!?
別にやりたいとも思いませんよ。乳首は舐めたほうがお互い幸せになれるのではないでしょうか!?
「さて次は」
「ええええええ!?」
この状態のままなの!?
乳首がぎゅーぎゅーされてるんですけど?
「お待ちかねのムチだよっ」
「くっ」
なんて嬉しそうにムチを振るっているんだ……沙織ちゃんとはエラい違いだ。なんかテンション上がってていつもと口調が違うし。目が輝いている。
ムチも競走馬用のものではなく、バラ鞭という先が何本にも分かれているもの。やはり見た目が違いますね。ボンデージの服装に似合うし、ムチを振るうだけでパシーンパシーンと音が出る。
今度、沙織ちゃんにもこの衣装を着て欲しいですね……。
「アゲハ様とお呼びっ!」
「あ、あ、アゲハ様ーっ!」
ノリノリのあげはちゃんに、バシーンと背中を打たれる。
打たれたが、んー……痛くないな。沙織ちゃんにやられたのに比べたら、全然大したことがない。普通の人もそうなのか、俺が沙織ちゃんによって調教済みなのか判断できないが。
「ほらっ、ほらっ」
「……」
なんだろう。音はパシーンパシーンと派手なのだが。物足りないような……いや、物足りないってなんだよ。俺はね、別にそういうんじゃないんだよ。
「痛い? 痛い?」
「んー」
痛くないんだよね。
痛くないのは良いことだと思うんだよ。痛いのは嫌だもんね。
じゃあ、この気持ちは一体……。
「ふふっ、賢者も興奮してきた?」
「うーん」
興奮しない。そう考えてみると、沙織ちゃんのときは興奮してる。
「もっと、力いっぱいやってくれない?」
「さ、さすがね、賢者」
引いてない?
そんなことないよね。
「うりゃー!」
「もっともっと」
「おりゃー!」
「うーん」
なんかもの足りないんだよなー。
「うう……」
ああっ!? ムチを振るう女王様が涙目に!?
これはこれで非常に魅力的なのだが、罪悪感がある。無罪なのにムチで打たれて罪悪感があるとか意味がわからなすぎる。理不尽。
「他のにしよ……」
「ごめんね……」
俺がすでに調教済みなせいで……。
しょんぼりしながら次のアイテムを探す。次は俺がちゃんと苦しむやつにしてね……。
「やっぱりこれかな」
「くっ」
王道……なのか知らないが、出てきたのはロウソク。これは嫌だ―。ちゃんと苦しむことになりそうだ。
「火つけて」
「くっ」
なんで自分を痛めつけようとするローソクの火を自分で着けなければならないのか。しかも手錠されてるのに。
「くっくっ」
「ついたついた」
ふー。後ろ手でライター使うの難しいぜ。小学五年生にライター使わせるのは危ないからね。俺がつけるのはしょうがないね。でも小学五年生がロウソクを使うのはいいんですか?
「専用の低温ロウソクだから安心、らしいです」
「……」
だから安心だね。とはならないんですよ。なおさら女子小学生が使ってはいけないのでは?
「んー。きれいな炎」
無邪気。
確かに赤いロウソクに火がついてるのはきれいだが。使い方がね?
「さて、まずは太ももから」
「くっ」
まじで「くっ」しか言えなくなってきた。これはよくない。さっき誓っただろ、ボキャブラリィだよ! 文学的アプローチだよ!
「俺は、俺はそのような理不尽な行為に屈しな……あああああー! あっつ! あっつ!」
「あはははは」
俺はあげはちゃんが喜ぶならなんでもしてあげたいと思っていました。撤回します!
確かに火傷するような熱さじゃないが、熱湯風呂ってきっとこういうやつだろと思う熱さ。
自分から足を入れるならまだしも、手錠で拘束されて正座しているときに、不意打ちで胸にかけられるのはたまったもんじゃない。
「次は背中かな~?」
「くっ」
結局「くっ」しか言えない。
「と見せかけて胸~!」
「あああああああ!」
「あっはははは! ふふふふ!」
マジで熱いのだが、あげはちゃんは大喜びだ。
今回は沙織ちゃんと同じようなことをしていると思っていたが、全然違うことが判明した。沙織ちゃんは基本的に怒ってるのだが、あげはちゃんは笑っている。
さっき俺がムチで平然としていたことを落ち込んでいたので、喜んでいただいてよかったが。
暴力的な行為をしているとき、怒ってるのと笑っているの、どちらが怖いかというと後者のほうが怖い。その方がヤバいからです。
「ほらほら」
「ぎゃー!」
肩にもだ!
首にも当たった!
熱いですよ!
「いい表情ですね、賢者……」
「くっ」
そう言うが、あげはちゃんこそいい表情だった。俺をいたぶるのが楽しくて楽しくて仕方がないと興奮しているご様子。ぺろりと舌なめずりをする態度がよく似合う。頭につけている耳も相まって、まさに女豹という感じ。
この顔が見れるなら、ロウソクくらい大したことは……
「あっ、顔にかけちゃった」
「あっちー! あー! あちー!」
頬にかかったロウ熱すぎる! 目にかかってたらどうするの!?
「あ、なんかカッコいい……」
「え」
頬に赤いロウがかかってカッコいいということか?
ふむ、あげはちゃんにカッコいいと言われるのは嬉しい。だったらうっかりロウがかかっちゃったくらいは許せるな。
「こっちにもかけた方がカッコいいな」
「ぎゃああー!」
なんてことをするんだ!?
右の頬を叩かれたら、左の頬を差し出しなさいと言ったやつはどうかしている。
「わー。カッコい……じゃなかった、ふん、賢者にふさわしい無様な格好ね」
言い直す必要あったのか?
さっきカッコいいって言ってくれてましたよ。俺は絶対忘れませんよ?
だが、芝居がかった態度の方がありがたいのはありがたい。素でこんなことやってたらヤバいからです。これは取材であり、お芝居ということよ。ただしロウソクは本当に熱いし、動くたびに手錠が痛いのよ。乳首は慣れてきました。
「さて次は」
「くっ」
次は何だ……何が来るんだ……?
あれ?
俺は意外にもワクワクしていた。
そのままは使えないが、この気持ちは小説に活かせるかもしれない。
SMの道具とかググって調べたりしたので、今Webを見るとそういう広告が出るようになっちゃったよ。