女子小学生に大人気の官能小説家!?   作:暮影司

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苦手なタイプに優しくされるとすぐ好きになる

 

渋谷百九(しぶやももく)ちゃん?」

「はい、先生のちょー大ファンなんです!」

 

 漫画ならじゃじゃーんと書かれそうな動きでご紹介してくれたのは、俺の小説の大ファンである清井真奈子(きよいまなこ)ちゃんだ。小学六年生の清楚系正統派美少女であり、年齢に似合わないDカップ巨乳の所有者。

 その真奈子ちゃんが紹介したいと連れてきたのが、渋谷百九ちゃん、らしい。

 俺の部屋に女子小学生(JS)がいるという状況もすっかり慣れたな。

 二人には俺のベッドに座ってもらい、俺はクッションの上であぐらをかいた。

 

「ちょりーっす」

 

 ちょりーっすだと……。

 ちゃきっと人差し指と中指をおでこに付けるポーズを見せた。派手なネイルが見える。

 

「ちょー大ファン、なの?」

「でーす!」

 

 そうは見えない……ちょー大ファンなら、本人を目の前にしてこんなに軽い態度になるだろうか。

 というか、そもそも小説を読むように見えない。ファッション雑誌以外の本を読むとは思えない。

 

「サイン、する?」

「あ、そういうのいいんで!」

「あ、そう……」

 

 なんなんだ?

 よくわからない人種すぎて、困惑する。

 彼女は茶髪のような金髪のような……イエローブラウンとか言うらしい……髪の色で、ウェーブのかかりまくったロングヘア。

 手足が長く、スレンダーで、浅黒い肌の色。

 目にはカラコンを入れ、まつげが明らかに長い。目つきからは強い意志を感じるが、基本的に笑顔のため印象は柔らかい。

 つまり……一言で言えば……ギャルだ。

 カワイイことは間違いないが、あまり俺の得意なタイプではない。なんか敬語で話しちゃいそうだし。

 

「小学生、なんだよね?」

「ですよー?」

 

 当然という顔をするが、本当かよ。確かに胸は真奈子ちゃんのように大きいわけではないし、背丈も真奈子ちゃんとあまり変わらない。それでも小学校にいるように見えない。今どきの小学校というのはド派手な髪やネイルを容認しているのか。

 服装もなんというか派手で、ところどころ肌が見える黒のトップスとシマウマみたいなスカートと茶色のロングブーツ。絶対小学校に行く格好じゃない。

 

「ほんとに、あの、真奈子ちゃんの、お友達なの?」

 

 まずそこから違和感がある。

 

「お友達です!」

「ん。ダチだよ~」

 

 マジなのか……。

 肩を組んで仲良しアピールする二人。確かに二人とも陽キャではあるが、二人が体育のときにペアを組んでいたり、修学旅行で同じ班になるイメージがわかない。

 

「昨日友達になったばっかとは思えないくらい、ちょー仲良しだから」

 

 昨日友達になったばっかなのかよ。

 真奈子ちゃんはうんうんと頷くと、ぴんと人差し指を立てた。

 

「いつものように、学校の廊下でメイメイを普及していたときのことです」

 

 え? 小学校の廊下で普及していた? なにやってるの真奈子ちゃん?

 ちなみにメイメイというのは拙書「我慢できない! メイドのメイちゃん!」の

略称だ。

 

「そうそう、またマナっちがいろんな人に声かけて本薦めてるな~って思って見てたんだけどさ~」

「あの、渋谷ちゃん?」

「渋谷ちゃんだって。ウケる。アタシのことはももきゅーでいいよ」

 

 ももきゅーでいいよと言われましても。呼ぶほうが恥ずかしいのですが。

 

「も、ももきゅー、ちゃんさ~」

 

 ハズいんですけど。

 

「ん。なにー?」

 

 当然のようなタメ口だった。全然違和感ない。むしろ敬語を使われたら困ること請け合い。俺も敬語になる可能性高し。

 

「真奈子ちゃんはいつもいろんな人に俺の本を薦めてるの?」

「そだよ? 会長だし」

「会長?」

「ガッコの部活、四十八小説同好会っての作って会長やってんだよね」

「なにやってるの真奈子ちゃん!?」

 

 初めて会ったJSをももきゅーと呼ぶことを上回る恥ずかしさが発生するの、早すぎるでしょ!?

 

「? 先生の小説を普及するのは当然です。読まないのは人生の九割を損してます」

「……ありがとう」

「どういたしまして!」

 

 真奈子ちゃんの目から伝わる信念が強すぎて何も言えない。恥ずかしいのは恥ずかしいが、嬉しいのも本当だし。

 

「そんでそこまで熱心に薦めるのなんでかなーって興味持ったんだよね。そんで表紙を見せてもらってビックリっていうか」

「そう、そこからが奇跡なんです」

「奇跡?」

 

 二人は「ねー」と微笑みあった。カワイイな……。正統派美少女JSとギャルJSの組み合わせ、意外と悪くないですね。その時、ふと閃いた! このアイディアは今度の小説執筆に活かせるかもしれない!

 

「アタシ、アニキがいんだけど」

 

 ギャルの兄か。

 すぐにグラサンつけて日焼けしたサーファーみたいなイメージが思い浮かぶ。苦手だわ~。

 

「アニキって結構マンガとかに詳し―んだけどさ」

 

 マンガ? 結構読むよ。ワンピとか。そんなイメージだ。

 

「マナっちが持ってる本をアニキが読んでんの見たことあったんだよね」

「そう、実はももきゅーさんのお兄さんがすでにファンだったんです!」

 

 ええ~?

 うそーん?

 似合わないんだけど?

 まぁ、本当の内容でいえば真奈子ちゃんにも似合いませんが。実は小学校で普及しちゃ駄目なのよ。

 

「で、そのこと話してさー、すぐにダチになったってワケ」

「びっくりでした。素敵なお兄さんをお持ちですよね」

「アハハ。で、家帰ってアニキに貸してーって言って。アタシが小説を読むって言ったらちょービックリしてた。ウケる」

 

 ああ、やっぱりももきゅーちゃんは普段全然小説とか読まないのね。

 ちょっと安心しているよ。

 

「で、読み始めたんだケド。そしたらイラストがちょーカワイイし」

 

 うんうん。

 桜上水みつご先生のイラストはちょーカワイイからね。

 まぁ、そのヘンはギャルでもわかるか。

 

「けっこー読みやすくてー」

 

 うんうん。

 そりゃ児童向け小説ですからね。当初は官能小説だったなんて信じられないくらい読みやすいよ。

 ギャルでも読めるなんて俺はスゴいなあ。

 

「ご主人さまもかっけーし」

 

 うんうん。

 ご主人さまはね、異常に人気あるからね。

 ギャルはイケメンが好きだよね。

 

「読んでるとなんかドキドキすっし」

 

 うんうん。

 みんなエロいことはわからないけど、なんかドキドキするらしいな。

 ギャルでもそれは同じなんだね。ギャルだからってエロいわけじゃないんだね。

 

「メイちゃんがさー。頑張るんだよねー」

 

 うんうん。

 すごく、熱のある言い方だ。

 

「ご主人さまとの関係もさ~、むず痒いけど応援したくなってさー」

 

 うんうん。

 すごく、表情が豊かだ。ほんとに応援してくれてる。

 

「で、二巻もすぐに読んじゃってさ」

 

 うんうん。

 普段全然小説読まないのに、一気に二巻も。嬉しいな……。

 

「マイもいいんだよなー。妹欲しくなった~」

 

 うんうん。

 マイのことも気に入ってくれたか……よかった……。

 

「二人ともさ~。いい子でさ~」

 

 う、うん。あれ? 泣いてる?

 派手なハンカチで目尻を拭った。

 

「ちょー面白かったよ。センセ」

 

 ……。

 満面の笑みで、俺の顔を見るJSのギャル。

 

「うをおおおおおおおおおお!」

「え? どしたし」

「先生、どうしたんですか?」

 

 オタクはギャルに優しくされると弱い!!

 今、実感!!!!

 めっちゃいい子だし!

 カワイイし!

 超褒めてくれるし!

 こんなの、こんなの、好きになっちゃう~!

 

「真奈子ちゃん」

「はい」

「ありがとう、普及してくれて」

「は、はい!」

 

 がっちり握手。

 

「ももきゅーちゃん」

「ん?」

 

 がっちり握手。しようとしたが、派手な爪が長いので軽く握手。

 

「ありがとう、感想くれて。嬉しかった」

「そお? よかったー」

 

 二人とも、にこにこしている。天使すぎる。 

 あげはちゃんのように、官能小説だと理解してくれるファンも嬉しいが、単純に面白いと言ってくれる女子小学生も嬉しい。読者が増えることも、紹介してくれることもありがたくてしょうがないよ。

 

「でも、さー。アニキが言うには、ちょ~っと違うんだよね」

「ももきゅーさん、ちょっと違うっていうのはどう言うことなの?」

「それがね、子供向けの内容じゃない、って言うワケ」

 

 む?

 兄貴?

 兄貴だからわかっちゃったのか。そりゃそうだよな。俺からしたらわかんないほうがどうかしてんだよ。

 

「それはおかしいですね。白い鳥文庫というのは子供向けのレーベルですよ」

「だよねー。だけどアニキが言うには、実は子供向けじゃないって」

「どういうことでしょう? ちょっと詳しく聞かせてもらえますか?」

「うん。アニキが言うにはね、肉欲っていう言葉の意味が違うって」

 

 あ、兄貴……!

 ももきゅーちゃんに言っちゃったの!? ほんとの意味を!?

 

「それは変なことを言いますね。肉欲なんだから、お肉を食べたいって意味しかないでしょう」

「うん。アタシもそう思うんだケド。子供ににはわからないって言うんだよねー」

「意味がわからないですね」

「だよねー」

 

 どうやら説明はしなかったようです。ホッとした。

 なぜだろう、あげはちゃんは本当のことを知ってていいのだが、ギャルには純真無垢なままでいて欲しいという気持ち。

 そこまで言われてもインターネットやAIに聞いたりしないんですよね、この子たちはね。

 

「でー、アニキが言うには、お仕置きも子供向けの内容じゃないって」

「どういうことでしょう。お仕置きっていうのは大人が子供にするのが普通なのでは。あまり大人の人がお仕置きされることは無いでしょう」

「だよねー。アニキはお仕置きのところが好きなんだってー。興奮するって」

 

 兄貴……!

 ももきゅーちゃんに褒められたのも嬉しいが、兄貴の感想も聞きたい!

 どんな人なんだ兄貴ー!

 見た目はきっとイケメンなんだろうけど、魂で繋がれる気がするね。

 

「むしろお兄さんは、どうしてメイメイと出会ったのかが不思議です」

「あー。それアタシも気になって聞いたー。別に他の白い鳥文庫ってやつは持ってないし」

「教えて下さいっ」

「なんかショッピングモールでたまたま見かけたんだってー! 絵を描いてる人のファンだったからビックリしたって」

「ふーん? イラストですか」

 

 真奈子ちゃんはピンと来てないようだが、イラスト目当てで買う方が自然だ。ましてや小学生でもない男が買うなら。

 

「メイちゃんに一目惚れしたんだって。ウケるー」

 

 ギャルはウケるのかもしれないが、メイに一目惚れして買ってくれるというのは極めて普通だ。そうじゃないほうがヘンだ。

 

「し、か、も。くふふ。そんとき、アニキったらそこにいた小学生からキモいからどけとか言われてすぐには買えなかったらしいよ! ちょーウケる!」

「は、はぁ……そうですか……」

 

 ……なんかこれ、知ってるな……。

 見てたというか……その小学生ってあげはちゃんのことでは……?

 だとするとアニキさんは……いや、それはないか。この妹と血がつながっているようには見えなかったからな……。

 日焼けした細マッチョと、アラサーアキバ系の顔が浮かぶ。絶対前者だろ……常識的に考えて……。

 

「しかも『どいてよそこの臭いブタ』って言われたのに、その娘がめっちゃ可愛い小悪魔みたいなJSだったから嬉しかったんだってー!」

 

 後者だったー!

 じゃあ、もうあの人だわ!

 ツイッターで「拙者、白い鳥文庫で抜いてしまった侍」とかつぶやきそうな人だわ!

 あんときの人かー。その後ちゃんと買ってくれたんだー。ありがとうございまーす。お互い、自分に似てない妹がいるんですねー!

 ギャルはげらげら笑っているが、正統派美少女は苦笑いだった。

 

「だからさー、アニキは大ファンだっていうケド、全然話が通じないんだよねー」

「あはは……なるほどなぁ。先生の小説は奥が深いから、人それぞれ魅力的な場所が違うんでしょうね」

 

 そんなに奥が深い作品だったのか……知らなかったぜ……。確かにあのお兄さんとこの妹さんが褒めてくれる作品はそう多くないかもしれん。

 

「まー、マナっちが好きなのはホントは作品じゃないと思うケドねー」

「な!? も、ももきゅーさん!」

 

 ぽかぽかと肩を殴るマネをする真奈子ちゃんと、ぺろっと舌を出すももきゅーちゃん。いいですね、仲睦まじいJSというのは。こんなんなんぼあってもいいですからね~。

 

「ジュースのおかわり持ってくるよ。二人とももうちょっとゆっくりしていってね~」

 

 俺は鼻歌交じりで階段を降りていった。

 




四人目の女子小学生が登場です!
新キャラを登場させるのはいつもドキドキですね。

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