「
元気よく開会宣言をしたのは、
「嬉しいんだけど、ちょっとやりすぎなのでは……」
なんせ真奈子ちゃんの誕生日ですら彼女の家だったのに、このパーティー会場は普段、結婚披露宴を行う場所だった。白いテーブルクロスがいくつも並び、そこかしこに花が飾ってある。天井にはシャンデリア、床は高級そうな絨毯。
普段着でここに居ていいのかと困惑するレベル。真奈子ちゃんは白いドレスを着ている。
「先生すみません、この程度で……私のパパ活じゃこの程度です」
「パパ活!?」
なんてことを!?
もっと体を大事にして! 俺の書いてる小説のキャラじゃないんだから!
「パパからお小遣いをもらうためにいろいろするんです」
「パパって……本当のパパってこと?」
「はい? 本当じゃないパパってなんですか?」
ですよね!?
そりゃそうですよ。本当じゃないパパってなんだよな? 意味分かんないよね!?
「ちなみに、いろいろって?」
質問したのは
「体を洗ったりとか」
「体を洗う?」
「ええ。お部屋はメイドさん達が掃除しますが、パパを洗う人はいないので」
そりゃそうでしょうね!?
「スポンジを使わずに、私の体を使って洗うとお小遣いが増えるんです」
「「ほう……」」
俺とあげはちゃんは、感嘆しつつ顔を見合わせる。これ、相手は実の父親だけどやってることはマジでパパ活だった。
他にも裸同然でマッサージをするなど、どうにもけしからんことをしていることが判明した。あどけない女子小学生を無知であることをいいことに、とんでもないやつだ。しかし。
「俺のために、そんなに頑張ってくれたんだね……」
それはそれとして、俺のためにパパ活してくれた人には感謝しなければならない。ただ金持ちの家に生まれたから手に入れたお金ではないのだ。
「いえいえ! 先生のためなら、たいしたことないです!」
たいしたことだと思っていないところがね。うん。でも、それをたいしたことだと思ってしまったら、俺ともいろいろやってることがわかっちゃう。教えるわけにはいきませんね。ただ感謝するのみ。
「早く、乾杯」
イライラした声で睨むのは、
「あ、ごめんなさい。それでは、かんぱーい!」
「「かんぱーい!」」
真奈子ちゃんの音頭で、みんながグラスを掲げる。
参加しているのは、俺を入れて八人。料理を運んでくれたりするスタッフの方が人数が多い。贅沢すぎるでしょ。
「センセ、おめ~」
「あ、ありがとね、ももきゅーちゃん」
ギャルらしい祝辞をくれたのは、この前知り合ったばかりの
「おめでとうございます」
「あ、ありがとう。マンガもありがとう」
続いて挨拶してくれたのは
「マンガのことは……」
「あ、ごめん」
どうやら内緒にしておきたいらしい。
指でしーっとされ、俺も両手をあわせてメンゴメンゴする。
「
そう言ってポンと肩を叩いたのは
「ようやく一九歳ですか。ふふん」
彼女の方が先に誕生日を迎えていた。少しだけ年上ということになる。プロポーションはTシャツとジーンズでもよくわかるほど大人だ。あいかわらず、すっご……。
「小江野さんがオトナ……いや最年長だね」
「な……そうだけど、なんかイヤな言い方」
ぷんぷん、と言いながら席に座った。ごめんね、ある意味一番オトナなのはあげはちゃんなんだ。これでみんなが一つの丸テーブルに着席している状態に。
数人のウェイトレスにより前菜が運ばれてきた。なんか野菜をジュレで包んだものだ。高級すぎるだろ。
「うわーっ、すごい、すごいねお兄ちゃん」
「お、おう」
大騒ぎしているのは妹の詩歌。中学一年生だ。俺たちだけ庶民感が生まれる。みんなナイフとフォークの使い方が上手なんですよね……。
「あ、お箸もらえますかー?」
と思ったら、小江野さんだけは箸をもらっていた。なおさら最年長感が出てしまいますね。
「さて、宴もたけなわではございますが」
真奈子ちゃんは、俺の左隣の椅子で司会を始めた。たけなわも何も、前菜を一口食べただけですよ。
「まずは、皆さんから三巻の感想を言っていきましょう」
「ええ!?」
感想をもらえるのは嬉しいが、こんな感じで言われるの!?
そもそも発売するのは来週なので、まだみんな読んでないのでは?
「みんなもう読んだの?」
「当然です。読み終わらないとパーティーには参加できません」
真奈子ちゃんは自信満々に言い切る。
「だってまだ発売してないよね?」
著者である俺には本が先に届いているので、詩歌は読める。あとマンガを描いた柑樹はすでに読んでいる。沙織ちゃんはマンガにする場所の相談のために、現行の状態で読んでいる。他の人は読めないはず。
真奈子ちゃんは優雅にナイフとフォークを置くと、口を軽く拭いてから、俺の顔を見る。ちょっと化粧してる?
「取り寄せました」
「取り寄せた?」
「印刷所から」
「印刷所?」
「株を買いまして」
「株!?」
「刷りたてを手に入れています」
「刷りたて!?」
だとすると俺より先に手に入れているのでは!?
「この前、ももきゅーさんを紹介したときにはまだ五回しか読んでいませんでしたが、もう三十回は読んでいますから準備万端です!」
「はあ!?」
「皆さんにもとっくに渡してます」
そう言って作者にドヤ顔を見せた。何をしているの真奈子ちゃん!?
っていうかツッコミどころが多すぎてどうしていいかわからん!
「ちなみに、本だけじゃなくて書店用のマンガも手に入れています」
はえー。
しかしウマいなこのジュレ。
もうツッコミしててもしょうがないから、食べ物に集中しちゃうよ。
「そうですね、先にマンガの方からレビューしましょう」
レビューって……。まぁ、真奈子ちゃんだから大丈夫か。ワオ、あ~んしん。
「はっきりいって、マンガはダメダメです」
「えっ」
まさかの辛口でビックリしてしまう。
俺が言うのもなんだが、彼女は俺に対して全肯定しかしない。
そんなことより……
「……」
マンガを描いた本人、柑樹がそこにいるんですけど……。
カラフルな野菜を突き刺したフォークがピタッと止まっている。
「文章で表現されている情報量に比べて、マンガ表現は陳腐と言わざるを得ません」
いや……明らかにマンガの方が繊細な表情になってるんですけど。俺の描写はエロいことをエロく思わせないことに注力しているから、表情とか動きとか基本的な説明が足りてないんですけど。
柑樹は悲痛な顔をしている。ドリンクではなく、水を飲んでいる。
「ご主人さまの顔がなんかヘンですし」
いや……お仕置きと称してメイドの首筋を舐める顔としては、完璧だと思いますが……。ご主人さまの顔なんてどうでもいいから俺は書いてないけど。
柑樹はちびちびずっと水を飲んでいる。可哀想に……。
「メイの顔もなんか違うと思います」
いや……好きな人にお仕置きという理由で体を舐められるという、うれしはずかしくすぐったい顔だったよ。アヘ顔にはならずにちゃんと可愛かったし。そのへん俺の文章では全然描写できてないしな。
っていうか俺の小説は大丈夫ですか? 心配になってきました。
俺より柑樹が心配ですが。今すぐ抱きしめてあげたいです。
「まぁ、そもそもチョイスがどうかと。三巻は面白いポイントがいっぱいあるのに、なんであのお仕置きのところなんだか」
そこもダメ出ししちゃう!?
そこを選んだのは……
「真奈子はわかってない」
怒っている……というより静かにブチギレているような声。当然だ、沙織ちゃんが選んだわけだから。
真奈子ちゃんは反論があるとはつゆ程も思っていなかったようで、キョトンとしている。
「あのマンガは完璧だった。メイは可愛いし、ご主人さまもかっこよく描けている。二人の関係が伝わるようで、かつ謎がいっぱい残って続きが気になるマンガになっていた。ちゃんと小説を読んでみたい気持ちにさせる効果がある」
沙織ちゃんの大絶賛だ。でも俺もそう思う。しかしそんなことより、柑樹が気になる。普段ポーカーフェイスなのだが、生き返ったような顔をしている。さっきまで土気色だった顔には赤みが戻り、食欲も戻ったようで、パクパク食べ始めた。多分味はわかってないな。
「ぼくはマンガを全然読んだことないけど、とても上手だと思ったし、すっごく絵も素敵だと思う」
柑樹はバクバク食べて、パンもバクバク食べている。相当嬉しいんだな、あれは。
「缶じゅーすって名前の人だったけど、すっごく好き。他の作品も見てみたい」
沙織ちゃんがここまで褒めることがあるんですね!?
俺は全然褒められないのですが!?
柑樹、泣いてない? 嬉しすぎて泣いてますね?
「ふーん、そうですか。原作の方が少なくとも五億倍くらいいいと思いますけど」
真奈子ちゃんは過剰に俺を褒めてくれるが……。
「マンガの方が二兆倍くらいいいです」
沙織ちゃんは異常に俺に厳しいが……。
どっちも褒めるという選択肢は無いのでしょうか?
あげはちゃんは優雅にぶどうジュースを傾けている。自分が一番理解しているという自信に満ちた、高みの見物スタイルだ。
真奈子ちゃんと沙織ちゃんはバチバチと目線から火花を散らして竜虎相打つ、という様相を呈し、真奈子ちゃんはぐるりとテーブルを見回した。他の人の意見を聞くのだろう。
「瀬久原さんはマンガについてどう思いますか?」
「ふえっ!?」
びっくりしすぎて可愛らしい声を出してしまった柑樹。頬は赤いままだが、目はぐるぐるしている。
「そ、そのですね」
俺の顔をちらちら見てくる。自分で描いたものの感想を言うのだから難しいだろう。ましてや大絶賛している人と、ボロクソに言ってる人がその場にいるという状況。がんばれーという気持ちで見ることしか出来ない。なんと無力な俺。
「えと、原作はもちろん素晴らしいのですが、マンガはマンガの魅力がある……といいな……なんて」
「ぼくはマンガの魅力、すごくあると思う」
「……えへへ」
「なんで瀬久原さんが照れているのかしら」
よかったね! よかった~という気持ちで柑樹を見る。俺も褒めたいぜ。
「ま、マンガはいいでしょう。そんなことより小説を褒め称えないと!」
真奈子ちゃんはとにかく小説を褒めてくれるらしい。誕生日プレゼントのつもりなのかもしれないな……。
「はい、じゃあまずは小江野さん!」
「へ?」
小江野さんはフォアグラを乗せた丼をかっこんでいた。そもそも白米は俺には運ばれてきていない。勝手に注文したらしい。
「感想を」
「……とっても美味しいです」
全然聞いてなかったようです。料理に夢中なのよ。美味いからね。しょうがないね。
俺も和牛フィレステーキにフォアグラが乗ってるなんて初めて食べるからね。味わいたいよね。
「料理の感想なんてどうでもいいんです! もう、じゃあ、しーちゃん先輩……はどうせアレだから……」
どうせアレ。
ついにうちの妹はどうせアレ扱い。
アレは別に傷ついた様子もなく「わたしもご飯くださーい」と手を上げていた。
「ももきゅーさん!」
「え? アタシ?」
やたらカラフルな
「アタシはさ~、この前一巻を読み始めたばっかだし、三巻も一度しか読んでないからみんなと比べたら全然わかってないと思うんだけど~」
普通はそうなんだよ。何度も読んでくれるのは嬉しいが、別に一回で十分だよ。
「今回はメイド長のフミが出てくんじゃん? フミはけっこー厳しいことも言うけど、メイのこと大好きってわかんだよね」
さすがももきゅーちゃん。わかってくれてますね。うんうんと頷く。
「でもさー、やっぱご主人さまとメイの方がラブラブでいて欲しいっつーか。だからフミにジェラって欲しかったんだよねー。女だからって恋敵になんないと思いこんでるんだとしたら、ちょっとビミョーかな」
……目からうろこなんですけど。このギャルを編集担当にした方がいいのでは?
確かにそういう描写を入れたほうが盛り上がるぞ。
肉食ってる場合じゃねえ、メモだ、メモ!
「も、ももきゅーちゃん、他に思ったことは?」
「んー。アタシそんなによくわかってないと思うケド~。フミがメイを気にかける理由がもっとあったほうがいいかもって。昔メイのお母さんに可愛がられてたーとか」
「おおお!」
わかってるのよ!
ある意味、あげはちゃんよりわかってるよ! あげはちゃんは俺が書いたままを理解しているが、ももきゅーちゃんは俺が書くべきだったものを教えてくれている。
これは最高の誕生日になりそうだ。