「さて、次はどちらからいきますか」
MCの真奈子ちゃんが、沙織ちゃんとあげはちゃんの二人の様子をうかがう。どうやら自分という選択肢は無いらしい。
「じゃあ……あげはがいきます」
おずおずと手を挙げるあげはちゃん。
みんな勇気を振り絞っているご様子。そうだよね、なんかもう今の流れ的にプレゼントを渡して終わりって感じじゃないもんね。
サプライズされる側の俺よりみんなドキドキしちゃってるんだよね。
「では、師匠。着替えて来てください」
「えっ、俺が着替えるの」
ここまでの経緯を考えると、コスプレ的なものは当然のように受け入れられるのだが、まさか俺がするとは。
こちらも着替えないと成り立たないとは一体……?
しかし箱を開ける前にプレゼントの中身を聞くなんて野暮なことはできない。
「あげはも着替えます」
あげはちゃんも着替えるんですね?
手を振りながら部屋を出ていった。これからどうなるのか……検討もつかない。いや、検討もつかないなんて作家として恥ずかしいな。
そうだな……あげはちゃんが男装してきて、俺が女装して、TSプレイが始まるっていうのはどうだろう。うん、別に俺が嬉しくないです。駄目だ、俺は作家失格だ。
呆然としていたら、俺の手が小さな手で包まれる。
「先生、先生が着替える部屋に案内しますね」
真奈子ちゃんは司会進行だけでなく、俺が着替える部屋までの誘導なども行うようです。働きものだなあ。
手をつないで、廊下を歩く。
「おトイレ大丈夫ですか?」
「あっ、大丈夫です」
「……先生、なんで敬語に?」
「えっ、なんとなく」
だって手をつないで歩きながら「おトイレ大丈夫ですか?」って言われたら敬語になっちゃうじゃない。なっちゃうよね?
「はい、こちらです」
「……え?」
中に入る。普段結婚式場として使われるだけあって、着替える部屋としては何もおかしくない。タキシードならおかしくないし、パーティードレスでもおかしくない。しかし、これは明らかにおかしい。そもそも
困惑しきりの俺を見て、真奈子ちゃんは「はい、着替えましょうね~」と俺のシャツのボタンを外し始めた。普段自分が着替えさせてもらうことが多いお嬢様だからか、人を着替えさせることにも抵抗がないらしい。
俺はどうかって? 真奈子ちゃんに対して抵抗力がないです。ナスがママ。きゅうりがパパです。催眠術なんか使わなくても言いなりなんだよなあ……。
「はい、ばんざーい」
「ばんざーい」
「はい、ズボン脱がしますねー」
「はーい」
なんで着替えさせてもらっているのだろうか。それは自分で着替えるにはあまりにも抵抗があるからだろうか。おそらく、これは誰もが自分で着替えるものではないからだ。着替えさせてもらうのが当然の衣装だからだろう。
「はい、寝っ転がってくださーい」
「はーい」
「パンツ脱がしますよー」
「はーい」
「いい子でちゅね~」
真奈子ちゃん……上手すぎでは? 妹や弟はいなかったはずだが……。
「お手々あげてー」
「はーい」
この衣装なんだよ……このデザインでこの大きさの服。どこで用意したの……?
いや、今更この程度の些末な疑問などどうでもいいだろう。気にしない、気にしない。
「じゃ、行きましょうね~」
「は~い」
「おトイレ大丈夫ですかー?」
「あっ、大丈夫です」
元々いた場所に戻るだけなのだから、もう手を引いてもらう必要はないのだが、もはや自分一人で歩こうなんていう気はさらさらなかった。というか、自分の脚で歩くことすら違和感がある。なんで俺は二足歩行なんてしなきゃいけないんだ。
「先生戻られました」
「ざわ・・・」
俺の登場に、みんなざわついた。なにか特定の言葉ではなく、ざわ・・・ざわ・・・という感じ。おかしいな、俺はギャンブルとは真逆の世界にいざなわれるんだと思うのだが。たぶん。
「ししょ……
「ばぶ」
当然、当然だが、俺は「ばぶ」しかない。他の選択肢があるわけない。
俺が最初に履いたのはおむつ。その後、ロンパースを着せてもらった。そしてあげはちゃんはエプロン姿。ここまでくれば説明は不要です。
「おかあさんでちゅよ~」
「ばぶ~!」
ハイハイであげはちゃんの元へ。要するにあげはちゃんのプレゼントは「赤ちゃんプレイ」ということだ!
この発想はなかった。なぜなら俺は官能小説家を夢見ていた男。性欲の一切ない世界については性癖が無かったから。このプレゼントは今まで俺になかった価値観、発想、引き出しをくれようとしているのだ。さすが弟子!
「ばぶ!」
「いい子でちゅね~」
これが……赤ちゃん……俺は……赤ちゃん……。
このプレイが俺を作家として一つ上のステージに押し上げるんだね。
「え、けっこーカワイイかも」
ももきゅーちゃんがときめいている。当然だ。俺は赤ちゃんなので、カワイイに決まっている。
「先生、かわいいです!」
真奈子ちゃんが大興奮している。当然だ。赤ちゃんの俺だよ?
「きも!?」
ただ一人、妹だけがドン引きしていた。お前は何もわかってない。いつもお前だけが何もわかっちゃあいないんだ。
「おいでおいで」
「ばぶー」
自分の体の体重の半分もない母の元へ。
膝の上に頭を乗せると、手で撫でてくれた。
「よちよち」
「ばぶばぶ」
しかし、母性は本物ですよ。あげはちゃんは私の母になってくれたかもしれない女性だ!
だが。だが。
「ばぶ!」
「賢者くん、どうしたの?」
「バブー!」
「あー、ママのおっぱいが小さいから怒っているのね?」
小さいというか無いんだよ!
胸のない母とか……いや、いいのでは? それはそれでアリなのでは? どうやら視野狭窄に陥っていたようですね。
「ばぶ」
「許してくれるの? 優しいな……」
「ばぶ……」
胸がなく、体が小さく、まだ子供と呼ばれるような少女に。俺は全身全霊で甘えて、体も心も包み込まれる。これが癒やしでなくて何なんでしょう。これを尊いと言わずして何が尊いのでしょう。愛です。これが愛なんです。決して通報されるような事案ではないんです。
「いないいなーい、ばー」
「きゃっきゃっ」
面白すぎる。こんなに面白いコンテンツがこの世にあったとは。いないと思ってたのに、いたんだぜ? やばすぎる。抱腹絶倒。
「いないいないいなーい、ばー」
「きゃっきゃっ」
「いないいないいなーい、ばー」
「きゃっきゃっ」
誰もいないと思ってたら、いっぱいいた! 面白すぎだろ。超楽しい。最高。語彙力……赤ちゃんプレイは語彙力を奪う……というか思考力も奪うぞ……。脳が、脳がとろけていく……。
「こっちおいでー」
「ばぶ」
ガラガラを振りながらママが後ろ歩きを始めた。ハイハイで追いかける。ママ……いなくならないで……ママ……。
「こっちこっち」
「ばぶー」
どうして逃げるの……やだよ……。もうゴールしてもいいよね……。
「あんよが上手、あんよが上手」
「ばぶ……ばぶっ!」
届いたっ……ごぉるっ……!
「上手でちたね~、いいこいいこ~」
もうこの膝の上から動きたくない。一生。もう一生このままがいい。
いい匂い……温かい……気持ちいい……これこそが天国ではないか。天国というのは死んだ後に行くところじゃない。生まれてすぐのときこそが天国なのだ。
さらに言えばこれは悟りではないか。一切のこだわりを捨て、ただあるがままに生きる。欲望に負けることなく、ただ生の喜びを味わう。
天国とは、悟りとは、赤ちゃんと見つけたり!
人生に迷った時、生きることに悩んだ時、するべきことは赤ちゃんプレイなんだよ!
「ばぶばぶ……」
「きれいな目……」
どうやら俺の心が浄化されたようですね。俺はもう邪念がないからね。
「あげはちゃんはおっぱいがないから、小江野さんのおっぱいを吸う?」
「ばぶ!?」
「目が濁った……」
おっと……俺としたことが……俺は赤ちゃん……俺は赤ちゃんだ……。
邪念を消せ。ただ小江野さんのおっぱいを吸うだけ……あの大きな……おっぱい……。
「先生の顔が赤ちゃんじゃなくなっちゃったので、そろそろ終わりましょう」
「ばぶ……」
あげはちゃんの誕生日プレゼントが……くそ、俺が赤ちゃんとしてちゃんと出来なかったばかりに! 精進が足りない! おっぱいを性的なものではないと認識してキラキラした目で見れるように特訓しなきゃ! 小江野さんと!
「あとこれもプレゼントです」
「ばぶ……ばぶーっ!?」
赤ちゃんにアダルトグッズを渡すなんて何を考えているんだ! けしからんバブ!
「先生、もう赤ちゃんは終わりです。3.2.1、ハイ」
「はっ!?」
真奈子ちゃん、正気に戻すのなら、着替え終わってからにして欲しかったのですが!? この格好で冷静になるとキッツいですよ!? すみませーん、撮影はやめてくださーい! カメラしまってくださーい!
俺を守るように真奈子ちゃんが俺の手を握る。スーパーに買物に行ったときは立場が逆だったのに、逆転するまであっという間でしたね……。
「はい、着替えに行きましょうね」
「うん……」
「おトイレ大丈夫ですかー?」
「あっ、大丈夫です」
こうしてあげはちゃんの誕生日プレゼントを貰った。次はおそらく沙織ちゃんだ。俺がバブバブ言ってる間、一言もしゃべらずに緊張していたからな。一体、何をしようとしているんだ……まさか死なないよな……。
わたしも赤ちゃんプレイくらいしておかないとこれ以上の成長が見込めないかもしれません。
これを読んでいるカワイイ女子小学生でお母さんをやってくれる人を募集します!