そうだね、フードコートだね。
こういうところの醍醐味ですよ。家族で来た場合、回転寿司かフードコートになるじゃないですか。
どっちがオススメかっていうと、ショッピングモールだったら断然フードコートでしょ。
だだっ広い空間に、多種多様なテーブルと椅子があり、家族連れを中心に多くの人がごった返している。
その入口で俺は、ドヤドヤのドヤ顔でご紹介。
「真奈子ちゃん、これがフードコートだよ」
「ふ、フードコート!? な、なんですかそれは!?」
「あそこにいっぱいお店があるよね」
「はい、いっぱいあります」
「あの中から好きなものを買ってきて食べることが出来る。それがフードコートだよ」
「えっ、好きなものを……? これだけあるお店からなんでも好きなものを買ってきて食べていいってことですか……!?」
「そうだけど?」
「す、すごい、すごすぎます!」
あれ、俺また何かやっちゃいました?
お嬢様をフードコートに連れてくるのは、異世界で無双するのと同じ感じだということがわかったよ?
気に入ってもらったが、ここからが重要だ。
「で、でもどれを食べたらいいのか……知らないお店ばっかりで……」
そう、フードコートは食べるところであり、食べるものは決まっていない。
特定の店のものを買うことももちろん可能だし、それぞれが好きなものを買ってきて持ち寄るのもアリだろう。
だが、彼女は初めてのフードコート。俺がエスコートしなければなるまい。
「よければ俺が買ってくるよ」
「あ、はい。お願いします」
フードコートで食い物を買ってくるだけなのに、ここまで感謝されることがあるだろうか。いや、ない。
この期待に応えるためには、フードコートならではのラインナップにしなければ。
フードコートの各店の看板を見回す。
ハンバーガーショップにフライドチキン、さぬきうどんに長崎ちゃんぽん。この辺はフードコート以外でもよく見かけるチェーン店だ。
カレーライスの店とハンバーグの店、それと餃子がメインの中華料理。この三店はちょっと専門的な感じだな。値段も普通の店のランチの価格帯だ。
ラーメンは豚骨系とボリュームのあるタイプの二店。スタミナたっぷりのラーメンは、女性には普段お店では食べられない量ということもあり、母と息子で一つのラーメンを食べていたりする。
他にたこ焼き屋、アイス、ドーナツといったサイドメニュー系の店もある。
とりあえず冷水機で水を汲んで、テーブルを確保だ。油断していると場所が取れなくなるからね。
「さて、どう組み立てるかな……ファーストフード系かそれともがっつり系か……」
「かっこいい……軍師みたい……」
真奈子ちゃんは俺の背後に白い羽で出来た団扇を持つ軍師が見えたようだ。これは食べる順番まで考慮しなければなるまい。
「真奈子ちゃんには初めてのフードコートを楽しんでもらいたいから、ここはやはり……」
「ああ……すごく考えてくれてる……好き……」
フードコートは、それぞれが好きなものを持ち寄って、思い思いのものを食べるというのが基本のスタイル。
そして応用編とも言えるのが、シェアだ。普通は許されない、一人前だけ買って二人で食べるという行為。
多くの店のものを食べるという意味で、やはりシェアしかあるまい。
さっきの親子のように大盛りを分けるというのもあるが、ニンニクマシマシなラーメンやカツカレー……喜ぶような気もするが、やはり同じものを分けるより、いろいろなものを味わえた方がいいだろう。
きっとお嬢様の女子小学生の胃袋はそれほど大きくない。
何をシェアしていくか……。
「そうだな……真奈子ちゃん、たこ焼き、好きかい」
「たこ焼き……食べたことないです」
「フッ……じゃあ、食べてみようか」
「はい……♡」
関東風の揚げたこ焼きを買ってきた。
次の店は二人で並ぶことに。
「ここはハンバーガーショップだよ」
「えっ、たこ焼きとハンバーガーですか?」
「フッ……ハンバーガーは買わない」
「ええっ!?」
「フライドポテトとドリンクだけ買うんだ。このアプリのクーポンを使ってね」
「あ、あぷりのくーぽん……!?」
「これでドリンクのMをLに、ポテトもMからLに出来るってこと」
「そ、そんな魔法みたいなこと……」
「あ、すみません。ポテトですけど、塩抜きで」
「えっ、塩抜き……!? なんでですか、お塩があった方が美味しいんじゃ……」
「フッ……ポテトの賞味期限は五分しかない」
「ご、五分!?」
「絶対に揚げたてを食べる必要がある。そのための塩抜き」
「どういうことなんでしょう」
「作ったポテトには塩がふってある。そこで塩抜きを注文すると、新しく揚げるしかない。つまり……」
「はっ!? 出来たてになるということですか!」
「フッ……そういうこと」
「す、すごい……すごいですっ! さすが先生ですっ」
もうね、俺くらいになると、フードコートのハンバーガーショップで注文するだけでこれですよ。普通だったら学校同士の魔法スポーツ対決でメカニックとして大活躍してようやくこの反応だと思うね。
「さっ、急いで座ろう」
「はいっ」
そそくさと座る。
早く食わないとね!
「まずはそのまま、塩無しで食べてみて」
「はいっ」
「うん……うん」
「あっ、美味しいです!」
うん。ほんと出来たては美味い。
特に、このふにゃふにゃになってるやつ、美味い。
「そして次は塩……じゃなくてケチャップなんです!」
「ケチャップ!」
ケチャップを貰っておいて、ポテトにつけて食べる。
これは基本でしょ。
「あっ、美味しいです~」
間違いない。
これはお嬢様でも、いや、お嬢様だからこそ美味い。
品のいいポテトも美味いが、これは別物だからね。
「さらに……このたこ焼き」
「いい匂いです」
「ソースと、マヨネーズ。多めにかけてもらってる。つまり……?」
「ま、まさか!? ポテトに!」
「フッ、そういうこと!」
俺はポテトにマヨソースをつけて、真奈子ちゃんに差し出す。
彼女は驚いたが、意を決してパクついた。味の想像がつかなかったんだろうね。
「はう……」
あまりにも美味すぎたのか、目を閉じて天を仰いだ。……そこまでか?
でもね、ポテトにつけるものなんてなんぼあってもいいですからね~。
「飲み物……あっ、しまった!」
やっちまった!
つい、妹と同じ感覚で……。
「ど、どうしたんですか先生」
「ドリンク、一つしか買ってないんだ……いつもの癖で」
「えっ、いつも一人でいらっしゃるんですか?」
「違う違う、ポテトと一緒で妹とシェアしてるんだよ」
「……えっ?」
「ほら、ポテトもLだと十分たっぷりあるから二人で食べられるじゃない」
「はい、そうですね」
むしろ一人でLなんて食べられない。賞味期限の五分を超えてしまう。
「コーラもLだと十分なんだよ……詩歌はそんなに飲まないし。だから二人で飲んでるんだよね」
「なるほど」
「でも、真奈子ちゃんと同じコーラを二人で飲むのはマズかったよね、ごめん、もう一つ買ってくる」
「いえ! 私もそんなに飲みませんし! ちょうどいいです!」
「でも……」
「ごくごく!」
「えっ」
「どうぞ! 飲んでください!」
「うん……」
「はい、すぐに私もごくごく!」
そんなに飲まないって言ってたのに立て続けに飲んでるぞ。
「あ~。おいしい。こんなに美味しい飲み物は生まれて初めてです」
「あ、そう。よかった」
俺は詩歌で慣れているから気にしないが……お嬢様だから駄目かと思っていた。衛生的もだし、マナー的にも。
なんにせよ喜んでくれてよかった。
こんな感じで、ポテトを堪能し、たこ焼きを食べ、その後で32種類のアイスを売ってる店でカップのトリプルを一つだけ買い、二つのスプーンで食べた。
この体験は小説に活かせることだろう。
たこ焼きとポテトを女体盛りして食べてから、今度はアイスを載せてどろどろのベトベトにして上半身から下半身に向かってペロペロと……間違えた、官能小説じゃなかった。
ご主人さまとメイが、お出かけしたときの話だった。
いつもは料理を用意する立場と、食べる立場に分かれていて、一緒に食べることはない。ましてや同じ皿に乗った料理を一緒に食べるなんて。これだな。うんうん。
「ごちそうさまでした」
「足りた?」
「ちょうどよかったです」
やはりもやしとチャーシューと太い麺を食べさせなくて正解だった。あれは詩歌と来たときに食おう。
「次はどこに行くのかな」
これから行く場所にも期待大のご様子。
意気込んでどこかへ、というところでもないが、行ってみたいところがちょうど向かいに見えた。
つやつやのロングの黒髪。
清楚でおしとやかで、純真でいい子で。
小学生にしては胸の大きな、正統派の美少女。
そんな真奈子ちゃんと、一緒に行ってみたいところだ。