「はい、あなた」
「あ、ありがとう……」
真奈子ちゃんから大きなグラスに入った青いドリンクを受け取る。氷がたっぷりと入っていて、フルーツで飾り付けられ、ストローもついている。冷たくて美味しそうだ。
大きなビーチチェアで足を伸ばすと、水着姿の真奈子ちゃんが寄り添って座った。少しだけ肌が触れるのが心地よい。
ボコボコボコボコ……ぷかぁ~
ボコボコボコボコ……ぷかぁ~
露出度多めのメイド服を着た柑樹は水タバコを作っていた。
何度か煙をぷかぷかさせて、調整している。
吸口を渡された。もちろん口をつけた部品を交換することなく。
「旦那様、お味見を」
「う、うん」
ボコボコボコボコ……
口に煙を遊ばせて、吐き出す。
「あー、マンゴーかな」
「はい、マンゴーとグァバ、それにハニーのフレーバーです」
「へえ、いいね~」
ドリンクをちうーと吸い、煙をもこもこ吐く。どっちもおいしい。
柑樹は大きな葉で作ったうちわを仰いでくれる。涼しくて気持ちがいい。
俺は、寝そべりながら、真奈子ちゃんの頭を撫でると、くすぐったそうに目を閉じた。とても可愛らしい。
「あなた……幸せね……」
「ああ……」
足を組んで、ゆるやかな波の音に耳を澄ませる。
白い砂、青い海。さんさんと降り注ぐ太陽。
南国風の贅沢なドリンクに、水タバコ。
そしてきわどい水着姿の女子小学生と、メイド服を着た女子高生。
うーん、トロぴかってる~!
何も言うことはないね!
一生、ここで生きていこう!
「って、待て待て待てーい!」
「ど、どうしましたか?」
「旦那様、落ち着いて」
「柑樹、まずその旦那様ってなんだよ!」
「旦那様は旦那様です」
「そうですよ、あなた」
「真奈子ちゃんがそんなふうに呼ぶからでしょ!」
「じゃあ……ダーリン?」
「そういうことじゃねー!?」
俺は水平線に向かって叫んだ。
意味がわからなすぎる!
結婚を考えろというわけのわからないオーダーは受けていたけれども、もちろん無視したわけですよ。
なのになんで勝手に旦那様だの、あなただの呼んでるんですか!?
もはやキャンプを越えてハネムーンなんですよ! 南国リゾートで夢のバカンスなんですよ!
そりゃ最高かもしれんが、わけがわからなすぎて不安しかないだろ!
「ちょっと、柑樹さん。こちらに」
「はい」
手招きして、二人で岩陰に行く。
柑樹に問いただす。それしかない。
「あのね、この状況はいったい」
そう切り出すや否や、短いメイド服のスカートをこちらに向ける。
「お尻触りますか?」
「触ります」
「あーん」
さわさわ……やっぱり触り心地は最高だな……。相変わらず柔らかい尻だ。メイド服のスカートの下から手を入れてぱんつ越しに触るのが一番ですよ。
お尻さえ触っていたら、他のことなんてどうでも……はっ!?
「じゃなくてだね、今のこの状況」
「胸触りますか?」
「触ります」
「いやーん」
あぁ……おっぱいって、いつ揉んでも最高ですよね。手にちょうど収まるBカップ。
直接触りたい気持ちはあるが、あえてメイド服の上からというのがいい。
後ろから抱きしめるように揉みしだくと、もう他のことなんてどうでもいい……と思っていたら、すっと離れた。
「じゃ、そういうことで」
「あっ」
すたすたと去っていく……。
ちくしょう、またはぐらかされた。
話があるって言ってるのに、いつもこうして体を触らせてきてごまかすんだから……卑怯な……。
「しかしなんなんだ、ほんとに……」
海に向かってぼやく。
無人島……らしき島……いや、そもそも島かどうかも怪しいが……にやってきて三日目。
いまだに俺の状況は謎だらけだった。
わかったことといえば、ここが日本、いや東京じゃないこと……いや、かなり南の離島ならありえるかもしれないが。
とにかく温かいということ。今は11月の後半、もうすぐ12月という時期だ。朝や夜でも半裸で平気で活動できる気候なんだよな。
虫も出ないし、日光がキツいということもない。
バカンスをするなら理想的な場所だ……うっかり無人島に流れ着いたとしたらラッキー過ぎる場所です。
だからといって本当にバカンスを満喫できるのがおかしい。
あの
そもそも法律的にいいのか……いや、ここは無人島だからいいのか……知らんけど……。
真奈子ちゃんは冷凍庫もないのに平気で氷を用意するし。明らかに天然じゃない青色のドリンクだし。
イリュージョンなんですかね?
「戻るか……」
ベースキャンプ……俺のベッドがある場所に戻る。
今やベッドの上にはタープが設置され、テーブルや椅子、焚き火……要するにキャンプセットが整っていた。
徐々にキャンプセットが揃っていく時点で、それはもはや無人島ではないと思うが、真奈子ちゃんは絶対に無人島だと言う。
ではどうやって、物資や食料などを調達しているのかと聞いても「あった」とか「落ちてた」とかよくわからないことを言うだけ。
真実を知っていそうな柑樹に聞こうとすると、さっきのようにはぐらかされてしまう。
しょうがない、真奈子ちゃんと話そう。
「真奈子ちゃん」
「あ、プロポーズですね?」
「違います!?」
「違うんですか……?」
「いや、逆になんでそう思ったの?」
「だって、夕日が沈む海をバックでロマンチックだし……」
確かにそうだけどー!
二人で浜辺を歩くデートならねー!
わけもわからず無人島にいる状態だとロマンチックじゃないと思うよー!
「違うよねー。プロポーズはしないよねー」
「どうして……?」
どうしてかと?
説明いる?
「真奈子ちゃん、よく聞いて欲しい」
「はい……」
俺の目をまっすぐ見て、大きな目をキラキラとさせる。夕日を浴びて頬は赤く、黒いビキニ姿は小学生離れしたナイスバディ。つやつやとした長い髪が、海風になびく。
そんな彼女に、俺は……
「無人島では結婚式出来ないでしょ」
そう言い放った。そうでしょうよ。
神前式での神主さんが、キリスト教式なら、神父か牧師。人前式だったらそれこそ人がいるんだから。
「大丈夫です。この海と太陽に誓いましょう」
「えっ!」
なにこの乙女……いや、真奈子ちゃん以上の乙女なんてこの世にいないか。メイがいつか言うかもしれないのでメモっておきましょう。ええ。
これにはまいったが、他にも問題は山積みです。
「ハネムーンにも行けないし」
「もう来てると思えばいいじゃないですか」
まあそうだけど……そう思えば、いいのか……。
新婚旅行で無人島ってなんだよ、とも思うが。俺は妻となる女性が行きたい場所に行けばいいと思っていたので、それでいいならそれでいい。
だが……
「でも、ここじゃ婚約指輪すら手に入らないし」
「そんなのこれで十分です」
そういうと、砂浜から適当に拾った指輪を指にはめた。待って、そんなちょうどいいキレイな指輪が落ちてるわけなくね? どういうこと?
「……いや、なんにせよ駄目だな」
「どうして……」
悲しそうな表情に胸が痛む。やっぱりプロポーズするか……いや、そういうわけにはいかん。
「俺は、小説を書かないと」
「……!」
「書いて、本を出さないと」
「そ、それは……」
「ちゃんと自分で仕事をしてないとさ。プロポーズなんて無理だよ」
「い、いえ! わたしがなんとかしますから。ちゃんと生活には困らないようにしますから」
そう言う真奈子ちゃんに、微笑んで首を振る。
「真奈子ちゃん。俺はね、仮に一生遊んで暮らせる状況になったとしても、小説だけは書くよ」
「あっ……!」
手で口を抑えて、目を見開いた。
そうだよ、真奈子ちゃん。
君みたいな、俺のファンのためにも。
俺は小説を書くことだけは、やめられないんだ。
「ごめんなさい、先生……」
「いいんだ、わかってくれれば」
真奈子ちゃんを抱きしめる。
よくわからないが、真奈子ちゃんは俺と結婚したいらしいことはわかったからね……ただ、手段が未だに意味がわからないです……。
「柑樹さん、帰りましょう」
「そうですか。じゃあ、明日にでも」
やっぱりなにもかもわかってたよね、柑樹は……。
じとりとした目を向けても、そしらぬ顔だ。
「今日はパーティーにしましょうか」
真奈子ちゃんが明るくそう言うと、柑樹がスマホを取り出した。スマホが使えるんじゃないか……。
「バーベキューでいいですか」
「いいですね」
ぴぴぴとスマホを操作する柑樹。
しばらくすると、ドローンが数台近づいてきた。どういうことですか。
「無人島だからこうやってドローンで用意してるんです」
「あ、そう……」
ドローンが砂浜に置いていったものを拾う柑樹。確かに「拾った」「あった」というのは嘘ではないらしい。だが、真実をひた隠しにしていたというのも事実であろう。柑樹め……。
「本当にここは無人島なの?」
真奈子ちゃんに問う。今更嘘はつかない気がする。
「間違いないです。うちが持ってる島なので」
「持ってる……別荘みたいなこと?」
「そうですね。プライベートアイランドです」
プライベートビーチの上位互換らしい。島ごと清井さんちなんだってさ。つまりマジでキャンプでバカンスじゃないですか。
柑樹はちゃきちゃきとバーベキューの準備を始めている。
クーラーボックスから缶を取り出し、俺に放り投げた。
「ビールどうぞ」
「おう。ってビール?!」
日本語でない記載の缶でよくわからん。
「この国では16歳からビールが飲めます」
そう言ってぷしゅっと缶を開ける柑樹。手慣れてませんかね?
缶のままごきゅごきゅ飲みつつ、肉やらイカやら焼いていく。休日のお父さんかな?
ここがどこの国だかわからないが、俺も飲んじゃうか。
「ふーっ!」
うまい。
暖かい国では、ビールは薄いと言われているが、確かに飲みやすい。ごくごくいける。
トングをカチカチさせつつ、柑樹は紙皿を真奈子ちゃんに渡す。
「真奈子さま~。ぶっといフランクフルトで~す」
「ありがとう」
「先生のはこんなに大きくないので期待しないでくださいねー」
……こいつ酔ってるな!?
薄くて飲みやすいビールは決してアルコール度数が低いわけじゃないんですよ!
「
「ちゃん!?」
「まぁ、食いなよ、飲みなよ」
「はい……」
肉やら野菜やらが乗った紙皿を俺に手渡し、ビールを煽りながら、俺の隣に座って、肩を組んできた。
絡み方が完全に酔っ払いのおじさんだった。
「で、賢者ちゃんはさ」
「ん?」
「真奈子さまをどう思ってるワケ?」
この切り出しに、真奈子ちゃんはフランクフルトを咥えたまま、俺たちの方を見て固まった。