担当編集からの着信だと確認して、俺はスマートフォンを耳に当てた。
「はい、
ペンネームを名乗ると、仕事モードになる。
俺ももう、いっぱしの作家ですよ。ええ。
「あの……いただいた原稿についてですけど……」
「ええ。はい。どうでしょうか」
自信があるからこの態度です。
やっぱりね、俺は主な読者である女子小学生の恋人と、愛人までいるわけですから。読者の気持ちがわかり、読者に好かれるわけですよ。ガッハッハ。
「ちょっと意味がわからなくて」
「え?」
今までこんな質問なかったな。
もちろんわかってなかったのだが、それを訊いてくることがなかった。
いつも勝手な、わけのわからない解釈をしてたのに。
「メイが肩たたきをするとご主人さまの前のほうが大きくなった……という箇所ですが前のほうってなんですか」
ほう。
子どもじゃあるまいし、なんでわからないんだというツッコミを入れたくなるが、ここは素直に質問してきたことを成長と捉えよう。
「おちんちんです」
「は?」
「だから、ご主人さまのおちんちんです」
「……」
電話ごしに相手が困惑していることがわかる。
むしろそれ以外に何があるんだと俺は困惑ですよ。
「あ、なんで肩たたきで、ということですか?」
おちんちんなのは理解したが、大きくなった理由がわからない。そういうことかな?
「その前にメイがちゃんと裸になる描写と最近また胸が大きくなったっていう情報入れてるんで、読者はちゃんとわかってくれますよ」
なんでもかんでもわかりやすく書けばいいというものでもないのよ。
読者に想像の扉を開けてもらう仕掛けが大事なんですよ……ふふ、俺ってプロの作家だな……。
「……編集者が理解できてないのですが?」
「え? だから、肩を叩こうとすると結果的に背中におっぱいが当たりまくるじゃないですか」
「……どんどんわからなくなるのですが?」
「え? 男は体におっぱいを当てられるとおちんちんが勃起するものなんですけど? ご存じないんですか?」
いちからか?
いちから説明しないとだめか?
「なんで、おち――その……ぼっ、ぼっ……前のほうが大きくなる描写が必要なんですか」
「その後、メイがマッサージするからですよ」
「え? え? じゃあこの固くて大きなモノっていうのは」
「もちろんバッキバキに勃起したおちんちんです」
「……」
「あ、ちなみにヌイてあげたっていうのは、射精させるって意味ですよ」
「……」
なんか反応が無くなったのですが。
「白い鳥文庫に何を書いてるんですか、あなたは――ッ!」
「うわーっ!?」
耳が!!
思わず電話を離す。
なんつーでかい声だ。
おそるおそるちょっとだけ耳を近づける。
「な、な、何を考えているんですか?」
「ええー……」
いまさらなんですよ。
ずーっと、そういうことばっかり書いているんです。
説明を求められたのが初めてなだけで、さんざっぱら書きまくっているんですよ!
「だいたい、小学生が読むんですよ!?」
知ってるよ!
それに俺だって最初は小学生に読ませてどうすんだと思ってたよ!
ただ、今回はちょ~っといつもと違います。
いつもなら、あげはちゃんとか、ももきゅー兄とかに「エロいね」って思ってもらえればいい。そういう気持ちで書いていました。
今回は、今回についてはむしろ女子小学生に向けて書いているんです。
「ええ。だからこそです」
「は?」
「読者の女の子が、お父さんとお風呂に入って、こういうことをしてたとしたら、それはちょっとヘンかもってわかってもらえるじゃないですか」
どうですか、この崇高な使命。
「こ、こんなことしてる女子小学生なんていません!」
「いや、いるんですよ」
真奈子ちゃんがパパとお風呂で近いことをしていると聞いています。
いけませんねえ、編集者が自分勝手な偏見でモノを言っては。こっちはちゃんとした
実際にそういうことが起きているんです!
だからこそ。
現実に身近な女の子が、そういうことになっているからこそ。
俺は書かなければならない。
そう思ったんですよ!
「こういうことは、小学生高学年の女の子が一番気をつけた方がいいんです。読者が性的搾取されないようにしたいんですよ!」
「くっ……普段めちゃくちゃなくせに、こんなときだけ妙に理路整然と……」
なんですかその言いようは。
俺はいつだって真面目に、女児向け小説に見せかけた官能小説を書いてるだけですよ。
「だったら、もっとイヤなものとして描写しないと。明らかに楽しんでるじゃないですか」
「え? まじで言ってます? メイに性的暴力をしろって? 冗談じゃないですよ」
「そ、そうは言っていませんが……」
言ってるだろ。
メイにそんな目に合わせられないということもあるが、この作品はダークファンタジーじゃないんですよ。ショッキングな内容を楽しんでもらうのではなく、主人公の女の子の努力と成長、そしてご主人さまとの不器用な恋愛の物語です。
そもそもエッチなことは怖いとか嫌だとか気持ち悪いだとか、そう思われちゃったら本末転倒なんだよ。
「ご主人さまからは、意地悪なことや、恥ずかしいこともされるけど、それが本当は好きなんじゃないか、愛なんじゃないか、そう思ってもらえるように書いているはずですが?」
「そ、そのとおりですね」
さすがにそこは伝わっている。
読者からのファンレターにも、そう書かれているしね。
どんどん女子小学生にはエッチの素晴らしさを伝えていきたいですね!
「メイとご主人さまがするようなことを、女子小学生の自分が父親……あるいは祖父、おじ、兄、教師や塾の先生なんかが要求してきたら、それはちょっと変だな。そういうふうに感じるはずです」
「……!」
「それに
「……確かにそこが一番人気の理由ですしね……」
もはやメイとマイより、ご主人さまの人気がすさまじくなっている。
ぶっちゃけご主人さまにセクハラされたいという内容の感想ばっかりです。
ならばこそ、ダメなものはダメ。それを知ってもらわないと。
そうじゃないと……そうじゃないと、
禁断の果実こそ美味であるように、禁忌であればあるほど興奮する。
つまり「聖職者だからダメ」「実の娘なんてダメ」「ご主人さまとメイドの関係なんてダメ」と、わかってないと魅力が半減なんですよ!
読者の中には、ご主人さまとメイドの恋が基本的にはNGだということを知らないことも多い。クラスメイトと付き合うのとはわけが違う。それを知ってほしい!
その結果、パパとエッチするのが好きだったらそれでいいし、好きな人としたいならパパとは嫌だと言えばいい。
「わかりました……では、これでいきましょう」
「よろしくおねがいします」
どうやら俺のアツい思いが伝わったようです。
なんだったら、お相手してもいいですよ?
「ところで……」
「はい?」
こうして話が長引くのは、めずらしい。
俺は泣いて頼まれたらエッチなことをしてもいいくらいには好きなのに。
「その、あくまでも相手が父親や兄はダメ……ということで、母や姉だったら問題ないんですよね?」
「ちょっと詳しく教えて下さい」